昨日に引き続き2013年4月25日(木)に行われた「映画人九条の会」主催の「4・25憲法学習会」から、小森陽一氏の講演「自民党の改憲草案を斬る!」をご紹介します。(サイト管理者)
■【質問】実は私、今回初めて参加するのですが、今日先生のお話を聞いて、憲法改正が何をはらんでいるのか初めて知って大変驚いています。そういう人間が発言すること自体おこがましいのですが、基本的なことをお尋ねしたいと思います。
小森先生のお話を伺うと、この憲法改正は国民から主権を取り上げて、政治家が自由に振る舞えるような環境を作って、一国の総理が彼の利益に絡むやり方で国を支配することを許さんがための改正とも聞こえます。しかし、そんなことがいま許されるのか、許されないのか、という問題です。
これはかなり歴史的、制度的な問題だと思いますが、自民党や安倍晋三がなぜ国民を縛り上げて苦しめて、結局国力は消耗して、あの惨めな敗戦の道を再び歩もうとするのか。戦後の日本の高度成長は、国民を自由に放ったことによって国民が努力し、それによって国力が蓄えられ、それが国民に回ったからあの成長があったわけですよね。それを蔑にして、元に戻して、国民を締め上げて貧しい生活に押し込めて、それで政治権力者は一体何の利益を得るのか。そんなことを安倍晋三が考えるわけがない、というふうに私ら市民には見えるわけです。
で、この憲法改正案はいったい誰が作ったのか。実は、日本に憲法を押し付けたアメリカが、あれは間違っていたと、もう一回日本をかつてのように貧しくて何もできない国に戻したい、自分たちがいつでもひねり潰せる国に戻したいというアメリカ側の意思があったのかともと思えてくるのですが、そんな馬鹿な、という常識論が私の中ではどうしても消せません。
■【小森陽一】一番大切なところをご質問いただきましてありがとうございます。まさに、アメリカなのです。先ほど申し上げた93年の細川政権で小選挙区制が導入されるまでに至る湾岸戦争からの3年間の政治改革に、はっきりと刻まれているのです。
今から20年前位のことを思い出してください。1990年にイラクがクウェートに軍事進攻しました。これは、国連憲章第2章違反です。直ちに国連安全保障理事会が開かれました。それまでであれば、アメリカとソ連が対立して どちらかが拒否権を発動して国連安保理が決議を上げないということで済んできました。けれども89年にベルリンの壁が崩れて、ヨーロッパでは東西冷戦は終わったのです。世界は一つという気運が盛り上がっていました。こういう時期だったのですね、イラクがクウェートに侵攻したのは。
国連安全保障理事会が開かれて、イラクに対する軍事行動を含めた経済制裁を行うということが決まったのが、1990年の11月です。
この時日本は、海部俊樹政権です。40代の小沢一郎が自民党幹事長として、お目付け役として入っていました。田中派はどうしたのかというと1989年、小沢一郎の政治の師匠と言われた竹下登政権が、リクルート事件で崩壊しました。
今、リクルートという会社がなければ、日本人の誰も就職できないんですが、まさにそのリクルートの未公開株を自民党の主力の政治家に売りつけておいて、一部上場してボロ儲けしたという、まさに政治とカネの問題が暴露されて、自民党のカネに黒い田中派の政治は許さないということになりました。
この時に、政治とカネの問題がいけないのだ、企業献金をやめればいいじゃないか、という話になるはずが──田中角栄というのは、一代で政治家になった人です。まさにカネの力です、バラ撒きです。けれども、それと対立していた福田派、これは世襲で議員になっている人たちです。イデオロギー政党です。この人たちからすれば、田中派が憎たらしかったのです。福田派にこそ小選挙区制は生命線なのです。楽なのですよ。だから、何を言い始めたかというと、選挙制度が中選挙区制だからみんなカネに汚くなる。ビラもたくさん撒かなきゃいけないし、宣伝カーも燃料費もかかる。中選挙区制を小選挙区制にすれば、カネがからなくなるから、政治がきれいになる。政治改革、小選挙区制の実現だ。
これにかなりの政治学者も加担して、小選挙区制になると政権交代も起こる、政治腐敗はずっと自民党でやってきたからだ、そういう永続的な自民党政権じゃないシステムを、ということを言い出して、政治改革イコール小選挙区制導入という図式ができていたのも1992年なのです。
その時の海部俊樹政権に、アメリカからイラクに対して軍事行動を仕掛けるPKF──国連平和維持部隊と呼んでいましたが、ここに自衛隊を出せという圧力がかかってきたのが90年の11月でした。
