タマルさんはナツメヤシ

タマルは女性の名。ナツメヤシの意味で多産を象徴。聖書には約束の地カナンは、蜜(ナツメヤシ)と乳(ヤギ)の流れる地とある。

子宮頸癌と体癌

2012-04-18 20:23:17 | 婦人科
少し前の休みの日のことです。
救急車でお婆ちゃんが来院されました。
でも救急車からはスタスタと歩いて来られたのですが。

それはさておき、90歳くらいでしたか、
性器出血があるとのことで急いで来られたのです。
もちろん、そんなに急ぐこともないのですが、びっくりされたんでしょう。

日本人女性の月経が終わる年齢の平均は51歳と言われます。
40歳代になると月経も不規則になってくるので、
子宮頸癌を心配されて来院する方が増えるのもこの年代です。
子宮頸癌は出血という症状が出た時には、けっこう進んでいます。
だから本当は20歳から検診を受けた方がいいのです。
この頃なら子宮頸癌になる前に発見できますから、
定期的に診察して、初期の癌になるまでに治療することができるのです。

これに対して子宮がんには「子宮体がん」という、別の癌も有ります。
子宮体がんは、60歳頃に多い子宮がんです。
頻度としてこちらの方が少なく10%とか、20%と言われます。
私が勤務していた天理よろづでは、半数近くが子宮体がんという地域でした。
こちらに来て、すごく少ないな、と感じています。
それもそのはず、子宮体がんは赤ちゃんを産んだことのない女性や、
産んでも、出産数が少ない女性がなりやすい癌だからです。
多産の地域では少ないというわけです。
ちなみに先の子宮頸癌は、逆に赤ちゃんをたくさん産んでいる人がなりやすいのですが。

閉経して、数年以内に出血する場合は、たいてい不規則な月経です。
ところが閉経して10年も経ってから出血する場合には子宮体がんを疑うのです。
このお婆ちゃんは数十年も経っていたので、また違う病気も念頭に置きつつ診察しました。
診察すると子宮の中からの出血です。
出血の量自体は少ないのですが、赤い血液です。
お婆ちゃんの年齢と子宮の中から、というだけで、子宮体がんと診断されます。
一応検査もしましたが、三田市民病院を受診するようにと紹介状を書きました。
三田市民で結果が出る前に、こちらの結果で、やはり子宮体がんだったのです。

でもあせることはないのです。
若い人の癌はすぐに進行しますが、お婆ちゃんの癌はゆっくり進行します。
しかも子宮体がんは症状が出てからでも、あまり進行していないことが多いのです。
きっと、このお婆ちゃんも子宮を手術すれば治るでしょう。
でも手術できる年齢かどうか、手術するかどうかで
今頃悩まれているのではないでしょうか。

ほかにもこの年齢の性器出血では、閉経後萎縮性膣炎という病気もありますが、
出血する場所が子宮の中ではなくて、膣の壁からなので、すぐに診断がつきます。

ところで最近忙しくしているのは、
ホームページを1から作り替えていること、
各種パンフレットも作り替えていること、
今準備中の美容皮膚科をもうすぐお披露目するために、
診察室の改装や、治療案内のビデオを制作すること、
と言っても、こちらは業者さん頼みですが。
それに美容機器の選定から購入と、
もちろん実習から本読み、本は数十冊を読破。
職員の教育、などきりがありません。
ですが、こういう時ほど生き生きするのですよね。
写真は改装中の2診の様子です。
とりあえず途中経過でした。

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尖圭コンジローマ感染は無くなるか

2012-04-17 20:28:21 | 婦人科
性感染症のお話です。
グラフのように、ここ何年かはほぼ横ばいに推移しています。
男女とも一番多い性感染症はクラミジアです。
女性の2番目に多いのは性器ヘルペス、
次が尖圭コンジローマと淋菌感染症がほぼ同じといったところ。
男性に特徴的なのは淋菌感染症が多いということでしょう。

今日、外来に来られていた方は、尖圭コンジローマを発症されていました。
外陰部に小さなカリフラワーのようなイボができます。
1つのこともありますし、たくさんのこともあります。
それほど痛くはないので、放っておかれる方もありますが、増える一方です。

