「いずれ消滅する日本」
米・テスラ社CEOのイーロン・マスク氏がツイッター上で「出
生率が死亡率を超えることがない限り、日本はいずれ消滅するだろ
う」と発言したことは当然のことながら我が国でも大きな反響を呼
んだ。ただ日本政府も手を拱(こまね)いているだけではなく様々な
対策を講じているようだが未だ出生率が改善されたとは聞かない。
そもそもこの国の国民の定数が何人までであるべきなのかは決めら
れていないし、有史以来増殖し続けてきた日本人の人口が限られた
領土の下で今日に到って初めて減少に転じたとすれば、それは生物
学的な自然淘汰がもたらす適正人口の限界であると捉えるべきでは
ないだろうか。だとすれば、数字だけを捉えて出生率を高めようと
しても、つまり国がいくら「産めよ増やせよ」を呼び掛けてもうま
くいくはずはない。たとえば少子高齢化の一因とされる科学医療技
術の進歩は、仮に医療技術が不老不死の技術でも発明しない限り心
配はいらない、いくら高齢化が進んだとしても人は必ず死んで逝く
。おそらく出生率の増加は、死亡率の増加によって人口が減少した
あとに産め(埋め)戻されるにちがいない。ただ、もはや今日のよう
な限界に達した日本の人口が更に増殖されることはおそらくないだ
ろう。
ところで、近代科学がもたらす豊かさは先進諸国では少子化によ
る人口減少問題に悩まされているが、ところが、その一方で科学技
術による医療技術の進歩によって世界人口は増加の一途をたどって
いる。国連が発表した「世界人口推計2019年版」によると世界人口
は現在の77億人から、2050年には97億人、そして、「世界人
口が今世紀末頃、ほぼ110億人でピークに達する可能性があると
結論づけています。」 https://www.unic.or.jp/news_press/info/33789/
つまり、こと人口問題について言えば、途上諸国は医療技術など
の科学技術の進歩によって死亡率が低下して人口は増加しているに
も係わらず、科学社会である先進諸国ではそれとは反対に少子化に
よる人口減少が進んでいるのは何故だろうか?
そもそも先進諸国はいずれも科学主義によって構築されている。
そして近代科学を規定するのは我々の理性である。ところが、我々
の理性は科学技術の発達によって確かに一部の生成に関与すること
ができるようになったが、しかし依然として生命そのものを「制作」
することはできない。つまり、理性に規定された近代科学文明社会
は様々な社会秩序を規定しても、唯一生命の誕生という生成の仕組
みを規定することまではできない。つまり、先進諸国が出生率を思
い通りに規定できないのは、生命の誕生は理性が規定できない生成
から派生する本能に依存しているからである。そして、それとは反
対に途上諸国は出生率も死亡率も生成から派生する本能に委ねられ
ている。そもそも全ての動物が規定されている本能は自らの子孫を
できる限り多く残すために、つまり出生率を高めるためだけに生き
ている。増殖は動物の本能である。こうして、理性に委ねる先進諸
国と本能に委ねる途上諸国の違いが出生率の違いとして現われる。
つまり、出生率をそれぞれの理性に委ねる限り回復することはない
だろう。もしもあるとすれば、不謹慎だが唯一、戦争によって多く
の命が亡くなった時に違いない。戦後の団塊の世代はそうやって産
められた。
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