「美しい村」の議員日記

南アルプス山麓・大鹿村在住。自給自足農業、在宅ワーカー、2011年春より村議会議員。

リニアに対する住民意見交換会

2013年02月21日 | リニア新幹線
 昨日と一昨日、村主催による「リニア中央新幹線事業に対する住民意見交換会」が、大河原地区、鹿塩地区の2会場で開催された。大鹿村では、工事計画や工事用道路対策、残土運搬対策、残土処理場対策など早急に村と協議し、準備書作成前に関係自治会に説明するようJR東海に対して要望しているが、JR東海側では個別説明会は行わないとの回答であるため、村として意見交換会を開催して村民の意見を把握し、JR東海に対して要望していきたいという趣旨で開催されたもの。行政がこういう場を設けるというのは、他の沿線市町村では例がないのでは? 村民の関心も高く、雪と凍結で道路事情が相当悪かったが、どちらの会場もいっぱいになる盛況で、人口1148人の村で1割に当たる約110名が集まった。

 初めに副村長から、リニア事業に関する経過、今後予想される日程、リニア計画に対する村の意見、リニア工事で予想される課題と村の対応について説明があった。課題は多々あるわけだが、今回の話の中心は工事用道路や残土運搬対策に関するもの。大鹿村では青木と釜沢の少なくとも2か所に斜坑が設置され、200~300万立米の大量の残土が搬出されることが予想される。JRでは工事用道路は「できるだけ既存の道路を活用」と言っているが、国道152号線も県道赤石岳公園線も狭く集落内を通っているので、現状では工事用車両の通行は困難。さらに、村内で大量の残土処理をする場所はなく、ほとんどを村外に持ち出さなければ処理できない。そのため、トンネル掘削が始まると、約10年間にわたって片道数百台の残土運搬車両が村内及び小渋線を通行することが見込まれる。小渋線はだいぶ改良されてきているとはいえ、未改良区間ではすれ違いによる待合の連続や交通渋滞、通行の危険増大により、村民をはじめ観光客など通行するすべての人に支障を来し、住民生活や観光産業など地域全体が重大な影響を受ける。こうしたことから、国道152号線、県道赤石岳公園線、小渋線の、工事着工前の道路改良や、小渋川沿いの県道については残土運搬車両が通行しないような方策を検討するようJRに要望しているといった説明があった。

 その後、村民からの意見や質問が次々に出された。大河原会場では、まず工事後の水の問題、また「美しい村を掲げているのに環境が破壊されるのは大変悲しい。村で生活したくなくなるような状態に陥っては残念だ」という意見が寄せられ、村長も「村の中が工事現場になるのは大変悲しい。美しい村を守るために言うべきことはきちんと言っていきたい」と応じた。また小渋線の改良を歓迎し、(とはいっても小渋線の改良=2車線化はかなり大変なことなので)未改良のまま押し切られないようにしっかり働き掛けてほしいという意見や、豊丘にトンネルを抜いてもらったらどうかといった工事を前提とした意見があった。それに対して、そうした対応策に追われるのではなくて、村の将来をどうするかという観点でこの問題を考えて言っていかなくてはいけないのではないかという意見。また「大鹿村の場合は駅ができるわけでもないし、南アルプスをぶち抜いて、しかも残土処理で何百台と車が通る、村には何のメリットもない。あるなら教えてほしい。日本で最も美しい村に逆行するのではないか」という質問に対しては、村長は「日本で最も美しい村という自然環境を売り物にしている村にとっては、降ってわいた迷惑」とした上で、「しかし、国からの指示で動いているので、否定ばかりもしていられない。村にとっては小渋線がネックになっていたので、そこを大規模改良してもらえるならメリットに結び付けられる」と続けた。それに対して、別の村民から「小渋線の20~30分は田舎で景観を守っていく中で絶妙な距離感。道路がよくなることが必ずしもメリットにならない」との意見も出た。あるいは「国が決めたからといっても、国は国会などでしっかり議論して決めたわけではない。村長がリニアが来てもらっては迷惑だと考えているなら、それをもっと強くJR東海に言ってほしい」という声もあった。また「大西山から見た旧小渋橋を入れた赤石岳の風景だけには絶対傷を付けてほしくない」という意見、それと重なるが、村で要望している小渋川も明かりでなくトンネルでということを、もっと強く要望してほしいという声。温泉の方からは水資源・源泉の調査についての要望。あと、JR側の説明とは違う観点からリニアのことを知る講演会を村で開催してほしいという要望なども出た。
 鹿塩会場でも、同様の意見はじめ、いろいろな意見が出たが、村がJRの環境アセスに対してルートの3キロ幅内にある水源の位置図を提供したことに対し、なぜ3キロ幅内だけなのかという疑問の声があり、かなり離れた場所でも水源への影響を懸念する人が多いことも窺えた。両日で約20名の村民が発言。
 
