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ウィトラのつぶやき

コンサルタントのウィトラが日頃感じたことを書いていきます

東芝の原発事業の減損発表、撤退への準備か

2016-12-28 08:30:25 | 経済

東芝は原発事業で数千億円の減損が出る見通しと発表し、資本増強の必要性を示した。私はこれが東芝が原発事業から撤退する意向を示したサインではないかと思っている。

東芝は2006年にウェスティングハウスを54億ドルで買収し、当時は「大胆な決断」などと言われたが、福島原発の事故以来原発事業は低迷し、不正会計の発覚以降、既に2500億円の減損処理をしている。それに加えて今回の大規模な減損の発表を見ると、東芝が原発事業からの撤退を考えているのではないかと推測される。インドから原発建設を受注したところなので簡単には止められないだろうが事業売却を含めて検討していると思われる。

話は違うがTBSの時事放談という番組で小泉純一郎元総理が、なぜ自分が原発反対に回ったのかを説明していた。最大の理由は「核のゴミ」の処理の見通しが立っておらず、今後も立たないだろう、という点にあるようだ。フィンランドのごみ処理場を見学し、「これは日本には無理だ」と感じたという。ごみ再利用のプロジェクト文殊もうまくいっていない。これをきっかけに、原発の経済性、やめた時の影響などを自分で調べて、「原発を今すぐやめるほうが日本のためだ」という結論に達したという。

私自身は原発を推進するほどではないが、当面は使い続けて、ゆっくり収束させればよい、その間にゴミ処理技術が見つかれば継続すればよい、という今の政府に近い考え方だったが、この番組を見て、「早くやめたほうが良いなかな」と思うようになった。それは原発を使い続けると「処理できないゴミ」というマイナス要因がどんどん増加する、というところに動かされたからである。

政府内部も、原発の早期収束の方向に傾いてきているのではないかという気がする。文殊の中止はその表れだろうし、今回の東芝の発表も、この種の話は事前に経産省にも話を通していて経産省も承知のことだろうと思うので、原発収束の方向性を少しずつ見せ始めた、ということではないかと解釈している。


自動運転、オールジャパンは疑問

2016-12-24 15:15:24 | 経済

自動運転でホンダとグーグルの提携について書いた直後、今朝の日経1面に自動運転に関するデンソーとNECの提携の記事が出ていた。これはデンソーを核としてNECのAI技術を導入し、他の日本企業も絡んでオールジャパンの自動運転チームにするような色彩があるらしい。私はこの動きは疑問だと思っている。

自動運転ソフトは自動車メーカまたはグーグルのような企業が提供して、デンソーは部分的な機能を提供するものと思われる。中心が自動車メーカではなく、自動車部品メーカのデンソーであるので、自動運転全体ではなく、より部分的で、自動車メーカのオールジャパンよりはましだと思うが、それでも疑問である。NECは画像認識が強いので、AIを使ってカメラで撮った画像から歩行者の動きなどを分析して、減速する必要性などの情報を提供するのだと想像している。

最初のうちはこのような取り組みでうまくいくだろうと思う。自動運転が実用化されるのは2020年頃だと思うが、2020年から2025年くらいまではこういったオールジャパン的な体制でうまくいくだろうが、その先うまくいかなくなってくると私は予想している。日本企業は単独の機能開発には強い。例えばカメラに内った画像が人なのか動物なのかを判定し、どちらに動きかを予測する、といった機能を実現する際にはオールジャパンで十分に競争力があるだろう。

しかし、自動運転はどんどん進化する。最初から公道を走るような導入の仕方は行わず、最初は車庫入れを自動で行う、次にショッピングセンターなどでバレーパーキングを自動で行う、次に、シャトルのような出発地と目的地が一定の車で行う、というように次第に利用範囲が拡大されていくと思う。利用が拡大するにつれて機能も拡大する。カメラだけでなくレーダとの組み合わせ、エンジンの動きやギアの状態との組み合わせ、といったどんどん複雑な機能が要求されるようになるだろう。こういった進化するソフトを作るのは日本人は苦手である。

