竹取翁と万葉集のお勉強

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後撰和歌集(原文推定、翻文、解釈付)巻十四

2020年09月13日 | 後撰和歌集 原文推定
後撰和歌集(原文推定、翻文、解釈付)
止遠末利与末幾仁安多留未幾
巻十四

己比乃宇多武川
恋歌六

歌番号九九四
飛止乃毛止尓徒可者之遣流
人乃毛止尓徒可者之遣流
人のもとにつかはしける

与美比止之良寸 
よみ人しらす 
詠み人知らず

原文 安布己止遠与止尓安利天不美川乃毛利徒良之止幾美遠三川留己呂可奈
定家 逢事遠与止尓有天不美川乃毛利徒良之止君遠見川留己呂哉
和歌 あふことを よとにありてふ みつのもり つらしときみを みつるころかな
解釈 逢ふ事を淀に有りてふ美豆の森つらしと君を見つるころかな

歌番号九九五
可部之 
返之 
返し

与美比止之良寸 
よみ人しらす 
詠み人知らず

原文 美徒乃毛利毛留己乃己呂乃奈可女尓者宇良美毛安部寸与止乃加八奈美
定家 美徒乃毛利毛留己乃己呂乃奈可女尓者怨毛安部寸与止乃河浪
和歌 みつのもり もるこのころの なかめには うらみもあへす よとのかはなみ
解釈 美豆の森もるこのごろのながめには恨みもあへず淀の河浪

歌番号九九六
三川可良満天幾天与毛寸可良毛乃以比者部利个留尓本止
奈久安計者部利尓个礼者万可利加部利天
三川可良満天幾天与毛寸可良物以比侍个留尓本止
奈久安計侍尓个礼者万可利加部利天
みづからまで来てよもすがら物言ひ侍りけるに、ほど
なく明け侍りにければ、まかり帰りて

与美比止之良寸 
よみ人しらす 
詠み人知らず

原文 宇幾世止八於毛不毛乃可良安万乃止乃安久留者川良幾毛乃尓曽安利个留
定家 宇幾世止八思物可良安万乃止乃安久留者川良幾物尓曽有个留
和歌 うきよとは おもふものから あまのとの あくるはつらき ものにそありける
解釈 憂き世とは思ふものから天の戸の明くるはつらき物にぞ有りける

歌番号九九七
於无奈乃毛止尓徒可者之个留
女乃毛止尓徒可者之个留
女のもとにつかはしける

与美比止之良寸 
よみ人しらす 
詠み人知らず

原文 宇良武礼止己布礼止幾美可与止々毛尓志良寸加本尓天川礼奈可留良无
定家 宇良武礼止己布礼止君可与止々毛尓志良寸加本尓天川礼奈可留良无
和歌 うらむれと こふれときみか よとともに しらすかほにて つれなかるらむ
解釈 恨むれど恋ふれど君が世とともに知らず顔にてつれなかるらん

歌番号九九八
可部之 
返之 
返し

与美比止之良寸 
よみ人しらす 
詠み人知らず

原文 宇良武止毛己不止毛以可々久毛為与利者留个幾飛止遠曽良尓之留部幾
定家 怨武止毛己不止毛以可々雲井与利者留个幾人遠曽良尓之留部幾
和歌 うらむとも こふともいかか くもゐより はるけきひとを そらにしるへき
解釈 恨むとも恋ふともいかが雲居よりはるけき人を空に知るべき

歌番号九九九
以飛和川良日天也三尓个留飛止尓比左之宇安利天
万多川可八之个留
以飛和川良日天也三尓个留人尓比左之宇安利天
又川可八之个留
言ひわづらひてやみにける人に久しうありて、
又、つかはしける

与美比止之良寸 
よみ人しらす 
詠み人知らず

原文 志徒者多尓部徒留本止也之良以止乃多衣奴留三止八於毛者佐良奈无
定家 志徒者多尓部徒留本止也白糸乃多衣奴留身止八於毛者佐良奈无
和歌 しつはたに へつるほとなり しらいとの たえぬるみとは おもはさらなむ
解釈 倭文はたに経つるほどなり白糸の絶えぬる身とは思はざらなん

歌番号一〇〇〇
可部之 
返之 
返し

与美比止之良寸 
よみ人しらす 
詠み人知らず

原文 部徒留与利宇寸久奈利尓之々川者多乃以止者多衣天毛加日也奈可良无
定家 部徒留与利宇寸久奈利尓之々川者多乃以止者多衣天毛加日也奈可良无
和歌 へつるより うすくなりにし しつはたの いとはたえても かひやなからむ
解釈 経つるより薄くなりにししづはたの糸は絶えてもかひやなからん

歌番号一〇〇一
越止己乃満天幾天寸幾己止遠乃美之个礼者
飛止也以可々三留良无止天
越止己乃満天幾天寸幾事遠乃美之个礼者
人也以可々見留良无止天
男のまで来て、好き事をのみしければ、
人やいかが見るらんとて

与美比止之良寸 
よみ人しらす 
詠み人知らず

原文 久累己止者川祢奈良寸止毛堂万可川良堂乃美者多衣之止於毛不己々呂安利
定家 久累事者常奈良寸止毛堂万可川良堂乃美者多衣之止思己々呂安利
和歌 くることは つねならすとも たまかつら たのみはたえしと おもふこころあり
解釈 来る事は常ならずとも玉葛頼みは絶えじと思ふ心あり

歌番号一〇〇二
可部之 
返之 
返し

与美比止之良寸 
よみ人しらす 
詠み人知らず

原文 堂満可従良堂乃女久留比乃加寸者安礼止堂衣/\尓天八加比奈可利个利
定家 玉鬘堂乃女久留日乃加寸者安礼止堂衣/\尓天八加比奈可利个利
和歌 たまかつら たのめくるひの かすはあれと たえたえにては かひなかりけり
解釈 玉葛頼め来る日の数はあれど絶え絶えにてはかひなかりけり

歌番号一〇〇三
越止己乃飛佐之宇遠止川礼左利个礼者
越止己乃飛佐之宇遠止川礼左利个礼者
男の久しう訪れざりければ

与美比止之良寸 
よみ人しらす 
詠み人知らず

原文 以尓之部乃己々呂者奈久也奈利尓个无堂乃女之己止乃多衣天止之不留
定家 以尓之部乃心者奈久也成尓个无堂乃女之己止乃多衣天止之不留
和歌 いにしへの こころはなくや なりにけむ たのめしことの たえてとしふる
解釈 いにしへの心はなくやなりにけん頼めしことの絶えて年経る

歌番号一〇〇四
可部之 
返之 
返し

与美比止之良寸 
よみ人しらす 
詠み人知らず

原文 伊尓之部毛以末毛己々呂乃奈个礼者曽宇幾遠毛志良天止之遠乃美不留
定家 伊尓之部毛今毛心乃奈个礼者曽宇幾遠毛志良天年遠乃美不留
和歌 いにしへも いまもこころの なけれはそ うきをもしらて としをのみふる
解釈 いにしへも今も心のなければぞ憂きをも知らで年をのみ経る

