昨日に引き続き2015年1月21日配信「毎日新聞」より宝田明さんの記事をご紹介します。(サイト管理者)
※ 以下、転載はじめ↓
一方、NHKの姿勢については<必ずしも安倍政権批判とは言えないだろ。いちいち問題にするなよ><「間違った選択をしない政治家を選ぶべき」。言ってることは至極まともだよね>などの否定的なネット意見があった。
男性アナウンサーはなぜ、発言を遮ろうとしたのか。
問題の放送は衆院選の公示日の翌日だった。宝田さんは慎重に言葉を選びながら「反戦」を訴えたが、男性アナは話が選挙に及んだことに驚き、特定の個人名や政党名が出るのを危惧して“自主規制”した可能性はある。昨年は、安倍政権が憲法解釈を変えて集団的自衛権の行使を可能にする閣議決定をした年でもあった。
碓井広義・上智大新聞学科教授(メディア論)は「ゆうどき」放送の2日後、ある民放系BS放送の番組で宝田さんと一緒になり、じかに戦争体験を聞いた。「宝田さんは引き揚げの際にソ連兵から頭に銃を突きつけられ、腹に銃弾も受けている。『戦争は大罪』も『無辜の民を殺してはならない』も、イデオロギーではなく体験に基づいた当たり前の主張です。そうならないように正しい選択をしようと言っているだけなのに、選挙に言及したから一律にダメというのはおかしい」と、疑問を投げかける。
問題の背景として、籾井勝人NHK会長の「政府が右と言っているものを左と言うわけにはいかない」といった発言や、自民党がNHKや在京民放テレビ局に送った選挙報道の「公平中立」を求める要望書(昨年11月20日付)の影響を指摘する。「籾井会長は『個人的な発言』としていますが、トップの意向が作用しないわけがない。そこに自民党の要望書が心理的圧力として加わり、現場が勝手にそんたくしたのではないか。そもそも要望書は『法律に定める権限に基づく場合でなければ、何人からも干渉され、または規律されることがない』と番組編集の自由を保障した放送法3条に抵触しかねません。NHKの過剰反応ぶりには、息苦しさを感じますね」
宝田さんの発言への「制止」についてNHKに見解を尋ねたが「個別の内容については、お答えしていません」との回答だった。
「これは見えざる大きな力ですね」。宝田さんの表情が曇ったのは、NHKが「爆笑問題」の政治家ネタを却下したことを伝える記事を見せた時だった。「政治家をネタにしたコントやパロディーを笑ってくれるなら、国民も、その社会も健全だと言えるんじゃないでしょうか」。そして「私にも似たことがあったんです」と打ち明けた。
数年前、NHKのバラエティー番組内のコントで、ある国会議員役を務めた。台本にどう演じるかは書かれておらず、思案の末、アドリブで時の首相、麻生太郎氏の口調をマネして演じてみた。ところが、スタッフが飛んできた。「面白いのは分かるんですが、今は微妙な時期なので……」と小声でささやかれ、結局、別のキャラクターを演じた。
「どんな職業でもそうかもしれませんが、(不特定多数の)皆さんがお客さまですからね。こんな発言をすると観客が減るとか、あの人に嫌われるとか、そんな短絡的な理由から、お利口さんにして口をつぐみ、八方美人的に生きてきたんです。でもね……」と俳優は続けた。「60歳を過ぎた頃から、自問するようになったんです。『おい、いつまでもノンポリでいられるのか、宝田よ』と。俳優は後から身につけた職業。だったら生身のお前の意見はどうなんだ、人間として何を言わなきゃいけないんだ、と。それからは、言うべきことは言ってきたつもりです。もちろん、先日のNHKの番組でもね」
「物言えば唇寒し」。そんな出来事が芸能界で相次いでいる中、大俳優が自らの信念で語る言葉と、その重みに圧倒される。
【出典】2015年1月21日配信「毎日新聞」
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