それでも、出荷時に求められる機能が確定するうちは良いが、そのうち、販売後にも機能アップするようなことが求められるようになると思う。日本人の作るソフトはハードウェア感覚のソフトで、「ある機能をソフトウェアで実現する」というようなものであり、ハードウェアと一体化する。しかし、iPhone のiOSなどはハードウェアとは別に進化するソフトウェアである。私は使っているiPhoneを買ったときはiOS8.0だったが最新の機種はiOS10.0が搭載されている。そして私の使っている古いiPhoneもiOS10.0にバージョンアップされている。つまりハードは同じiPhoneでも機能は向上している。このようなことを可能なソフトウェアを作るには、「将来どのような変化があり得るか」をある程度想定してソフトを作る必要がある。これをソフトウェアアーキテクチャと呼んでいると思っているが、日本企業にはこのセンスが全くないと私は考えている。そして自動運転にはこのような機能が求められると思う。

機能をどんどん追加しない、単機能の部品ならばこのような問題は生じにくいが、AIを搭載するような複雑な部品では、ソフトウェアアーキテクチャが重要にならざるを得ないと考える。今回の事例をソフトウェアアーキテクチャを重視した設計にする事例として挑戦するなら良いが、それでも成功確率はかなり低いような気がしている。


グーグルの自動運転に注目

2016-12-22 12:33:24 | 経済

グーグルは最近、自動運転の部門をR&D部門からWaymo(ウェイモ)という会社として切り出し、実用化に乗り出した。クライスラーがウェイモと提携して自動運転車を開発・評価していたが、最近ホンダがウェイモとの提携を発表した。何となく自動運転技術の構図が見えてきた感じがしている。

大手のトヨタ、フォルクスワーゲン、GMなどは自力開発するが中堅企業は開発資金が苦しいのでグーグルとの提携で道を切り開こうとする。クライスラーやホンダはその典型例だと思う。他に日本企業で言うとマツダ、スバル、スズキのような企業はグーグルと組む可能性が高いだろうと思っている。韓国のヒュンダイやインドのタタなども可能性はあるだろう。中国企業も政治的圧力が無ければ組みたいところだろうと想像している。

誰が勝ち組になるかというとグーグル陣営が勝つ可能性が高いような気が私はしている。開発効率が高い点と、様々な車種で試すのでノウハウの溜まり方が早いような気がするからである。日本企業で言うと日産がどういう判断をするかが難しいところだろう。

自動車メーカの他に部品メーカがどういう動きをしてどうノウハウを貯めこみ、それを顧客と共有するかといったあたりも影響が大きそうである。ボッシュ、コンチネンタル、デンソーといった大手やそれに続く様々な企業が取り組んでいると思われ、自動車メーカとの情報交換が重要である。どう全体のエコシステムをうまく作り上げるかが大きな影響を持つと思う。この点でもあまり自社の利益にこだわらず、「まず拡大を目指す」というグーグルのやり方が有利なような気がする。


トランプ経済、売り時が難しい

2016-12-16 07:45:29 | 経済

トランプ大統領に決まってから、ドル高、株高が続いている。先日のFRBの会合でも利上げのペースを速めることが決まった。

私もこのブログに書いたが、トランプ大統領になれば大規模公共投資、企業減税といった財政赤字を気にせずに大盤振る舞いすると読んでいる人が多いという証拠だと思う。日本のアベノミクスでも同じだが、財政出動で作った好景気は本物ではなく、偽の好景気、つまりバブルになりやすい。日本の場合は財政出動してもなかなか本格的に景気が拡大しない、これは日本が人口減少の上に国際競争力が下がっていて先行き不安が強いからだと思う。しかし、アメリカは国際競争力も強く、景気も強めである。これはシリコンバレーの技術力と、シェールオイルの影響が中心だと私は思っている。強含みのところに大規模な財政出動をすればバブルになりやすい。