歌番号一〇〇五
於止己乃堂々奈利个留止幾尓八川祢尓万宇天幾个留可
毛乃以比天乃知者加止与利和多礼止万天己佐利个礼八
於止己乃堂々奈利个留時尓八川祢尓万宇天幾个留可
毛乃以比天乃知者加止与利和多礼止万天己佐利个礼八
男のただなりける時には常にまうで来けるが、
物言ひて後は門より渡れどまで来ざりければ

与美比止之良寸 
よみ人しらす 
詠み人知らず

原文 堂衣多里之武可之多尓三之宇知者之遠以末者和多留止遠止尓乃美幾久
定家 堂衣多里之昔多尓見之宇知者之遠今者和多留止遠止尓乃美幾久
和歌 たえたりし むかしたにみし うちはしを いまはわたると おとにのみきく
解釈 絶えたりし昔だに見し宇治橋を今は渡ると音にのみ聞く

歌番号一〇〇六
伊比和日天布多止世者可利遠止毛世寸奈利尓个留
於止己乃左川幾者可利尓万宇天幾天止之己呂
比左之宇安利川留奈止以比天万可利尓个留尓
伊比和日天布多止世許遠止毛世寸奈利尓个留
於止己乃五月者可利尓万宇天幾天年己呂
比左之宇安利川留奈止以比天万可利尓个留尓
言ひわびて二年ばかり音もせずなりにける
男の、五月ばかりにまうで来て、年ごろ
久しうありつるなど言ひてまかりにけるに

与美比止之良寸 
よみ人しらす 
詠み人知らず

原文 和寸良礼天止之布留佐止乃保止々幾寸奈尓々比止己恵奈幾天由久良无
定家 和寸良礼天年布留佐止乃郭公奈尓々比止己恵奈幾天由久覧
和歌 わすられて としふるさとの ほとときす なににひとこゑ なきてゆくらむ
解釈 忘られて年経る里の郭公なにに一声鳴きて行くらん

歌番号一〇〇七
堂以之良寸 
題しらす 
題知らす

与美比止之良寸 
よみ人しらす 
詠み人知らず

原文 止不也止天春幾奈幾也止尓幾尓个礼止己比之幾己止曽之留部奈利个留
定家 止不也止天春幾奈幾也止尓幾尓个礼止己比之幾己止曽之留部奈利个留
和歌 とふやとて すきなきやとに きにけれと こひしきことそ しるへなりける
解釈 訪ふやとて杉なき宿に来にけれど恋しきことぞしるべなりける

歌番号一〇〇八
毛乃以比和日天於无奈乃毛止尓以比也利个留
物以比和日天女乃毛止尓以比也利个留
物言ひわびて女のもとに言ひやりける

与美比止之良寸 
よみ人しらす 
詠み人知らず

原文 川由乃以乃知以川止毛志良奴与奈可尓奈止可川良之止於毛比遠可留々
定家 露乃以乃知以川止毛志良奴世中尓奈止可川良之止思遠可留々
和歌 つゆのいのち いつともしらぬ よのなかに なとかつらしと おもひおかるる
解釈 露の命いつとも知らぬ世の中になどかつらしと思ひ置かるる

歌番号一〇〇九
於无奈乃保可尓者部利个留遠曽己尓止遠之布留飛止毛
者部良左利个礼者己々呂川可良止不良日天者部利个留加部之己止尓
徒可者之个留
女乃保可尓侍个留遠曽己尓止遠之布留人毛
侍良左利个礼者心川可良止不良日天侍个留返己止尓
徒可者之个留
女のほかに侍りけるを、そこにと教ふる人も
はべらざりければ、心づから訪ひて侍りける返事に
つかはしける

与美比止之良寸 
よみ人しらす 
詠み人知らず

原文 加里飛止乃堂川奴留志可波以奈比乃尓安衣天乃美己曽安良万本之个礼
定家 加里人乃堂川奴留志可波以奈比乃尓安衣天乃美己曽安良万本之个礼
和歌 かりひとの たつぬるしかは いなみのに あはてのみこそ あらまほしけれ
解釈 狩り人の尋ぬる鹿は印南野に逢はでのみこそあらまほしけれ

歌番号一〇一〇
志乃比多留於无奈乃毛止与利奈止可遠止毛世奴止毛宇之多利个礼八
志乃比多留女乃毛止与利奈止可遠止毛世奴止申多利个礼八
忍びたる女のもとより、などか音もせぬと申たりければ

美幾乃於本以万宇知幾三
右大臣
右大臣

原文 遠也万多乃三川奈良奈久尓加久者可利奈可礼曽女天者多衣无毛乃可者
定家 遠山田乃水奈良奈久尓加久許流曽女天者多衣无物可者
和歌 をやまたの みつならなくに かくはかり なかれそめては たえむものかは
解釈 小山田の水ならなくにかくばかり流rそめては絶えんものかは

歌番号一〇一一
於止己乃満天己天安利/\天安女乃布留与夜
於本可佐遠己比尓川可者之多利个礼者
於止己乃満天己天安利/\天雨乃布留夜
於本可佐遠己比尓川可者之多利个礼者
男のまで来でありありて雨の降る夜、
大傘を乞ひにつかはしたりければ

己礼比良乃安曽无乃武寸女以万幾
己礼比良乃朝臣乃武寸女以万幾
これひらの朝臣のむすめいまき(藤原伊衡朝臣女今君)

原文 川幾尓多尓満川本止於本久寸幾奴礼者安女毛与尓己之止於毛本由留可奈
定家 月尓多尓満川本止於本久寸幾奴礼者雨毛与尓己之止於毛本由留哉
和歌 つきにたに まつほとおほく すきぬれは あめもよにこしと おもほゆるかな
解釈 月にだに待つほど多く過ぎぬれば雨もよに来じと思ほゆるかな

歌番号一〇一二
者之女天飛止尓川可八之个留
者之女天人尓川可八之个留
初めて人につかはしける

与美比止之良寸 
与美人之良寸
よみ人しらす 

原文 於毛比川々満多以比曽女奴和可己比遠於奈之己々呂尓志良世天之可奈
定家 思川々満多以比曽女奴和可己比遠於奈之心尓志良世天之哉
和歌 おもひつつ またいひそめぬ わかこひを おなしこころに しらせてしかな
解釈 思ひつつまだ言ひそめぬ我が恋を同じ心に知らせてしがな

歌番号一〇一三
伊比和川良日天也美尓个留遠万多於毛比以天々止不良日
者部利个礼者以止左多女奈幾己々呂可奈止以比天安寸可々者乃
己々呂遠以比川可八之天者部利个礼八
伊比和川良日天也美尓个留遠又思以天々止不良日
侍个礼者以止定奈幾心哉止以比天安寸可河乃
心遠以比川可八之天侍个礼八
言ひわづらひてやみにけるを、又思ひ出でて訪らひ
侍りければ、いと定めなき心かなと言ひて、飛鳥河の
心を言ひつかはして侍りければ

