昭和のマロ

昭和に生きた世代の経験談、最近の世相への感想などを綴る。

有名人(40)男の魅力(13)

2010-04-14 05:17:32 | 男の魅力
 井上ひさしが肺がんで亡くなった。享年75歳。
 

 もちろん彼が劇作家として著名であることは知っているが、そんなに詳しくない。
 <吉里吉里人>も読んでいない。<ひょっこりひょうたん島>の作者で、奥さんと家庭内暴力事件でマスコミを騒がしたという興味本位な関心しかなかった。
 

 ぼくは退職して10年以上になるが、その間気になった<言葉>をメモに残している。
 彼に関するものを引っ張り出してみたら、なかなか興味深い発言をしている。
 彼の死を悼む著名人の言葉と重ね合わせると、ぼくにとって魅力ある男が浮かび上がってきた。

 放送作家、小説家、劇作家として社会性の強い作品を多く書いたことで有名だが、とかくシリアスになりがちなテーマを彼は<笑い>とか<喜劇>の手法で処理するユニークな作家だと演劇評論家、扇田明彦は述懐している。

 彼に関するぼくのメモ(その1)
 ・・・いまは体育館より広いところで、みんな勝手にやっている時代なんです。そこで誰かが面白いことを言ったときに、勝手なことをやっていた人が、一瞬パッと見て「あ、そうか」と笑って、また勝手なことをやりますね。みんなの目を一瞬でもひきつけるのは、笑いによってしかできない。叫び声やお説教ではこっちを向かせることはできない。・・・

 なるほど! 時代を見る目は確かだ。10年以上前の彼の言葉だが、今やテレビ界は<お笑い>満載で若い視聴者を取り込もうとしている。

 そういえば、テレビ漫画、<ムーミン>や<忍者ハットリくん>のテーマソングも彼の作になるものだそうだ。
 

 扇田氏の言葉をさらに引用する。
 ・・・1960年代から晩年まで、井上氏が劇作家として常に第一線であり続けてきたのも特筆に価する。日本の劇作家の多くは若いころに代表作を書いてしまうが、井上氏はまるで元気な活火山のように70歳代に入ってからも、<ムサシ><組曲虐殺>のような意欲的な秀作を発表し続けた。作家チェーホフの生涯を描いた井上氏の晩年の音楽劇<ロマンス>(2007年初演)に、主人公が語る印象的なせりふがある。人間は{あらかじめそのうち側に、苦しみをそなえて生まれ落ちる」のだが、笑いは違う。笑いは「ひとが自分の手で自分の外側で作り出して」いかなければならない。「もともとないものをつくる」のだから「たいへん」なのだ。・・・

 メモ(その2)
 ・・・<さまざまな能力に恵まれた清張さんではあったが、畢竟、その天職は書くことであった。つねに探究心を失わずに、書くことによってのみ慰謝を受けた人が松本清張だったと思う>(宮田毬栄<追憶の作家たち>から)これほど端的に清張さんの本質を抉った評言を知りません。・・・
 
 これは井上ひさしの6年前の言葉だが、まさに彼自身が<書くことによってのみ慰謝を受けた人>だったのだ。

 そして、彼の座右の銘は<難しいことをやさしく、やさしいことを深く、深いことを愉快に、愉快なことをまじめに>だったと言う。
 
 彼の考え方や、生活態度はともかく、少なくとも<書くこと>に対する姿勢はぼくにとって魅力そのものだ。