透明タペストリー

本や建築、火の見櫓、マンホール蓋など様々なものを素材に織り上げるタペストリー

「白きたおやかな峰」再読

2011-12-26 | A 読書日記


『白きたおやかな峰』 北杜夫/新潮社 

■ 再読を終えた。

**ついに現れてきた。今まで夢と写真でしか見たことのない、目くるめく巨大な山塊が。地球の尾根といわれる大地のむきだしの骨格、カラコルムの重畳たる高峰の群が。
はじめは岩山であった。これまで見つつづけてきた砂漠の荒涼たる色合と同質で、しかしそれが平坦ではなく、のしあがり、刻一刻とのしあがり、飛行機の高度にとどくとばかりにのしあがってきた。
それは比類なき重量を秘めた殺伐たる岩の厖大な集積であった。**

この山岳小説は引用した書き出しで始まる。ああ、この表現力。そしてこの小説にも北杜夫の作品に共通する特徴、そう、ユーモアがときどき顔をのぞかせる。例えば次のように。

**「実はドクターがもうへばりました。少からず見っともない格好で歩くので、ポーターの手前、日本登山隊の体面にも関りますから、ここで休ませてゆこうと思います。第二パーティはこれを収容して下さい。どうぞ」 (55頁)** 隊員どうしのトランシーバーによる会話だ。このドクター柴崎のモデルはもちろんカラコルム遠征隊に加わった北杜夫だ。

この「どくとるマンボウ カラコルム遠征記」的な雰囲気は圧巻のラストに向かって次第に薄れ、ディラン峰(7273m)初登頂を目指す山男たちの壮絶な物語へと昇華していく。

ふたりの隊員がアタックするも冷酷で拒絶的な山に阻まれて後退。別の隊員ふたりによる2回目のアタック。薄い酸素、雪と氷、悪天候・・・(結末は書かないでおく)。 

この作品は文庫化されたが今は絶版になっているようだ。残念ながら手元に文庫本はない。是非、復刊して欲しい。


箱に印刷されている著者のことば

**山にのめりこもうとする気持ちと、そうした密着を拒否しようとする意志との相剋から、この小説が生まれたのだと私は考える。**


『黄いろい船』
『どくとるマンボウ青春記』
『どくとるマンボウ途中下車』 
『どくとるマンボウ追想記』
『どくとるマンボウ昆虫記』
『どくとるマンボウ航海記』
『夜と霧の隅で』
『白きたおやかな峰』  

以上読了