歴代の自民党の内閣は、憲法9条解釈として、自衛隊は陸海空軍その他の戦力ではありません、というので成り立っているわけです。つまり、アメリカの日米安保条約で再軍備を警察予備隊で押し付けられて、さらに旧日米安保条約で再軍備をしろというのが51年に入った。これに基づいて海軍力を持つ、陸海軍2軍の力を持つ「保安隊」になったのが52年ですね。空軍力も持ちなさいとアメリカが言って、陸海空軍3軍を持ち、防衛庁という省庁まで作る。これが1954年の自衛隊と防衛庁の創設になるのです。
作った組織が憲法に違反しているわけですから、憲法9条を変えなきゃいけない。そのために3分の2以上がいるからということで、別々の保守政党であった自由党と民主党を合体して鳩山一郎初代総裁の下で自由民主党という政党を作って、3分の2を取って9条を変えるという選挙をやったのです。だから自由民主党というのは、まさに結党の時から改憲政党なんです。自衛隊のために憲法9条を変えると。でも、3分の2を取れなかったのです。
第一次鳩山政権が成立した瞬間に、内閣で使う憲法を守らなくてはいけないと、その瞬間から自由民主党政権は、自衛隊は憲法9条に合致しています、陸海空軍その他の戦力ではございません、自衛のための最低限の実力です、という説明を始めたんです。
これは、あくまでも日本国内の内閣の憲法解釈なのです。だから外に出ないだけでそう言っていても政権が自民党だったらいいよ、とアメリカも許してきたんです。だから、アメリカの基地を使い勝手が良いようにと60年安保の時に日米安保条約を改正して、第2条を入れるわけです。
経済問題でお互いに食い違いがあったら、日本がアメリカの言うことをきかないといけないという、この日米安保条約の第2条問題というのが、まさに日本がアメリカの植民地になっていくということなのです。
高度経済成長に日本が入っていった時に、アメリカから様々な要求が来たんだけれども、日本が高度経済成長を続けていて、しかも田中派が内閣を取っていたから、それは聞かなくて良いということでやっていたのです。
で、その一番劇的なのが、ベトナム戦争をやっていた時にアメリカの顔を立てないといけない。でも台湾なんかよりも中国とやった方がいいなあ、アメリカはもうベトナム戦争には勝てない、借金も大変だ、と思っていた1971年、ニクソンが──ダブルニクソンショックです。一つは、アメリカのドルを金に換えてくれと言ったら本当はアメリカは換えなきゃいけなかったのだけど、借金が多すぎて、これをやめて固定相場制から変動相場制に移行するということと、米中会談をやる。
当時、田中角栄が総理大臣になったばっかりのときですが、アメリカが中国と会談するということは、ベトナム戦争をやめるのだな、アメリカが負けるのだなと。だったらやっちゃおうということで、アメリカが米中国交回復してないのに、1972年に日中国交回復をしちゃって、この年が沖縄返還の年です。
去年、石原慎太郎がなぜあれだけ騒いだかというと、去年は沖縄返還40周年プラス日中国交回復40周年だからです。日中国交回復と沖縄返還はセットなのです。尖閣諸島問題は、それまでアメリカが施政権を持っていたのですから、アメリカ問題です。だから、それを時限爆弾として仕込んだ沖縄返還だったということです。その時限爆弾のスイッチを押したのが石原慎太郎だという話です。
それは置いておいて、アメリカに先んじて日中国交回復をやってしまった田中角栄は許さないぞ、というのが76年のロッキード事件をアメリカ側から暴露する、というやつです。
だから検察特捜の汚職暴露は、みんなアメリカのスイッチと連動していて、検察特捜は基本的にアメリカの意図で動いているということです。だから、小沢一郎もアメリカに潰されようとしていたのです。
話を90年に戻します。歴代の自民党内閣は自衛隊を出せないでいた。つまり自衛隊は、9条に合致していますから。陸海空その他の戦力ではない、最低限の自衛のための実力です。実力というのは、日本の領海内に攻撃があった時に、領海内だけ反撃するんです。だから専守防衛です。ということは、領海の外に武器を持って出ちゃだめということで、帰結的に自衛隊の海外派遣は憲法違反ということになっていて、国会に出た法律が憲法に合致しているかどうか。当然、立法権力を憲法は縛るわけですから。これを判断するのが内閣法制局です。
1990年、内閣法制局長が答弁をして、自民党解釈から言えば限りなく憲法違反に近いと言って、以来海部俊樹の答弁もされず、廃案になったんです。11月でしたから。
