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孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

南アフリカ  マンデラ元大統領釈放から20年 その道のりと現況

2010-02-12 11:18:06 | 国際情勢

(昨年6月11日、ワールドカップ開催まで1年を記念する行事でキックオフするズマ大統領。どこに向かって蹴るのか・・・
“flickr”より By World Economic Forum
http://www.flickr.com/photos/worldeconomicforum/3616520515/

【南アフリカが旅してきた長い道のり】
27年間にわたり投獄されていた南アフリカ・マンデラ元大統領(91)が釈放されてから20年となる2月11日、同氏の釈放を記念してケープタウン郊外のビクター・フェルスター刑務所外で、90年2月11日にマンデラ氏が同刑務所の門から歩き出てきたときの様子を再現する形で元活動家らが行進しました。 

****マンデラ氏釈放から20周年、祝福する南アフリカ*****
南アフリカの各メディアは同日、一斉にマンデラ氏釈放から20周年を報じ、特別号を発行する新聞社もあった。刑務所前での行事は各ラジオやテレビで中継された。
南アフリカの英国国教会の元大司教で、マンデラ氏と同じノーベル平和賞受賞者のデズモンド・ツツ氏は、マンデラ氏釈放の日から今日まで、南アフリカが旅してきた長い道のりを思い出す日にしようと演説した。「ビクター・フェルスター刑務所からネルソン・マンデラが放たれ、自由となった日、われわれの集合的な精神は高揚した。あの日こそ、屈辱が終わりを迎えることが約束された日だった」
しかし、同国の「良心の番人」と目されているツツ元司教は、多くのことが成し遂げられた一方で、これからなすべきことも多いと語りかけた。「本当の変革を起こそうと思ったら、ネルソン・マンデラが釈放された日の精神を、われわれは再び取り戻さなければならない。過去を忘れることがあってはならないのだ」【2月11日 AFP】
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【20年間の変化】
マンデラ氏釈放以降の20年間の“変化”に関しては、立場によって様々な意見もあるようです。
****マンデラ氏釈放から20年、南アフリカの「現状」*****
ネルソン・マンデラ氏が20年前に釈放されたとき、ジョセフィン・ムジさんはまだ10代だった。現在35歳、3人の子どもがいるが、いまだに貧困から抜け出せないでいる。
ムジさんは、粗末な小屋に暮らし、ヨハネスブルク郊外の道端で果物を売って生計を立てている。「マンデラが釈放されたとき、われわれみんなは、勝利したと確信した。でも、今はどう?仕事も家もないし、生活も苦しい。何も変わらない。自由は私の暮らしに何の変化ももたらさなかった」とため息をついた。

一方で、黒人の起業家の草分け的存在として知られるリチャード・マポニャさんは、マンデラ氏の釈放がさまざまなチャンスへの門を開いてくれたと信じている。
アパルトヘイト時代、黒人の起業や財産保有は、法律で禁じられていた。
ヨハネスブルク近郊にある豪邸でインタビューに応じたマポニャさんは、「国はこの20年間で飛躍的な進歩を遂げた。向かっている方向は正しい。だが経済の自由が完全に達成されたわけではない。財布のひもを握っているのは依然として白人だ」と問題意識も示したが、「そういう状況も時とともに変化していくだろう」とあくまでも楽観的だ。

政治の変化は、20年前には考えられなかった黒人中間層の増大を招いた。昨今の世界経済危機の影響で9か月の後退を挟んだものの、過去17年間続いている経済成長もこうした事情を後押ししている。
しかし、約110万世帯はいまだに粗末な住宅に暮らしている。失業率は30%あたりで高止まりし、犯罪件数も1日あたりの殺人事件が50件と脅威的な数字を維持している。

■白人の不満
この国の社会悪の直撃を最も受けているのは黒人だが、それ以外の人種も、この国が向かっている方角に不満を感じている。
プレトリアに住むアフリカーナー(白人、オランダ系移民の子孫)のエンジニア、John Swanevelderさん(29)は、新しい黒人政府とそれが掲げるアファーマティブ・アクション(差別是正措置)は新たな人種間対立を招いたと考えている。
「マンデラの釈放は良い面も悪い面もある。黒人たちは突然権力を握ったあげくに、権力を適切に扱ってこなかった。その結果、職場でも共同体でも権力闘争が起こり、人種間の亀裂はかえって深まった」

■悪いのはマンデラ以後の政治家?
ヨハネスブルク郊外のクリップタウンに住むキャサリン・ジェレミアさん(73)は、マンデラ氏のあとに続く政治家らに非があると考えている。彼らがマンデラ氏の理想に従ってこなかったというのだ。
「マンデラは素晴らしかった。だがそのあとの政治家たちはいい仕事をしてこなかった。彼らは、民衆からは隔絶した存在になっている」
さらに、政治的な自由は歓迎するものの、自分の生活は決して楽にはなっていないと続けた。「今後20年間で何かが変わるとしたら奇跡ですよ。過去10年間には変化が何一つ起こっていないんですから」

■タウンシップ「ソウェト」の変ぼう
だが、今や最大の黒人中間層人口を抱えるソウェトにたたずむ写真家のシズウェ・クマロ氏は、新政府は黒人の若者たちに対して新しい未来を切り開いたと実感している。 
「若者たちには(アパルトヘイト時代よりも)多くのチャンスがあり、ビジネスで頭角を現す黒人もたくさんいる。ここを見てください。あちこちに発展が見られます。ソウェトは今や、成熟した郊外都市なんです。20年前までは夢の中でしか考えられなかったことです」【2月9日 AFP】
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多くの、かつ非常に困難な問題を抱えながらも、基本的には黒人中間層の増大、ソウェトの変貌が象徴するように、南アフリカは新興国としての成長への道を歩み出していると言えるでしょう。また、人権の問題でも、アパルトヘイト(人種隔離)政策廃止は大きな意味を持つ人類の成果とも言えるでしょう。