 村長は初めに国で決まったことだからということで、全国新幹線鉄道整備法(全幹法)第7条にに基づいて整備計画決定されたという言い方をされたが、当初の基本計画はいわゆるBルートだったはず。「全国の中核都市を有機的かつ効率的に連結するもの」という点からすると、東京・名古屋・大阪の大都市直結に主眼があるリニアは、全幹法の趣旨に合うのかも疑問。諮問された交通政策審議会の中央新幹線小委員会の審議過程も初めから結論ありきのようで疑問だらけだったし、「大鹿村だけの問題ではない」けれども、「大鹿村だけの問題ではない」からこそ、ほとんど報道されないこの計画の多々ある疑問点はもっと広く周知されなくてはならないと思う。

【追記】議員はリニアの問題をどう考えているのかという質問があり、議長がこれまでの経過として、飯田下伊那地域で期成同盟が結成されて活動してきた中で、議会としてリニア推進という緩やかな合意形成が図られているという言い方をされたので、何人かの方から疑問を言われたが、それは過去の経過を言われたのだと思う。その後、現在はそれぞれの価値観で活動しているとも言っていて、それが現状。

リニア沿線住民ネットワーク結成集会

2013年02月11日 | リニア新幹線
 昨日はリニア新幹線の神奈川県内の中間駅建設予定地である相模原にて、リニア新幹線沿線住民ネットワークの結成集会「脱原発社会にリニア新幹線は必要か!」が開催された。リニア新幹線を考える東京・神奈川連絡会、リニア新幹線を考える相模原連絡会、リニア・市民ネット、飯田リニアを考える会、東濃リニアを考える会、そして大鹿村や近隣の若い人たちが中心になって活動しているNo!リニア連絡会の6団体が参加。(大鹿村では、大鹿の100年先を育む会がリニア新聞を発行するなど、リニア問題について考え、情報収集・発信する活動をしているが、育む会はリニアに限らずトータルな持続可能な地域づくりを考える団体で、リニアの活動団体ではないので、一昨年から署名活動を行っているNo!リニア連絡会として参加した)定員180名の会場は満杯で、椅子に座れない人たちが通路に座り、それでも座りきれない人たちが立ち見になるほどの盛況だった。
 開会挨拶に次いで、まず広瀬隆さんによる講演で、リニアの電磁波問題、自然破壊、事故の危険性、そして過大な電力消費という観点から、リニア新幹線計画の問題点を“広瀬節”で語られた。第2部のパネルディスカッションでは、産総研の阿部修治さんから「超高速磁気浮上列車の事故リスク」として、技術的な観点からリニアにはさまざまなリスクがあるというお話、『必要か、リニア新幹線』の著者である橋山禮治郎さんからは、この計画が十分な情報提供がなく、メディアも報道しない中で疑問点、問題点が多々あることが知らされないまま、既成事実がどんどん積み上げられてしまっている状況が指摘された。
 いかにしてリニアの問題点をもっと世の中に広めていくかが最大の課題になるわけだが、会場とのやりとりの中では、推進する側も反対する側も専門的な話が多くて、女性には遠く感じる、もっと分かりやすく伝える必要があるのではないかという女性からの声があった。また、先日、飯田高校で開催された「こんにちは県議会です」において、高校生からリニアにシビアな意見が次々出て、「リニアは要らないと思う人?」という質問にかなりの生徒が手を挙げて、県議の側が驚いた話が紹介され、もっと若者に訴えるべきという話も出た。リニアが通るのは早くても15年後の話。やはりこれからの時代を生きる若い人たちと共に考えていくことはとても大切だと思う。
 最後に沿線ネットワーク構成をする各団体の代表から挨拶があり、集会宣言が読み上げられたが、宣言の文面について会場からより広範な人たちが参加しやすいように修正したらという意見が出て、それはネットワークの世話人会に任された。ネットワークなので、いろいろな意見を持つ人たちが姿勢や表現や方法の違いで離れたり排除することなく、緩やかにつながっていけるといいなと思う。
 
