夢逢人かりそめ草紙          

定年退職後、身過ぎ世過ぎの年金生活。
過ぎし年の心の宝物、或いは日常生活のあふれる思いを
真摯に、ときには楽しく投稿

『本日の主役は、僕なのですが・・』・・♪   《初出2007.8.24.》

2008-05-30 11:08:34 | 現役サラリーマン時代の想いで
私が結婚したのは、昭和51年の春だった・・。

結婚式の1週間前、
『やはり・・貴方・・羽織(はおり)、袴(はかま)にしなくては・・おかしいわよ・・』
と母は私に言った。

私はサラリーマンの5年生であり、和服を身に付けた少なく、
着慣れたスーツの代わりに、黒の礼服を着れば良いと思っていた。


結婚式の当日の朝、式場の着付け室で私と兄が着付けをして貰い、
3人の中年の女性が着付けをはじめてくれた。

兄がこの中のリーダー各と思われる人に寸志を手渡していた。
『お兄様・・良いお召し物で・・
やはりある程度以上のものですと・・』
とこの女性の方は、兄の衣装を誉(ほ)めちぎっていた・・。
兄は旧家であったので、日頃から着慣れて折、高価な紋付の羽織と袴を持っていたのである。

私の方は、借り物の《やや良い》の部類で、昔の通信簿だと『4』程度であった。

しばらくすると、兄の着付けに3人掛かりとなって、
私の方は誰もいなくなった。

『本日の・・主役・・僕なのですが・・』
と中年の女性達に聴こえる程度の小声で私は言った。

『あらぁ・・ご免なさい・・そうでしたわねぇ・・』
と2人の女性がきて、私の着付けをはじめた。

『主役の貴方・・スラっとしたお方ですので・・
タオルを当てましょうね・・』
とひとりの方が言った。

私はこの頃は、体重は56キロ程度で、身長は170センチであった。

その後、私のお腹周辺にタオルを2枚あてがって、着付けをしてくれた。

着付けが終わると、私を鏡の前に導いて、
『お似合いですわ・・』
とリーダー各らしい女性が言った。

私は不馴れな羽織、袴はそぐわなく落ち着きを失った上、
明(あき)らかに誉めたおされていると感じ、
『兄貴・・俺・・先に出て・・煙草を喫っているよ』
と私は兄に大きな声で言った。



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