goo blog サービス終了のお知らせ 

孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

「米中新時代」に向けて試される冷静な対応

2010-02-02 20:55:12 | 国際情勢

(地対空誘導弾パトリオット(PAC3) “flickr”より By Anatolian_Pars
http://www.flickr.com/photos/42064897@N04/3931735628/

【「『核心的利益』を損ね、次の段階に進まざるを得ない」】
「米中新時代」とは言いつつも、昨今の米中関係が極めて微妙な緊張関係にあることは周知のところです。
かねてよりの経済貿易摩擦、グーグル問題、台湾への武器売却問題、更に、ダライ・ラマ14世の訪中問題・・・取り扱いが難しい問題が重複しています。

台湾問題に関しては、オバマ政権下で再開したばかりの軍事交流が中断される事態となっています。
****中国、米との軍事交流停止…台湾へ武器売却で****
中国国防省は30日、米国防総省が台湾向け武器売却計画を議会に正式通告したことを受け、新華社電を通じて、「武器売却の重大な危害と中米両軍関係に与える劣悪な影響を考慮し、両軍が計画している相互訪問の一時停止を決めた」とする報道官談話を発表した。
外務省も同日、近く実施予定だった戦略安全・軍縮・不拡散などに関する米中次官級協議を延期し、武器売却に参加する米企業に制裁を科す方針を表明した。

これにより、オバマ政権下で再開したばかりの軍事交流が中断されることになった。国防省談話は「事態の発展に細心の注意を払い、情勢を見た上でさらなる対応をとる」としており、一層の報復措置をとる可能性を強く示唆した。
談話はまた、「中国軍は、信義に背き、中国の内政に粗暴に干渉し、中国の国家安全利益に損害を与える米軍の行為に対し、大きな憤慨と断固たる反対を表明する」として、オバマ政権に計画を撤回し、武器売却を停止するよう強く要求した。【1月30日 読売】
***************************

中国側の反発は更にエスカレートすることも懸念されています。
****報復措置、避けられず=米の台湾武器売却に反発-中国****
中国では、29日の米政府による台湾への武器売却発表に対し、米国への報復措置は避けられないとの見方が強まっている。「(安全保障という)中国の『核心的利益』を損ね、次の段階に進まざるを得ない」(中国筋)からだ。
この問題について国際問題が専門の中国人民大学の金燦栄教授は、「中国政府は今、大きな圧力を受けている」と分析。政府は米中関係発展の大局を重視する立場だが、国内の対米強硬世論と軍当局の懸念にも配慮する必要があるためだという。
金教授は、オバマ政権発足後に再開した軍事交流の再中断に加え、経済貿易面でも悪影響が生じる可能性を指摘。北朝鮮やイランの核問題など国際問題での対米協力が減退する恐れもあるとし、米国への反発は「行動で示される」とみている。【1月30日 時事】
******************

台湾海峡への中国潜水艦侵入により、台湾海軍が臨戦態勢に入ったことも報じられていますが、これも「行動で示される」中国側の反発の「行動で示される」デモンストレーションでしょう。
****中国潜水艦が台湾近海に侵入=一時臨戦態勢に-地元紙報道****
1日付の台湾紙リンゴ日報は、南部・高雄の左営海軍基地沖の南西44キロの近海に27日、中国海軍とみられる潜水艦が侵入し、台湾海軍は一時、臨戦態勢に入ったと報じた。
国防部(国防省)関係者は取材に対し、報道の確認を避けながらも、「(領海侵犯が)事実だとしたら、決して好ましいことではない」と述べた。
報道によると、台湾海軍が27日、同基地沖で演習を行っていた。艦船のソナーが検知した潜水艦とみられる相手に所属などを問い掛けたが、応答せず、そのまま台湾海峡の中台中間線方向に逃れたという。【2月1日 時事】
**************************

また、ダライ・ラマ訪米問題に関しても、中国側はアメリカを強くけん制しています。
****中国、米大統領のダライ・ラマとの会談予定に警告****
中国共産党統一戦線工作部の朱維群副部長は2日、北京で記者会見し、オバマ米大統領が2月中旬に訪米が予定されているダライ・ラマ14世と会談すれば、「米中関係の政治的な基礎を損なう」と米側に強く警告した。「もしそのようなことがあれば、相応の措置をとる」と述べ、中国が報復措置に出ることを示唆した。【2月2日】
********************

