中年期は、成人病にならないため、飲食のコントロールが推奨されるが、
シニアになってからは、どうなのか。
90歳の現在も、週4日医師として勤務する折茂肇さんは、
「私には糖尿病の持病があるが、好きな物を食べ、酒も飲んでいる。
研究の結果からいっても、75歳からは、それ以前ほど血糖値を気にしなくていい」という――。
※本稿は、折茂肇『ほったらかし快老術』(朝日新書)の一部を再編集したものです。

☆老化による身体的な変化も「なんとかなる」と考える
老化は、進みこそすれ、戻ることはない。
予防や、乗り切るための知恵と工夫にも、いずれは限界が来るだろうし、
それはそれとして、受け入れ、あまり深刻に考えないことも大切だろう。
トータルケアをする上では、精神的・心理的なケアも欠かせない。
臓器がそれぞれで関係し合っているように、体と心も、つながっている。
心が不健康な状態になれば、体の状態も悪くなってしまう。
衰えてしまったことや、できなくなったことを嘆くのではなく、
いや、嘆いてもいいのだが、そこであきらめるのではなく、
「じゃあ、どうする?」と発想を転換させて、「できること」を考えてみる。
あるいは、「なるようになるさ」と開き直って、考えることを放棄したっていい。
私は「たいていのことは、なんとかなる」ととらえているから、
思い悩むこともないし、自分のできることをしながら、毎日気ままに生活できている。

☆90歳で糖尿病でも、気にせず好きなものを食べている
私には糖尿病の持病があるが、食べたいものを食べている。
お酒も飲んでいる。
血糖値だけでなく、血圧も肥満も気にせず、
好きなものを自由に食べたり、飲んだりしているから、全然やせない。
でも、そのおかげで90歳になっても、フレイル(健康と要介護の間の状態)にならず、
転んでも骨折せず、杖を使ってでも、自分の足で歩いて、
仕事に通えているのだと思っている。
一般的に、糖尿病といえば、糖質を制限し、カロリーや脂肪分も控えめにし、
野菜中心の食事にすることが、望ましいといわれている。
しかし、私は医師であるが、その必要性を感じていない。
むしろ、糖質を気にして、食べたいものを我慢することや、
あれもダメ、これもダメと制限されることのほうが、よほど体に悪いと思っている。
それは、私自身が食べることが好きで、
自分の好きなものを好きなように食べたい、
好きなお酒も、我慢せずに飲みたいという思いが、人一倍強いせいもある。
また、75歳を過ぎたら、細かいことは気にしないという
ほったらかしの精神によるものもある。
しかしそれだけではなく、75歳以上になると、
病気のリスクが、それまでとは変わることに基づく考えもある。
この年になったら、若いころの常識にとらわれなくていいことも増えるのだ。

☆2年前に小脳梗塞を発症し1カ月ほど入院したが…
話はそれるのだが、私は2年前に小脳梗塞を発症し、
1カ月ほど入院したが、その病院の食事は、ひどかった。
ある日の献立は、コッペパンと焼き魚という組み合わせだった。
あれには、まいったな。
今でこそ、魚のフライやソテーをはさんだサンドイッチなどもあるが、
ちゃんとパンと魚のどちらもが、おいしく食べられるよう工夫されているはずだ。
その病院での食事は、そんな代物ではなかった。
栄養価は、満たしているのだろうが、食べる人の満足度は、全く考えられていない。
ただでさえ入院中は、食事だけが楽しみという人も多いだろうに、
あの食事は、今でも記憶に残っているほど、ひどいものだった。
あれ以来、味覚が狂ってしまったのではないかと思っている。
もう少し患者のことを考えてほしいものだ。
なお、現在勤務している高齢者施設の食事は、楽しみの一つになっている。
管理栄養士が栄養価を計算してメニューを考え、施設内で調理もしている。
これは日本に数多くある施設の中でも珍しい、誇れることだと思う。
昼食は、施設内の施設長室で一人でとるのではあるが、
入所者と同じ食事をいただいている。
低コストでありながら、おいしく食べられるようメニューが工夫されていることに感心する。
☆老年医学の新しい常識では、むしろ低血糖や低栄養を心配すべき
一般的に、75歳未満では、高血糖は心血管疾患による死亡リスクを高めるとされているが、
75歳以上になると、高血糖による心血管疾患の死亡リスクの増加は、軽度となることがわかっている。
一方で、低血糖による転倒や骨折、脳卒中などのリスクは高くなる。
つまり、75歳以上になると、高血糖よりも、むしろ低血糖のほうが
体に悪影響をおよぼすようになるのだ。
そのため、75歳以上の糖尿病の治療においては、
血糖コントロールの目標値を中高年の目標値よりも少し緩めにして、
低血糖による合併症を防ぐことを重視している。
日本老年医学会と日本糖尿病学会とが合同で、
「高齢者糖尿病の血糖コントロール目標」を発表し、
年齢や身体機能、認知機能の状態などによって、目標値を検討することとしている。
なお、これは医療にかかること自体を否定するものではない。
高齢者は、ちょっとしたことで急変もあるため、
医師に日々の状態を把握しておいてもらうことは重要だ。