トランプ氏は恐らくバブル景気になることは気にしておらず、「自分が大統領のうちにバブルが弾けなければよい」といった思いではないだろうか。次の大統領が大変な苦労をすることになると思う。FRBの決定もこうしたことを意識していると思われる。その一方でバブルになるとすれば大儲けするチャンスである。このところの株高はそれを狙った動きだろうと思っている。同時に投資家は皆、今度来る好景気はバブルだと思っていて、「いずれ弾ける」という認識の下で投資しているだろう。皆がそんな意識で投資しているので、ちょっとした変調でも下げ足は非常に速いだろうと思う。

素人は今の段階では様子を見ていて、「どうも株高が本物らしい」と思ったあたりで参入する。その時にはすでにかなり高めになっており、参入後も多少は上がるかもしれないが、引き時を誤ると大損をすることになるだろう。株価が下がるときは一気に下がるので、高速取引をするプロが有利である。

私はトランプ大統領になってから投資を増やしたわけではないが、私の以前から持っている株も大分上がってきた。「危ないな」と思いつつ様子を見ている。


経済のグローバル化は目的か手段か

2016-11-18 10:26:40 | 経済

国会中継のTPPの議論を聞いていると「世界経済のグローバル化をこの人たちはどうとらえているのだろう?」と感じることがある。特に政府側の答弁は安倍総理を含めて「世界経済のグローバル化は当然進めるべきもの」「今のグローバル化は不十分で、TPPで大きく前進する」「困る人も出るので配慮する」というのが骨子になっている。この「世界経済のグローバル化は当然進めるべきもの」という部分は野党も特に異論を持っているようではなく、突っ込んで追求しようとはしない。世界経済のグローバル化は世界の政治家の目的と捉えられているようである。

しかし、アメリカのトランプ大統領誕生や、イギリスのEU離脱などを見ると、世界ではそうは思わない人が増えていることは明らかである。本来の目的は「国民の経済的豊かさを求める」ことであり、経済のグローバル化はそのための手段であったはずである。しかし、経済のグローバル化を進めることにより、自国だけでなく相手国も発展してきたことから、経済のグローバル化は政治の目的化してきたのだと思っている。しかし、これだけ反対派が増えてきた状況を見ると本来の目的を見直したほうが良いのではないかと私は考えている。

本来の目的は「皆が幸福になること」のはずであるが幸福の定義は人によってまちまちなので「経済的豊かさ」が最も共通的な幸福の基準であると考えて経済的豊かさを求めるものと考える。この時に世界全体が一つの国であると考えれば経済のグローバル化は全体を平均的に豊かにする手法であることは間違いないと思う。しかし実態は世界は国という単位に分割されて制御されている。そして国の間では競争がある。企業でもそうであるが、競争相手と一緒に市場を拡大するほうが良い場合もあるが、競争相手を出し抜くほうが良いと考える場合もあり、市場が成熟してくれば相手を出し抜くことを多く考えるのは仕方のないことだろう。全体が飽和してゼロサムの状態になれば相手に損をさせても自分は儲けたいと思うようになる。

US FirstとかUK Firstとかいう動きは世界経済が飽和してきていることを直感的に感じて、この流れに沿って支持を得ようとしている政治家が増えているということだろう。その意味で自国の利益を最優先にしている典型は中国だと私は思っている。中国は貿易で大きなメリットを得ているので、色々な国と貿易協定を結んで貿易を促進しようとしているが、「グローバル化が良いから推し進めよう」という考えではなく「グローバル化は良いと皆が考えているので、それを利用して自国の経済を発展させよう」という姿勢だと理解している。

要するに世界中が単純な「グローバル化は良いこと」から「自分に有利になるようなグローバル化を目指す」に変わってきているので、日本もガードを固めていかないと思う。その時に第1に考えるべきことは弱点を護ることではなく、強い武器を持つことだと確信している。