【「中国には『成熟した関係』を求める」】
アメリカ側は、軍事交流停止などの中国の反発は織り込み済みとして、冷静に対処していくことで決定的な関係悪化を回避していく方針です。

****米武器売却 台湾海峡の軍事均衡を維持 対中悪化、回避へ配慮****
 ≪F16は見送り≫
 米政府高官は記者団に「中国の反発は織り込み済みだ。中国とは成熟した関係にあり問題はない」と語り、武器売却は「台湾関係法」に基づくブッシュ前政権時代からの計画通りの決定であることを強調した。F16は除外しており、中国側が一時的に強く反発したとしても、米中関係全般に決定的な影響を及ぼすことはない、との認識をにじませたものだ。
そこにはまた、中国は米国債の最大の保有国であり、経済を中心に相互依存関係を深める両国が、正面からぶつかり合うのは得策ではないとの判断が見え隠れする。
米政府は1月初めの段階で、F16とUH60の売却見送りを示唆していた。地対空誘導弾パトリオット(PAC3)が防御的な兵器であるのに対し、UH60は対戦車攻撃を主とする武装ヘリ。そのUH60を最終的に含めたことには「台湾の防衛力向上の必要性に考慮し、十分な自衛能力を維持するために必要な物品を提供し続ける」(国務省関係者)という米国の基本的な立場を鮮明にするという意味合いもある。
別の政府高官は「米国が重要な支援を行うという確信と理解を台湾指導部に与える」と説明する。

 ≪成熟関係強調≫
「中国には『成熟した関係』を求める」(クリントン国務長官)というオバマ政権は、米中両国が21世紀を形成するとして「米中新時代」を宣言。地球規模の課題解決で協調する戦略的関係の拡大を目指している。だが、軍事的には「中国が台頭すればするほど、地域の平和と安定のため米国の存在感が高まる」(同)との強い危機感を内包していることは言うまでもない。
武器売却通告により米政府は、台湾海峡の軍事バランスの維持が基本軸であることを明確にしたといえるが、その反動を米政府は見極めながら対処していくことになる。【1月31日 産経】
**************************

【本音と強硬世論配慮】
中国政府も、本音としては、台湾への武器売却は想定内だし、対米関係を冷却させたくない思いはあります。
*************
中国にとって米国による台湾への武器売却は想定の範囲内で、対米関係を冷却化させたくないのが本音だ。しかし、敏感な台湾問題で妥協できないため、素早く対抗措置を打ち出したとみられる。
今回の武器売却計画は08年にブッシュ前政権下で決定されたものだ。購入する台湾の馬英九政権側も対中融和路線を掲げているため、独立志向の陳水扁前政権時代ほどの脅威にはならない。
しかし、現在の米中関係は、米ネット検索最大手グーグルを巡る対立▽チベット仏教最高指導者ダライ・ラマ14世の訪米▽貿易摩擦--など双方の国内事情を背景にした火種を抱えている。
こうした状況下で、中国は武器売却問題で素早く対抗措置を打ち出す一方、胡錦濤国家主席の訪米を早期に実現させ、関係修復を急ぐ思惑があるとみられている。複数の火種が同時に燃え広がらないよう、慎重な対応を迫られることになる。【1月30日 毎日】
********************

台湾問題は、中国にとって建国以来の最大の懸案事項ですし、アメリカにとっては同盟国の対米信頼が問われる問題です。
グーグル問題は、中国にとっては国家統治の基本に関わる問題であり、アメリカにとっては“自由”という国家のアイデンティティーに関わる問題です。
チベット問題は、中国の国家統一に関わる問題であり、アメリカにとっては“人権”という、これまた基本理念に関わる問題です。

米中両国とも本音では関係悪化を避けたいという思いは同じですが、中国が国内強硬世論や軍部への配慮があるなら、政権基盤が揺らぎかけているアメリカ・オバマ政権も国内の世論や保守派への配慮が求められています。
お互い国内的事情で、振り上げたこぶしを降ろしづらいところですが、それだけに、胡錦濤国家主席の訪米早期実現による冷静な対応が期待されます。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする