とだ九条の会blog

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浦部法穂の憲法時評 --「ミサイル」狂騒曲 (1)

2009年06月30日 | 国際・政治

法学館憲法研究所顧問の浦部法穂氏が2009年4月20日付け法学館憲法研究所HPの「浦部法穂の憲法時評」で「『ミサイル』狂騒曲 」と題し、コラム記事を書いています。
マスコミが総動員されて北朝鮮の「ミサイル発射」報道に明け暮れたこの時期、オバマ米大統領の画期的なプラハ演説というニュースもかき消され、国会ではソマリア沖「海賊対処」を口実とした「海賊対処派兵新法案」が着々と成立に向けてことが進められていたのです。
こうした状況を浦部氏は「『ミサイル』狂騒曲」と比喩していますが、その指摘の重要性を考え、ここにその内容を転載させていただきます。(サイト管理者)

まるで「戦争前夜」のごとき異様な騒ぎ方であった。政府もマスコミも、いまにも日本に対してミサイル攻撃が行われる、といわんばかりに騒ぎ立てた。「誤報」という恥さらしな「おまけ」まで付けて。4月5日の北朝鮮による「ミサイル発射」騒動である。
北朝鮮は、事前に、4月4日から8日の間に人工衛星の打ち上げを行う旨国際機関に通知していた。そして、5日には、衛星打ち上げに成功し軌道に乗ったと発表、数日後には打ち上げ時の映像を公開した。そこに映し出されていたのは、たしかに3段ロケットであり先端には衛星のような丸い物体が搭載されていた。しかし、アメリカとロシアは、いかなる物体も軌道には進入していないとして、衛星打ち上げ成功という北朝鮮の発表を否定した。したがって、4月5日に「発射」されたのが本当に人工衛星だったのかどうかはわからない。人工衛星もミサイルも、ロケットを推進装置に使うという点では変わりはないから、かりに人工衛星の打ち上げだったとしても、その技術は容易にミサイル開発に転用できる。その意味で、核開発を進める北朝鮮が長距離ミサイルの技術をも手にすることに、国際社会が警戒心を強めることは、当然といえば当然である。
それにしても、である。日本の騒ぎ方は尋常ではなかった。政府もマスコミも、ハナから「ミサイルの発射」と決めつけ、たとえばNHKの報道などは、一貫して「北朝鮮が人工衛星の打ち上げと称してミサイルを発射しようとしている」というトーンであった。韓国が、人工衛星かミサイルかということに関しては中立的に、「ロケットの発射」という言い方をしていたのと対照的である。しかも、その「ミサイル」が日本を狙って発射されるかのように、政府は早々と「迎撃」体制をとり「破壊措置命令」を発した。迎撃ミサイルを搭載したイージス艦を日本海に2隻、太平洋に1隻、地上配備型迎撃ミサイルPAC3を秋田・岩手両県と東京(市ヶ谷)に配備したのである。完全な「戦闘態勢」であった。
日本の上空を通過するから万一の失敗・事故に備えて、というのが名目であったが、ならばなぜ、東京にまで迎撃ミサイルを配備する必要があったのか。東京の上空を通過するわけでもなかったのに、である。それに、上空を通過するといっても、はるか大気圏外のことである。万一落ちてきたら、といっても、大気圏外の上空からふらふら落ちてくる物体を「迎撃」することなど、至難の業であろう。この「戦闘態勢」は、いったい何であったのだろうか。日本へのミサイル攻撃という、およそ考えられない事態を想定していたのか、あるいは、これを絶好の機会としてミサイル防衛システムの実戦訓練を行おうとしたのか。そして、何事もなく終わったあと、全然無関係の地域での「県下では目立った混乱はありませんでした」という報道にいたっては、まさに噴飯ものであった。

(つづく)

【出典】法学館憲法研究所HP「浦部法穂の憲法時評」2009年4月20日付けより

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「とだ九条の会」ホームページ訪問者10000人突破

2009年06月29日 | 国際・政治

2009年6月28日、「とだ九条の会」ホームページへの訪問者は10000人を超えました。2006年4月20日に設立1周年を記念して開設したホームページですが、3年と2ヵ月あまりで、10000人を超えたことになります。一日平均8.6人というところでしょうか。記念すべき日に、改めて感謝します。

