昭和のマロ

昭和に生きた世代の経験談、最近の世相への感想などを綴る。

小説<手術室から>目の手術(9)

2015-09-22 04:08:04 | 小説・手術室から
「あなたは忙しいんだから、明日もわざわざ来なくてもいいからね。看護婦さんに頼むから・・・」
 帰るお嫁さんに、優しいBさんは声をかけた。

 翌朝、食事のとき看護婦さんが「お手伝いしましょうか?」と聞くと「いや、うちのものが来ますからいいです」と言っている。 
 昨日、ああ言いながらも心の中ではあの優しいお嫁さんはきっと来てくれると期待していたのだ。
「どうですか、お具合は?」
 やはりお嫁さんは明るい声とともに今朝も現れた。

 昨日、秀三と一緒に入院した窓際のCさんも70歳を過ぎたおじいさんだ。
 両眼を手術するらしい。
 付いてきた奥さんと息子さんが帰ると、いっぺんに静寂が訪れた。
 テレビを見ることはおろか、ラジオも用意してきていないようだ。
 
 修行僧のようにいつまでもじっと正座して、目をつむったままでいる。
 
 ─続く─

 <好奇心コーナー>
 

 戦後わが国の封建的、軍国的残滓の一掃を急いだGHQは、将棋にもケチをつけた。
 
「将棋は野蛮なゲームだ。チェスト違って、女王の駒がないのは男女差別だ。捕獲した相手の駒を自分の駒として好きなように利用できるのは、捕虜の虐待にあたる」と。

 なんとこれに対しGHQに赴き反論したのは、あの将棋界の風雲児、升田幸三だった。
 
「野蛮なゲームとは笑止千万! 女性を危険から護るため戦陣に伴わないのはわが国古来の美徳である。捕獲した駒の使用は決して虐待や酷使ではなく、敵を赦し味方と同列に扱うもので、『教化遷善』にもとづく」と説いて将棋界存亡の危機を救ったのだ。