とだ九条の会blog

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「靖国問題」、感情の錬金術(2)

2006年08月31日 | 国際・政治
小泉首相は、靖国参拝を「心の問題」と言います。そして「特定の人のために参拝しているのではない。戦没者全体に対して哀悼の念を表するために参拝している」と言います。
小泉首相の言葉は、何の疑いも無ければ、「ああ、そうかなー」とすんなり受け止められてしまいます。
靖国神社が、戦争をおし進める「戦争神社」でなければ、先の戦争で犠牲となった私たちの祖先や先人に哀悼の気持ちを表すことはやぶさかではありません。
しかし、靖国神社が「追悼」だけではなく、天皇のために戦死した人々を「英霊」という「名誉の戦死」として「顕彰」しているのですから話は別です。
靖国神社はなぜ、いや、国家はなぜ、国民の戦死を「名誉の戦死」として顕彰するのでしょうか。

哲学者の高橋哲哉氏は、その著書『靖国問題』の中で、次のように説明します。

<靖国神社は、外国との戦争という点でいうと日清戦争、台湾征伐から戦死者を祀っていることから、日清戦争直後の1895年11月に発行された『時事新報』(=福沢諭吉が創設し社主を務めていた新聞)に掲載された論説「戦死者の大祭典を挙行し可し」より説明しながら>

……日清戦争と「台湾戦争」から生きて帰ってきた将兵は、最高の名誉を与えられており、国民に感謝されているのみならず、爵位勲章を授けられ、報奨金まで受けている。これに対して、戦死者は爵位勲章や報奨金を受ける術もなく、国民に歓迎される由もなく、凱旋将兵のような光栄に浴することができない。そしてその遺族もまた、多少の扶助料などを与えられて細々と生計を立ててはいるが、手柄を立てて無事に帰ることを祈った「父兄」はすでになく、その「戦友」たちの栄光を横目で見ながら、涙を流すのみである。凱旋将兵には最高の名誉と栄光が与えられているのに対し、戦死者とその遺族には名誉も栄光もなく、社会から忘れ去られようとしている。これはおかしい。このままではいけない。戦死者とその遺族にも可能なかぎりの名誉と栄光を与えなければならない…………

つまり、日清戦争には勝利したものの、東アジアの情勢は緊迫していて、いつまた戦争になるかもしれない。戦争になったら、何に依拠して国を護るべきなのか…………

それはまさしく死を恐れずに戦う兵士の精神にほかならず、したがって、その精神を養うことこそ国を護る要諦である。そしてそれを養うためには、可能なかぎりの栄光を戦死者とその遺族与えて、「戦場にたおるるの幸福なるを感ぜしめざる可らず」、すなわち、戦死することが幸福であると感じさせるようにしなければならない、というのだ…………

では、戦死者とその遺族に最大の栄誉を与える方策は何か。

日清戦争と「台湾戦争」の後で、各地方で戦死者の招魂際が営まれていたが、それでは不充分である。帝国の首都東京に全国戦死者の遺族を招待して、明治天皇自らが祭主となって死者の功績を褒め讃え、その魂を顕彰する勅語を下すことこそ、戦死者とその遺族に最大の栄誉を与えること、そして国民に「戦場にたおるるの幸福なるを感ぜしめ」ることになるのだ…………

戦死者が顕彰され、遺族がそれを喜ぶことによって、他の国民が自ら進んで国家のために命を捧げようと希望することになることが必要なのだ。「多少の費用は惜しむに足らず」。すなわち、莫大な国費を投入しても、全国各地から遺族を東京に招待し、「お国」と「お天子様」とがいかにありがたい存在であるかを知らしめ、最高の「感激」を持って地元に帰るようにしなければならない…………と。


高橋氏はいいます。これこそ、靖国信仰を成立させる「感情の錬金術」にほかならないのだと。


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「靖国問題」、感情の錬金術(1)

2006年08月30日 | 国際・政治
その名もズバリ『靖国問題』という新書があります。筑摩書房から出ている「ちくま新書」で、著者は哲学者の高橋哲哉氏です。
同書は、様々な問題が極めて複雑にからみあって論じられている「靖国問題」を①感情の問題、②歴史認識の問題、③宗教の問題、④文化の問題、⑤国立追悼施設の問題、と5つに分節化して論理的に解明する試みをしていて興味深い内容となっています。

