「美しい村」の議員日記

南アルプス山麓・大鹿村在住。自給自足農業、在宅ワーカー、2011年春より村議会議員。

大阪府「不登校半減」政策を問う緊急アピール

2005年02月25日 | 子ども・教育
先日の寝屋川の事件で逮捕された少年が不登校経験者だったことから、世間ではますます不登校への偏見が高まっているらしい。そんな中、大阪府では3年間で不登校を半減させる緊急対策事業を開始するのだそうだ。でも、不登校をしている子の事情は個々さまざまなので、画一的な施策で解決できる問題ではなく、場合によっては、かえって子どもたちを追い詰めてしまうことになりかねないと、フリースクールなど、不登校にかかわってきた人たちの中から疑問の声が上がっている。以下、アピールを転載します。
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 1月末、大阪府は「不登校を3カ年で半減させる」緊急対策事業を新年度から開始すると発表しました。私たちは、これに対し、ぜひ当事者の意見を訴えたいと、大阪府下の不登校の親の会、居場所、フリースクール、ホームスクーリング(ホームエデュケーション)ネットワークなどによる連絡会を結成しました。
 折しも、寝屋川市の小学校で殺傷事件が起き、逮捕された少年が不登校経験者だったことから、世間では不登校への偏見を含んだ扇情的なムードが強まっています。そうしたなか、不登校の子どもたち、あるいは家族への圧力が強まることにならないか、私たちは危惧しています。

●「不登校半減」の見直しを

 まず、私たちが訴えたいのは、「不登校を3カ年で半減」目標の見直しです。
 不登校をしている理由は、子どもによって、ほんとうに個々まちまちです。私たちは、長年、不登校の子どもたちと関わるなかで、子どもたちの、言葉にならない、ほんとうにさまざまの、そして深い思いに接してきました。文科省においても「不登校対策については、画一的な不登校像を安易に描いて論ずるのではなく、不登校児童生徒の将来の社会的自立を目指し、一人ひとりの状況を踏まえて、その最善の利益が何であるのかという視点に立ち、真剣に考えなければならない」と述べています(2003年4月「今後の不登校への対応の在り方について」)。府が大上段に「半減」を目標に掲げるのは、「子どもの最善の利益」を考える視点とは正反対のものだと言わざるを得ません。
 当事者の子どもたちと直接に関わる私たちは、このことに深く心を痛めています。子どもは学校に行っていてもいなくても、まったく同じように尊重されなければなりません。
 私たちは、不登校を経験した子どもたちから、「あのとき、もし学校に行き続けていたら、自分はどうなっていたかわからない」と言う声を数多く聞きます。子どもの権利条約第31条「休息の権利」、世界人権宣言第26条第3項「子どもの教育の種類の選択は親に優先権がある」にあるとおり、教育の種類は学校だけでなく幅広いものであり、その子に必要な休息を十分にとる権利も保障されているはずです。自分の意思に反して学校に行き続けることは、どの子にもあってはならないことです。
 不登校は、そのことで子ども自身の存在が否定されたり、「数を半減」されるべきものではありません。
 私たちは、「不登校半減」目標の見直しを求めます。

●地域から孤立させてしまう

 府は、緊急事業の具体策として、地域住民から選考した「不登校支援協力員」を活用して家庭訪問を行なうとしていますが、これは不登校の子どもや家庭を追いつめることになりかねません。私たちは、不登校の家庭への支援が必要という点では、認識を同じくするものです。不登校の子どもを持つ家庭は地域から孤立しやすく、支援はとても必要とされていると言えます。しかし、「半減」を目標としての地域住民の家庭訪問では、逆に、親子ともども地域から孤立させていくことになってしまいます。
 たとえば、担任でもなく、それまでの信頼関係もない地域の方が、いきなり家庭訪問したところで、子どもが心を開いて話ができるか、私たちの経験から言えば疑問です。「学校復帰」という結論ありきでは、いま現在学校に行っていない子ども自身は、自分を否定されたようにも感じることでしょう。不登校になったからといって、その家庭が地域から孤立しないことこそが、重要なことです。そのためには、「半減」目標を見直し、その子どもが不登校であることを認めたうえで、その子にとっての最善の利益を地域が支援するようにしなければなりません。
 たとえば兵庫県においては、民間フリースクールが県の委託を受けて家庭訪問事業を展開しており、不登校の子ども・家庭への支援を実現しています。私たちも、大阪府において、不登校の当事者に関わる市民と行政との連携を望みます。

●個人情報保護の問題

 緊急対策事業では、校内に設置するケース会議で「不登校児」「不登校の可能性がある児童」を把握し、個人カルテを作成するとしていますが、そこには地域住民から選考された不登校支援協力員が参加するため、生徒の個人情報が地域住民に知られることになります。その点について、府教委は「研修を行ない、守秘義務の徹底をはかる」ため問題はないとしていますが、不登校への偏見が根強いなか、地域の住民に不登校の情報が把握されるということは、個人情報保護の観点からも、大きな問題であると思われます。

●政策に当事者の声を

 「不登校を3カ年で半減させる」という目標は、昨年の府知事選の際に、太田房江知事の公約として掲げられたのですが、これは当事者の感覚ばかりではなく、学校現場の感覚からも大きく外れていると思われます。府は2002年に、不登校児童生徒への聞き取り調査を実施していますが、「何をしてほしいか」との問いに、一番多かった回答は「そっとしておいてほしい」(33%)でした(公立中学校)。
 大人たちがすべきことは、大人の側が「よかれ」と思うことを子どもに施すのではなく、子ども一人ひとりの思いや苦しみに真摯に向き合い、意志や気持ちをていねいに聞き、いっしょに考え合っていくことではないでしょうか。

 不登校に関わっては、現在、NPOや民間と行政との連携が全国的に進められています。私たちも、府と連携し、不登校の子どもたちにとって「最善の利益」となるような政策を考えていきたいと願っています。まずは、大阪府が、不登校政策について当事者と話し合っていく場を設置されることを求めます。
以上。

2005年2月22日
大阪府の不登校対策を考える市民連絡会
〒537-0025 大阪市東成区中道3-14-15
℡06-6973-5892/FAX06-6978-6626
e-mail: osaka@futoko.org