『紺碧のダナウェイ~熾天使セラフ、降臨』
「どんな話なん?」
「さあ…?」
(このおはなしはフィクションです。実在の個人・団体には一切関係ありません)
ミッドウェー島攻撃隊の友永隊長から「第二次攻撃の要あり」と打電されて、南雲は困惑した。
ミッドウェー島の守備隊など友永隊がひともみにすると思い込んでいたので、空母の甲板には雷装した攻撃機が敵空母との対決に備え、出撃準備を整えている。雷装というのは、魚雷を装備しているということだ。魚雷ではミッドウェー島は叩けない。二次攻撃をかけるなら、爆弾に積み替えなければならないが、その間に敵空母と遭遇したら…?
「て、まだ敵の空母見つけてねえの? 信じらんねー」
ミッドウェー島攻撃イベントで大奮戦した敦は態度がでかい
ポイントゲージを見ると、1万点を超えている。自分がこんなに頑張っている間に何をしていたのだと言いたい気分なのだろう。
サポートキャラの源田もどうしていいかわからないようだ。二人が首を捻っているところへ、対空監視員から「敵襲!」の声がとんだ。
雷撃機が南雲の乗る空母赤城を目指して飛んでくる。DF零戦(これは敦とおれが考えた名前だ。直掩機と言われる、空母を護衛するためのゼロ戦がDF零戦、攻撃隊に加わった零戦はFW零戦だ)があっという間に撃墜する。
「すっげー」
おれは思わず感嘆の声を洩らした。源田が、空母をひとまとめにすればDF零戦で鉄壁の防御が敷けると進言したのがわかるような見事さだ。ちなみに、南雲機動部隊の空母は旗艦赤城の他、加賀、蒼竜、飛龍。この4隻が、この時点での日本の主力空母だ。
参謀長が南雲に、「今のはミッドウェー島からの来襲機です。やはり、ミッドウェー島に二次攻撃をかけるべきです」と具申した。
「敵空母はまだ見つからないのか?」「まだです」
ここが大きな分岐点の一つだ。南雲の台詞が画面に表示される。
「1 雷装から爆装に転換して、ミッドウェー島を攻撃せよ 2 雷装のまま敵空母に備えよ」
敦はポイントを使ってヒントを貰うことにした。画面の隅に点滅している「H」印をクリックすると、いくつかの選択肢があらわれる。その中で自分が一番知りたい質問を選ぶと、500ポイントで答えが出るのだ。
敦が選択したのは、「爆装への転換にかかる時間は?」で、答えは「約2時間」だった。
「2時間~」 敦はあきれ声を出した。
「いくら何でもその間に敵の空母が来るよなあ?」
いや、そんなこと、おれに訊かれても
ミッドウェー島から、こんどは爆撃機が来襲した。これも、DF零戦が1機残らずたたき落としてしまった。
「すごいね、零戦」
碧も感心している。オリンピックで日本の選手がメダルを取った時と同じで、こんなの見ていると俄ナショナリストになってしまいそうだ。
画面の中では、参謀が南雲にまくしたてている。
「いるかいないかわからない空母より、現実の脅威を排除すべきです」
それを見て、今度は敦が言い立てる。
「いるかいないかって、こんだけ大騒ぎになってるんだから、知らん顔ってことはねえだろ。すっとんでくるよ」
問題は、敵空母が今どこにいて、そこからすっとんでくるのにどれくらい時間がかかるかだ。場所によっては、この頃の船なら2時間ぐらいかかるかもしれない。もちろん、そういう情報は教えて貰えない。わかったら、簡単に決断が下せるもんな
「大体、ミッドウェー島って、どのへんにあるの?」
敦は「周辺海図」をクリックした。アメリカ本土からどのくらい離れているかわかれば、ヒントになると思ったのだろう。あたりは海ばかりで、アメリカがどこにあるのかさっぱりわからない。ようやく碧がハワイを見つけ、
「ハワイに近いみたいだけど…」
と言ったところで、またタイムアウトになってしまった。史実通り、魚雷を爆弾につけかえる作業が始まってしまった。敦が二度もタイムアウトを食らうなんて、おれが知る限りでは始めてだ。
「ねえ、この作戦、何だか根本的に無理があるような気がするんだけど」
碧が言う。歴史に名を残す山本五十六の立てた作戦に物申すか、碧
だが、実を言うと、おれもさっきからそんな気がしていたのだ ミッドウエー島を攻撃するという、蜂の巣をつつくようなことをしておいて、怒って襲いかかってくる蜂を払いのけながら、本命の敵空母部隊を探して決戦しようなんて、いくら何でも大変すぎやしないだろうか
うちのチームの司令塔で、ピッチでは的確な判断を素早く出す敦が二度もタイムアウトになってしまったのも、碧が言うように、作戦自体に無理があるからかもしれない。
「てか、さっきからうちの部隊ばっかり戦ってるみたいなんだけど、他の艦は何やってるの」
