竹取翁と万葉集のお勉強

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後撰和歌集(原文推定、翻文、解釈付)巻十五

2020年09月20日 | 後撰和歌集 原文推定
後撰和歌集(原文推定、翻文、解釈付)
止遠末利以川末幾仁安多留未幾
巻十五

久左久左乃宇多比止
雑歌一

歌番号一〇七五
尓武奈乃美可止左可乃於保武止乃多女之尓天
世利可八尓美由幾之多万比个留飛
仁和乃美可止嵯峨乃御時乃例尓天世利河尓
行幸之多万比个留日
仁和帝、嵯峨の御時の例にて
芹河に行幸したまひける日

安利八良乃由幾比良乃安曾无
在原行平朝臣
在原行平朝臣

原文 左可乃也万美由幾堂衣尓之世利可八乃知与乃布留美知安止者安利个利
定家 嵯峨乃山美由幾堂衣尓之世利河乃千世乃布留美知安止者有个利
和歌 さかのやま みゆきたえにし せりかはの ちよのふるみち あとはありけり
解釈 嵯峨の山行幸絶えにし芹河の千世の古道跡は有りけり

歌番号一〇七六
於奈之飛堂可々比尓天加利幾奴乃多毛止尓
徒累乃加多遠奴日天加幾川計多利个留
於奈之日堂可々比尓天加利幾奴乃多毛止尓
徒累乃加多遠奴日天加幾川計多利个留
同じ日、鷹飼ひにて狩衣の袂に
鶴のかたを縫ひて、書きつけたりける

安利八良乃由幾比良乃安曾无
在原行平朝臣
在原行平朝臣

原文 於幾奈左比飛止奈止可女曽可利幾己呂毛遣不者可利止曽堂川毛奈久奈留
定家 於幾奈左比人奈止可女曽狩衣遣不許止曽堂川毛奈久奈留
和歌 おきなさひ ひとなとかめそ かりころも けふはかりとそ たつもなくなる
解釈 翁さび人なとがめそ狩衣今日ばかりとぞ田鶴も鳴くなる

/美由幾乃万多乃飛奈无知志乃部宇堂天万川利个留
/行幸乃又乃日奈无致仕乃表多天万川利个流
/行幸の又の日なん致仕の表たてまつりける

歌番号一〇七七
幾乃止毛乃利満多徒可左堂万者良左利个留止幾時
己止乃徒以天者部利天止之者以久良者可利尓可奈利奴留止
止比者部利个礼者与曾安万利尓奈无奈利奴留止毛宇志个礼八
紀友則満多徒可左堂万者良左利个留時
己止乃徒以天侍天年者以久良許尓可奈利奴留止
止比侍个礼者四十余尓奈无奈利奴留止申个礼八
紀友則まだ官たまはらざりける時、
ことのついで侍りて、年はいくらばかりにかなりぬると
問ひ侍りければ、四十余になんなりぬると申ければ

於久留於保萬豆利古止乃於保萬豆岐美
贈太政大臣
贈太政大臣

原文 以末万天尓奈止可波者奈乃佐可寸之天与曽止世安万利止之幾利者寸留
定家 今万天尓奈止可波花乃佐可寸之天与曽止世安万利年幾利者寸留
和歌 いままてに なとかははなの さかすして よそとせあまり としきりはする
解釈 今までになどかは花の咲かずして四十年余り年ぎりはする

歌番号一〇七八
可部之 
返之 
返し

止毛乃利
止毛乃利
とものり(紀友則)

原文 者累/\乃加寸者和寸礼寸安利奈可良者奈左可奴幾遠奈尓々宇部个无
定家 者累/\乃加寸者和寸礼寸有奈可良花左可奴木遠奈尓々宇部个无
和歌 はるはるの かすはわすれす ありなから はなさかぬきを なににうゑけむ
解釈 はるばるの数は忘れず有りながら花咲かぬ木を何に植ゑけん

歌番号一〇七九
曽止乃川可比尓志波/\満可利安利幾天止乃宇部於利天
者部利个留止幾加祢寸計乃安曾无乃毛止尓遠久利者部利个留
外吏尓志波/\満可利安利幾天殿上於利天
侍个留時加祢寸計乃朝臣乃毛止尓遠久利侍个留
外吏にしばしばまかりありきて、殿上下りて
侍りける時、兼輔朝臣のもとに贈り侍りける

