孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

スーダン  ダルフール紛争で停戦合意 南部独立を問う住民投票は?

2010-02-27 15:32:12 | 国際情勢

(右がバシル大統領 左がキールSPLM議長・スーダン第1副大統領 キール氏が副大統領に就任したときの写真でしょうか。 “flickr”より By Ethio Sudanese Nations
http://www.flickr.com/photos/ethiosudanese/2310250586/)

【「紛争終結に向けた大きな一歩だ」】
スーダン西部ダルフール地方で03年、開発の遅れに反発する黒人住民らがアラブ系の中央政府に対して武装蜂起して始まった“ダルフール紛争”は、政府系民兵による住民への無差別殺害が繰り返されたとされ、国連推計によると、死者数は紛争による食糧不足の影響なども含めると約30万人、避難民は約270万人という「史上最悪の人道危機」となりました。

黒人系住民とアラブ系住民・中央政府の対立に加え、スーダンと隣国チャドがそれぞれ相手国内の反政府勢力を支援しあうという側面もあって紛争が激化・長期化しましたが、今年に入り、主要反政府組織「正義と平等運動(JEM)」を支援していたとされる隣国チャドとスーダン政府が関係改善で合意し、和平に向けた動きが始まっています。

****ダルフール紛争:停戦へ枠組み合意 政府と反政府組織調印*****
「史上最悪の人道危機」とされるスーダン西部ダルフール地方の紛争で、バシル大統領と主要反政府組織「正義と平等運動(JEM)」指導者のイブラヒム氏が23日、カタールの首都ドーハで和平実現に向けた枠組み合意に調印した。全面停戦が盛り込まれ、3月15日までに最終合意を目指す。
AP通信などによると、バシル大統領は合意について「紛争終結に向けた大きな一歩だ」と語り、和平プロセスに関与してきた国連や米国も評価した。

一方、イブラヒム氏は「平和の実現には、相当の忍耐と妥協が必要」と述べて条件面での隔たりも示唆しており、最終和平合意の期限通りの実現が可能かは不透明だ。ダルフール地方にはJEM以外の反政府勢力もおり、包括和平の実現に向けた交渉への取り込みも課題となる。
今後の交渉では、JEMの合法政党化や閣内参加、兵員の国軍への編入、拘束中兵士の恩赦、資源の配分などが協議される予定だ。
枠組み合意を受け、潘基文(バン・ギムン)国連事務総長は「すべての当事者が柔軟性をもってドーハ・プロセスに参加するよう促したい」と述べた。

ダルフール紛争を巡り、国際刑事裁判所(ICC)から戦争犯罪などの容疑で逮捕状が出ているバシル大統領にとり、最終合意が実現すれば、国際的批判をかわし、4月に予定される総選挙への注力を容易にする。
さらに、西部地域での緊張緩和は、分離独立の可否に関する住民投票が来年に予定されている南部への対処に集中するためにも望ましい条件だと言える。南部には石油資源が集中しており、その配分は過去の南北内戦の一因にもなっている。
ただし、JEM関係者からは、最終合意には6月までかかるとの声も出ており、停戦が維持されるかも含め、予断を許さない情勢が続くとみられる。【2月24日 毎日】
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上記記事にも“最終和平合意の期限通りの実現が可能かは不透明だ”とあるように、問題も多く残されています。
JEMはダルフール地方の反政府勢力のなかでは最大ですが、反政府勢力は約20あり、別の有力反政府組織「スーダン解放軍(SLA)」は和平に応じる構えを見せておらず、ダルフール紛争の包括和平への取り組みは難航しています。
スーダンのバシル大統領が「紛争終結」を宣言した24日夜にも、政府軍がSLAの拠点を襲撃したとも報じられています。政府軍側はこの攻撃を否定しています。 【2月26日 時事より】

ただ、「紛争終結に向けた大きな一歩」であることには間違いなく、「史上最悪の人道危機」終結に向けて、包括的和平への取り組みが進展することを、バシル大統領が言うように「ダルフール紛争の終わりの始まり」となることを望みます。
そうしたなかで、少し気になる報道も。

【来年1月住民投票 「新たな紛争」か?】
“ただしJEMは、4月に予定される大統領選や議会選のための有権者登録をこれまで拒んできたため、選挙の延期を求めている。最終合意に向けた大きな障害となりうる。
スーダン政府は現段階で選挙延期の可能性を否定しているが、仮に先延ばしする場合は、移動が困難になる雨期を避けるため、早くても11月と言われる。その場合、南部スーダンの独立を問う2011年1月の住民投票の日程に影響が出るのは必至だ。”【2月24日 朝日】