 


経済のグローバル化は目的か手段か

2016-11-18 09:50:29 | 経済

国会中継のTPPの議論を聞いていると「世界経済のグローバル化をこの人たちはどうとらえているのだろう?」と感じることがある。特に政府側の答弁は安倍総理を含めて「世界経済のグローバル化は当然進めるべきもの」「今のグローバル化は不十分で、TPPで大きく前進する」「困る人も出るので配慮する」というのが骨子になっている。この「世界経済のグローバル化は当然進めるべきもの」という部分は野党も特に異論を持っているようではなく、突っ込んで追求しようとはしない。世界経済のグローバル化は世界の政治家の目的と捉えられているようである。

しかし、アメリカのトランプ大統領誕生や、イギリスのEU離脱などを見ると、世界ではそうは思わない人が増えていることは明らかである。本来の目的は「国民の経済的豊かさを求める」ことであり、経済のグローバル化はそのための手段であったはずである。しかし、経済のグローバル化を進めることにより、自国だけでなく相手国も発展してきたことから、経済のグローバル化は政治の目的化してきたのだと思っている。しかし、これだけ反対派が増えてきた状況を見ると本来の目的を見直したほうが良いのではないかと私は考えている。

本来の目的は「皆が幸福になること」のはずであるが幸福の定義は人によってまちまちなので「経済的豊かさ」が最も共通的な幸福の基準であると考えて経済的豊かさを求めるものと考える。この時に世界全体が一つの国であると考えれば経済のグローバル化は全体を平均的に豊かにする手法であることは間違いないと思う。しかし実態は世界は国という単位に分割されて制御されている。そして国の間では競争がある。企業でもそうであるが、競争相手と一緒に市場を拡大するほうが良い場合もあるが、競争相手を出し抜くほうが良いと考える場合もあり、市場が成熟してくれば相手を出し抜くことを多く考えるのは仕方のないことだろう。全体が飽和してゼロサムの状態になれば相手に損をさせても自分は儲けたいと思うようになる。

US FirstとかUK Firstとかいう動きは世界経済が飽和してきていることを直感的に感じて、この流れに沿って支持を得ようとしている政治家が増えているということだろう。その意味で自国の利益を最優先にしている典型は中国だと私は思っている。中国は貿易で大きなメリットを得ているので、色々な国と貿易協定を結んで貿易を促進しようとしているが、「グローバル化が良いから推し進めよう」という考えではなく「グローバル化は良いと皆が考えているので、それを利用して自国の経済を発展させよう」という姿勢だと理解している。

要するに世界中が単純な「グローバル化は良いこと」から「自分に有利になるようなグローバル化を目指す」に変わってきているので、日本もガードを固めていかないと思う。その時に第1に考えるべきことは弱点を護ることではなく、強い武器を持つことだと確信している。

 


京セラ、IoT無線サービスに参入

2016-11-10 09:17:10 | 経済

京セラの子会社がLPWAと呼ばれるIoTの無線サービスに参入すると発表した。LPWAとはLow Power Wide Areaネットワークで、乾電池1本で10年くらい使える低電力の無線方式で距離は数Km飛ばせる。

KDDIを含む40社が賛同しているそうである。通信サービスなのでKDDIが前に出そうなものだが、京セラの子会社が発表している。技術はフランスのSigfox社が開発した技術を使用する。

この分野ではソフトバンクがライバル技術であるLoRAを使ってサービスを開始すると9月に発表しており、今回の発表で競争が激化するものと思う。ソフトバンクのほうが先に発表しているが、今回の京セラの発表では、KDDI、村田製作所、関西電力、多くのデバイスメーカなどを賛同者に含んでおり、こちらのほうが有力に見える。京セラの単独発表になっているので、出資金が大きいのだと思うが、やはり事業センスのある人は見ている、という印象を受けている。ドコモは今回の賛同者には含まれていないが、Sigfox社に出資している。