多比良乃奈加幾
平中興
平中興

原文 与止々毛尓美祢部布毛止部於利乃本利由久々毛乃三八和礼尓曽安利个留
定家 世止々毛尓峯部布毛止部於利乃本利由久雲乃身八我尓曽有个留
和歌 よとともに みねへふもとへ おりのほり ゆくくものみは われにそありける
解釈 世とともに峯へ麓へ下り上り行く雲の身は我にぞ有りける

歌番号一〇八〇
満多幾左以尓奈利多万者左利个留止幾加多波良乃
尓与宇己多知曽祢美多末不个之幾奈利个留止幾
美可止於保武佐宇之尓志乃比天多知与利多万部利个留尓
於保武多以女无者奈久天多天万川礼多万日个累
満多后尓奈利多万者左利个留時加多波良乃
女御多知曽祢美多末不个之幾奈利个留時
美可止御佐宇之尓志乃比天多知与利多万部利个留尓
御多以女无者奈久天多天万川礼多万日个累
まだ后になりたまはざりける時、かたはらの
女御たち嫉みたまふ気色なりける時、
帝御曹司に忍びて立ち寄りたまへりけるに、
御対面はなくてたてまつれたまひける

左可乃幾左以
嵯峨后
嵯峨后

原文 己止志个之志波之者多天礼与為乃万尓遠計良无川由者以天々波良者无
定家 事志个之志波之者多天礼与為乃万尓遠計良无川由者以天々波良者无
和歌 ことしけし しはしはたてれ よひのまに おけらむつゆは いててはらはむ
解釈 事しげししばしは立てれ宵の間に置けらん露は出でて払はん

歌番号一〇八一
以部尓由幾比良乃安曾无万宇天幾多利个留尓川幾乃
於毛之呂加利个留尓左計良奈止多宇部天
満可利多々武止之个留本止尓
家尓行平朝臣万宇天幾多利个留尓月乃
於毛之呂加利个留尓左計良奈止多宇部天
満可利多々武止之个留本止尓
家に行平朝臣まうで来たりけるに、月の
おもしろかりけるに、酒らなどたうべて
まかり立たむとしけるほどに

可八良乃比多利乃於本以万宇知幾三
河原左大臣
河原左大臣

原文 帝累従幾遠満左幾乃徒奈尓与利加个天安可寸和可留々飛止遠徒奈可无
定家 帝累月遠満左木乃徒奈尓与利加个天安可寸和可留々人遠徒奈可无
和歌 てるつきを まさきのつなに よりかけて あかすわかるる ひとをつなかむ
解釈 照る月をまさ木の綱に撚りかけてあかず別るる人を繋がん

歌番号一〇八二
可部之 
返之 
返し

由幾比良乃安曾无
行平朝臣
行平朝臣(在原行平)

原文 可幾利奈幾於毛比乃川奈乃奈久者己曽万佐幾乃加川良与利毛奈也万女
定家 限奈幾於毛比乃川奈乃奈久者己曽万佐幾乃加川良与利毛奈也万女
和歌 かきりなき おもひのつなの なくはこそ まさきのかつら よりもなやまめ
解釈 限りなき思ひの綱のなくはこそまさきのかづら撚りも悩まめ

歌番号一〇八三
与乃奈可遠於毛比宇之天者部利个留己呂
世中遠思宇之天侍个留己呂
世の中を思ひ憂じて侍りけるころ

奈利比良乃安曾无
業平朝臣
業平朝臣(在原業平)

原文 春美和比奴以末者可幾利止也万左止尓徒万幾己留部幾也止毛止女天无
定家 春美和比奴今者限止山左止尓徒万木己留部幾也止毛止女天无
和歌 すみわひぬ いまはかきりと やまさとに つまきこるへき やともとめてむ
解釈 住みわびぬ今は限りと山里につま木こるべき宿求めてん

歌番号一〇八四
和礼遠志利可本尓奈以比曽止於无奈乃以比天者部利
个留可部之己止尓
我遠志利可本尓奈以比曽止女乃以比天侍
个留返事尓
我を知り顔にな言ひそと女の言ひて侍り
ける返事に

美川祢
美川祢
みつね(凡河内躬恒)