ダルフール紛争と並んで、スーダンが抱える大きなもうひとつの問題が南北間の対立であり、来年1月に予定されている住民投票によって南部スーダンの分離独立が問われることになっていることは、これまでも取り上げてきました。
すでに南部スーダンでは、部族間の衝突を中央政府が煽って独立を阻止する試みに出ていると言われるような混乱も起きており、ただでさえ波乱含みの住民投票が延期云々といったことになると、それだけで混乱が激化しそうです。

その住民投票前に、大統領選挙があります。今回停戦もダルフール問題で国際刑事裁判所の逮捕状が出ているバシル大統領が、4月の大統領選を控えて指導者としての正統性をアピールする狙いがあるとみられています。

****スーダン:分離独立巡り過熱…大統領選向け集会*****
南北内戦終結後、初めてとなる4月の大統領選に向け、アフリカ・スーダン南部で南部を掌握する「スーダン人民解放運動」(SPLM)が大規模集会を開くなど、選挙戦を過熱させている。大統領選にあおられる形で南部独立を求める声が高まっており、来年1月にも予定される分離独立の是非を問う南部の住民投票に大きな影響を与えるとみられている。
SPLM議長でスーダン第1副大統領のキール氏は24日、南部ジュバで約5万人を集めた集会を開いた。今月半ばには、北部を拠点とする与党「国民会議」(NC)議長の現職バシル氏が首都ハルツームで立候補を表明しており、両者の事実上の一騎打ちが予想されている。
ジュバ大に通うイエル・マリルさん(23)は「北部のスーダン政府は南部で産出される石油収入を均等に配分していない。分離独立を経て、初めて南部に向き合うだろう」と独立を支持。建設作業員のキング・デービッドさん(24)は「新たな紛争に突入する可能性がある」と心配する。【2月26日 毎日】
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上記記事では、バシル大統領と南部を代表するSPLM議長でスーダン第1副大統領のキール氏の一騎打ち・・・ということになっています。しかし、以前の報道では、南部・SPLM側は大統領選挙を軽視する形で、キール氏ではなく知名度の低いアルマン副事務局長を擁立し、キール氏は住民投票後の独立をにらんで南部スーダン自治政府の大統領選に立候補するとされていました。【1月22日 朝日より】
どちらが正しいのかはわかりません。

【「良い隣人」か?】
いずれにしても、大統領選挙でバシル大統領が再選されたとき、石油資源のある南部独立を問う住民投票がスムーズに実施されるのかは大きな疑問です。
バシル大統領は「住民が選択した場合にはスーダン政府は南部の独立を承認する」と発言しているようですが・・・。

****スーダン大統領、「南部スーダンの独立を承認する用意がある」*****
スーダンのオマル・バシル大統領は19日、2011年1月に予定されている南部の分離独立を問う住民投票について、「住民が選択した場合にはスーダン政府は南部の独立を承認する」と発言した。
大統領は、西赤道州の州都ヤンビオで、南北間の内戦終結5周年を記念する式典に出席し、「(与党)国民会議は統一の方が望ましいとの立場だが、住民投票で分離独立の結果が出た場合はそれを配慮し、支持する。北部と南部は良い隣人になるだろう」と演説した。

スーダンでは2005年1月9日、22年にわたる南北間の内戦に終止符を打った「南北包括和平合意(CPA)」が署名された。この合意は、今年4月の複数政党による総選挙と来年1月の住民投票への道筋を付けることとなった。住民投票は、南北間の対立の再燃で実現が危ぶまれていたが、前年12月になって議会は「南部の分離独立を問う住民投票案」を承認した。
なお、バシル大統領は、再選を目指して総選挙に再出馬すると言明している。

式典に同席した、南部スーダンの大統領を務めるサルバ・キール・マヤルディ スーダン第1副大統領は、住民投票の結果のいかんに関わらず、平和を維持することが重要だと強調し、「結果がどうであれ北部と南部は政治的・経済的な相互関係を維持していく」と述べた。
また、南部が独立した場合でも、南部スーダンの収入の98%を占める石油は、精製と輸出のために北部へ供給すると語った。
北部の収入源の約60%は石油から来ているとされている。【1月20日 AFP】
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証拠もなく人を疑うのはよくないことですが、石油資源のある南部独立を、ICCから逮捕状も出ているダルフール紛争を主導したあのバシル大統領がすんなり認めるというのは・・・本当でしょうか?

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