唯一この病気が悪さをするとするなら、妊娠の時でしょうか。
妊娠中に膣や外陰部にイボができていると、赤ちゃんにもうつってしまいます。
すると赤ちゃんはのどの奥にイボがたくさんできて、死んでしまうこともあるのです。
だから帝王切開して産まないといけないこともあるのです。

この病気はヒトパピローマウィルスというウィルスを、パートナーからもらうことで発症します。
どこかで聞いた名前のウィルスですね。
そう子宮頸癌の原因ウィルスでもあります。
子宮頸癌を起こすのはヒトパピローマウィルスの16型や18型などです。
それに対して尖圭コンジローマを起こすのは6型や11型です。
だからどちらも性感染症なのですね。
これってよく考えると奇妙なことですよ。
発症した人の彼氏が持っている。その彼氏の違う彼女が持っていた。
その彼女の違う彼氏が持っていて、そのまた違う彼女が持っている。
延々と続いて、ものすごい数の人たちと性行為したことと同じなわけですからね。

ところで最近、このウィルスを予防することが可能になりつつあります。
それは子宮頸癌の予防接種を3回受けた方がいいことになりましたが、
この予防接種はもともと16型や18型を予防するものだったのですが、
最近のものは、ついでに6型や11型をも予防するようになっています。
だから子宮頸癌だけではなくて、例え悪いことをしても、
尖圭コンジローマにもなりにくくなったというわけです。

1つ勉強になりましたでしょうか?
性感染症は不妊の原因の1つです。
初めに検査しておかないといけませんね。

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神戸より遠い世界

2012-04-16 21:02:04 | つれづれ
今日は、本当は週末に行われた日本産婦人科学会の様子をお書きしようと
張り切っていたのです。
年に1回開催される、産婦人科関係では最も大きな学会です。
ですが赤ちゃんが3人も生まれたので、報告できないことお許しを。
でも赤ちゃんが生まれる方が部屋で講演を聞いているより、
よっぽど学ぶことはあるのだからいいのですヨ。
今では東京と、大阪か京都で交互に開催されるようになったのですが、
今年は関西の順番で、めずらしく神戸が選ばれたのです。
だからちょっとだけ、惜しいチャンスを逃してしまいました。

昔は産婦人科学会は他の学会同様に、日本全国で開催されていましたから、
東北で開催された時に参加したこともあります。
東北と言っても新潟、日本海側で今回の震災とは反対側です。
若い頃はお酒を飲む機会もあったので、
新潟と言えば、八海山、越乃寒梅、雪中海など、その味わいにびっくりしたものです。
もちろん開業してからはアルコールはピタリとやめました。
こちらでは、医師会でさえ会合と言えばお酒が出るので、会合に行く機会も減りました。

そんなことはさておき、今日タマル産に来られていたのは、
お見舞いに来られていたお母さんです。
もちろん子どもさんはタマル産生まれ。
お母さんは小学校の先生なのですが、どうも私からすれば生徒のように思えてしまいます。
ブログを見ていてくださるそうなので、読んでいますね、ゴメンなさい。

ところで先ほどの学会、と聞くと、高尚なことをしているとお考えかどうか。
実は私、産科と婦人科だけでなく、麻酔科も看板に掲げているのはご存知でしょうか?
麻酔科学会にも昔は出かけていて、九州の宮崎なんかにも行きました。
他にも全国を回っていますが、特に印象深かったのは、
東京ディズニーランドのホテルで行われた日本受精着床学会などというのも。
子どもや義理の両親、カミさんの従姉妹とその家族まで連れていきました。
外国でもあるのですよ。
イタリアではファーティリティ学会での発表とか、
ボストンでは何だったかな、バリ島のヌサドゥアとか。
もちろんカミさん連れで。だって外国人は必ず家族で遠征してきますから。
みんな遊んでいるんじゃない?
ちょっとね。

でも今となっては神戸より遠くは行けないんです。
若い頃の思い出を枕に生きています。
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風疹警報

2012-04-13 20:33:42 | 産科
小さいグラフですが見えますでしょうか?
1本の線だけ、急な上昇の仕方をしているのが分かりますね。
本日、兵庫県疾病対策課から発表された風疹の報告数なんです。
今年は流行の年になりそうです。