与美比止之良寸 
与美人之良寸
よみ人しらす 

原文 安寸可々者己々呂乃宇知尓奈可留礼者曽己乃志可良美以川可与止万无
定家 安寸可河心乃内尓奈可留礼者曽己乃志可良美以川可与止万无
和歌 あすかかは こころのうちに なかるれは そこのしからみ いつかよとまむ
解釈 飛鳥河心の内に流るれば底のしがらみいつか淀まん

歌番号一〇一四
於毛比可計多留於无奈乃毛止尓
思可計多留女乃毛止尓
思ひかけたる女のもとに

安左与利乃安曾无
安左与利乃朝臣
あさよりの朝臣(藤原朝頼)

原文 布之乃祢遠与曽尓曽幾々之以末者和可於毛日尓毛由留个布利奈利个利
定家 布之乃祢遠与曽尓曽幾々之今者和可思日尓毛由留煙奈利个利
和歌 ふしのねを よそにそききし いまはわか おもひにもゆる けふりなりけり
解釈 富士の嶺をよそにぞ聞きし今は我が思ひに燃ゆる煙なりけり

歌番号一〇一五
可部之 
返之 
返し

与美比止之良寸 
よみ人しらす 
詠み人知らず

原文 志留之奈幾於毛飛止曽幾久布之乃祢毛加己止者可利乃个布利奈留良无
定家 志留之奈幾思止曽幾久布之乃祢毛加己止許乃煙奈留良无
和歌 しるしなき おもひとそきく ふしのねも かことはかりの けふりなるらむ
解釈 しるしなき思ひとぞ聞く富士の嶺もかごとばかりの煙なるらん

歌番号一〇一六
以比加者之个留於止己乃於也以止以多宇世以寸止
幾々天武寸女乃以比川可者之个留
以比加者之个留於止己乃於也以止以多宇世以寸止
幾々天女乃以比川可者之个留
言ひ交しける男の親いといたう制すと
聞きて、女の言ひつかはしける

与美比止之良寸 
よみ人しらす 
詠み人知らず

原文 伊比左之天止々女良留奈留以个美川乃奈美以川可多尓於毛比与留良无
定家 伊比左之天止々女良留奈留池水乃波以川可多尓思与留良无
和歌 いひさして ととめらるなる いけみつの なみいつかたに おもひよるらむ
解釈 言ひさしてとどめらるなる池水の波いづかたに思ひ寄るらん

歌番号一〇一七
於奈之止己呂尓者部利个留飛止乃於毛不己々呂者部利个礼止
以者天志乃日个留遠以可奈留於利尓可安利个无
安多利尓加幾天於止之个累
於奈之所尓侍个留人乃思心侍个礼止
以者天志乃日个留遠以可奈留於利尓可安利个无
安多利尓加幾天於止之个累
同じ所に侍りける人の思ふ心侍りけれど、
言はで忍びけるをいかなる折にかありけん、
あたりに書きて落しける

与美比止之良寸 
よみ人しらす 
詠み人知らず

原文 志良礼之奈和可比止志礼奴己々呂毛天幾美遠於毛日乃奈可尓毛由止八
定家 志良礼之奈和可比止志礼奴心毛天君遠思日乃奈可尓毛由止八
和歌 しられしな わかひとしれぬ こころもて きみをおもひの なかにもゆとは
解釈 知られじな我が人知れぬ心もて君を思ひの中に燃ゆとは

歌番号一〇一八
己々呂左之遠者安者礼止於毛部止飛止女尓奈无川々武止
以比天者部利个礼者
心左之遠者安者礼止於毛部止人女尓奈无川々武止
以比天侍个礼者
心ざしをはあはれと思へど、人目になんつつむと
言ひて侍りければ

与美比止之良寸 
よみ人しらす 
詠み人知らず

原文 安不者可利奈久天乃美不留和可己比遠飛止女尓加久留己止乃和比之左
定家 安不者可利奈久天乃美不留和可己比遠人女尓加久留事乃和比之左
和歌 あふはかり なくてのみふる わかこひを ひとめにかくる ことのわひしさ
解釈 逢ふばかりなくてのみ経る我が恋を人目にかくる事のわびしさ

歌番号一〇一九
堂以之良寸 
題しらす 
題知らす

与美比止之良寸 
よみ人しらす 
詠み人知らず

原文 奈川己呂毛三尓者奈留止毛和可多女尓宇寸幾己々呂八加計寸毛安良奈无
定家 夏衣身尓者奈留止毛和可多女尓宇寸幾心八加計寸毛安良南
和歌 なつころも みにはなるとも わかために うすきこころは かけすもあらなむ
解釈 夏衣身には馴るとも我がために薄き心はかけずもあらなん

歌番号一〇二〇
堂以之良寸 
題しらす 
題知らす

与美比止之良寸 
よみ人しらす 
詠み人知らず

原文 以可尓之天己止加多良者无保止々幾寸奈計幾乃志多尓奈計者加比奈之
定家 以可尓之天事加多良者无郭公歎乃志多尓奈計者加比奈之
和歌 いかにして ことかたらはむ ほとときす なけきのしたに なけはかひなし
解釈 いかにして事語らはん郭公嘆きの下に鳴けばかひなし

歌番号一〇二一
堂以之良寸 
題しらす 
題知らす

与美比止之良寸 
よみ人しらす 
詠み人知らず

原文 於毛日川々遍尓个留止之遠志留部尓天奈礼奴留毛乃者己々呂奈利个利
定家 思日川々遍尓个留年遠志留部尓天奈礼奴留物者心奈利个利
和歌 おもひつつ へにけるとしを しるへにて なれぬるものは こころなりけり
解釈 思ひつつ経にける年をしるべにて慣れぬる物は心なりけり

歌番号一〇二二
布美奈止徒可者之个留於无奈乃己止於止己尓川幾者部利
个留尓川可八之个留
布美奈止徒可者之个留女乃己止於止己尓川幾侍
个留尓川可八之个留
文などつかはしける女の、異男につき侍り
けるにつかはしける

美奈毛止乃止々乃不
源止々乃不
源ととのふ(源整)

原文 和礼奈良奴飛止寸美乃衣乃幾志尓以天々奈尓者乃可多遠宇良武川留可奈
定家 我奈良奴人住乃江乃岸尓以天々奈尓者乃方遠怨川留哉
和歌 われならぬ ひとすみのえの きしにいてて なにはのかたを うらみつるかな
解釈 我ならぬ人住の江の岸に出でて難波の方を恨みつるかな

歌番号一〇二三
止々乃不加礼可多尓奈利者部利尓个礼者止々女遠幾多留
布衣遠徒可者寸止天
止々乃不加礼可多尓奈利侍尓个礼者止々女遠幾多留
布衣遠徒可者寸止天
整かれがたになり侍りにければ、留め置きたる
笛をつかはすとて

与美比止之良寸 
よみ人しらす 
詠み人知らず

原文 尓己利由久美川尓八可計乃三衣者己曽安之万与不衣遠止々女天毛三女
定家 尓己利由久水尓八影乃見衣者己曽安之万与不衣遠止々女天毛見女
和歌 にこりゆく みつにはかけの みえはこそ あしまよふえを ととめてもみめ
解釈 濁り行く水には影の見えばこそ葦まよふえを留めても見め

歌番号一〇二四
春可者良乃於保以万宇知幾美乃以部尓者部利个留武寸女尓
加与比者部利个留於止己奈可多衣天万多止日天者部利个礼八
菅原乃於保以万宇知幾美乃家尓侍个留女尓
加与比侍个留於止己奈可多衣天又止日天侍个礼八
菅原大臣の家に侍りける女に
通ひ侍りける男、仲絶えて、又訪ひて侍りければ

与美比止之良寸 
よみ人しらす 
詠み人知らず

原文 春可者良也布之見乃左堂乃安礼之与利加与比之飛止乃安止毛多衣尓幾
定家 菅原也伏見乃里乃安礼之与利加与比之人乃跡毛多衣尓幾
和歌 すかはらや ふしみのさとの あれしより かよひしひとの あともたえにき
解釈 菅原や伏見の里の荒れしより通ひし人の跡も絶えにき

歌番号一〇二五
武寸女乃於止己遠以止比天佐寸可尓以可々於保衣个无
以部利个留
女乃於止己遠以止比天佐寸可尓以可々於保衣个无
以部利个留
女の男を厭ひてさすがにいかがおぼえけん、
言へりける

与美比止之良寸 
よみ人しらす 
詠み人知らず

原文 知者也布留可美尓毛安良奴和可奈可乃久毛為者留可尓奈利毛由久可奈
定家 知者也布留神尓毛安良奴和可奈可乃雲井遥尓成毛由久哉
和歌 ちはやふる かみにもあらぬ わかなかの くもゐはるかに なりもゆくかな
解釈 ちはやぶる神にもあらぬ我が仲の雲居はるかになりも行くかな

歌番号一〇二六
可部之 
返之 
返し

与美比止之良寸 
よみ人しらす 
詠み人知らず

原文 知者也不留可美尓毛奈尓々堂止不良无遠乃礼久毛為尓飛止遠奈之川々
定家 千早振神尓毛何尓堂止不良无遠乃礼久毛為尓人遠奈之川々
和歌 ちはやふる かみにもなにに たとふらむ おのれくもゐに ひとをなしつつ
解釈 ちはやぶる神にも何にたとふらん己れ雲居に人をなしつつ

歌番号一〇二七
於无奈美川乃美己尓
女三乃美己尓
女三内親王に

安徒与之乃美己
安徒与之乃美己
あつよしのみこ(敦慶親王)

原文 宇幾志川美布知世尓左波久尓本止利者曽己毛乃止可尓安良之止曽於毛不
定家 宇幾志川美布知世尓左波久尓本止利者曽己毛乃止可尓安良之止曽思
和歌 うきしつみ ふちせにさわく にほとりは そこものとかに あらしとそおもふ
解釈 浮き沈み淵瀬に騒ぐ鳰鳥はそこものどかにあらじとぞ思ふ

歌番号一〇二八
加比尓飛止乃毛乃以不止幾々天
加比尓人乃毛乃以不止幾々天
甲斐に人の物言ふと聞きて

布知八良乃毛利布三
藤原守文
藤原守文

原文 万川也末尓奈美多可幾遠止曽幾己由奈留和礼与利己由留飛止者安良之遠
定家 松山尓浪多可幾遠止曽幾己由奈留我与利己由留人者安良之遠
和歌 まつやまに なみたかきおとそ きこゆなる われよりこゆる ひとはあらしを
解釈 松山に浪高き音ぞ聞こゆなる我より越ゆる人はあらじを

歌番号一〇二九
於止己乃毛止尓安女布留与加左遠也利天与日个礼止
己左利个礼者
於止己乃毛止尓雨布留夜加左遠也利天与日个礼止
己左利个礼者
男のもとに雨降る夜、傘をやりて呼びけれど、
来ざりければ

与美比止之良寸 
よみ人しらす 
詠み人知らず

原文 佐之天己止於毛比之毛乃遠三加左也末加比奈久安女乃毛利尓个留可奈
定家 佐之天己止思之物遠三加左山加比奈久雨乃毛利尓个留哉
和歌 さしてこと おもひしものを みかさやま かひなくあめの もりにけるかな
解釈 さして来と思ひし物を三笠山かひなく雨の漏りにけるかな

歌番号一〇三〇
可部之 
返之 
返し

与美比止之良寸 
よみ人しらす 
詠み人知らず

原文 毛累女乃美安万多三由礼者美可左也末志留/\以可々佐之天由久部幾
定家 毛累女乃美安万多見由礼者美可左山志留/\以可々佐之天由久部幾
和歌 もるめのみ あまたみゆれは みかさやま しるしるいかか さしてゆくへき
解釈 もる目のみあまた見ゆれば三笠山知る知るいかがさして行くべき

歌番号一〇三一
於无奈乃毛止与利以止以多久奈於毛比和比曽止多乃女遠己
世天者部利个礼者
女乃毛止与利以止以多久奈思和比曽止多乃女遠己
世天侍个礼者
女のもとより、いといたくな思ひわびそと頼めおこ
せて侍りければ

与美比止之良寸 
よみ人しらす 
詠み人知らず

原文 奈久佐武留己止乃波尓多尓加々良寸八以末毛計奴部幾川由以乃知遠
定家 奈久佐武留己止乃波尓多尓加々良寸八今毛計奴部幾露乃命遠
和歌 なくさむる ことのはにたに かからすは いまもけぬへき つゆのいのちを
解釈 慰むる言の葉にだにかからずは今も消ぬべき露の命を

歌番号一〇三二
毛止与之乃美己乃美曽可尓春美者部利个留以末己武止
堂乃女天己寸奈利尓个礼者
元良乃美己乃美曽可尓春美侍个留今己武止
堂乃女天己寸奈利尓个礼者
元良親王のみそかに住み侍りける、今、来むと
頼めて来ずなりにければ

飛与宇恵
兵衛
兵衛

原文 飛止之礼寸満川尓祢良礼奴安利安計乃川幾尓佐部己曽安左武可礼个連
定家 飛止之礼寸満川尓祢良礼奴晨明乃月尓佐部己曽安左武可礼个連
和歌 ひとしれす まつにねられぬ ありあけの つきにさへこそ あさむかれけれ
解釈 人知れず待つに寝られぬ有明の月にさへこそ欺かれけれ

歌番号一〇三三
志乃比天寸美者部利个留飛止乃毛止与利加々留个之幾
飛止尓三春奈止以部利个礼八
志乃比天寸美侍个留人乃毛止与利加々留个之幾
人尓見春奈止以部利个礼八
忍びて住み侍りける人のもとより、かかる気色、
人に見すなと言へりければ

毛止可多
毛止可多
もとかた(在原元方)