 岩上さんのIWJでUstream録画が見られる。掲載期間終了後は会員限定記事となるので、お早めにどうぞ。
 また、山梨の槇田きこりさんがfacebookに当日の資料やパワーポイントをまとめたアルバムを作ってくれた。中にも出てくるけど、集会後の交流会でもいろいろな話ができて、実り多い一日だった。

※リニア新幹線沿線住民ネットワークで進めているリニア新幹線計画の凍結を求める署名はこちらです。

世界自然遺産とユネスコエコパーク

2013年02月02日 | 自然・環境
 今日は韮崎市で開催された「南アルプスフォーラムinやまなし~南アルプスのユネスコエコパーク登録に向けて~」という催しに行ってきた。パネルディスカッションの中で大鹿の100年先を育む会の植生調査の取り組みについての報告があり、役場から車が出るとのことで同乗させていただくことにした。南アルプスを世界自然遺産にという取り組みの中で、中央構造線エリアについては4年前から日本ジオパークに認定されているが、今度はエコパークにという話になっている。ジオパークも先日何とか再認定はされたものの、地域内での周知も不足しているし課題がたくさんある状況で、さらにエコパークといわれても、それが何を目指すのか、世界遺産とはどう違うのかとか、よく分からないところが多いので話を聞きたいと思った。
 第1部の基調講演では、まず「ユネスコエコパークの魅力と各地の取り組みについて」ということで、MAB計画委員会副委員長で横浜国立大学准教授の酒井暁子さんからお話があった。MABとはMan and the Biosphereの略で「人間と生物圏」と訳される。MAB計画とはユネスコが1970年から始めた生態系の保全と利用の調和を図る国際的な取り組みで、世界自然遺産が手つかずの自然を守ることが原則であるのに対して、ユネスコエコパーク(生物圏保存地域、Biosphere Reserves)は保護と利用ということで、生物多様性の保全と人間生活の調和を図り、地域社会の持続的発展を実現する場とのこと。そして厳重に保護すべき核心地域、環境教育や野外活動、調査研究、観光、レジャーなどに利用できる緩衝地域、人が暮らしを営み社会活動ができる移行地域の三つにゾーニングする。手つかずの自然を絶対視するのでなく、むしろ主体的に守るような意識を醸成する、それによって文化的な多様性を守ることにもつながるという言い方をされていた。日本では1980年に登録された屋久島、志賀高原、大峰山と大台ケ原、白山と、去年登録された綾の5か所あるそうだ。
 また保全と利用ということで、このユネスコブランドを観光や地域活性化に生かしている事例として、ドイツのレーン地方が紹介された。モザイク様の畑の景観が美しいところ。ここでは激減していたレーン羊という固有種を復活させたり、多品種のリンゴの特性を生かした加工品を開発したりといった形で、ブランド価値を創成しつつ地域アイデンティティの醸成を図り、地域活性化につなげているという。世界自然遺産は価値を「保存」するためのものだが、ユネスコエコパークは価値を「創造」するためのもので、「自然と共生する持続社会の世界的モデル」という言い方もされていた。
 次にMAB計画委員会委員で日本自然保護協会の朱宮丈晴さんから、綾ユネスコエコパークの取り組みについて紹介いただいた。綾町は照葉樹林プロジェクトもそうだけど、町ぐるみの有機農業でも有名なところで、美しい村連合の一員でもある。ここがユニークなまちづくりを進めてきた背景にあるのは、1966年に始まった自治公民館制度という地域との合意形成の場ができていることだという。などなど、いろいろヒントになる話があった。
 第2部のパネルディスカッションでは各地の取り組みということで、芦安ファンクラブ、南アルプス高山植物保護ボランティアネットワーク、大鹿の100年先を育む会からの取り組み紹介があった。第1部で時間がだいぶ押していたため、パネルといっても、3人からの報告だけでほとんど時間がなくなった。 
 今度2月23日には、伊那市長谷にて、やはりユネスコエコパークに向けたフォーラムが開催される。