妊娠初期にかかる感染症で一番怖いのが、この風疹です。
妊娠初期にかかってしまうと、生まれてくる赤ちゃんの目が見えなくなったり、
耳が聞こえなくなったり、心臓に異常が出たり、知能の発達が遅れたりします。
私の親戚にも居ますから、育てるのに苦労している姿も知っています。
でも周りの人はそうは見てくれませんね。
お母さんに責任があるような言い方をされて、思わず援護してしまいます。
ただの感染症なのにと。

風疹はなってしまっても治せません。
予防接種しかないのですね。
私たちの頃は中学2年生になると学校で女子全員が風疹の予防接種を受けました。
この頃は良かったのです。
ところがその後、風疹の予防接種の副作用の方ばかりを宣伝するようになって、
予防接種が無くなってしまいました。
もちろん保育園の集団発生を防ぐという意味もあってですが。
今は麻しんと合わせて1歳と小学校に行く前の2回、男女とも予防接種をするのですね。
でも任意接種だから、する子としない子が居るのかな。

今妊娠している方は風疹の予防接種を受けられていますか?
妊娠初期の血液検査に、この風疹の検査があります。
採血した血液を2倍、4倍、8倍、16倍、32倍と試験管で次々に薄めて、
ここに風疹のウィルスの一部を混ぜます。
すると、ウィルス抗原をやっつける抗体を持っている人では
試験管の底に沈殿が生じるのです。
たくさん薄めても沈殿するくらいの抗体を持っている人はかかりにくい、ということ。

32倍以上の人は、風疹にかかりません。
16倍までの人は、風疹にかかる可能性があるので、
保育園には近づかないようにします。
この妊娠では仕方がないので、
赤ちゃんを産み終わってから、風疹の予防接種をすることになります。

風疹警報でした。

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ピース

2012-04-11 20:21:50 | 産科
妊婦健診に来られていた妊婦さんの話によれば、
その方のお姉さんが大きな病院でお産された際、
糖尿病でだいぶ、「おどされた」と言われるのです。

私も知らぬ間に、おどしていることがあるのでは、と反省します。
医師は患者さんに指導をする時、
最悪の結果を言うことがあります。
ちゃんと言うことを聞かないと、こんな風になっちゃうよ、というやつです。

うちの子が保育園の時、園長先生に、「やまんば」が出るから、
早く帰るように、と言われていた、そんな感じでしょうか。

前に勤めていた病院では、部長が、1人の患者さんに数時間にも及ぶ説明をされていました。
これが、いつもの風景なのです。
今で言うインフォームドコンセントですね。
はっきり言って、実際の治療よりも説明の方が長くかかっているのです。
丁寧な説明が悪いと言っているのではなくて、
インフォームドコンセントの悪い所は、すべての起こりうる事態を説明することにあります。

お産を例にとりましょうか。
一度、帝王切開をしているとします。
10年前なら、次はちゃんと普通に産みたいという妊婦さんがたくさん居られました。
ところがこのインフォームドコンセントとやらが出て来たおかげで、
もし子宮の前回の傷が裂けたら、赤ちゃんが死んじゃうんだよ、とか
急に傷から大量の出血があれば、お母さんの命にもかかわるんだよ、などと
とにかく、おどすのです。
ここまで言われては、頑張って産みたいという人は無くなってしまうでしょう。
おかげで、ここ10年ちょっとで、帝王切開率はうなぎ上りです。
これがインフォームドコンセントとやらの、実態なんです。

医師が患者さんをおどすのには訳があります。
最悪の事態を言っておけば、それより良ければ感謝してもらえるからです。
逆にだいじょうぶですよ、と言って、大丈夫じゃなかったら、恨まれるからです。
医師は裁判にならないようにと、とにかく逃げ口上を言っておくのですね。

だから今ではタマル産のような医療機関は無くなってきているのです。
さかご?産むんだったら、私が面倒みましょう、とか
一度帝王切開してたって、普通に産みたいのなら産ませてあげましょう、
こんなこと言う医師は少なくなってしまったという意味です。

ところで上の写真、診察室の机の上に鎮座しています。
私がよく出没する、神戸、六甲山の石ころ亭、というお店で買ったものです。
その石にはピース、と刻まれています。
いつも心に平安を。

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今日も赤ちゃんが産まれました。現在研修中の3人も、お産続きで勉強になります。