これまでも、政治的・歴史的には「靖国神社」に関する解明は、すでに明瞭に論述されています。しかし、感情論も含めて複雑に絡み合って、問題解決の糸口が見えないと整理がつかない人にはぜひ詳細を読んでいただきたいと思います。

少し感想に触れると、特に考えさせられたのは、①の「感情の問題」でした。
高橋氏は、靖国問題を難しくしている最大の要因の一つに、「感情の問題」を挙げます。
その一つが、「遺族感情」。2001年8月13日に就任以来はじめて靖国参拝を強行した小泉首相を相手取り訴訟が起こされていた際、夫が靖国神社に合祀されている岩井益子が、2002年4月に大阪地裁に提出した陳情書から、その遺族感情を「靖国神社を汚すくらいなら私自身を百万回殺してください。たった一言靖国神社を罵倒する言葉を聞くだけで、私自身の見が切り裂かれ、全身の血が逆流してあふれだし、それが見渡す限り、戦士達の血の海となって広がっていくのが見えるようです」と紹介しています。驚くほどの「感情」です。

もう一つは、一方この裁判で原告となった日本人遺族たちの感情です。小泉首相の参拝によって宗教的人格権が傷つけられたとして損害賠償を求めた人達の感情。そして、A級戦犯と一緒に靖国に天皇のために戦死した英霊として顕彰され祀られていることを苦痛に思っている日本人遺族たちの感情があります。

また同じく、もう一つに、靖国神社がかかわった日本軍の戦争で大きな被害を受けたアジアの人々の感情があります。同じ大阪地裁で起こされたもう一つの小泉参拝靖国訴訟―。旧日本軍の軍人軍属としてアジア太平洋戦争に動員され戦死した台湾人の遺族236人が、首相と国、靖国神社を相手どり請求した裁判で、日本の植民地統治下で「高砂族」と呼ばれた先住民族出身の高金素梅(ガオチン・スーメイ)という女性の感情を紹介しています。―「見よ、見よ、私の皮膚には鳥肌が立ちはじめ、私の目からは涙が溢れ出し、熱い血がこみ上げてきて脳天を直撃した。私はついに、自分がいったい誰なのかをはっきり知ったのである」
先の岩井益子が叫んだように、アジアの遺族も叫ぶのです。「日本の首相が靖国神社を参拝したと聞くだけで、私自身の身が切り裂かれ、全身の血が逆流して溢れだし、それが見渡す限り日本軍の犠牲となった家族・同胞たちの血の海となって広がっていくのが見えるようです」と。

私たちは、日本遺族の「感情」と同時に、アジアの人々の計り知れない「感情」にも思いを馳せなければいけないと思いました。[敬称略]
(つづく)


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「今後戦争になるということがどうしても信じられない」という人に

2006年08月29日 | 国際・政治
世の中は、改憲の動きにしても、日米軍事同盟の動きにしても、ますます「戦争ができる国」づくりに進んでいます。しかし、国民には「(このままでは)今後戦争になるということがどうしても信じられない」という疑問を持つ人も少なくありません。
そんな方に説得力ある説明を見つけました。
以前、当ブログでも紹介したその名も『憲法が変わっても戦争にならないと思っている人のための本』(日本評論社刊)という本の一節です。
山田朗氏(歴史学者、明治大学文学部教授)、森永卓郎氏(経済アナリスト、獨協大学教授)、木下智史氏(憲法学者、関西大学法科大学院教授)が担当された「憲法と現代戦争Q&A」のコーナーにある設問をちょっと引用させていただきます。
「今後戦争になる、ということがどうしても信じられないのですが?」との問いに……。

1920年代、第一次世界大戦によるバブルの崩壊で、緩やかなデフレが続いていました。そこに1923年の関東大震災が追い討ちをかけ、1927年には金融恐慌が発生しました。その時、生産性の低い企業を整理して、より強い企業に生産を集約しようという気運が高まりました。これは「財政整理」と呼ばれました。……1929年、「この閉塞感のある社会を打ち破る」と言って首相に就任したのが民政党総裁だった浜口雄幸(はまぐち・おさち)でした。浜口は就任と同時に改革に取り組みます。財政再建のために大胆な歳出カットをし、強烈な金融引き締めを断行しました。デフレのなかで財政と金融を同時に引き締めたのですから、日本経済は激烈なデフレに陥りました。それでも日本国民は浜口首相を圧倒的に支持したのです。浜口は国民に言いました。「明日伸びんがために、今日は縮むのであります。これに伴う小苦痛は、前途の光明のために暫くこれを忍ぶ勇気がなければなりません」