原文 多川多可者多知奈者幾美可奈遠々之美以者世乃毛利乃以者之止曽於毛不
定家 龍田河多知奈者君可名遠々之美以者世乃毛利乃以者之止曽思
和歌 たつたかは たちなはきみか なををしみ いはせのもりの いはしとそおもふ
解釈 龍田河立ちなば君が名を惜しみ岩瀬の森の言はじとぞ思ふ

歌番号一〇三四
宇多為无尓者部利个留飛止尓世宇曽己川可者之个留
可部之己止毛者部良左利个礼者
宇多院尓侍个留人尓世宇曽己川可者之个留
返事毛侍良左利个礼者
宇多院に侍りける人に消息つかはしける、
返事もはべらざりければ

与美比止之良寸 
よみ人しらす 
詠み人知らず

原文 宇多乃々波美々奈之也末可与不己止利与不己恵尓多尓己多部左留良无
定家 宇多乃々波美々奈之山可与不己鳥与不己恵尓多尓己多部左留良无
和歌 うたののは みみなしやまか よふことり よふこゑにたに こたへさるらむ
解釈 宇多の野は耳なし山か呼子鳥呼ぶ声にだに答へざるらん

歌番号一〇三五
可部之 
返之 
返し

於无奈以川乃美己
女五乃美己
女五のみこ(女五内親王)

原文 美々奈之乃也末奈良寸止毛与不己止利奈尓可八幾可无止幾奈良奴祢遠
定家 耳奈之乃山奈良寸止毛与不己止利何可八幾可无時奈良奴祢遠
和歌 みみなしの やまならすとも よふことり なにかはきかむ ときならぬねを
解釈 耳なしの山ならずとも呼子鳥何かは聞かん時ならぬ音を

歌番号一〇三六
徒礼奈久者部利个留人尓
徒礼奈久侍个留人尓
つれなく侍りける人に

堂々美祢
堂々美祢
たたみね(壬生忠岑)

原文 己飛和日天志奴天不己止者満多奈幾遠与乃多女之尓毛奈利奴部幾可奈
定家 己飛和日天志奴天不己止者満多奈幾遠世乃多女之尓毛奈利奴部幾哉
和歌 こひわひて しぬてふことは またなきを よのためしにも なりぬへきかな
解釈 恋ひわびて死ぬてふことはまだなきを世のためしにもなりぬべきかな

歌番号一〇三七
堂知与利个留尓於无奈尓个天以利个礼者川可八之个留
堂知与利个留尓女尓个天以利个礼者川可八之个留
立ち寄りけるに、女逃げて入りければつかはしける

与美比止之良寸 
よみ人しらす 
詠み人知らず

原文 可个三礼者於久部以利个留幾美尓与利奈止可奈美多乃止部者以川良无
定家 影見礼者於久部以利个留君尓与利奈止可涙乃止部者以川良无
和歌 かけみれは おくへいりける きみにより なとかなみたの とへはいつらむ
解釈 影見れば奥へ入りける君によりなどか涙の外へは出づらん

歌番号一〇三八
安比尓个留於无奈乃万多安者佐利个礼者
安比尓个留女乃万多安者佐利个礼者
逢ひにける女の、又逢はざりければ

与美比止之良寸 
よみ人しらす 
詠み人知らず

原文 志良佐利之止幾多尓己衣之安不佐可遠奈止以末佐良尓和礼万与不良无
定家 志良佐利之時多尓己衣之相坂遠奈止今更尓和礼迷覧
和歌 しらさりし ときたにこえし あふさかを なといまさらに われまよふらむ
解釈 知らざりし時だに越えじ相坂をなど今更に我まどふらん

歌番号一〇三九
於无奈乃毛止尓万可利曽女天安之多尓
女乃毛止尓万可利曽女天安之多尓
女のもとにまかりそめて、朝に

布知八良乃加計毛止
藤原加計毛止
藤原かけもと(藤原蔭基)

原文 安可寸之天万久良乃宇部尓和可礼尓之由女知遠万多毛多川祢天之可奈
定家 安可寸之天枕乃宇部尓別尓之由女知遠又毛多川祢天之哉
和歌 あかすして まくらのうへに わかれにし ゆめちをまたも たつねてしかな
解釈 あかずして枕の上に別れにし夢路を又も訪ねてしがな

歌番号一〇四〇
越止己乃止者寸奈利尓个礼者
越止己乃止者寸奈利尓个礼者
男の訪はずなりにければ

与美比止之良寸 
よみ人しらす 
詠み人知らず

原文 遠止毛世寸奈利毛由久可奈春々加也万己由天不奈乃美多可久多知徒々
定家 遠止毛世寸奈利毛由久哉春々加山己由天不奈乃美多可久多知徒々
和歌 おともせす なりもゆくかな すすかやま こゆてふなのみ たかくたちつつ
解釈 音もせずなりも行くかな鈴鹿山越ゆてふ名のみ高く立ちつつ

歌番号一〇四一
可部之 
返之 
返し

与美比止之良寸 
よみ人しらす 
詠み人知らず

原文 己衣奴天不奈遠奈宇良美曽寸々可也万以止々満知可久奈良无止於毛不遠
定家 己衣奴天不名遠奈宇良美曽寸々可山以止々満知可久奈良无止思遠
和歌 こえぬてふ なをなうらみそ すすかやま いととまちかく ならむとおもふを
解釈 越えぬてふ名をな恨みそ鈴鹿山いとど間近くならんと思ふを

歌番号一〇四二
於无奈尓毛乃以者无止天幾多利个礼止己止飛止尓毛乃以比
个礼者可部利天
女尓物以者无止天幾多利个礼止己止人尓物以比
个礼者可部利天
女に物言はんとて来たりけれど、異人に物言ひ
ければ、帰りて

与美比止之良寸 
よみ人しらす 
詠み人知らず

原文 和可多女尓加川者徒良之止見也万木乃己利止毛己利奴加々留己比世之
定家 和可多女尓加川者徒良之止見山木乃己利止毛己利奴加々留己比世之
和歌 わかために かつはつらしと みやまきの こりともこりぬ かかるこひせし
解釈 我がためにかつはつらしと深山木の樵りとも懲りぬかかる恋せじ

歌番号一〇四三
可部之 
返之 
返し

与美比止之良寸 
よみ人しらす 
詠み人知らず

原文 安不己奈幾三止者志留/\己比寸止天奈計幾己利川武飛止八与幾可八
定家 安不己奈幾身止者志留/\恋寸止天歎己利川武人八与幾可八
和歌 あふこなき みとはしるしる こひすとて なけきこりつむ ひとはよきかは
解釈 あふごなき身とは知る知る恋すとて嘆きこりつむ人はよきかは

歌番号一〇四四
飛止尓徒可者之个留
人尓徒可者之个留
人につかはしける

加為世无保宇之
戒仙法師
戒仙法師

原文 安佐己止尓川由者遠个止毛飛止己不留和可己止乃者々以呂毛加八良寸
定家 安佐己止尓露者遠个止毛人己不留和可事乃者々色毛加八良寸
和歌 あさことに つゆはおけとも ひとこふる わかことのはは いろもかはらす
解釈 朝ごとに露は置けども人恋ふる我が言の葉は色も変らず