【17年ぶりの不況】
ただ、世界的金融危機・同時不況の波にあって、南アフリカも昨年17年ぶりに不況に陥りました。
「貧困解消」を公約して5月に就任したズマ大統領ですが、就任後はムベキ時代の経済政策を継承、貧困解消などで目に見える成果を上げられませんでした。
このため、昨年7月には支持基盤である労働組合によるストライキも頻発する展開となり、サッカー・ワールドカップ競技会場の建設労働者、医療従事者や地方公務員などが次々にストに突入しました。
更に、8月には数千人の兵士が賃上げを求めて無許可でデモを強行、警察部隊との衝突する騒動もありました。

ここにきて、多くの国々同様に、南アフリカ経済も少し持ち直してきているようです。
2009年第3四半期は、実質GDP成長率が0.9%(前期比年率、季節調整済み、以下同)とプラスに転じ、08年第4四半期から3期連続で続いていたマイナス成長を脱しています。
しかし、家計最終消費支出は5期連続でマイナスの伸び率が続いています。【JETROホームページより】

【「人柄」で好感のズマ大統領 不透明な政策】
11日の記念式典の報道でも何故か、マンデラ氏らとともにロベン島(監獄島)に投獄されていた経歴も持つズマ大統領の名前が見当たりませんが、経済・国家運営においても、その舵取りは明確ではないようです。
ズマ大統領の名前が国際的に報じられるのは、もっぱら“3人の妻とは別の女性との間に昨年10月、女児をもうけていたことが発覚、不倫という道義的問題に加え、同国で深刻なエイズ対策に悪影響を及ぼすと野党から批判を受けている。”【2月10日 共同】といった類のスキャンダルばかりです。
(このあたりは、欧米社会・マスメディアのズマ大統領に対する印象のあらわれでもあるのでしょうが)

****南ア・ズマ大統領 見えぬ経済政策 左右に配慮「玉虫色」で動けず****
南アフリカの困難な経済状況と国内での高い期待のなかで、5月に就任したズマ大統領は政治的立場を強めている。一方で、与党「アフリカ民族会議(ANC)」はイデオロギー的に市場主義の右派と国家介入主義の左派に分裂している。新政権の発足から5カ月たった現在も、ズマ大統領が南アフリカ経済をどのように運営しようとしているのか、不透明なままだ。

発足して間もないANCのズマ政権の功罪は相半ばする。経済は、昨年後半に始まった深刻なリセッション(景気後退)から抜け出せないでいる。景気回復の兆しは見えるものの、回復の足取りは鈍い。一方、主に対外的要因のために通貨ランドは著しく強くなり、輸出産業、輸入競合産業でさらに失業が増加する恐れがある。
白人による少数支配が終わった1994年以降で、南アフリカ政府は最大規模の市民による暴動に直面している。民衆の抗議運動は、地方自治体の統治の質の低さとお粗末な公共サービスを浮き彫りにした。ストライキやその他の労働争議のために、失業率は上昇しているにもかかわらず、特に公共部門でインフレ率以上に賃金が上昇している。
人種問題や改革をめぐる内紛で、司法制度に対する国民の信頼は損なわれている。自宅で家族が襲撃されるなど、犯罪件数も増加し続けている。

 ◆「人柄」で高支持率
こうした問題はあるものの、大統領選挙後にズマ大統領自身の政治的立場は強まっている。ズマ大統領が、選挙戦で大きな役割を果たした左派勢力に操られるのではないかという懸念は、いまのところ杞憂(きゆう)に終わっている。ズマ大統領は、白人やその他の少数派集団、実業界を安心させている。
ズマ大統領の愛想の良さと、庶民、特に貧しい人々に共感する能力は、お高くとまった知識人のムベキ元大統領とはきわめて対照的だ。このために、汚職、詐欺、レイプ容疑など、不道徳な行為への記憶は無くなってはいないものの、薄まっている。ただし、ズマ大統領に対するこれらの容疑は、裁判でいずれも却下されている。
まだ仕組みはできあがっていないが、閣僚や高級官僚に行政上の失敗の責任を負わせるとのズマ大統領の公約は、公共サービスの非効率性や腐敗に憤った大衆の琴線に触れている。

ズマ大統領のこのような人柄は支持率に反映している。大統領選挙前の2月には、ズマ氏が良い大統領になると考えていた有権者は40%に過ぎなかったが、6月終わりまでに、57%がズマ氏は優れた大統領になるだろうと回答した。ズマ大統領の支持率はすべての人種の間で高まっている。
しかし、ズマ大統領の玉虫色の政策表明のために、南アフリカをどこへ導こうとしているのか、大統領の信念と意図をめぐり不透明感が増しているとの見方が、政策立案者の間で強まっている。大統領の政策スタンスは、南アフリカが直面する広範囲にわたる政治・経済・社会政策の課題に取り組むうえで根本的な重要性を持つといえるだろう。(後略)【09年10月7日 SankeiBiz】
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ズマ大統領の場合、多くの女性スキャンダルは、その「人柄」で、国内的にはさほど大きな傷にならないようです。問題は大統領の政策スタンスがはっきりしないことです。

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