当面のIoTの大きな用途はスマートメータだと思っている。スマートメータは電力業界で既に日本初のWiSunという技術を使うことに決まっているが、この技術を使って無線ネットワーク構築を請け負った東芝が大失敗して、不正経理の一因となった。問題はマルチホップと呼ばれる何度も中継する技術の安定性にあると私は考えている。SigfoxやLoRaは同じ送信電力でWiSunよりも数倍遠くまで距離を延ばせるので、マルチホップは必要なくなり、問題は解決すると思っている。

3GPPではNB-IoTといってSigfoxやLoRaに対抗できる技術を開発しており、LTEと統合できるようになっている。これを使えばLTEネットワークでLPWAを提供することができるようになるので通信オペレータにとってネットワークの構築コストは安くなる。しかしこれらが実用化されるには2年くらいかかると思っており、それまでに独立系のLPWAがどこまで市場を抑えるかが勝負になると思っている。

京セラの発表で気になるのはデータを集めて処理を行うクラウドもSigfoxの物を使うと発表している点である。Sigfoxは既にサービスまで立ち上げているのでアプリも作っており立ち上げを早くするにはSigfoxを使うのが良いことは理解できるのだが、データの扱いをする部分が長期的な産業発展につながるので、そこは自分でやるべきだと思う。おそらく関係者はこの事は十分承知のうえでSigfox社と協議していることと思うが、データを扱う権利は手放さないでほしいと思う。


富士通とレノボのパソコン事業統合に思う

2016-10-12 10:09:51 | 経済

富士通が中国レノボとパソコン事業を統合することで合意した。このニュースを聞いて私はある感慨を持った。もっとも考えたのは富士通のパソコン事業の将来ではなく、5年前に同じようにレノボと事業統合したNECのパソコン事業についてである。今回の富士通の判断を考えると、2011年のNECの判断は好判断だったと思えるのである。

今後は富士通ブランドで事業を継続するのだろうがNECブランドと富士通ブランドのパソコンは競合するので、いずれ富士通ブランドはNECブランドに吸収されていくのではないかと思う。この5年間のNECと富士通のパソコン関係者でもNECのほうが気持ちよく仕事ができたと思う。

思い起こせはNECのパソコン事業は大成功だった。私が入社した1970年代中ごろにTK80というキットから始めてパソコン事業を立ち上げて日本国内で圧倒的なシェアを取った。1990年代半ばには私は研究所から開発研究所に異動になり、パソコンや家電を扱う部門の一部に入った。このグループに当時売れ始めていた携帯電話端末事業が入っていたのである。私は無線の研究者だったので通信部門の技術者とは付き合いは深かったが、この時に当時飛ぶ鳥を落とす勢いだったパソコン事業の人たちと交流ができた。

通信事業関係者は技術至上主義が強く、NECのパソコン事業はたいした技術を持っていないなどと言っていたが、中に入ってみて、パソコングループはマーケティングが非常にしっかりしていた点が印象的だった。通信グループはNTTが最大顧客であり、NTTの要求を聴くことがマーケティングだったが、パソコンのマーケティングは最終消費者の求めるものを調査する本格的なマーケティングだと感じたことを記憶している。当時、ハードウェアのアーキテクチャとして国内を牛耳っていたNECアーキテクチャを捨てて世界標準になっているIBMアーキテクチャにどう移行するか、とかMS-DOSからWindowsへの移行にどう対応するか、とかいった議論にも民需の厳しさを感じていた。

90年代後半以降は、ハードもIBM互換でOSはWindowsといういわゆるMocrosoftとIntelに事業が握られてNECのPC事業も苦境を迎える。このような時期に私も無線技術者の一人としてマイクロソフト本社を訪問したりしていたのだが、NECのパソコン事業は利益率を下げながらもしぶとく国内トップを維持していた。そんな時期に無線事業のトップであった横山副社長がパソコン関係を見るようになった。通信事業一本で育ってきた横山氏が民需系であるパソコン事業の問題点を的確に把握し、指示を出す姿を見て私は「この人こそ次の社長にふさわしい」と思ったものだったが、それはかなわなかった。

