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大山加奈選手、岩隈久志選手、ライコネン選手、浅田真央選手、阪神タイガース他好きなものがいっぱい。幸せ気分を発信したいな

兇天使(8)

2007-05-30 21:36:25 | Angel ☆ knight
   

 ラファエルと刑事特捜班のエルシードは、ドレスアップしてアリオンの演説会を兼ねた立食パーティーの会場にいた。
アリオンは革新系だが、大学教授という地位のおかげで、富裕層にも受け入れられる素地がある。今夜は市内のセレブリティを招待して、一気に取り込みをはかろうとしているようだ。会場のしつらえも、料理も、費用を惜しまぬ豪華なものになっていた。
対テロセクションは、『ジュピター』が市長候補を狙っているようなので警備させてほしいと申し入れた。ハデスもアリオンも、まさかこれを断るわけにはいかず、「できるだけ目立たないように」という条件をつけるのが精一杯だった。
「こっちだって本当に警備するわけじゃないから、中に入るのは2、3人でいいわ」
というわけで、エルシード、ラファエルと、やはり対テロセクションの女性隊員、エレクトラが邸内に潜入することになった。
ラファエルはマイクロミニのドレスにラメ入りのスパッツという活動的なスタイルだが、エルシードは体にぴったりはりついた露出度の高いロングドレスだ。
この格好でいくつも武器を隠し持ち、格闘もこなすので、エルシードには「飛ばし屋エル」の他に、「ビューティフル・ウェポン」の異名がある。
エレクトラは、ウェイトレスとして裏方に紛れ込んだ。康とボビーが邸内に監禁されているなら、食事を運ぶ機会があるかもしれない。
はたして、チャンスは訪れた。
今夜の招待客はいわゆるセレブリティなので、何かと注文が多く、厨房も大わらわだった。今も客が何か言ってきたらしく、
「あー、もう、アテナ様の部屋へ食事を運ぶ時間なのに」
と、給仕長は悲鳴を上げた。
エレクトラはすかさず、
「わたしが運んできましょうか?」 と声をかけた。
彼女は準備段階からくるくると気を利かせて立ち働き、給仕長に信頼を抱かせていた。
「悪いけど、お願いできるかい? アテナ様は邪魔をされるのがお嫌いだから、ドアを二回ノックしたら、ワゴンは廊下に置いといていいよ」
「わかりました」
ワゴンを運びながら、エレクトラはこっそり内容を見分した。三人分の食事。子供達が一緒にいる可能性が出てきた。
エレクトラは教えられた部屋の前に行くと、素早く周囲の様子を確認して、ドアを二度叩いた。

 「アテナおばちゃまはテロリストなの? そんなことないよね?」
ボビーに訊かれて、アテナは何も言わずに目を窓の方に向けた。
(あなたに渡した紙袋の中に爆弾が入っていたのよ)
と話したら、この子は何と思うだろう。
ガイアに子供を使えといわれた時、アテナはそのアイデアに抵抗を感じた。しかし、小さな子供なら真相が発覚しても罪には問われないし、数年もすれば自分が何をしたかも忘れてしまうと言われて、それもそうだと自分を納得させた。
男の子を使って企みを進行させながら、男性全般に復讐しているような昏い満足感を、アテナは覚えた。実績を認められ、管理職に抜擢されたアテナの足を、男性の同僚は結束して引っ張った。学生時代、男子生徒をめぐる女友達の嫉妬に辟易した経験があるが、男も女同様嫉妬深い生き物なのだと、この時思い知らされた。
一方で、子犬のようにまっすぐに自分を慕ってくるボビーに情が移らなかったといえば嘘になる。愛情を持ってケアされていないことが一目でわかる身なり。アテナのぎこちないやさしさでさえ、彼には干天の慈雨のように貴重な愛情であるようだ。ヘラクレスに拉致され、ガイアとの会話を聞いた今でも、ボビーはまだ自分に対する好意を失っていない。
ドアにノックの音がした。食事が運ばれてきたのだろう。
「そこに置いといて」
と声をかけ、人の気配が遠ざかると、ワゴンを室内に運び入れた。

 エレクトラがワゴンを押して会場に現れ、テーブルに料理を補充し始めたのを見て、ラファエルはさりげなく彼女の脇に立った。エレクトラの右手が隠れる角度でテーブルに屈み込むと、彼女はマイクロレコーダーをラファエルの手のひらに落とした。
「さっき2―Bに食事を運んだ時に、ワゴンの底につけておきました。子供達の声が入っています」
2―Bというのは、警備のためと称して受け取ったこの屋敷の間取り図につけた、それぞれの部屋の符号だ。
「部屋には、子供達の他にはアテナという女しかいないようです。廊下や階段を見張っている人間もいません。ただ、3階で人が動くような物音がしました。おそらく一人です」
ラファエルはテーブルを離れると、庭に歩き出た。この時刻になっても明るさの残る庭ではバーベキューが催されていた。
駐車場へ行く途中、さりげなくバックヤードに目をやったが、そこにも人数は配置されていないようだ。
運転手のふりをして待機していた男性隊員に、ラファエルはレコーダーを渡した。
「子供達と女性一人が2-Bに、3階にも一人いるみたい」と囁く。
これで、邸内の捜索令状が取れるはずだ。ダリウス達は既に、ハデス邸を遠巻きに包囲している。
「それ以外の人数は見当たらないわ。どこかに隠れているのかもしれないけど、本当に家族だけでやっているのかもね」
「家内工業ってやつですか?」
隊員は肩をすくめて車に戻った。ラファエルも、急ぎ足で会場に取って返した。

 令状は、セイヤが777で運んできた。シルフィードはヘリコプターのように垂直に離着陸ができるので、彼はハデス邸のヘリポートに777を降ろした。招待客が何事かと空を見上げる。
「警備は目立たないようにとお願いしたはずですよ」
ガイアが冷ややかな怒りを滲ませてラファエルに歩み寄った。
「それとも、これは警備じゃなくて、革新系候補に対する警察のいやがらせなのかしら。だとしたら、行政処分を請求することも考えますよ」
そこへ、シルフィードに同乗していた隊員数人がかけおりてきた。先頭に立つゼノンがガイアに捜索令状を示す。
「申し訳ありませんが、これは捜査です。二階を捜索させて頂きます」
ラファエルは、ガイアが武器を持っていないことを確かめると、彼女を先頭に立て、無線をONにして二階に上がった。隊員達が後に続く。
「誘拐だとか、監禁だとか、何かの間違いですわ。娘のアテナが子供好きで、時々近所の子を連れてくることがありますの。親御さんがそれを勘違いして騒ぎ立てておられるんじゃないかしら」
(わたしがその親なんだけどね)
ラファエルは、胸の内で呟いた。
対テロセクションが2―Bと名付けたアテナの部屋の前にくると、隊員達がさっと階段と廊下に展開した。ラファエルはガイアに、
「ドアを開けて貰って下さい」
と囁き、自分で扉を二度ノックした。エレクトラが食事を運んだ時に「ノックは二度」と言われたので、ノックの回数で安全確認をしているのかもしれないと思ったのだ。案の定、ガイアはわずかに顔をしかめた。
「アテナ。わたしよ。ちょっと開けてちょうだい」 

(続く)