世界中が、日本はアメリカのポチで小判鮫で、アメリカの腰巾着だと信じているわけですから、1995年の1月15日までにイラクがクゥェートから撤退しなければやるぞ、と言っていた17日に砂漠の嵐作戦が始まった時に、星条旗の隣に日の丸がはためいているとみんな信じていたのに、日本が出てきていない。世界中の人たちが、どうして、どうして、どうしてとなっちゃって、世界中のマスメディアが、日本には憲法9条があって、第2項に「前項の目的を達するために陸海空その他の戦力はこれを保持しない」とあって、あなたたちが日本軍と思っていたあの組織は軍隊ではなくて、Self Defense Forcesという組織なんです、という報道を一斉に世界中でやって、中東の人たちがむちゃくちゃ感動したわけです。
つまり、自民党内閣の解釈でやっていた「自衛隊は陸海空その他の戦力ではない」ということは、ほとんど世界中で200人くらいしか知らなかったことだと思います。だって日本語ができて日本国憲法9条2項問題を知っていて政治学などをやっている学者は、私は当時92年、東大に移りましたけど、そんなに居ませんでした。それが世界中の普通の人、とりわけアジアの普通の人の知るところになっちゃったのです。
これに怒りまくったアメリカが、日本に対して──海部政権は国民一人頭1万円の軍事費を出したのです。1万円×日本の人口です。いくらになりますか。なのにアメリカはお礼の一つも言わずに、「日本はカネだけ出して、血と汗は流さないのか」と言って、「Show the flag(旗を見せろ)」と言いました。その頃、日本はバブル期の最後です。
ここからアメリカは、日米安保条第2条問題で、日本の経済を変えるという圧力を強力にかけてきた。だからこれは、小沢一郎をはじめとする自民党幹部の「湾岸戦争トラウマ」なのです。
9条を変えろということと、自衛隊を外に出せということと、アメリカの経済構造要求──これが構造改革規制緩和なのです。構造改革規制緩和を最初に取り組んだのが細川政権です。ここからドロップアウトしたら自己責任、という言葉が最初に出てくるのも細川政権です。内閣の文書に入るのが村山政権です。現実化するのが橋本龍太郎政権の時です。
これで日本は潰されたのです。1997年に日本の金融機関は、ほとんど全部潰れていますよ。この時、団塊の世代を切らないために、圧倒的な就職氷河期になったのがロストジェネレーション世代と言われている人たちです。だから、この人たちが団塊の世代を恨むという世代対立が仕掛けられた。年金問題が騒がれて、年金を持って行くのはこの人たちだ、ということになった。
つまり、おっしゃる通り通常の常識からいえば信じられないのかもしれないけれども、アメリカがとことんやってきた。日本はそれに追随する政治をずっとやってきたということです。
それを転換する運動は、もはや草の根運動からしか起こらない。政党は機能しなくなった。その政党政治への不信が爆発したのが、この前の総選挙(2012年12月)です。だからこれはもう、草の根の市民運動で押しのけるしかないわけです。
だから2009年の政権交代選挙の時には、九条の会、草の根運動があって、その中で民主党の若手政治家が──無名のですよ──運動の中で出てきたから、いくつかの選挙区では候補者を立てないという政党も出てきたのです。その形で政権交代が可能になった。そういう運動の中から生まれてきた議員さんたちは裏切れないから、野田どじょう政権になった時に「国民の生活が第一」というグループを作って小沢一郎とともに出たんです。
ですから、全てはそのように──アメリカの怖さを本当に知っている小沢一郎だから、アメリカの言いなりにこれ以上なってはいけないというふうに、第一次安倍政権の時に判断したわけです。それ以来、検察特捜に狙われまくっているじゃないですか。
別に小沢一郎が良いと言っているわけではないですよ。そう価値の付け方はいけないのだけども、事態として何がどう動いているかということで言えば、まさにアメリカの超属国になって日本の富を全部売り渡すと。その最後の仕上げを、第一次安倍政権でアメリカによく思われなかった安倍晋三が実現しようとしているわけです。
だって安倍晋三が第一次安倍政権を投げ出したのは、戦場であるアフガニスタンに自衛隊を出せとブッシュ大統領にシドニーで言われたからです。参議院選挙で負けちゃったから、衆議院で3分の2があってもこれは絶対通らないだろう、という判断ですね。
ですから、その一つひとつの起こってきた事象を歴史的にどうきちんと位置づけるのか、ということが今ほど大事な時はない、と私は思います。すみません、長くなりました。(拍手)
司会:小森先生、ありがとうございました。トータル120分の大変熱のこもった講演になりました。小森先生に大きな拍手をお願いいたします。(拍手)
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