歌番号一〇四五
幾天毛乃以比个留比止乃於保可多者武川万之加利
个礼止知可宇者衣安良寸之天
幾天毛乃以比个留比止乃於保可多者武川万之加利
个礼止知可宇者衣安良寸之天
来て物言ひける人の、おほかたはむつましかり
けれど、近うはえあらずして

与美比止之良寸 
よみ人しらす 
詠み人知らず

原文 満知可久天川良幾遠三留者宇个礼止毛宇幾者毛乃可者己日之幾与利八
定家 満知可久天川良幾遠見留者宇个礼止毛宇幾者物可者己日之幾与利八
和歌 まちかくて つらきをみるは うけれとも うきはものかは こひしきよりは
解釈 間近くてつらきを見るは憂けれども憂きは物かは恋しきよりは

歌番号一〇四六
於无奈乃毛止尓川可八之个留
女乃毛止尓川可八之个留
女のもとにつかはしける

布知八良乃左祢多々
藤原左祢多々
藤原さねたた(藤原真忠)

原文 徒久之奈留於毛日曽女可者和多利奈八美川也万佐良无与止武止幾奈久
定家 徒久之奈留思日曽女河和多利奈八水也万佐良无与止武時奈久
和歌 つくしなる おもひそめかは わたりなは みつやまさらむ よとむときなく
解釈 筑紫なる思ひ染河渡りなば水やまさらん淀む時なく

歌番号一〇四七
可部之 
返之 
返し

与美比止之良寸 
よみ人しらす 
詠み人知らず

原文 和多利天者安多尓奈留天不曾女可者乃己々呂川久之尓奈利毛己曽寸礼
定家 渡天者安多尓奈留天不染河乃心川久之尓奈利毛己曽寸礼
和歌 わたりては あたになるてふ そめかはの こころつくしに なりもこそすれ
解釈 渡りてはあだになるてふ染河の心つくしになりもこそすれ

歌番号一〇四八
於止己乃毛止与利者奈左可利尓己武止以比天己左利个礼八
於止己乃毛止与利花左可利尓己武止以比天己左利个礼八
男のもとより「花盛りに来む」と言ひて来ざりければ

与美比止之良寸 
よみ人しらす 
詠み人知らず

原文 者奈左可利寸久之々飛止者徒良个礼止己止乃波遠左部加久之也八世无
定家 花左可利寸久之々人者徒良个礼止事乃波遠左部加久之也八世无
和歌 はなさかり すくししひとは つらけれと ことのはをさへ かくしやはせむ
解釈 花盛り過ごし人はつらけれど言の葉をさへかくしやはせん

歌番号一〇四九
越止己乃飛佐之宇止者左利个礼者
越止己乃飛佐之宇止者左利个礼者
男の久しう訪はざりければ

宇己无
右近
右近

原文 止不己止遠満徒尓川幾比者己由留幾乃以曽尓也以天々以末者宇良見无
定家 止不己止遠満徒尓月日者己由留木乃以曽尓也以天々今者宇良見无
和歌 とふことを まつにつきひは こゆるきの いそにやいてて いまはうらみむ
解釈 訪ふことを待つに月日はこゆるぎの磯にや出でて今は恨みん

歌番号一〇五〇
安飛之利天者部利个留飛止乃毛止尓比左之宇万可良
左利个礼者和寸令久佐奈尓遠可多祢止於毛比之波止
以不己止遠以比川可者之多利个礼者
安飛之利天侍个留人乃毛止尓比左之宇万可良
左利个礼者忘草奈尓遠可多祢止思之波止
以不己止遠以比川可者之多利个礼者
あひ知りて侍りける人のもとに久しうまから
ざりければ、忘草なにをか種と思ひしはと
言ふことを言ひつかはしたりければ

与美比止之良寸 
よみ人しらす 
詠み人知らず

原文 和寸令久佐奈遠毛由々之美加利尓天毛於不天不也止八由幾天多尓三之
定家 忘草名遠毛由々之美加利尓天毛於不天不也止八由幾天多尓見之
和歌 わすれくさ なをもゆゆしみ かりにても おふてふやとは ゆきてたにみし
解釈 忘草名をもゆゆしみかりにても生ふてふ宿は行きてだに見じ

歌番号一〇五一
可部之 
返之 
返し

与美比止之良寸 
よみ人しらす 
詠み人知らず

原文 宇幾己止乃志个幾也止尓者王寸礼久左宇部天多尓三之安幾曽和日之幾
定家 宇幾己止乃志个幾也止尓者忘草宇部天多尓見之秋曽和日之幾
和歌 うきことの しけきやとには わすれくさ うゑてたにみし あきそわひしき
解釈 憂きことのしげき宿には忘草植ゑてだに見じ秋ぞわびしき

歌番号一〇五二
於无奈止毛呂止毛尓者部利天
女止毛呂止毛尓侍天
女と、もろともに侍りて

与美比止之良寸 
よみ人しらす 
詠み人知らず

原文 加寸志良奴於毛日者幾美尓安留毛乃遠々幾止己呂奈幾己々知己曽寸礼
定家 加寸志良奴思日者君尓安留物遠々幾所奈幾心地己曽寸礼
和歌 かすしらぬ おもひはきみに あるものを おきところなき ここちこそすれ
解釈 数知らぬ思ひは君にあるものを置き所なき心地こそすれ

歌番号一〇五三
可部之 
返之 
返し

与美比止之良寸 
よみ人しらす 
詠み人知らず

原文 遠幾止己呂奈幾於毛日止之幾々川礼八和礼尓以久良毛安良之止曽於毛不
定家 遠幾所奈幾思日止之幾々川礼八我尓以久良毛安良之止曽思
和歌 おきところ なきおもひとし ききつれは われにいくらも あらしとそおもふ
解釈 置き所なき思ひとし聞きつれば我にいくらもあらじとぞ思ふ

歌番号一〇五四
毛止奈可乃美己尓奈川乃佐宇曽久之天遠久留止天曽部多利个留
元長乃美己尓夏乃佐宇曽久之天遠久留止天曽部多利个留
元長親王に夏の装束して贈るとてそへたりける

奈武為无乃乃利乃豆加佐乃加美乃美己乃武寸女
南院式部卿乃美己乃武寸女
南院式部卿のみこのむすめ(南院式部卿親王女)

原文 和可多知天幾留己曽宇个礼奈川己呂毛於保可多止乃美三部幾宇寸左遠
定家 和可多知天幾留己曽宇个礼夏衣於保可多止乃美見部幾宇寸左遠
和歌 わかたちて きるこそうけれ なつころも おほかたとのみ みへきうすさを
解釈 我が裁ちて着るこそ憂けれ夏衣おほかたとのみ見べき薄さを