敦はすっかり南雲モードで、「うちの部隊」なんて言っている。
そう言われてみれば、冒頭の映像ではすごい大艦隊で出撃していったはずなのに、さっきから奮闘しているのは南雲機動部隊と、せいぜい護衛の駆逐艦などだ。
「『大和』とかちょっと出てきて、ミッドウェー島に大砲何発かぶちこんでくれたら、大分違うような気がするんだけど」
これは、おれが下調べをしたどのサイトにも批判的に書かれていたのだが、戦艦大和を中心とする主力部隊ははるか後方にいて、機動部隊がどういう状況に陥っているかも知らなかったようなのだ。
サッカーでいうなら、南雲がチームキャプテンで、山本は監督だろう。南雲がテンパっていたら、山本が指示を出してやるべきだ。なのに、どうも後方でのんびりと「勝利の報告」を待っていたようなふしがあるのだ。
山本五十六という人は、日本とアメリカの国力の違いをよく知っていて、度々懸念を洩らしていたという。そのため、「長官はアメリカを過大評価しすぎている」と陰口をたたかれるぐらいだったそうだが、そんな人でも、真珠湾からこっち連戦連勝だったせいで気が緩んでいたのだろうか。
DF零戦の活躍で、敵機はことごとく撃墜されている。何十本シュートを打たれても必ずクリアするディフェンスのようだ。
「でも、この状況、まずくね?」
おれは敦に訊いた。
「まずいよ。ずーっと自分とこのゴール前でやってるようなもんじゃん」
そこへ、索敵機から「敵らしきもの見ゆ」という報告が方位と共に入った。
「敵らしきものって何?」
敦も、画面の南雲もイラッときている
当時は今みたいにコンピューターとか使っていないからか、笑ってしまうぐらい報告が曖昧だ。
しばらくして、「空母らしきもの一隻伴う」と打電してきた。
だから、「らしきもの」って何なんだよ。空母なのか、違うのか。
南雲は、そこは歴戦の将らしく、「空母はいる」とピンときたようだ
皮肉なもので、敵空母の存在が確かになった頃には攻撃機の魚雷はほとんど爆弾に積み替えられていた。
何でも、軍艦は爆弾なら何発かくらっても大丈夫だが、魚雷なら一発で沈んでしまうという。ミッドウェー島ではなく空母を攻撃するのなら、必殺の魚雷に戻すべきなのか?
ミッドウェー海戦最大の「たられば」に南雲が直面したちょうどその時、ミッドウェー島から友永隊が戻って来た。
(つづく)
「どんな話なん?」
「さあ…?」
(このおはなしはフィクションです。実在の個人・団体には一切関係ありません)
ミッドウェー島攻撃隊の友永隊長から「第二次攻撃の要あり」と打電されて、南雲は困惑した。
ミッドウェー島の守備隊など友永隊がひともみにすると思い込んでいたので、空母の甲板には雷装した攻撃機が敵空母との対決に備え、出撃準備を整えている。雷装というのは、魚雷を装備しているということだ。魚雷ではミッドウェー島は叩けない。二次攻撃をかけるなら、爆弾に積み替えなければならないが、その間に敵空母と遭遇したら…?
「て、まだ敵の空母見つけてねえの? 信じらんねー」
ミッドウェー島攻撃イベントで大奮戦した敦は態度がでかい
ポイントゲージを見ると、1万点を超えている。自分がこんなに頑張っている間に何をしていたのだと言いたい気分なのだろう。
サポートキャラの源田もどうしていいかわからないようだ。二人が首を捻っているところへ、対空監視員から「敵襲!」の声がとんだ。
雷撃機が南雲の乗る空母赤城を目指して飛んでくる。DF零戦(これは敦とおれが考えた名前だ。直掩機と言われる、空母を護衛するためのゼロ戦がDF零戦、攻撃隊に加わった零戦はFW零戦だ)があっという間に撃墜する。
「すっげー」
おれは思わず感嘆の声を洩らした。源田が、空母をひとまとめにすればDF零戦で鉄壁の防御が敷けると進言したのがわかるような見事さだ。ちなみに、南雲機動部隊の空母は旗艦赤城の他、加賀、蒼竜、飛龍。この4隻が、この時点での日本の主力空母だ。
参謀長が南雲に、「今のはミッドウェー島からの来襲機です。やはり、ミッドウェー島に二次攻撃をかけるべきです」と具申した。
「敵空母はまだ見つからないのか?」「まだです」
ここが大きな分岐点の一つだ。南雲の台詞が画面に表示される。
「1 雷装から爆装に転換して、ミッドウェー島を攻撃せよ 2 雷装のまま敵空母に備えよ」
敦はポイントを使ってヒントを貰うことにした。画面の隅に点滅している「H」印をクリックすると、いくつかの選択肢があらわれる。その中で自分が一番知りたい質問を選ぶと、500ポイントで答えが出るのだ。
敦が選択したのは、「爆装への転換にかかる時間は?」で、答えは「約2時間」だった。
