日経XTECHに「遠のくライドシェア解禁、「圧力」に屈したIT業界」という記事が出ている。これはUBERのようなライドシェアサービスの日本での解禁には多くの条件が付きそうだということを言っている。私はこの動き自体には詳しくないのだが、全体として日本政府のこのような業界を保護する動きは結局その業界を弱くするだけだと感じている。
日本では例えば東京のタクシーが客を乗せて横浜まで来た時に、その客を降ろした後、東京に戻るまではタクシー営業を行なってはいけないことになっている。トラックなどが帰りを空トラックで帰らずに何かを積んで帰るように工夫している効率を上げようとしているのと真逆の動きである。効率を考えれば明らかにタクシー業界は効率を落としており、結果として日本のタクシーは料金が高いにもかかわらず、タクシー運転手の収入は少ないという状況になっている。政府が効率が悪くなるように規制をかけて「皆が等しく貧しくなるように」という政策を取っているのだから当然と言えるだろう。
京都のMKタクシーが規制と戦ったという話は有名だが、なぜ規制緩和が進まないかというと、誰かが新機軸を打ち出してシェアを拡大しようとすると、業界の他のメンバーが陳情してそれをやらせないようにして、結局政府は既存の業界の意見を尊重するからだと私は思っている。つまり政府に悪気はなく「業界のため」を思った政策を取っているのだが、結果として業界を不活性化しているということだと私は認識している。ある程度以上に規制が入った業界(厚生労働省関連はこの種が多い)ではこういうことが起こりやすい。農業もこの種の業界の典型だったが最近やっと改善されてきた。
このような空気をどうやったら変えることができるだろうか? MKタクシーの例を見てもわかるように業界の中からこの種の提案が出てくることはあり得るが、他の大多数が反対することは容易に想像され、この姿勢を変えることは期待薄だろう。やはり政府の規制改革を審議するような場で、「合理性のある案が通りやすい」という空気を醸成していくしかないだろう。こういった方針をガイドするのは官僚で、官僚は業界単位で組織が分かれているので、官僚が業界側に付くのもある程度仕方がないと思う。官僚の中には色々な人が居るのだが私は官僚が業界べったりとは思っていないが全体の空気を換えるのは容易でないと思う。しかし、業界そのものを変えるよりは官僚のマインドを変えるほうが現実味が高く、そこが政治の役割だと思っている。
私は現在の政府の各種会議の進め方に問題があると思っている。政府が規制改革等を議論するときほとんどの場合業界関係者、学識経験者から構成される審議会を開催する。議長は殆どの場合大学教授で、第3者の意見を取り入れるような構造になっている。ところが実態としてはこの審議会で激しい議論が取り交わされることはなく、最初の何回かは世界の動向などの情報収集と各団体からの意見陳述を行い、事務局が「皆の意見をまとめるとこうなる」といってまとめのたたき台を用意する。各委員は数分間でこのたたき台に対してコメントを述べるだけで基本的には事務局案が通る、というのが殆どの基本の審議会の進め方である。
この方法がうまく働くときもある。進むべき方向性が明らかで重要なのは関係者間の利害調整、というような場合にはこの方法は非常にうまく働く。私の専門である無線通信の関係で言えば、電波割り当てを決めて複数の申請者が出てきたときに、とこの会社にどれだけ割り当てるか、というようなことを決める会議では当事者は全員自分のところに電波を割り当ててほしい訳で、議論して公平な落としどころを見出すのは極めて難しいからである。
その一方で「どうすればよいか」が分からないような場合にはこの方法ではうまくいかない。具体的には事務局である官僚にうまい解決策を見つけることができないような場合であるが、このような場合には、多くの識者から様々な意見を出してたたき合う、例えば泊まり込みで議論をするようなやり方が有力である。しかし日本の公的な会議ではこのような手法が採用されることは無い。
基本姿勢として「合理性のある方向に舵を切る」という姿勢を持ち、官僚主導の取りまとめと、徹底的に議論するまとめ方の会議を使い分けることが改善の方策だと思っている。