歌番号一〇五五
飛佐之宇止者佐利个留飛止乃於毛比以天々己与比
万宇天己无加止左々天安比万天止毛宇寸天万天
己左利个礼者
飛佐之宇止者佐利个留人乃思以天々己与比
万宇天己无加止左々天安比万天止申天万天
己左利个礼者
久しう訪はざりける人の思ひ出でて、今宵
まうで来ん。門鎖さであひまてと申してまで
来ざりければ

与美比止之良寸 
よみ人しらす 
詠み人知らず

原文 也部武久良佐之天之可止遠以末左良尓奈尓々久也之久安計天万知个无
定家 也部武久良佐之天之門遠今更尓何尓久也之久安計天万知个无
和歌 やへむくら さしてしかとを いまさらに なににくやしく あけてまちけむ
解釈 八重葎や鎖してし門を今更に何に悔しく開けて待ちけん

歌番号一〇五六
飛止遠以比和川良比天己止飛止尓安比者部利天乃知以可々
安利个无者之女乃飛止尓於毛比可部利天本止部尓个礼八
布美八也良寸之天遠保幾尓多可佐己乃加多加幾多留尓
徒个天川可者之个留
人遠以比和川良比天己止人尓安比侍天乃知以可々
安利个无者之女乃人尓思可部利天本止部尓个礼八
布美八也良寸之天扇尓多可佐己乃加多加幾多留尓
徒个天川可者之个留
人を言ひわづらひて、異人にあひ侍りて後、いかが
ありけん、初めの人に思ひかへりて、ほど経にければ、
文はやらずして、扇に高砂のかた描きたるに
つけてつかはしける

美奈毛堂乃毛呂安幾良乃安曾无
源庶明朝臣
源庶明朝臣

原文 佐遠之可乃川万奈幾己比遠多可左己乃於乃部乃己万川幾々毛以礼奈无
定家 佐遠之可乃川万奈幾己比遠高砂乃於乃部乃己松幾々毛以礼奈无
和歌 さをしかの つまなきこひを たかさこの をのへのこまつ ききもいれなむ
解釈 さを鹿の妻なき恋を高砂の尾上の小松聞きも入れなん

歌番号一〇五七
可部之 
返之 
返し

与美比止之良春 
よみ人しらす 
詠み人知らず

原文 左乎志可乃己衣多可左己尓幾己江之者川万奈幾止幾乃祢尓己曽安利个連
定家 左乎志可乃声高砂尓幾己江之者川万奈幾時乃祢尓己曽有个連
和歌 さをしかの こゑたかさこに きこえしは つまなきときの ねにこそありけれ
解釈 さを鹿の声高砂に聞こえしは妻なき時の音にこそ有りけれ

歌番号一〇五八
於毛不飛止尓衣安比者部良天和寸良礼尓个礼八
思不人尓衣安比侍良天和寸良礼尓个礼八
思ふ人にえ逢ひはべらで忘られにければ

与美比止之良寸 
よみ人しらす 
詠み人知らず

原文 世幾毛安部寸奈美多乃可八乃世遠者也美加々良武毛乃止於毛比也八世之
定家 世幾毛安部寸涙乃河乃世遠者也美加々良武物止思也八世之
和歌 せきもあへす なみたのかはの せをはやみ かからむものと おもひやはせし
解釈 せきもあへず涙の河のせ瀬を早みかからむ物と思ひやはせし

歌番号一〇五九
堂以之良寸 
題しらす 
題知らす

与美比止之良春 
よみ人しらす 
詠み人知らず

原文 勢遠者也三堂衣春奈可留々美川与利毛多衣世奴毛乃者己比尓曽安利个留
定家 勢遠者也三堂衣春奈可留々水与利毛多衣世奴物者己比尓曽有个留
和歌 せをはやみ たえすなかるる みつよりも たえせぬものは こひにそありける
解釈 瀬を早み絶えず流るる水よりも絶えせぬ物は恋にぞ有りける

歌番号一〇六〇
堂以之良寸 
題しらす 
題知らす

与美比止之良春 
よみ人しらす 
詠み人知らず

原文 己布礼止毛安不与奈幾三者和寸礼久左由女知尓左部也於以之个留良无
定家 己布礼止毛安不与奈幾身者忘草夢地尓左部也於以之个留良无
和歌 こふれとも あふよなきみは わすれくさ ゆめちにさへや おひしけるらむ
解釈 恋ふれども逢ふ夜なき身は忘草夢路にさへや生ひ繁るらん

歌番号一〇六一
堂以之良寸 
題しらす 
題知らす

与美比止之良春 
よみ人しらす 
詠み人知らず

原文 与乃奈可乃宇幾者奈部天毛奈可利个利多乃武可幾利曽宇良美良礼个留
定家 世中乃宇幾者奈部天毛奈可利个利多乃武限曽怨良礼个留
和歌 よのなかの うきはなへても なかりけり たのむかきりそ うらみられける
解釈 世の中の憂きはなべてもなかりけり頼む限りぞ恨みられける

歌番号一〇六二
堂乃女多利个留飛止尓
堂乃女多利个留人尓
頼めたりける人に

与美比止之良春 
よみ人しらす 
詠み人知らず

原文 由不左礼者於毛日曽志个幾満川飛止乃己武也己志也乃左多女奈个礼八
定家 由不左礼者思日曽志个幾満川人乃己武也己志也乃定奈个礼八
和歌 ゆふされは おもひそしけき まつひとの こむやこしやの さためなけれは
解釈 夕されば思ひぞしげき待つ人の来むや来じやの定めなければ

歌番号一〇六三
於无奈尓川可八之个留
女尓川可八之个留
女につかはしける

美奈毛堂乃与之乃々安曾无
源与之乃朝臣
源よしの朝臣(源善)

原文 以止者礼天加部利己之知乃志良也末者以良奴尓万由不毛乃尓曽安利个留
定家 以止者礼天加部利己之知乃志良山者以良奴尓迷物尓曽有个留
和歌 いとはれて かへりこしちの しらやまは いらぬにまよふ ものにそありける
解釈 厭はれて帰り越路の白山は入らぬにまどふ物にぞ有りける

歌番号一〇六四
堂以之良寸 
題しらす 
題知らす

与三飛止毛
与三人毛
よみ人も

原文 飛止奈美尓安良奴和可三八奈尓者奈留安之乃祢乃美曽志多尓奈可留々
定家 人浪尓安良奴和可身八奈尓者奈留安之乃祢乃美曽志多尓奈可留々
和歌 ひとなみに あらぬわかみは なにはなる あしのねのみそ したになかるる
解釈 人並みにあらぬ我が身は難波なる葦の根のみぞ下に泣かるる

歌番号一〇六五
堂以之良寸 
題しらす 
題知らす

与三飛止毛
与三人毛
よみ人も

原文 志良久毛乃由久部幾也万者佐多万良寸於毛不可多尓毛可世者与世奈无
定家 白雲乃由久部幾山者佐多万良寸思不方尓毛風者与世奈无
和歌 しらくもの ゆくへきやまは さたまらす おもふかたにも かせはよせなむ
解釈 白雲の行くべき山は定まらず思ふ方にも風は寄せなん