原文 安志比幾乃也万尓於比多留志良加之乃志良之奈飛止遠久知幾奈利止毛
定家 葦引乃山尓於比多留志良加之乃志良之奈人遠久知木奈利止毛
和歌 あしひきの やまにおひたる しらかしの しらしなひとを くちきなりとも
解釈 あしひきの山に生ひたる白橿の知らじな人を朽ち木なりとも

歌番号一〇八五
春可多安也之止飛止乃和良比个礼者
春可多安也之止人乃和良比个礼者
姿あやしと人の笑ひければ

美川祢
美川祢
みつね(凡河内躬恒)

原文 以世乃宇美乃徒利乃宇遣奈留佐万奈礼止布可幾己々呂者曽己尓之川女利
定家 伊勢乃海乃徒利乃宇遣奈留佐万奈礼止布可幾心者曽己尓之川女利
和歌 いせのうみの つりのうけなる さまなれと ふかきこころは そこにしつめり
解釈 伊勢の海の釣の浮けなるさまなれど深き心は底に沈めり

歌番号一〇八六
於本幾於保以万宇知幾三乃志良加者乃以部尓万可利
和多利天者部利个留尓飛止乃佐宇之尓己毛利者部利天
於本幾於保以万宇知幾三乃白河乃家尓万可利
渡天侍个留尓人乃佐宇之尓己毛利侍天
太政大臣の白河の家にまかり
渡りて侍りけるに、人の曹司に籠もり侍りて

奈可川可佐
中務
中務

原文 志良加者乃堂幾乃以止三末本之个礼止美多利尓飛止者与世之毛乃遠也
定家 白河乃堂幾乃以止見末本之个礼止美多利尓人者与世之物遠也
和歌 しらかはの たきのいとみま ほしけれと みたりにひとは よせしものをや
解釈 白河の滝のいと見まほしけれどみだりに人は寄せじ物をや

歌番号一〇八七
可部之 
返之 
返し

於本幾於本以万宇知幾三
於本幾於本以万宇知幾三
おほきおほいまうちきみ(太政大臣)

原文 志良加者乃多幾乃以止奈美々多礼川々与留遠曽飛止者満川止以不奈留
定家 志良加者乃多幾乃以止奈美々多礼川々与留遠曽人者満川止以不奈留
和歌 しらかはの たきのいとなみ みたれつつ よるをそひとは まつといふなる
解釈 白河の滝のいとなみ乱れつつ撚るをぞ人は待つと言ふなる

歌番号一〇八八
者知寸乃者以遠止利天
者知寸乃者以遠止利天
蓮のはひをとりて

与美比止之良寸 
よみ人しらす 
詠み人知らず

原文 波知寸者乃者比尓曽飛止者於毛不良无与尓八己比知乃奈可尓於日徒々
定家 波知寸者乃者比尓曽人者思良无世尓八己比知乃中尓於日徒々
和歌 はちすはの はひにそひとは おもふらむ よにはこひちの なかにおひつつ
解釈 蓮葉のはひにぞ人は思ふらん世にはこひぢの中に生ひつつ

歌番号一〇八九
安不左可乃世幾尓以保利遠川久利天寸美者部利个留尓
由幾可不飛止遠三天
相坂乃関尓庵室遠川久利天寸美侍个留尓
由幾可不人遠見天
相坂の関に庵室を作りて住み侍りけるに、行き交ふ人を見て

世美満留
蝉丸
蝉丸

原文 己礼也己乃由久毛可部留毛和可礼川々志留毛志良奴毛安不佐可乃世幾
定家 己礼也己乃由久毛帰毛別川々志留毛志良奴毛安不佐可乃関
和歌 これやこの ゆくもかへるも わかれつつ しるもしらぬも あふさかのせき
解釈 これやこの行くも帰るも別れつつ知るも知らぬも相坂の関

歌番号一〇九〇
佐多女多留於止己毛奈久天毛乃於毛比者部利个留己呂
佐多女多留於止己毛奈久天物思侍个留己呂
定めたる男もなくて物思ひ侍りけるころ

遠乃々己万知
小野小町
小野小町

原文 安満乃寸武宇良己久不祢乃加知遠奈美世遠宇美和多留和礼曽可奈之幾
定家 安満乃寸武浦己久舟乃加知遠奈美世遠海和多留我曽悲幾
和歌 あまのすむ うらこくふねの かちをなみ よをうみわたる われそかなしき
解釈 海人の住む浦漕ぐ舟の舵をなみ世を海渡る我ぞ悲しき