話をレノボとの事業統合に戻すと、あの時期にレノボとの事業統合を実現させた経営判断は慧眼であったと思っている。事業は始めるときよりも引くときのほうが難しい。私は2007年にNECを退社していたので、誰が事業統合を進めていたのかは知らないのだが、おそらくパソコン系の事業で育ってきた役員が判断したのだと思っている。私は退社前にNECの今後にはパソコン事業のような民需経験の深い人が必要だと思っていた。それは事業の変動が激しく、それだけ様々な苦境を経験していて判断力が身についていると感じていたからである。

実際のところ、NECは顧客がどう判断するかが不透明で経営判断の難しい分野を次々と手放し、安定顧客の見込める分野に注力してきた。これで果たして経営者が育つのかを危惧している。私が退社してほぼ10年になり、今の幹部は私の良く知らない人が大部分である。今、世界のICT事業は大きく転換しようとしている。経営者の資質が一層重要になってきているので、きちんとした事業判断をできる人に舵取りをしてもらいたいと感じている。


ソフトバンクがIoTの無線方式としてLoRaを採用

2016-09-08 09:39:17 | 経済

今朝の日経新聞にソフトバンクがLPWAサービスを来春開始するというニュースがあった。方式はLoRa方式のようである。ここ1,2年でLPWA(Low Power Wide Area)ネットワークと呼ばれる通信方式が台頭している。過去何十年も高速化を目指して進めてきた通信方式を、一転して低速化を目指し、乾電池一本で10年使えるような通信方式を開発し、IoT用に使おうという考えである。低消費電力の無線方式では、従来からZigbee、Bluetoothといった方式が使われていたのだが、これらの方式は1Mbps程度まで使える低電力方式である替わりに伝送距離はせいぜい数百mまでだった。それを徹底的に速度を落とし、低消費電力化を図ることによって、同じくらいの消費電力で10倍程度(数Km 程度)飛ばそうというのがLPWAの発想である。周波数帯は日本で言うと特定小電力(900MHz帯)という免許不要の周波数帯を使用する。主な用途としての狙いは電力やガスなどの検診の情報を自動で集めるスマートメータだと私は考えている。これは1時間に1回程度メータの情報を送れば良いのでトラヒック量としてはごく少ない。周波数も、電池もごく少量の消費で済む。LPWAはベンチャー企業が独自開発したようなものが多く、方式はLoRaと呼ばれる方式とSigfoxと呼ばれる方式が欧米で導入が進んでいる。

日本では電力のスマートメータ用のWiSunと呼ばれている方式が標準として採用されているが、東芝が東京電力のシステム構築を請け負って大失敗し、不正会計操作発覚の一因となっている。WiSunはやはり伝送距離数百メータなので、かなりの数の中継基地局を置く必要があり、LPWAと比較するとかなり高価なシステムとなる。スマートメータ出直しの際にはLPWAになるだろうと私は考えている。

モバイルオペレータにとっては無線通信によるIoTのデータ収集は将来ビジネスの大きな要因と考えているので、対抗してLTEをベースとした超低消費電力伝送NB-IoTという方式を3GPPで標準化している。おそらく数年もすればLTE基地局でNB-IoTにも対応した基地局が出てきて、これで置き換えていけば自然にIoTに対応できるようになると思うのだが、なぜ、ソフトバンクはLTEと互換性のないLoRaでのLPWAを始めることを決めたのだろうか?