これは1931年の満州事変につながる我が国の1920年代の政治・経済の状況です。
「財政整理」とは、今でいう「不良債権の処理」のこと。
「(利益誘導型の財政をムダ遣いする古い政治を継続していた)自民党をぶっ壊す」と言って登場した小泉首相は、「改革なくして、成長なし」と財政と金融を締め上げて、大企業などへの規制を緩和し、社会保険料や消費税は値上げしていく、「その改革には痛みを伴うから国民には暫く我慢をしろ」と言う。こうしてごく一部の強い人だけが生き残り、弱い人はどんどん切り捨てられていき、格差はどんどん拡大していく。これが小泉首相の「構造改革」ですが、1920年代も、国民は所得の二極分化の中に沈んでいったと言うのです。

『憲法が変わっても戦争にならないと思っている人のための本』では、続いてこう説明します。

何が言いたいか、もうおわかりいただけたと思います。満州事変が起きたのは1931年です。1920年代、あの戦争前夜と1990年代以降の現在は、驚くほどよく似ています。人間というのは悲しい性(さが)を持っているようで、苦しければ苦しいほど強いリーダーを求めてしまうのです。そして、誰もそれにNOが言えない体制になっていくのです。小泉首相のやることには、今や誰もNOと言いにくくなってしまっています。戦争や、戦争に結びつくものに反対することは、10年前には当たり前のことでしたが、現在では「非国民」とさえ言われて非難されるようになりました。
浜口は戦争には反対していました。しかし、彼がつくった挙国一致体制が、満州事変に結びついたのです。小泉首相も戦争に賛成しているわけではないでしょう。しかし、小泉首相の後を継ぐ人が、この挙国一致の空気をもし利用すれば、最悪の事態になりうるということです。


●よかったら詳しくは『憲法が変わっても戦争にならないと思っている人のための本』(日本評論社刊、1400円+税)をお読みください。井筒和幸さん、室井佑月さん、高橋哲哉さん、斎藤貴男さん、ほか多彩な執筆人がわかりやすく解明しています。


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原水爆禁止世界大会の参加報告より

2006年08月28日 | 国際・政治
職場の後輩が、この夏、原水爆禁止2006年世界大会(広島)に参加しました。戦後61回目の大会に職場から代表を派遣しようと送り出したもので、その報告会が先日行われました。
今年は、憲法改悪や日米軍事再編の動き、九条の会の広がりのように「平和」に対する全国的な高まりの中で行われた大会であっただけに、参加者の感慨もひとしおのようでした。
開会総会が行われていたその会場に、広島地裁での「広島・原爆症認定集団訴訟」の41名全員勝訴のニュースが報告され感動的な場面も(国は11日に控訴)。後輩は、被爆問題が61年前から現在までつながっている問題として新たな認識を持ったと感想を語っていました。
8月6日までの3日間は大変有意義だったようで、「世界青年のつどい」に参加したり、分科会「青年のひろば」では、約700名の参加者が70班に分かれ、広島の青年たちの案内で被爆者訪問をしたそうです。後輩も、全部で7人の被爆者の方の話を聞き、原爆投下直後の惨状を知り、これまで原爆の恐ろしさとひどさを感じるところで自分の思考が止まっていたと気づいたと言います。訪問した被爆者の方達はどなたも比較的元気な方達だったそうですが、高齢なため、いつまで話を伝えていくことができるか分からない。その意味でも、今回聞いた話を自分なりに受け止め、「被爆体験の伝承」「原水爆禁止運動の継承」で自分が力になりたいと語っていました。