歌番号一〇九一
安比之利天者部利个留於无奈己々呂尓毛以礼奴左万尓者部利个礼八
己止飛止乃己々呂左之安留尓徒幾者部利尓个留遠
奈遠之毛安良寸毛乃以者武止毛宇之徒可者之多利
遣礼止可部之己止毛世寸者部利个礼八
安比之利天侍个留女心尓毛以礼奴左万尓侍个礼八
己止人乃心左之安留尓徒幾侍尓个留遠
奈遠之毛安良寸毛乃以者武止申徒可者之多利
遣礼止返事毛世寸侍个礼八
あひ知りて侍りける女、心にも入れぬさまに侍りければ、
異人の心ざしあるにつき侍りにけるを、
なほしもあらず、物言はむと申しつかはしたり
けれど、返事もせず侍りければ

与美比止之良寸 
よみ人しらす 
詠み人知らず

原文 八万知止利加比奈可利个利川礼毛奈幾飛止乃安多利者奈幾和多礼止毛
定家 浜千鳥加比奈可利个利川礼毛奈幾飛止乃安多利者奈幾和多礼止毛
和歌 はまちとり かひなかりけり つれもなき ひとのあたりは なきわたれとも
解釈 浜千鳥かひなかりけりつれもなき人のあたりは鳴きわたれども

歌番号一〇九二
保武己宇天良女久利之多万日个留美知尓天加衣天乃
衣多遠々利天
法皇天良女久利之多万日个留美知尓天加衣天乃
衣多遠々利天
法皇寺巡りしたまひける道にて楓の
枝を折りて

曽世以保宇之
素性法師
素性法師

原文 己乃美由幾知止世加部天毛美天之可奈加々留也万布之止幾尓安不部久
定家 己乃美由幾知止世加部天毛見天之哉加々留山布之時尓安不部久
和歌 このみゆき ちとせかへても みてしかな かかるやまふし ときにあふへく
解釈 この御幸千歳かへでも見てしがなかかる山伏時にあふべく

歌番号一〇九三
左武為无乃幾左為於保武久之於呂左世堂万比天遠己奈者世
堂万比个留止幾加乃為无乃奈可之万乃末川遠个川利天加幾
徒个者部利个留
西院乃后御久之於呂左世給天遠己奈者世
給个留時加乃院乃奈可之万乃松遠个川利天加幾
徒个侍个留
西院の后、御髪下させたまひて行はせ
たまひける時、かの院の中島の松を削りて書き
つけ侍りける

曽世以保宇之
素性法師
素性法師

原文 遠止尓幾久末川可宇良之万遣不曽三留武部毛己々呂安留安万者寸三个利
定家 遠止尓幾久松可宇良之万遣不曽見留武部毛心安留安万者寸三个利
和歌 おとにきく まつかうらしま けふそみる うへもこころある あまはすみけり
解釈 音に聞く松が浦島今日ぞ見るむべも心ある海人は住みけり

歌番号一〇九四
以従幾乃美也乃美曽幾乃可幾之毛尓止乃々宇部乃飛止/\万可利天
安可川幾尓可部利天武万可毛止尓川可八之个留
斎院乃美曽幾乃垣下尓殿上乃人/\万可利天
安可川幾尓帰天武万可毛止尓川可八之个留
斎院の禊の垣下に殿上の人々まかりて、
暁に帰りて馬がもとにつかはしける

宇部毛无
右衛門
右衛門

原文 和礼乃美者堂知毛加部良奴安可川幾尓和幾天毛遠个留曽天乃川由可奈
定家 我乃美者立毛加部良奴暁尓和幾天毛遠个留袖乃川由哉
和歌 われのみは たちもかへらぬ あかつきに わきてもおける そてのつゆかな
解釈 我のみは立ちも帰らぬ暁にわきても置ける袖のつゆかな

歌番号一〇九五
志本奈幾止之堂々美安部天止者部利个礼者
志本奈幾年堂々美安部天止侍个礼者
塩なき年、ただみあへてと侍りければ

堂々美
堂々美
たたみ(壬生忠岑)

原文 志本止以部者奈久天毛加良幾与乃奈可尓以可天安部多留多々美奈留良无
定家 志本止以部者奈久天毛加良幾世中尓以可天安部多留多々美奈留良无
和歌 しほといへは なくてもからき よのなかに いかてあへたる たたみなるらむ
解釈 塩といへばなくてもからき世の中にいかであへたるただみなるらん

