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あまりに不平等な日米地位協定の実態

2019年03月28日 | 国際・政治
日米地位協定の不平等なことは暗に知られていますが、その実態はよく知る人はあまりいません。争地の現場や他国の地位協定をよく知る“紛争解決請負人”と呼ばれる伊勢崎賢治氏に北村土龍氏が取材しました。9条第2項を変えて、そのうえで日米地位協定を変えるという主張には同意できませんが、日米地位協定の不平等さの実態について2019年3月20日配信「HARBOR BUSINESS ONLINE」から記事を転載させていただき、紹介することにします。(サイト管理者)

※以下、転載はじめ↓

<裁判権だけじゃない。あまりに不平等な日米地位協定の実態――伊勢崎賢治氏>
 
北村土龍

米国と地位協定を結んでいる他国と比べると、日本の「主権放棄」ぶりが際立つ。「地位協定」とは何か? どこが不平等なのか? 紛争地の現場や他国の地位協定をよく知る“紛争解決請負人”が解説する。

■日本の主権を取り戻せ!
2月24日に辺野古基地建設の是非を問う沖縄県民投票があり、「反対」が43万票・投票者の7割以上を占めた。米軍基地問題をはじめ、安全保障や領土問題など、日本をとりまく情勢は今後どうなっていくのだろうか?

――沖縄県民投票の結果を受けて、日米関係はこれから変わっていくでしょうか。
伊勢崎:今のままでは何も変わらないでしょう。それは、日米地位協定という「不平等条約」の存在があるからです。現在の日本は、形式的には「独立国」ですが、地位協定によって主権が大きく損なわれているんです。世界中に基地を持つ米国が結んでいる地位協定の数は、100とも120ともいわれています。その中で最も米国の特権を認め、寛大なのが日米地位協定なんです。

■日本はフィリピンやアフガンよりも不平等
――どういった点が不平等なのでしょうか?
伊勢崎:例えば陸上自衛隊は、もう十数年、アメリカの海兵隊と一緒に米国で共同訓練を行っています。そのとき、自衛隊員は“公用ビザ”で入国します。何の特権もない、旅行者と同じ待遇です。外交特権など法的な特権は一切ありません。もちろん、日米地位協定で米兵らに与えられている刑事免責特権もありません。一方、米兵が日本に来たときは、特別な場所を通って入国します。ビザもパスポートも要らない。日本にはそれを知る権利がないのです。

――裁判権については、よく話題になりますね。
伊勢崎:米国で自衛官が「公務」で自動車を運転中に米市民を轢いた場合、日本に一次裁判権はありません。ところが、これがドイツやイタリアの兵士だったら、一次裁判権はこの両国にあるのです。米国とドイツ・イタリアのような、お互いに平等な関係を認めることを「互恵性」と言います。この裁判権だけでなく、環境権、基地や空域の管理権についても、米国はすべてのNATO同盟国に互恵的な関係を認めていますが、日米間にはそれはありません。

■伊勢崎氏が問題とする環境権とは
――環境権とは、例えばどういったことですか?
伊勢崎:米軍基地が環境汚染の原因となっている場合、米軍の許可がなければ基地内に立ち入ることができません。仮に入れたとしても、それを調査する権限はない。また、返還した基地の跡地が汚染されていた場合の「原状回復義務」もありません。

――空域の管理という面では、沖縄では米軍機の訓練が問題になっていますね。
伊勢崎:日本と同じ敗戦国のイタリアやドイツは、もともと不平等な地位協定を受け入れていました。しかし、米軍による事故や事件を受けて、補足協定という形で改定を重ねてきたんです。現在では訓練できる空域や時間帯の制限、騒音対策など、細かく規定されています。しかし日本は、基地や空域の管理権を持っていないので、米軍はやりたい放題です。

――だから日本は米軍に「申し入れ」をすることしかできないんですね。しかしNATOの場合、多国間の軍事同盟だから互恵性が必要となったのではないですか。
伊勢崎:米国は2国間でも互恵的な地位協定を結んでいます。フィリピンがいい例で、完全な互恵性です。日本のような「平時」ではない、「準戦時」のはずの韓国も改定を重ね、日本よりも有利な地位協定になっています。米国が介入して傀儡政権をつくったアフガニスタンとの地位協定すら、日本よりもずっと平等ですよ。だから北方領土交渉でも、日本が主権国家として「判断」できないことがわかっているから、ロシア側は真摯に交渉に向き合ってくれないんです。なぜなら、米国は日本のどこにでも基地の提供を求める「権利」があると地位協定で規定されているからです。

――日本は、米国以外とも地位協定を結んでいるのですか?
伊勢崎:現在日本が地位協定を結んでいる相手は、米国、朝鮮国連軍、ジブチ(逆の立場の、自衛隊を駐留させる派兵国として)です。

――朝鮮国連軍というのは?
伊勢崎:朝鮮戦争で北朝鮮・中国と戦った多国籍軍が、「休戦」状態の今も国連軍として駐留しています。横田基地にその後方司令部があるんです。