また、ホームページ開設と並行して学習と交流を目的に始めた「とだ九条の会」ブログも、基本的に毎日情報を発信し続けることができ、記事数は、同日1149回を更新しました。ブログへの訪問者数は、61828人。こちらは一日平均53.8人でした。ブログとしては、まだまだ多いアクセスとは言えませんが、ホームページとは違い、様々な経由でアクセスされる機会が多いこともあり、当初の学習と交流という目的には大いに貢献しているのではないかと自負しています。こちらについても改めて感謝します。ありがとうございました。

今年は、5月の憲法記念日を前後して実施された各種マスコミの世論調査、とりわけ「読売新聞」の憲法世論調査でも明らかなように、昨年「読売新聞」が調査を開始して以来15年ぶりに「改憲反対」が「改憲賛成」を上回り多数を占めたのに、今年は再び「巻き返さ」れ、「改憲賛成」が「改憲反対」を上回りました。といっても「憲法九条」については「変えない方がよい」という意見がまだ多数ですが、北朝鮮脅威論やソマリア沖「海賊対処」を口実とした自衛隊海外派兵がなし崩し的に進行する中で、来年の5月18日の「改憲手続き法(国民投票法)」施行を前に「憲法九条」をめぐる改憲派勢力と私たち「九条の会」を始めとする国民の運動との“せめぎあい”が顕著になっています。
これからも「とだ九条の会」ホームページとブログは、憲法九条を守り暮らしに活かしながら、日本を再び「戦争ができる国」にしないために、情報を発信し続けます。
どうぞ皆さまのご支援ご協力をお願いします。特に「掲示板」的な交流の役割があるブログへの「コメント」をお寄せくださいますようお願いするものです。(サイト管理者)

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平和憲法をいかして、地球の軍縮をすすめよう 憲法9条&12条会議 in コスタリカ

2009年06月28日 | 国際・政治

「憲法9条・12条会議inコスタリカ」

2009年7月9日(木)~10日(金)、コスタリカのプンタレナスにて「憲法9条・12条会議inコスタリカ」が開かれます。案内の概要を転載します。(サイト管理者)

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■日本国憲法第9条

第9条 日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。

2 前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。

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■コスタリカ憲法第12条

第12条 恒久制度としての軍隊は廃止する。公共秩序の監視と維持のために必要な警察力は保持する。

大陸間協定により又は国防のためにめみ、軍隊を組織することができる。いずれの場合も文民権力に常に従属し、単独又は共同して、審議することも声明又は宣言を出すこともできない。

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【会議の趣旨】
2008年5月の「9条世界会議」の成功から一年が経ちました。この成果を引き継ぎ、発展させるための国際会議が、コスタリカのプンタレナス港に停泊するピースボート船上(オセアニック号)にて開催されます。
「9条世界会議」で明らかになったように、日本国憲法の平和条項に盛り込まれた原則は国際平和メカニズムとして活かすことができるものであり、これを支持する国際運動は広がりをみせています。それは、紛争予防、軍縮、核兵器廃絶、開発、平和構築そして環境など、さまざまな地球規模の課題と関連しています。
「憲法9条&12条会議inコスタリカ」は、昨年の「9条世界会議」の成果を踏まえながら、日本国憲法9条とコスタリカ憲法12条がもつ価値を、歴史的および現代的な視点、そして地域的文脈から明らかにします。日本国憲法9条は、東北アジアの安全保障の土台として考えられてきました。コスタリカ憲法12条は、エクアドルやボリビアそして南米諸国連合(UNASUR)が憲法および憲法条約において平和条項をもつことを励まし、南米地域における平和への息吹をつくりだしました。日本とコスタリカの平和憲法が、両国がその採択以来戦争に直接巻き込まれることを防いできたことにかんがみ、このような平和憲法をそれぞれの国において保持するとともに世界に広げていくための方法を議論したいと思います。
さらに、現在の金融・経済危機とそれに伴う食料危機、また貧困と暴力紛争の世界的な拡大のなかで、「憲法9条&12条会議inコスタリカ」は、両国の平和憲法と国連憲章第26条の関連についても着目します。国連憲章26条は、世界の平和と安全のために、軍備を規制し、世界の人的・経済的資源の軍備への転用を最小限にするためのシステムを作り上げることを求めています。
軍隊を解体し軍事費を教育へと振り向けた実績をもつコスタリカは、2008年11月、国連安全保障理事会において集団的安全保障と軍備の規制に関する会合の開催を導きました。
「憲法9条&12条会議inコスタリカ」は、このようなコスタリカの取り組みを歓迎しつつ、その意義を検証します。そして、資源分配の優先順位を変えるために国家・地域・地球の各レベルにわたって取り組まれている努力をいかに発展させ、また相互に共鳴させることができるかについて、議論します。この会議は、軍事費を減らし、お金を、持続可能な開発と人間の安全保障のために回していくことを提唱します。そして会議の最後には宣言を採択し、地球規模の軍縮を促進するために平和憲法が果たす役割を認める国連決議を提案する予定です。