後輩が、大会の挨拶で印象に残った外国政府代表や海外NGO代表の言葉として報告していますので、次に紹介します。

●エジプト政府は、イランも含めて「中東非核兵器地帯」づくりに取り組んでいる。核兵器をなくすための国同士の連帯はまだ足りないが、エジプトのような国が増えることを願っている。(エジプト政府代表)
●マレーシアは話し合いで全外交に向き合う国で、「ある国が先制攻撃をすること、または先制攻撃を考えることにも反対すべきだ」と考えている。(マレーシア政府代表)
●メキシコ政府は「非核地帯」づくりを進めている。(メキシコ政府代表)
●アメリカは日本の憲法9条を変えさせようとしている。9条を守ろう(ガッツポーズ)。(アメリカ平和活動家・ジョセフ・ガーソン)
●朝鮮半島での南北間の緊張は、北東アジアの平和に影をおとしている。米韓日の軍事強化に反対。国境をこえた協力をしよう。軍事費をくらしへ回せ。(韓国草の根連帯)
●昨年初めて広島にきた。中日の人々は核兵器をなくすために一緒に行動しよう。中国人民は平和を愛する。(中国人民平和軍縮協力会議)
●61年間、地球上で核兵器の使用を繰り返させなかったのは、1945年の苦しみと悲劇を集団的に記憶し、闘ったからだ。(インド核軍縮連合)
●希望を共にし、共通の夢(核兵器の廃絶)を探求するためにここにいる。すべての核被害に関する裁判で勝利を。広島は私の第二のふるさとだ。(アラブ連盟代表)
●1946年~58年、アメリカはマーシャル諸島で核実験を繰り返した。死の灰にさらされたロンゲラップ島民を人体実験として放置した。がんが多発しているが、医者がいない島では治療ができない。アメリカに治療を求める裁判を起こしている。広島の集団訴訟勝利は私たちにとって励ましだ。(マーシャル諸島議員)
●「ピースフル・トゥモロー」は9・11同時テロ被害者家族でつくる平和を求める団体。「報復」ではなく「平和と和解にこたえる行動」を日本の被爆者たちから学んだ。家族の悲しみを平和に生かしたい。(アメリカ・ピースフル・トゥモロー代表)
●(世界規模の)「平和市長会議」でキャンペーンの先頭に立っている。「都市を攻撃するな」「核兵器の廃絶を」(核兵器などの大量破壊兵器は都市を標的にしており、子どもを人質にしているといえる)2020年までに核兵器の廃絶をという目標がある。(広島・秋葉市長)


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安倍氏、「集団的自衛権」発言。「恒久法」整備も言明

2006年08月27日 | ニュース
これまで当ブログでも度々、安倍晋三官房長官の憲法観・歴史観・靖国観・戦争観などを批判してきましたが、8月25日、安倍氏が都内で行った講演での発言は、自民党総裁選を前に、首相に就任した場合の事実上の“公約”となるだけに見逃すわけにはいきません。
問題の講演は、我が国が憲法で「集団的自衛権の行使が禁じられている」ことについて、海外の自衛隊の活動に触れ、「一緒に活動する外国の軍隊に対して攻撃がなされたら、その状況を黙って見ていなければいけないのか」とした上で、「今後、真剣に考えないといけない」と、集団的自衛権の行使容認を検討すべきだとの考えを強調しました。
さらに、自衛隊の海外派兵を恒常的に可能にする「恒久法」の制定についても「必要」と表明。政府として法整備を進める必要性を示しました。また、自身が提唱する「国家安全保障会議の設置」についても「次の政権が取り組むべき大きな課題」と言い、首相に就任した場合、実行に移す意向を表明しました。

これは再三指摘しているように、「集団的自衛権行使」として進めようとしている本音が、自衛隊に海外で公然と武力行使をさせようとするものであることが明らかとなったということです。
先のイラク戦争では、米国は国際社会の強い批判を受けながらも道理なき「先制攻撃」を実行しました。
しかし、このイラク戦争を真っ先に支持した小泉政権でさえも、憲法の制約からこのイラク戦争に自衛隊を参加させられませんでした。それに続く「米軍の軍事占領支援」のために紛争が続くイラクに自衛隊は派兵されましたが、「武力行使はしない」というのが自衛隊派兵の建前でした。
今回の安倍氏の発言は、こうした憲法の「歯止め」を無くし、海外で「先制攻撃」を繰り返す米国の無法行為に、米軍が攻撃を受けた場合は自衛隊が真っ先に馳せ参じ、武力行使できるということを表明したものです。まさに「海外で戦争ができる国」にするという点で、それこそ「黙って見ている」わけには行きません。


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