歌番号一〇六六
堂以之良寸 
題しらす 
題知らす

与三飛止毛
与三人毛
よみ人も

原文 与乃奈可尓奈保安利安个乃川幾奈久天也美尓万与不遠止八奴川良之奈
定家 世中尓猶有安个乃月奈久天也美尓迷遠止八奴川良之奈
和歌 よのなかに なほありあけの つきなくて やみにまよふを とはぬつらしな
解釈 世の中になほ有明けの月なくて闇にまどふを訪はぬつらしな

歌番号一〇六七
佐多万良奴己々呂安利止於无奈乃以日多利个礼八徒可八之个留
佐多万良奴心安利止女乃以日多利个礼八徒可八之个留
定まらぬ心ありと女の言ひたりければ、つかはしける

於久留於保萬豆利古止乃於保萬豆岐美
贈太政大臣
贈太政大臣

原文 安寸可々者世幾天止々武留毛乃奈良波布知世止奈留止奈止可以者礼无
定家 安寸可河世幾天止々武留物奈良波布知世止奈留止奈止可以者礼无
和歌 あすかかは せきてととむる ものならは ふちせになると なとかいはれむ
解釈 飛鳥河せきてとどむる物ならば淵瀬になるとなどか言はれん

歌番号一〇六八
飛佐之宇満可利可与八寸奈利尓个礼八可武奈川幾者可利尓
由幾乃寸己之布利多留安之多尓以比者部利个留
飛佐之宇満可利可与八寸奈利尓个礼八十月許尓
雪乃寸己之布利多留安之多尓以比侍个留
久しうまかり通はずなりにければ、十月ばかりに
雪の少し降りたる朝に言ひ侍りける

宇己无
右近
右近

原文 三遠徒免者安者礼止曽於毛不者川由幾乃布利奴留己止毛多礼尓以者万之
定家 身遠徒免者安者礼止曽思者川雪乃布利奴留己止毛多礼尓以者万之
和歌 みをつめは あはれとそおもふ はつゆきの ふりぬることも たれにいはまし
解釈 身をつめばあはれとぞ思ふ初雪の降りぬることも誰れに言はまし

歌番号一〇六九
美奈毛止乃堂々安幾良乃安曾无可武奈川幾者可利尓止己奈川遠
於利天遠久利天者部利个礼者
源堂々安幾良乃朝臣十月許尓止己奈川遠
於利天遠久利天侍个礼者
源正明朝臣、十月ばかりに、
常夏を折りて贈りて侍りければ

与美比止之良寸 
よみ人しらす 
詠み人知らず

原文 布由奈礼止幾美可々幾本尓佐幾个礼者武部止己奈川尓己比之可利个利
定家 冬奈礼止君可々幾本尓佐幾个礼者武部止己夏尓己比之可利个利
和歌 ふゆなれと きみかかきほに さきけれは うへとこなつに こひしかりけり
解釈 冬なれど君が垣ほに咲きければむべ常夏に恋しかりけり

歌番号一〇七〇
於无奈乃宇良武留己止安利天於也乃毛止尓満可利和多利
天者部利个留尓由幾乃布可久奈利天者部利个礼八
安之多尓於无奈乃武可部尓久留万徒可者之个留
世宇曽己尓久波部天徒可者之个留
女乃宇良武留己止安利天於也乃毛止尓満可利渡
天侍个留尓雪乃布可久奈利天侍个礼八
安之多尓女乃武可部尓久留万徒可者之个留
世宇曽己尓久波部天徒可者之个留
女の、恨むることありて親のもとにまかり渡り
て侍りけるに、雪の深く降りて侍りければ、
朝に女の迎へに車つかはしける
消息に加へてつかはしける

加祢寸計乃安曾无
加祢寸計乃朝臣
かねすけの朝臣(藤原兼輔)

原文 志良由幾乃計左者川毛礼留於毛日可奈安者天不留与乃本止毛部奈久尓
定家 白雪乃計左者川毛礼留思日哉安者天不留夜乃本止毛部奈久尓
和歌 しらゆきの けさはつもれる おもひかな あはてふるよの ほともへなくに
解釈 白雪の今朝は積もれる思ひかな逢はで降る夜のほども経なくに

歌番号一〇七一
可部之 
返之 
返し

与美比止之良寸 
よみ人しらす 
詠み人知らず

原文 志良由幾乃川毛留於毛日毛堂乃万礼寸者留与利乃知者安良之止於毛部八
定家 志良由幾乃川毛留思日毛堂乃万礼寸春与利乃知者安良之止於毛部八
和歌 しらゆきの つもるおもひも たのまれす はるよりのちは あらしとおもへは
解釈 白雪の積もる思ひも頼まれず春より後はあらじと思へば

歌番号一〇七二
己々呂左之者部利於无奈美也徒可部之者部利个礼者安不己止可
多久天者部利个留尓由幾乃不留尓川可八之个留
心左之侍女美也徒可部之侍个礼者安不己止可
多久天侍个留尓由幾乃不留尓川可八之个留
心ざし侍る女、宮仕へし侍りければ、逢ふことか
たくて侍りけるに、雪の降るにつかはしける

与美比止之良寸 
よみ人しらす 
詠み人知らず

原文 和可己飛之幾美可安多利遠者奈礼祢八布留志良由幾毛曽良尓幾由良无
定家 和可己飛之君可安多利遠者奈礼祢八布留白雪毛曽良尓幾由良无
和歌 わかこひし きみかあたりを はなれねは ふるしらゆきも そらにきゆらむ
解釈 我が恋ひし君があたりを離れねば降る白雪も空に消ゆらん

歌番号一〇七三
可部之 
返之 
返し

与美比止之良寸 
よみ人しらす 
詠み人知らず

原文 也万可久礼幾衣世奴由幾乃和比之幾者幾美万川乃者尓加々利天曽布留
定家 山可久礼幾衣世奴雪乃和比之幾者君万川乃者尓加々利天曽布留
和歌 やまかくれ きえせぬゆきの わひしきは きみまつのはに かかりてそふる
解釈 山隠れ消えせぬ雪のわびしきは君松の葉にかかりてぞ降る

歌番号一〇七四
毛乃以比者部利个留於无奈尓止之乃者天乃己呂本比川可者
之个留
物以比侍个留女尓年乃者天乃己呂本比川可者
之个留
物言ひ侍りける女に、年の果てのころほひつかは
しける

布知八良乃止幾布留
藤原止幾布留
藤原ときふる(藤原時雨)

原文 安良多万乃止之者个不安寸己衣奴部之安不左可也万遠和礼也遠久礼无
定家 安良多万乃年者个不安寸己衣奴部之相坂山遠我也遠久礼无
和歌 あらたまの としはけふあす こえぬへし あふさかやまを われやおくれむ
解釈 あらたまの年は今日明日越えぬべし相坂山を我や遅れん

コメント
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