【共催団体】ピースボート、国際反核法律家協会ラテンアメリカ支部、コスタリカ大学法学部、日本国際法律家協会、グローバル9条キャンペーン(ほか調整中)

【問い合わせ先】ピースボート Tel:03(3363)7561 Fax:03(3363)7562 mailpbglobal@peaceboat.gr.jp

【プログラム案】(2009年6月8日現在)
<7月9日(木)>
○開会式
○基調講演
オスカル・アリアス(コスタリカ大統領、1987年ノーベル平和賞受賞者(交渉中))
レニン・モレノ  (エクアドル副大統領(交渉中))
○セッションⅠ 日本の憲法9条とアジア、アメリカ
○セッションⅡ コスタリカ憲法12条とラテンアメリカ
○セッションⅢ 地球規模の軍縮―国連憲章26条、国連での取り組みとその発展―
○宣言の採択
○レセプション

<7月10日(金)>
○フォローアップ、戦略討議
○ピースボート出港
○地元市民との交流プログラムなど

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オバマ米大統領のプラハ演説に対する「志位書簡」と「オバマ返書」(3)

2009年06月27日 | 国際・政治

5月11日12日、更には21日付け当ブログで掲載したように、「核兵器のない世界をめざす」とプラハで歴史的演説をしたオバマ米大統領に対し、被爆国・日本の一野党である日本共産党の志位和夫委員長が送った「書簡(4月28日付)」に「返書(5月5日付)」が届いた記事を紹介しました。
この“事件”は、各方面に驚きを持って報道されています。そこで、昨日に引き続き、浅井基文氏のHPからご紹介します。(サイト管理者)

「志位・共産党委員長『核兵器廃絶と日本国憲法第9条』」
(ヒロシマ私立大学ヒロシマ平和研究所所長・浅井基文氏のHPから)


日本共産党の志位和夫委員長は、5月3日に東京の日比谷公園で開かれた憲法集会で「核兵器廃絶と日本国憲法第9条」(5月4日付新聞「赤旗」標題)について発言しました。手前味噌になりますが、私自身、第9条の思想源泉の重要な一つとして、広島・長崎に対する原爆投下により「人類と核兵器・核戦争は共存できない」、核兵器の出現により「戦争は政治の継続」ではあり得なくなったという認識があることをかねがね機会あるごとに強調してきた(「力による」平和観を根底に置く国連憲章と「力によらない」平和観を根底に据える第9条との平和観の決定的な違いもここに由来する)こともあり、今回の志位委員長の発言には全面的な共感を覚えています。

■「核兵器廃絶のたたかいと、憲法9条を守り生かすたたかいは、実は深くむすびついています。」

志位委員長が「実は」と切り出さなければならないほど、核兵器廃絶の課題と憲法9条を守り生かす課題とが不可分の関係にあることは、戦後まもなくの間は「常識」であったのに、いつの間にか忘れられてきたという不幸な歴史があります。志位委員長は、1946年11月に内閣が発行した『新憲法の解説』の一節を紹介することで、両者が不可分の関係にあることは当時の政府によっても認識されていたことを紹介していますが、この認識は、1946年8月27日に幣原喜重郎国務大臣によっても明確に表明されたものです。また、政治学者・丸山眞男も両者の結びつきについて何度も言及しています。志位委員長がかつての「常識」を改めて強調したことを、私は強く支持します。

■「日本国憲法第9条には、国連憲章を踏まえつつ、国連憲章からさらに前に向かっての飛躍があります。恒久平和主義を徹底する方向への飛躍があります。」
「原子爆弾の出現によって、文明と戦争は両立し得なくなった…」

この発言は、私のいう「力による」平和観から「力によらない」平和観への転換、「人類と核兵器・核戦争は共存できない」を指しているものだと理解しますが、この質的転換(「飛躍」)の根拠は、志位委員長が指摘する通り、国連憲章が制定されたときには「人類はまだ原子爆弾を知りませんでした」のに対し、日本国憲法は「(広島・長崎の)地獄を、世界のどこでも二度と繰り返してはならないという強い思いが、憲法9条という私たちの宝を生み出した」ということにあります。

