我が国の民主主義の根幹にかかわる参院定数6増という公職選挙法改正やカジノ法案など十分な審議時間もないまま強行成立され、7月20日、通常国会が事実上閉幕しました。モリカケ問題や自衛隊「日報」問題など、改ざんと隠蔽が横行し、国政の私物化と強権政治がまかり通る、まさに日本の民主主義、立憲主義が問われる国会となりました。今国会で何が問われたのか、2018年7月21日配信「THE PAGE」から識者のコメント記事を転載させていただき、紹介したいと思います。(サイト管理者)
※以下、転載はじめ↓
<通常国会「閉幕」 問われた民主主義のあり方と新たな動き>
1月22日から始まった通常国会が20日、事実上幕を閉じました。半年にわたる今国会は、「森友学園」「加計学園」をめぐる問題や、トランプ米大統領と北朝鮮の金正恩委員長による米朝首脳会談、大阪北部地震に西日本豪雨と、国内外でさまざまな出来事が期間中にありました。何が問われた国会だったのか。政治学者の内山融・東京大学大学院教授に振り返ってもらいました。
■森友・加計問題に揺れた安倍内閣
7月22日を前に通常国会が事実上閉会した。この国会で最大の焦点だったのは、何といっても森友・加計学園問題であろう。森友学園問題では3月に財務省の決裁文書改ざんが発覚した。国会議員に開示された文書では、オリジナルの文書にあった同学園との土地取引が「特例的な内容」だとした部分や、首相夫人の安倍昭恵氏に関する記述が削除されていた。そのため、同学園との土地取引が特例的に優遇された背景には昭恵氏の関与があったのではないかと取りざたされた。
加計学園問題では5月に柳瀬唯夫元首相秘書官の参考人招致が行われ、柳瀬氏は加計学園の関係者と首相官邸で会っていたことを認めた。国家戦略特区の下で、同学園グループ岡山理科大学の獣医学部設置が認可されたのは安倍首相の影響力によるものではないかとの疑いが広まった。
この森友・加計学園で安倍政権は守勢に立つこととなり、内閣支持率も大幅に下がった。例えばNHKの世論調査(http://www.nhk.or.jp/senkyo/shijiritsu/)では、本年3月には44%だった支持率が4月には38%となった。4月の不支持率は45%となり(3月は38%)、支持率を上回った。それまでは今年9月の自民党総裁選では安倍首相の3選はほぼ確実だと考えられていたのだが、事態は流動的になっていった。
しかしこの状態はそう長くは続かなかった。財務省の文書改ざんは理財局長以下官僚の責任問題とされ、麻生財務大臣の引責辞任などに及ぶことはなかった。加計問題についても、獣医学部認可への安倍首相の関与は否定され続けた。野党が追及の決め手を欠く中、6月に新潟県知事選挙が行われた。この選挙で与党候補が勝利したため、流れが変わった。それまで守勢だった政権・与党が強気に出るようになり、統合型リゾート(IR)法案(いわゆるカジノ法案)、参院選挙制度改革法案、働き方改革関連法案など野党が反対する法案を押し進め始めた。
内閣支持率も反転上昇してきた。NHKの世論調査では7月の支持率は44%、不支持率は39%と再び逆転した。重要法案も次々成立した。6月末には、政権が今国会の最重要法案と位置付けていた働き方改革関連法が成立している。これは、残業時間の上限規制や同一労働同一賃金を規定する一方で、一定の労働者を労働時間規制から外す高度プロフェッショナル制度を導入するものである。7月中旬には、参議院の定数6増などを柱とする参院選挙制度改革法が成立した。会期末ぎりぎりにIR法も成立した。こうした流れを受け、安倍総裁3選の見込みも再び高まってきた。
その一方で、野党陣営は相変わらず分断状態が続いている。5月には希望の党と民進党の議員が合流して国民民主党が結成され、参院で野党第1党となった。衆院での野党第1党は立憲民主党のままだが、この両党の間の路線の違いが際立った。政権との対決姿勢を強調し審議拒否路線をとる立憲に対して、国民は審議を進める路線であった。たとえば、働き方改革関連法案では、立憲などが提出した参院厚生労働委員長解任決議に国民が乗らなかった。IR法案でも、立憲は参院内閣委員会での採決に反対した一方、国民は付帯決議を付けることを条件に採決に応じた。
国民民主党の結成にもかかわらず、「一強」政権に対して野党が分断され「多弱」に陥るという構図は大きく変わっていない。むしろ、衆参の野党第1党がねじれることによってその構図は悪化した観もある。政治や行政への不信が少なからず残る中でも安倍政権が支持を維持しているのは、このような野党の分断状況が大きな要因である。現政権に代わる有効な選択肢が不足していれば、有権者は現政権を支持せざるを得ない。
■日本の民主主義が立つ現在地
今国会ではさまざまな争点があったが、大きな主題として問われたのは民主主義のあり方ではないか。
森友・加計学園問題は、民主主義の健全性を保つ上で不可欠な行政の中立性に疑念を生じさせることとなった。本来、行政には、国民の意思を受けて決定された政策を中立に執行することが期待されている。法律などによって一定の基準が設定されたら、その基準を誰にも公正に適用しなくてはならない。しかし今回は、両学園の中心人物が政権中枢と個人的な関係を持っていたために、土地取引や学部認可で異例の優遇を受けたのではないかと疑われている。もし権力者が自分に近い一部の人々を優遇したのであれば、それは「政治主導」などではなく、単なるクローニズム(縁故主義)である。
