透明タペストリー

本や建築、火の見櫓、マンホール蓋など様々なものを素材に織り上げるタペストリー

「私が源氏物語を書いたわけ」

2011-12-17 | G 源氏物語





 日本の文学史上最長のロングセラー「源氏物語」。 『私が源氏物語を書いたわけ』は平安朝文学が専門の著者・山本淳子さんが紫式部のひとり語りという形をとって、「源氏物語」や「紫式部集」などからの引用をまじえて紫式部の日常、心の内面を詳細に綴った本。

**人間紫式部の心を、紫式部自身の言葉によってたどる。本書はその試みです。紫式部はどのような心の持ち主で、どのような思いを抱いて成長し、やがて『源氏物語』を書くに至ったのか。一条天皇の中宮にして時の最高権力者藤原道長の娘彰子に仕えてからは、後宮女房としてどのような思いで世の中を見つめ、生きたのか。また最晩年はどのような心境に至ったのか。(中略) 本書は、その彼女の偽らぬ「心の伝記」を目指しました。**(著者のあとがきより)

紫式部はまたいとこの藤原宣孝(のぶたか)と遠距離恋愛の末に結婚する(正妻ではなかったが)。父が越前守(かみ)となったために、父について京を離れていた時期に手紙のやり取りをする。いまならメールで瞬間的に相手に届くが、平安時代、届くのに何ヶ月もかかる・・・。

春なれど 白嶺のみゆき いや積もり 解くべきほどの いつとなきかな 

著者による分かりやすい解説文 **季節は確かに春。でも私が住んでいるのは、都ではなくて越前なの。あなたも常冬の山、白山のことはご存じでしょう? 深い雪がますます積もって、解ける時などいつとも知れませんのよ。おあいにく様。(40頁)**

春には雪や氷が解ける。そして君の冷たい心も解けて私のことが好きになるよ と書いてきた宣孝の手紙にこう返す紫式部。やっぱり才女だったんだな~、と思う。

結婚してたった3年で夫の宣孝が亡くなってしまう。世はなんと理不尽で儚いものだろうか・・・、と紫式部は思う。ほんのひとときだけの儚い命。誰しもがそうだという無常の定め。

やがて自分の人生を受け入れる気持ちになった紫式部は、そうだ、私は縛られた「身」であるだけではない。私の中には自由な「心」がある! と気が付く。**私は、身ではなく心で生きようと思った。それを現実からの逃避と言われても、一向に構わない。むしろ心こそ現実よりもずっと完璧な世界が作れるような気がした。(73頁)**

紫式部は「源氏物語」を心の支えに生きていこうと考えて書き始めたのだ。 人生の寂しさを酒で紛らすというのは演歌の世界、私のような俗人のすること。紫式部は「源氏物語」という世界で何にも縛られずに自由に生きた・・・。