■朝鮮国連軍の実態
――そのことは、多くの日本人が知りませんね。
伊勢崎:この朝鮮国連軍の実態はほぼ米軍と韓国軍で、朝鮮国連軍地位協定と日米地位協定は連動しています。日米地位協定の場合、米軍は自動出撃できます。日本への事前通告の義務さえなしにです。されればラッキーという。これは世界で唯一のこと。朝鮮国連軍地位協定では、横田基地だけでなく嘉手納基地などの在日米軍基地が後方支援として指定されています。もし朝鮮国連軍が北朝鮮を攻撃すれば自動的に、日本は北朝鮮にとって合法的な攻撃目標となる。これを「自動交戦国」と言っています。日本はそれを拒否できない。

――情報すらもらえないというのは不安ですね。
伊勢崎:平時である今でもそうですよ。昨年4月に、沖縄の嘉手納基地にカナダ空軍やオーストラリア空軍の哨戒機・輸送機などが飛来しました。朝鮮国連軍としての任務だったのですが、日本には何の情報ももたらされていません。

――その点、他国の地位協定は違うんですか。
伊勢崎:例えばトルコは、NATO軍の一員として地位協定を結んでいますが、米軍がイスラム国への空爆を行うためにトルコ国内の基地使用を求めたところ、これを拒否しました。しかしだからといって、両国の関係が悪化するわけではない。「主権」のある国家とは、そういうものです。

■ジブチに対しては、逆に不平等条約を押しつけ!?
――ジブチとも地位協定を結んでいるというのは、意外ですね。
伊勢崎:ソマリア沖の海賊に対処するため、自衛隊が駐留するジブチの政府と結んだもので、’09年に成立しました。実は日本は、ジブチに対しては不平等条約を押しつけているんです。

――日米地位協定の「被害」を受けている日本は、ジブチでは逆に「加害国」となっていると。
伊勢崎:日ジブチ地位協定では、すべての刑事裁判権が日本側に委ねられています。そして、自衛隊が現地で起こしたすべての事件や軍事的な過失について、ジブチの刑事裁判権から免責されるとされているんです。これはまさに治外法権そのもの。国家の独立、主権の根幹にかかわる問題です。当時、これについて後に民主党政権で防衛大臣となる森本敏氏は、「日本の自衛隊がジブチにたいへん重く扱われている」と評価しています。主権を奪われて米国の言いなりになる一方で、ジブチの主権を奪っている。日本はむちゃくちゃな“国際的詐欺”をしていることに、政治家も気づいていない。

――ジブチで自衛隊が事件や過失を犯した場合、日本の法律で裁くことはできないのでしょうか?
伊勢崎:他国の場合、軍事過失や軍事犯罪といったものは、国際人道法に基づいて何が違反行為か定めているわけです。しかし、日本にはそれらを裁く国内法がないのです。

――南スーダンPKOで、戦闘に巻き込まれたら危なかったですね。
伊勢崎:あのときは、たまたま巻き込まれなかっただけ。もし戦闘になっても撃てないし、撃ってしまって民間人に被害が出るなどしていたら大問題になっていました。

――自衛隊を裁く法律がないことは、世界に知られているのですか。
伊勢崎:ほとんど知られていません。昨年の12月にソウルで国連の会議がありまして、日本を含む20か国が参加しました。PKO派兵国の外務省もしくは防衛省の担当局長レベルが揃いました。僕はその会議で講演をしてくれと言われて行ったんです。そこで「日本の自衛隊には、海外でのいわゆる軍事過失、軍事犯罪、それどころか一般過失すら裁く法律がありません。戦後ずっとです」と言ったら、会場全体が息を呑んだのです。

――「どういうこと?」だと。
伊勢崎:「法律がないなんて、意味がわからない」と。「軍法もないのに軍隊として地位協定で特権も与えて海外に出すということはどういうことだ」と。ということは、日米地位協定で互恵性を求めることなどできない。自衛隊の過失も裁けないのに、米国で自衛隊が事故や犯罪を起こしたらどうするのか? 互恵性なんて無理だという話になってくる。

――自衛隊に関する国内法の整備を先にしないと、地位協定改定はできないということですね。
伊勢崎:さらに言えば、国内法の整備をするには憲法を変える必要がある。憲法9条2項は交戦権を否定し、自衛隊は「戦力」ではないとしています。「戦力」ではないので軍事犯罪は想定できず、それを裁く法律も作れない。しかし国際的には、世界で5本の指に入るともいわれる「戦力」を持つ軍隊を「戦力ではない」と称して海外に出し、戦争犯罪も裁けないというのはあり得ない。

――憲法9条を、どのように変えたらいいとお考えですか。
伊勢崎:「日本の領海領空領土内に限定した迎撃力を持つ」、そして「その行使は国際人道法に則った特別法で厳格に統制される」ということを明記すべきでしょう。

――まず憲法9条2項を変えて、自衛隊の活動を裁く国内法を整備し、そのうえで地位協定を改定するという順番ですか。
伊勢崎:そうです。それなら米国は何も文句が言えないでしょうね。

【伊勢崎賢治氏】
東京外国語大学大学院総合国際学研究院教授。’00年より国連PKO幹部として、東ティモール暫定行政府の県知事を務める。’01年よりシエラレオネで国連派遣団の武装解除部長。’03年から、日本政府特別代表としてアフガニスタン武装解除を担った。紛争地での豊富な実務経験を持ち、”紛争解決請負人”とも呼ばれる。
 
取材・文/北村土龍 写真/時事通信社 伊勢崎賢治
― 大至急、[日米地位協定]を改定せよ! ―
 

【出典】2019年3月20日配信「HARBOR BUSINESS ONLINE」
 

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