■「憲法9条には、「二度と戦争を起こしてはならない」という決意とともに、「核戦争を絶対に阻止したい」という願いが込められており、それを世界の人々に呼びかけたところに、この条文の世界史的な意義があるということを、私は訴えたいと思います。」

私は、以上の志位委員長の発言と同じ認識に基づき、21世紀の人類的課題は、「力による」平和観と決別し、「力によらない」平和観が主流になる社会の実現を目指すことであることを機会あるごとに訴えています。そして、核戦争の惨禍を体験した私たちは、国際社会との交易を通じて実現した豊かな経済力(世界第2位の経済大国であるという事実)と人的資源をもって、国際社会の平和と繁栄に積極的にかかわっていくという胸のわくわくするような可能性を備えていることを、一人でも多くの人々に知ってもらいたいと願い、発言しています。そういう日本であれば、権力政治に固執するアメリカ的な「大国」のあり方ではない、まったく新しい「大国」のあり方を世の中に示すことができますし、人類の発展の方向性について巨大な可能性を提起することにもなるでしょう。
そういう日本にすることができるかどうかは、ひとえに私たち主権者の政治的決断と行動如何にかかっています。そうです。日本は変わることができます。日本が変わることができるかどうかは、ひとえに私たち主権者の決断と行動次第なのです。 (5月5日記)

【出典】「21世紀の日本と国際社会」(ヒロシマ私立大学ヒロシマ平和研究所所長・浅井基文氏のHPから)http://www.ne.jp/asahi/nd4m-asi/jiwen/thoughts/2009/286.html

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オバマ米大統領のプラハ演説に対する「志位書簡」と「オバマ返書」(2)

2009年06月26日 | 国際・政治

5月11日12日、更には21日付け当ブログで掲載したように、「核兵器のない世界をめざす」とプラハで歴史的演説をしたオバマ米大統領に対し、被爆国・日本の一野党である日本共産党の志位和夫委員長が送った「書簡(4月28日付)」に「返書(5月5日付)」が届いた記事を紹介しました。
この“事件”は、各方面に驚きを持って報道されています。そこで、昨日に引き続き、「毎日新聞」に掲載された鈴木琢磨氏の論評をご紹介します。(サイト管理者)

2009年6月10日付け「毎日新聞」『特集ワイド』
「志位さん『親オバマ宣言』?核ゼロ演説に感激手紙に返事、また感激
『アメリカへ行きたい』」
(鈴木琢磨氏の論評から)

核兵器のない世界へ、プラハでの演説でそう宣言したオバマ米大統領に「共感の手紙」を送った共産党委員長の志位和夫さん、米政府からもたらされた返書に喜びを隠せない。届かぬはずのラブレターが届いたかのようで--。