歌番号一〇九六
飛多々礼己比尓川可八之多留尓宇良奈无奈幾曽礼八
幾之止也以可々止以比多礼者
飛多々礼己比尓川可八之多留尓宇良奈无奈幾曽礼八
幾之止也以可々止以比多礼者
ひたたれ乞ひにつかはしたるに、裏なんなき、それは
着じとや、いかがと言ひたれば

布知八良乃毛止寸个
藤原元輔
藤原元輔

原文 寸美与之乃乃幾之止毛以者之於幾川奈美奈保宇知可計与宇良八奈久止毛
定家 住吉乃岸止毛以者之於幾川浪猶宇知可計与宇良八奈久止毛
和歌 すみよしの きしともいはし おきつなみ なほうちかけよ うらはなくとも
解釈 住吉の岸とも言はじ沖つ浪なほうちかけよ浦はなくとも

歌番号一〇九七
保宇己宇者之女天於本武久之於呂之多万比天也末布美志
堂万布安比多幾左幾遠者之女太天万川利天尓与宇己宇
己宇為奈保飛止川為无尓佐布良比堂万飛个留美止之止以不尓
奈无美可止加部利於者之末之多利个留武可之乃己止
於奈之止己呂尓天於本武越呂之多万宇个留川以天尓
法皇者之女天御久之於呂之多万比天山布美志
給安比多幾左幾遠者之女太天万川利天女御
更衣猶飛止川院尓佐布良比給个留三年止以不尓
奈无美可止加部利於者之末之多利个留武可之乃己止
於奈之所尓天於本武越呂之多万宇个留川以天尓
法皇初めて御髪下したまひて、山踏みし
たまふあひだ、后をはじめたてまつりて、女御
更衣、なほ一つ院にさぶらひたまひける、三年といふに
なん、帝帰りおはしましたりける、昔のごと
同じ所にて、御下したまうけるついてに

奈々之与宇乃幾左為
七条乃幾左幾
七条のきさき(七条后)

原文 己止乃葉尓堂衣世奴川由者遠久良无也无可之於本由留万止為之多礼八
定家 事乃葉尓堂衣世奴川由者遠久良无也昔於本由留万止為之多礼八
和歌 ことのはに たえせぬつゆは おくらむや むかしおほゆる まとゐしたれは
解釈 言の葉に絶えせぬ露は置くらんや昔おぼゆる円居したれば

歌番号一〇九八
於本武可部之
御返之
御返之

以世 
伊勢 
伊勢

原文 宇美止乃美万止為乃奈可者奈利奴女利曽奈可良安良奴加計乃三由礼八
定家 海止乃美万止為乃中者奈利奴女利曽奈可良安良奴加計乃見由礼八
和歌 うみとのみ まとゐのなかは なりぬめり そなからあらぬ かけのみゆれは
解釈 海とのみ円居の中はなりぬめりそながらあらぬ影の見ゆれば

歌番号一〇九九
志加乃加良佐幾尓天波良部之个留飛止乃志毛川可部尓
三留止以不者部利个利於保止毛乃久ロ奴之曽己尓満天幾天
加乃美留尓己々呂遠川个天以比多者布礼个利波良部者天々
久留万与利久呂奴之尓毛乃加川計々留曽乃毛乃己之
尓加幾川个天三留尓遠久利者部利个留
志加乃加良佐幾尓天波良部之个留人乃志毛川可部尓
見留止以不侍个利大伴黒主曽己尓満天幾天
加乃美留尓心遠川个天以比多者布礼个利波良部者天々
久留万与利久呂奴之尓物加川計々留曽乃毛乃己之
尓加幾川个天見留尓遠久利侍个留
志賀の辛崎にて祓しける人の下仕へに、
みるといふ侍りけり。大伴黒主そこにまで来て、
かのみるに心をつけて言ひたはぶれけり。祓果てて、
車より黒主に物かづけける、その裳の腰
に書きつけて、みるに贈り侍りける

久呂奴之
久呂奴之
くろぬし(大伴黒主)

原文 奈尓世武尓部堂乃見留女遠於毛比个无於幾川太万毛遠加川久三尓之天
定家 何世武尓部堂乃見留女遠思个无於幾川太万毛遠加川久身尓之天
和歌 なにせむに へたのみるめを おもひけむ おきつたまもを かつくみにして
解釈 何せむにへたのみるめを思ひけん沖つ玉藻をかづく身にして

