団塊タケちゃんの施術日記

一人二人生の旅立ち

「月光」第1楽章だけのピアニスト

2012-08-07 09:37:37 | 健康・病気

網膜色素変性症で目がほとんど見えなくなったNさんとピアノとの出合いは20歳のときでした。教会で開かれたコンサートで聴いたのが、ベートーヴェンのピアノソナタ「月光」だったそうです。強烈な感動を覚えて、その曲を弾いた女性が開いていたピアノ教室に通い始めました。大学生で、お金がなかったため、頼み込んで破格に安い授業料でレッスンを受けたといいます。

バイエルから始め、100番を超えたところで、念願の「月光」の練習に取り組みました。第1楽章を暗譜してなんとか弾けるようになるのに数年かかりました。工学部の学生でしたが、世の中の動きを追って伝えるジャーナリズムの仕事に関心を持ち、新聞社を受験して合格しました。初任地は北海道で「抜いた、抜かれた」の特ダネを追う生活に入り、ピアノの前に座ることがなくなりました。

それでも、知人やお店のピアノを借りて、時折「月光」の第1楽章を弾いていたそうです。50代の半ばに東京勤務になり、時間的に少し余裕ができたので、中古のアップライト・ピアノを買ってレッスンを再開しました。

目の不自由な人たちを支援するライトハウスで、今年の新年会のイベントの一つとして、ピアノ演奏を依頼されました。そこで、「月光」第1楽章を弾いたところ、大きな拍手を受けました。白杖を使った歩き方を指導してくれた若い男性は「月光は何回も聴いたことがありますが、これほど感動した演奏を聴いたのは初めてです」と涙顔で話したそうです。

気をよくしたNさんは、かねてから念願だったバッハを演奏したいと考えました。ライトハウスの知人の紹介で個人レッスンを受けることにしました。チャレンジ精神が旺盛なNさんの生き方には、いつでも勇気づけられます。

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