おそらく、NB-IoT対応の機器が出てくるまでには2-3年かかるので、今すぐ使えるLoRa方式にしたというのが最大の理由だろう。ドコモとKDDIがNB-IoTにするなら時期的には明らかに先行できるので初期マーケットをつかむことができる。そこでブランドイメージを確立できることは間違いないだろう。ただ、この方式は特定小電力を使っているのでユーザ企業(例えば東京電力)が独自にネットワークを構築することもできる。東京電力は鉄塔などをたくさん持っているので、それを使って独自網を組んでしまえば、利用料金は払わなくて済む。ソフトバンク側からするとかなり料金を下げないと使ってもらえない、という薄利のビジネスになると思う。

ソフトバンクはモバイルオペレータらしくない発想でIoTに取り組んでいる。この点がどうなるか、興味深く感じている。


政府の作る人工知能研究拠点

2016-08-01 10:29:26 | 経済

東京都知事選挙は小池百合子氏の圧勝に終わった。私は増田氏や鳥越氏のような不自然な出馬をした人が当選しなくてよかったと思っている。今日のテーマは都知事選挙ではなく、今朝の日経に出ていた経産省、文科省、総務省が共同してスマートシティ「柏の葉」の設立する人工知能の研究拠点に関してである。

今朝の日経新聞には3人の大臣が握手をする写真と一緒に結構詳しく出ていたのだが、ウィトラのオフィスに来てネットで確認しようとしたらその記事が見当たらない。多少うる覚えの情報になるが、ご容赦願いたい。おそらく経産省が主導していると思うが、人工知能は今後社会に与える影響が非常に大きいと判断して、国としても力を入れて研究開発を行うということで、この方向性は正しいと思っている、人工知能は既にビジネスになり始めているので、この研究機関は今話題の「ディープ・ラーニング」のさらに先を研究するという。具体的にはディープ・ラーニングのように大量のデータを学習させなくても学習ができる仕組みを研究するということである。日本人は実物のキリンを見ることは殆どないが、キリンを認識することができる。この点には現在のアルゴリズムとは異なる論理があるだろうという推測はおそらく正しく、狙いも悪くない。しかし、私には二つの点で気がかりに思うことがある。

一つ目は国の研究所(私の良く知る総務省関係で言えばNICT)がそれぞれの省庁の研究組織から人を出し合って研究母体を作るという点である。省庁の横ぐしを通すことは大変結構なことなのだが、「オールジャパン」で果たして世界と戦えるのか、という疑問が残る。今の日本の研究レベルは世界トップとは言い難い。研究ツールも「柏の葉」にスーパーコンピュータを導入するなどを考えているようだが、果たして世界のクラウドを戦えるレベルになるのかが疑問である。私はこのような日本の得意分野ではないが今後の世界の主流になっていきそうな研究分野の研究はアールジャパンではなく、グローバルR&Dとして世界の知恵を集められるような体制づくりが不可欠だと考えている。この点のビジョンが今のところ見えていない。

二つ目の懸念は成果の実用化プロセスである。研究所を設立する目的は日本の産業競争力を高めることのはずである。しかし、日本の国の研究所は成果の実用化に関して成功例が少ないと私は思っている。産総研のような経産省系の研究所は良く知らないが、NICTという総務省系の研究での実用化の成功例はほとんど知らない。これまでのハードウェア中心の研究でもあまりうまくいっていない上に、人工知能の研究成果はソフトウェアになるはずであり、一層難しい。仮に日本の研究所が画期的なアルゴリズムを発明したとしても、実用化までには実際の課題に適用してみて何度もフィードバックをかけることが不可欠のはずであるが、このような仕組みはこれまでの国の研究所ではできていなかった。ソフトウェアは特許で抑えることは極めて難しく、アルゴリズムの提唱者が実ビジネスの勝者になるとは限らない。今話題のディープ・ラーニングもカナダの大学がアルゴリズムの提唱者だが、カナダが人工知能の分野で存在感を示している感じは無い。新しい研究所がどのような出口戦略を描いているのか、ここの図を描かずに始めてしまうと、国としての投資は失敗に終わる可能性が高いと思う。

人工知能は極めて重要なテーマだけに、うまく進めてほしいと思う。