歌番号一三六四
原文 堂以之良寸
読下 題知らす
原文 天以之為无乃於保美宇多
読下 亭子院御製
原文 久差万久良毛美知武之呂尓加部多良波己々呂遠久多久毛乃奈良万之也
和歌 くさまくら もみちむしろに かへたらは こころをくたく ものならましや
読下 草枕紅葉むしろに代へたらば心を砕く物ならましや
解釈 草を枕とする旅寝、その旅にあって紅葉を筵に換えたら、寝心地が悪く気分を害するものになるでしょうか、(いや、きっと、風流の気分になるでしょう。)
歌番号一三六五
原文 美也己尓於毛不飛止者部利天止遠幾止己呂与利加部利万宇天幾
个留美知尓止々万利天奈可川幾者可利尓
読下 京に思ふ人侍りて、遠き所より帰りまうで来
ける、道に留まりて、九月ばかりに
原文 与美飛止之良寸
読下 詠み人知らす
原文 於毛不飛止安利天加部礼者以川之可乃川万々川与為乃己衛曽可奈之幾
和歌 おもふひと ありてかへれは いつしかの つままつよひの こゑそかなしき
読下 思ふ人ありて帰ればいつしかの妻待つ宵の声ぞ愛しき
解釈 恋焦がれて思う貴女と言う存在があったので、立派な鹿が妻を待って宵に呼び寄せる声が、我が身のように感じて、愛おしいものです。
歌番号一三六六
原文 久左万久良由不天者可利八奈尓奈礼也徒由毛奈美多毛越幾可部利川々
和歌 くさまくら ゆふてはかりは なになれや つゆもなみたも おきかへりつつ
読下 草枕結ふてばかりは何なれや露も涙も置きかへりつつ
解釈 草を枕とする旅寝、その旅にあって草の枕を結ぶ、その我が手ばかりは、一体、何なのでしょうか、どのような訳か、草に置く露に因るのか、それとも袂の涙に因るのか、ただ、ひどく濡れるばかりです。
歌番号一三六七
原文 美也乃多幾止以不止己呂尓保宇己宇於者之末之多利
个留尓於保世己止安利天
読下 宮の滝といふ所に、法皇おはしましたり
けるに、仰せ言ありて
原文 曽世以保宇之
読下 素性法師
原文 安幾也万尓万止不己々呂遠見也多幾乃堂幾乃志良安和尓計知也者天々武
和歌 あきやまに まとふこころを みやたきの たきのしらあわに けちやはててむ
読下 秋山にまどふ心を宮滝のたぎの白泡に消ちや果ててむ
解釈 秋山の美しさに戸惑うこの気持ちを、宮滝の急流の瀬に湧き立つ白泡によって消し去ってしまいましょう。