さっきまで降っていた雨もあがり、東京は代々木の共産党本部屋上の赤旗が風に吹かれている。屋上が緑のプロムナードになっているとは知らなかった。一面、新緑に覆われ、小さな池があり、せせらぎもある。志位さん、ご自慢らしい。「いいでしょ。バラなんかもきれいだし、アジサイも鮮やかでね」。おやおや藤棚まである。ビアガーデンなんかいかがで? 「そりゃおもしろい。やりますか」
ずいぶんノリがいい。「蟹工船」ブームで、このところ共産党が「元気」だとは承知していたが、オバマ返書でさらに勢いづいている気配である。きっかけは4月5日、チェコの首都プラハでのオバマ大統領の演説だった。核兵器廃絶への情熱にわが意を得たりとばかりに志位さん、<バラク・H・オバマ殿>の書き出しで<大きな感銘をもって読みました>との書簡をしたため、同28日、在日米大使館に赴き、ズムワルト臨時代理大使に手渡した。党の代表者としては初の訪問だった。
「私自身、感動しましたから。歴史的な演説だと思いました。注目したのは三つの言明です。一つは核兵器廃絶を国家目標とすると初めて明示した。二つは広島・長崎での核兵器使用が人類的道義にかかわる問題であると初めて表明し、核兵器廃絶へ向けた責任を語った。三つは世界諸国民の協力を呼びかけた。もとより日本共産党と米政府との間には立場の違いはたくさんあるわけですが、大きな踏み出しをした以上、心から歓迎し、この提起が国際政治の中で実るようにしたい、その思いを伝えたかったんです」
いわばオバマ大統領へのラブレター、返事を期待していたわけではなかった。ところが、5月16日、党本部にエアメールが届く。オバマ大統領がデイビス国務次官補代理に代筆を指示した書簡だった。<親愛なる志位さま>ではじまる文面には<あなたの情熱をうれしく思う>とあった。「土曜日で自宅にいたんです。秘書がファクスで送ってくれまして。うーん、正直、驚きましたが、オバマさんの誠意を感じました。短いですが、よく練られた文章でしたし。ああ、こちらの熱意が伝わったんだなあと思いましたね」
「反核・平和」へ相思相愛の間柄になったと? 「ハハハ、私はプラハ演説で同意できない点もあると率直に書きました。核兵器のない世界の実現について、おそらく私が生きているうちは無理だろうと述べたからです。戦後、核保有国が核兵器廃絶を主題として交渉をやったことは一度もない。その呼びかけさえない。意思さえあればすぐに取りかかれるはずです。ま、一連のやりとりで日本共産党と米政府に公式ルートができた意味は大きいと思います」
それにしてもなぜ、わざわざ志位さん、書簡を送ったのだろうか。いまひとつふに落ちない。歓迎の声明で済ます手もあった気もする。インタビューしながら首をかしげていると、ちょっとテレくさそうにコピーをくれた。なんでもマルクス・エンゲルス全集から引っ張ってきたとか。リンカーン大統領の再選にあたってマルクスが祝意を伝えた書簡、一節を読み上げた。
「偉大な民主共和国の思想がはじめて生まれた土地、そこから最初の人権宣言が発せられ、18世紀のヨーロッパの革命に最初の衝撃をあたえた土地……。そう、われわれの大先輩はアメリカの歴史に深い尊敬の念を持っていたんです。そして、このマルクスの書簡にリンカーンが返事を送ってるんですよ。オバマさんはリンカーンを尊敬してるでしょ。繰り返しリンカーンの発言を引いていますし」
なるほど、マルクスが志位さんで、リンカーンがオバマ大統領という見立てか。共産主義者と米大統領の秘話をなぞっていたのですね。「そんなつもりじゃないですよ。ただ、オバマ政権は共産党だからといって、差別したり、無視したりはしない。それは返書で確信しました。いまはワシントンに赤旗の支局もありますが、戦後しばらく共産党員というだけでアメリカ国内に立ち入れなかった。たとえば、わが党の代表団がアラスカのアンカレジ経由でヨーロッパに行くとき、空港の外に出られなかったりもした。そういう時期もありましたからね」
まさに隔世の感あり、といったところか。言葉の端々にかつて「米帝」呼ばわりしていたアメリカへのシンパシーすら感じられる。で、どれくらいアメリカナイズされているのか問うてみた。マクドナルドは? 「食べます」。ジーパンは? 「学生時代はいてました」。ディズニーランドは? 「子供が小さかったとき一緒に行きました」。ジャズは? 「好きです。高校のころ、ピアノを習っていて先生から仕込まれました」
意外なほど親米、いや、ごく普通の日本人である。「当たり前ですよっ! 党の綱領ではアメリカを帝国主義と規定していますが、これからは複眼で見ようとも言っています。世界の世論を反映して前向きの変化が起こったときは評価していこうと。これまでの支配、従属でなく、対等・平等でこそ真の友好が生まれる。日米安保条約に代えて日米友好条約を結びたい、それが願いです」。すると訪米し、オバマ大統領とも会談を? 「具体的に党内で相談しているわけじゃありません」
常識ではラブレター交換の次はデートでしょ。「赤旗」でオバマ返書を宣伝するだけでOKなんですか? 「うーん、やはり、適切な機会があれば、機が熟せば、私はアメリカに行くことを望んでいます。本場のジャズも聴きたいし、カーネギーホールもアメリカン・バレエ・シアターも見たいしね」。慎重に言葉を選びながらも、訪米への意欲を強くにじませるのは「たしかな野党」からの脱皮を図ろうとしているからに違いない。
「あれ、なかなかいいスローガンだったんだけどね、使うのやめたんですよ。いつまで野党でいるつもりかって突っ込まれちゃったんでね」
見れば、屋上の赤旗がはたはたと翻りだした。共産党に追い風が吹いているのか。

【出典】2009年6月10日付け「毎日新聞」『特集ワイド』
「志位さん『親オバマ宣言』?核ゼロ演説に感激手紙に返事、また感激
『アメリカへ行きたい』」(鈴木琢磨氏の論評から)

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