歌番号一一〇〇
川幾乃於毛之呂可利个留遠見天
月乃於毛之呂可利个留遠見天
月のおもしろかりけるを見て

美川祢
美川祢
みつね(凡河内躬恒)

原文 飛累奈礼也三曽満可部徒留川幾可个遠个不止也以者武幾乃不止也以者武
定家 飛累奈礼也見曽満可部徒留月影遠个不止也以者武幾乃不止也以者武
和歌 ひるなれや みそまかへつる つきかけを けふとやいはむ きのふとやいはむ
解釈 昼なれや見ぞまがへつる月影を今日とや言はむ昨日とや言はむ

歌番号一一〇一
己世知乃満比々女尓天毛之女之止々女良留々己止
也安留止於毛比者部利个留遠佐毛安良佐利个礼者
五節乃満比々女尓天毛之女之止々女良留々事
也安留止思侍个留遠佐毛安良佐利个礼者
五節の舞姫にて、もし召し留めらるる事
やあると思ひ侍りけるを、さもあらざりければ

布知八良乃之个可祢可武寸女
藤原滋包可武寸女
藤原滋包かむすめ(藤原滋包女)

原文 久也之久曽安満川遠止女止奈利尓个留久毛知多川奴留飛止毛奈幾与尓
定家 久也之久曽安満川遠止女止奈利尓个留雲地多川奴留人毛奈幾与尓
和歌 くやしくそ あまつをとめと なりにける くもちたつぬる ひともなきよに
解釈 悔しくぞ天つ乙女となりにける雲路尋ぬる人もなきよに

歌番号一一〇二
於本幾於本以万宇知幾三乃比多利乃多以之也宇尓天春万比乃加部利安留之
志者部利个留知宇志与宇尓天満可利天己止遠者利天己礼可礼
満可利安可礼个留尓也武己止奈幾飛止布多利美多利者可利止々女天
末良宇止安留之佐遣安万多々比乃々知恵比尓
乃里天己止毛乃宇部奈止毛宇之个留川以天尓
太政大臣乃左大将尓天春万比乃加部利安留之
志侍个留日中将尓天満可利天己止遠者利天己礼可礼
満可利安可礼个留尓也武己止奈幾人二三人許止々女天
末良宇止安留之佐遣安万多々比乃々知恵比尓
乃里天己止毛乃宇部奈止申个留川以天尓
太政大臣の左大将にて相撲の還饗し
し侍りける日、中将にてまかりて、事終りてこれかれ
まかりあかれけるに、やむごとなき人、二三人ばかり留めて、
客人、主人、酒あまた度の後、酔ひに
のりて、子どもの上など申しけるついでに

加祢寸个乃安曾无
兼輔朝臣
兼輔朝臣(藤原兼輔)

原文 飛止乃於也乃己々呂者也美尓安良祢止毛己遠於毛不美知尓万止比奴留可奈
定家 人乃於也乃心者也美尓安良祢止毛子遠思道尓万止比奴留哉
和歌 ひとのおやの こころはやみに あらねとも こをおもふみちに まとひぬるかな
解釈 人の親の心は闇にあらねども子を思ふ道にまどひぬるかな

歌番号一一〇三
於无奈止毛多知乃毛止尓徒久之与利佐之久之遠己々呂左春止天
女止毛多知乃毛止尓徒久之与利佐之久之遠心左春止天
女友だちのもとに筑紫より挿し櫛を心ざすとて

於保衣乃多万不知乃安曾无乃武寸女
大江玉淵朝臣女
大江玉淵朝臣女

原文 奈尓者可多奈尓々毛安良寸三遠徒久之布可幾己々呂乃志留之者可利曽
定家 奈尓者可多何尓毛安良寸身遠徒久之布可幾心乃志留之許曽
和歌 なにはかた なににもあらす みをつくし ふかきこころの しるしはかりそ
解釈 難波潟何にもあらず身を尽くし深き心のしるしばかりぞ