「2時間~」 敦はあきれ声を出した。
「いくら何でもその間に敵の空母が来るよなあ?」
いや、そんなこと、おれに訊かれても
ミッドウェー島から、こんどは爆撃機が来襲した。これも、DF零戦が1機残らずたたき落としてしまった。
「すごいね、零戦」
碧も感心している。オリンピックで日本の選手がメダルを取った時と同じで、こんなの見ていると俄ナショナリストになってしまいそうだ。
画面の中では、参謀が南雲にまくしたてている。
「いるかいないかわからない空母より、現実の脅威を排除すべきです」
それを見て、今度は敦が言い立てる。
「いるかいないかって、こんだけ大騒ぎになってるんだから、知らん顔ってことはねえだろ。すっとんでくるよ」
問題は、敵空母が今どこにいて、そこからすっとんでくるのにどれくらい時間がかかるかだ。場所によっては、この頃の船なら2時間ぐらいかかるかもしれない。もちろん、そういう情報は教えて貰えない。わかったら、簡単に決断が下せるもんな
「大体、ミッドウェー島って、どのへんにあるの?」
敦は「周辺海図」をクリックした。アメリカ本土からどのくらい離れているかわかれば、ヒントになると思ったのだろう。あたりは海ばかりで、アメリカがどこにあるのかさっぱりわからない。ようやく碧がハワイを見つけ、
「ハワイに近いみたいだけど…」
と言ったところで、またタイムアウトになってしまった。史実通り、魚雷を爆弾につけかえる作業が始まってしまった。敦が二度もタイムアウトを食らうなんて、おれが知る限りでは始めてだ。
「ねえ、この作戦、何だか根本的に無理があるような気がするんだけど」
碧が言う。歴史に名を残す山本五十六の立てた作戦に物申すか、碧
だが、実を言うと、おれもさっきからそんな気がしていたのだ ミッドウエー島を攻撃するという、蜂の巣をつつくようなことをしておいて、怒って襲いかかってくる蜂を払いのけながら、本命の敵空母部隊を探して決戦しようなんて、いくら何でも大変すぎやしないだろうか
うちのチームの司令塔で、ピッチでは的確な判断を素早く出す敦が二度もタイムアウトになってしまったのも、碧が言うように、作戦自体に無理があるからかもしれない。
「てか、さっきからうちの部隊ばっかり戦ってるみたいなんだけど、他の艦は何やってるの」
敦はすっかり南雲モードで、「うちの部隊」なんて言っている。
そう言われてみれば、冒頭の映像ではすごい大艦隊で出撃していったはずなのに、さっきから奮闘しているのは南雲機動部隊と、せいぜい護衛の駆逐艦などだ。
「『大和』とかちょっと出てきて、ミッドウェー島に大砲何発かぶちこんでくれたら、大分違うような気がするんだけど」
これは、おれが下調べをしたどのサイトにも批判的に書かれていたのだが、戦艦大和を中心とする主力部隊ははるか後方にいて、機動部隊がどういう状況に陥っているかも知らなかったようなのだ。
サッカーでいうなら、南雲がチームキャプテンで、山本は監督だろう。南雲がテンパっていたら、山本が指示を出してやるべきだ。なのに、どうも後方でのんびりと「勝利の報告」を待っていたようなふしがあるのだ。
山本五十六という人は、日本とアメリカの国力の違いをよく知っていて、度々懸念を洩らしていたという。そのため、「長官はアメリカを過大評価しすぎている」と陰口をたたかれるぐらいだったそうだが、そんな人でも、真珠湾からこっち連戦連勝だったせいで気が緩んでいたのだろうか。
DF零戦の活躍で、敵機はことごとく撃墜されている。何十本シュートを打たれても必ずクリアするディフェンスのようだ。
「でも、この状況、まずくね?」
おれは敦に訊いた。
「まずいよ。ずーっと自分とこのゴール前でやってるようなもんじゃん」
そこへ、索敵機から「敵らしきもの見ゆ」という報告が方位と共に入った。
「敵らしきものって何?」
敦も、画面の南雲もイラッときている
当時は今みたいにコンピューターとか使っていないからか、笑ってしまうぐらい報告が曖昧だ。
しばらくして、「空母らしきもの一隻伴う」と打電してきた。
だから、「らしきもの」って何なんだよ。空母なのか、違うのか。
南雲は、そこは歴戦の将らしく、「空母はいる」とピンときたようだ
皮肉なもので、敵空母の存在が確かになった頃には攻撃機の魚雷はほとんど爆弾に積み替えられていた。
何でも、軍艦は爆弾なら何発かくらっても大丈夫だが、魚雷なら一発で沈んでしまうという。ミッドウェー島ではなく空母を攻撃するのなら、必殺の魚雷に戻すべきなのか?
ミッドウェー海戦最大の「たられば」に南雲が直面したちょうどその時、ミッドウェー島から友永隊が戻って来た。
(つづく)