備忘録として

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ガンダーラ

2014-11-29 23:44:26 | 仏教

古館伊知郎が報道ステーションで、対馬のお寺の仏像盗難事件をコメントし、”(仏教は)こだわらない心、とらわれない心を教えてくれるんですよね。”と述べ窃盗行為を許せと言っているようにとらえられたため、ネットやツイッター上で激しくバッシングされている。物への執着を捨てることや自己にとらわれない心(無我=我執を捨てる)は、ブッダの大切な教えの一つであることは確かである。古舘の言う仏教の教えは間違ってはいないが、事実を報道するニュースキャスターがテレビの画面で真顔で宗教の教義を説くことに違和感を感じないでもない。

ブッダの死後しばらくは、ブッダ自身が”自灯明・法灯明という、自分を拠り所とし法(ダルマ)を拠り所にしなさい”と言ったことや、ブッダを像とすることが畏れ多かったことなどで仏像を作って祀ることはなかった。仏教徒は仏像ではなく代わりにストゥーパや仏足石法輪や菩提樹を信仰対象としていた。仏像が作られ始めるのは、仏教がインド西北のガンダーラ地方や北インドのマトゥーラ地方に伝わってからとされる。ガンダーラはパキスタンのペシャワール付近である。紀元前330年頃、アレキサンダー大王がこの地方に遠征しギリシャ文化を持ち込んだ。紀元前3世紀のアショカ王の時代はまだ仏像は作られておらず、王はガンダーラにもストゥーパを建てた。紀元前2世紀にこの地方を支配したのは、インド・グリーク朝のメナンドロス王で、彼と比丘ナーガセーナの問答が「ミリンダ王の問い」という仏典に残されているように引き続き仏教はこの地方に浸透している。

仏像が作られ始めるのは、紀元2世紀中頃、ガンダーラ地方を支配したクシャーン朝のカニシカ王の時代からである。この地方で作られた多くの仏像や絵画はギリシャ彫刻の影響を受けガンダーラ美術と呼ばれる。日本や中国と異なり仏像の顔がギリシャ風である。日本では最古の飛鳥寺に飛鳥大仏があるように、仏教伝来の6世紀にはすでに仏像崇拝が始まっている。マルコ・ポーロは東方見聞録の中で仏教徒のことを偶像崇拝教徒と呼び、13世紀のキリスト教徒からみた仏教徒は様々な仏像を拝む連中と認識されている。

 

如来立像、東京国立博物館蔵、パキスタン・ペシャワール付近、紀元2~3世紀

上原和は、ペシャワール博物館で上の仏像のような”托鉢するブッダ像”や”説法するブッダ像”を見ている。ブッダ像は、たくましい腰と太い脚を持ち、跣(はだし)で立ち、頭髪は、後年の肉髻(にっけい=頭のてっぺんにお椀を伏せたような盛り上がり)ではなく髪を細紐一本で束ねただけだった。上原和は粗衣を着て托鉢する素朴な行脚姿こそが世俗を捨てたブッダにふさわしいとつぶやく。

法顕はガンダーラ地方を訪れ、『法顕伝』あるいは『仏国記』で以下のように記録している。

この国の仏法もまた盛んである。むかし天帝釈が菩薩を試し、鷹と鴿(はと)に化し、(菩薩が)肉を割いて鴿をあがなった処である。(のちに)仏が成道してから、諸弟子と遊行し(た際)、ここはもと私が肉を割いて鴿をあがなった処だと語った。国人はそれでそのことを知り、ここに塔をたて金銀で校飾(かざ)った。ここから東へ五日下って行くと、ガンダーラ(犍陀衛)国に到った。アショカ王の子ダルマヴァルダナ(法益)が統治した処である。仏が菩薩だった時にも、また国において(自らの)眼を人に施したという。そこにも大塔をたて、金銀で校飾(かざ)ってある。この国の人は多くは小乗学である。 (長澤和俊訳『法顕伝』より)

玄奘三蔵も『大唐西域記』(水谷真成訳)でガンダーラ(健駄邏)国について以下のように記録している。

ガンダーラ国は東西千余里、南北八百余里あり、東はインダス川に臨んでいる。国の大都城はプルシャプラ(今のペシャワール)といい、周囲四十余里ある。---村里は荒れはて、住人は稀で、宮城の一隅に千余戸あるだけである。農業は盛んで、花・果はよくなり、甘蔗(さとうきび)が多く、石蜜(氷砂糖)を産出する。---

ガンダーラには仏鉢、ブッダが木陰に座ったピッパラ樹、カニシカ王が建てた大ストゥーパや伽藍、仏像画や白石の仏像、世親菩薩や如意論師や鬼子母の遺跡、大自在天(シバ神)象、アショカ王のストゥーパなど多くの仏跡や遺跡が存在し、玄奘三蔵はそれらの由来を示す不思議な話を書き連ねている。

ペシャワール博物館やインドの博物館は写真撮影が自由で、ネット上の多くのブログで仏像を見ることができた。上原和も「世界史の中の聖徳太子」に自分で撮影した説法のブッダ像を載せている。シンガポールでパリのオルセー美術館展が開催されたときも写真撮影は自由だった。仏像や絵画を収蔵する日本の博物館、美術館、寺や神社では何でもかんでも写真撮影禁止である。商業目的でなければ許可としてほしいものだ。


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