決裁文書改ざん問題では、行政文書の適正な管理がなされておらず、国民や国会への情報公開も十分でないことが明らかになった。政府の意思決定過程を明らかにする文書の適正管理や情報公開は、民主主義を支える重要なインフラである。そうしたインフラを大事にする感覚が欠如しているのは日本の民主主義の底の浅さを物語っている、といわれたら否定できるだろうか。
参院選挙制度改革では、言論の府であるはずの国会で真剣な議論が欠如していたといわざるを得ない。この改革では、1票の格差を是正するため埼玉選挙区の定数を2増やしたことに加えて、比例代表も4増やして100とした。さらに比例代表には「特定枠」を新設した。参院の比例代表は衆院と異なり、個人得票の多かった候補者が順に当選する非拘束名簿式だが、この特定枠には各党が当選順位をあらかじめ定める拘束名簿式を採用する。
選挙制度は民主主義の根幹をなすものであり、その設計には、十分な理念に基づいた熟議が必要とされる。しかしこの特定枠の導入には一貫した理念が感じられない。合区となった県(鳥取と島根、徳島と高知)の候補者を救済する目的にすぎないのではないかと指摘されている。審議時間も、参院で6時間強、衆院では約3時間ときわめて短い。一般的に重要法案では衆院で20時間程度の審議時間が必要だとされていることと比べてほしい。
政策決定が十分なデータに根拠づけられることも重要である。当初準備されていた働き方改革法案には裁量労働制の適用拡大も含まれていたが、政府は調査データに基づき、裁量労働制で働く人の方が一般の労働者よりも労働時間が短いとしていた。しかし、本来比較できないデータを比較するという基本的な間違いを犯していたことが明らかになり、国会提出された法案からは裁量労働制に関する部分は落とされることとなった。
このように今通常国会では、民主主義の基本的要素が軽視されていることをうかがわせる出来事が多発した。もっともこれは日本だけの現象ではない。米国のトランプ大統領が典型だが、他者の視点を取り入れて熟議する、事実を直視する、専門家の助言に耳を傾けるなど、民主主義の土台をなす態度が世界中で失われつつあるようだ。あらためて警鐘を鳴らしたい。
■政策決定にエビデンス重視の手法導入
ところで、本年に入ってからの政治行政の動向は悪いものばかりではない。筆者が個人的に注目しているものに、「エビデンス(証拠)に基づいた政策立案」(evidence-based policy-making, 略称 EBPM)がある。これは、適切なデータと厳密な方法に基づき、政策オプションの効果や費用を分析し、政策を決定する際のエビデンスとする手法である。EBPMは、1990年代終盤頃より英国や米国を中心に広まり、各国政府の政策決定に取り入れられてきた。
これまでの日本の政策決定プロセスでは、しっかりしたエビデンスを構築し、それを根拠にして政策を決定しようとする姿勢が不足していた。ともすれば直感に頼ったり、関係者の要求に応えたりする形で政策決定が行われてきた。今回の裁量労働制データにまつわる不手際も、EBPM的な思考が欠けていたことの証左である。
しかし昨年頃より、日本にもEBPMを導入しようとする動きが進んでいる。少子高齢社会の到来を迎え、財政も逼迫する中で、政策資源はできる限り有効に利用しなくてはならないとの考えがその背景にある。昨年の「骨太の方針」(経済財政運営と改革の基本方針)において「エビデンスに基づく政策立案を推進する」と記されたことを受けて、現在、政府各省でEBPMの取り組みが進められている。
あまり報道もされず地味な存在だが、EBPMも民主主義の深化に貢献する。民主主義での政策決定が適切に行われるためには、政策の効果や費用に関するエビデンスに基づき、専門知識を持つ官僚が適切な政策選択肢を挙げ、民主的正統性を持つ大臣が責任を持って決定する、という仕組みが重要である。専門知識がなければ、国民のために真に有益な政策案を作り出すのは難しい。
例えば、ある目的を達成する際にどの政策手段を採用するのがもっとも効率的・効果的なのかといった分析は、統計学や経済学などの社会科学的手法を必要とするので、そうした手法に詳しい専門家の役割が不可欠である。その一方で、政策専門家が政策決定を独占するのも問題である。専門家の任務は「こうした政策を取るとその効果はこうなります」といった形で政策の選択肢を提供することにとどまる。そうした選択肢に基づき、民意を体現するべき政治家が決定の責任を引き受けなくてはならない。言い換えれば、専門性と民主主義の適切な関係が大事なのである。
今国会での反省を糧として、日本政治が民主主義を取り戻す方向に少しでも進むことを期待したい。
【内山融(うちやま・ゆう)】 東京大学大学院総合文化研究科教授。専門は日本政治・比較政治。著書に、『小泉政権』(中公新書)、『現代日本の国家と市場』(東京大学出版会)など
【出典】2018年7月21日配信「THE PAGE」
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