歌番号一一〇四
毛止奈可乃美己乃春美者部利个留止幾天万佐久利尓
奈尓以礼天者部利个留波己尓可安利个无志多遠比之天由日天
万多己武止幾尓安計武止天毛乃々加美尓佐之遠幾天
以天者部利尓个留乃知徒祢安幾良乃美己尓
止利加久左礼天河幾比飛左之久者部利天安利之以部仁
加部里天己乃波己遠毛止奈可乃美己尓遠久留止天
元長乃美己乃春美侍个留時天万佐久利尓
奈尓以礼天侍个留波己尓可安利个无志多遠比之天由日天
又己武時尓安計武止天毛乃々加美尓佐之遠幾天
以天侍尓个留乃知徒祢安幾良乃美己尓
止利加久左礼天月日飛左之久侍天安利之家仁
加部里天己乃波己遠毛止奈可乃美己尓遠久留止天
元長親王の住み侍りける時、手まさぐりに
何入れて侍りける箱にかありけん、下帯して結ひて、
又来む時に開けむとて、物のかみにさし置きて、
出で侍りにける後、常明親王に
取り隠されて、月日久しく侍りて、ありし家に
帰りて、この箱を元長親王の贈るとて

奈可川可佐
中務
中務

原文 安遣天多尓奈尓々可八三武美徒乃衣乃宇良之万乃己遠於毛比也利川々
定家 安遣天多尓何尓可八見武美徒乃衣乃宇良之万乃己遠思也利川々
和歌 あけてたに なににかはみむ みつのえの うらしまのこを おもひやりつつ
解釈 開けてだに何にかは見む水の江の浦島の子を思ひやりつつ

歌番号一一〇五
多々不左乃安曾无徒乃加美尓天尓比川可左者留可多加末宇計尓
比与布天宇之天加乃久尓乃奈安留止己呂/\恵尓
加々世天左比恵止以不止己呂尓加个利个留
忠房朝臣徒乃加美尓天新司者留可多加末宇計尓
屏風天宇之天加乃久尓乃名安留所/\恵尓
加々世天左比江止以不所尓加个利个留
忠房朝臣、津守にて新司治方が設けに
屏風調じて、かの国の名ある所々絵に
描かせて、さび江といふ所にかけりける

堂々美祢
堂々美祢
たたみね(壬生忠岑)

原文 止之遠部天仁己利多尓世奴佐比衣尓八多万毛可部利天以末曽寸武部幾
定家 年遠部天仁己利多尓世奴佐比衣尓八玉毛帰天今曽寸武部幾
和歌 としをへて にこりたにせぬ さひえには たまもかへりて いまそすむへき
解釈 年を経て濁りだにせぬさび江には玉も帰りて今ぞ住むべき

歌番号一一〇六
加祢寸个乃安曾无左為之与宇乃知宇之与宇与利奈加乃毛乃萬宇須豆加佐尓奈利天
万多乃止之乃利由美乃加部利多知乃安留之尓万可利天
己礼可礼於毛比乃不留川以天尓
兼輔朝臣宰相中将与利中納言尓奈利天
又乃年乃利由美乃加部利多知乃安留之尓万可利天
己礼可礼於毛比乃不留川以天尓
兼輔朝臣、宰相中将より中納言になりて、
又の年、賭弓の還りだちの饗にまかりて、
これかれ思ひのぶるついでに

加祢寸个乃安曾无
兼輔朝臣
兼輔朝臣(藤原兼輔)

原文 布留左止乃美可佐乃也末者止遠个礼止己衣者无可之乃宇止可良奴可奈
定家 旧里乃美可佐乃山者止遠个礼止声者昔乃宇止可良奴哉
和歌 ふるさとの みかさのやまは とほけれと こゑはむかしの うとからぬかな
解釈 古里の三笠の山は遠けれど声は昔のうとからぬかな

歌番号一一〇七
安者知乃満川利己止飛止乃尓无者天々乃保利万宇天
幾天乃己呂加祢寸个乃安曾无乃安者多乃以部尓天
安者知乃満川利己止人乃任者天々乃保利万宇天
幾天乃己呂兼輔朝臣乃安者多乃家尓天
淡路のまつりごと人の任果てて上りまうで
来てのころ、兼輔朝臣の粟田の家にて

美川祢
美川祢
みつね(凡河内躬恒)

原文 飛幾天宇部之飛止者武部己曽遠比尓个礼万川乃己多可久奈利尓个留可奈
定家 飛幾天宇部之人者武部己曽老尓个礼松乃己多可久成尓个留哉
和歌 ひきてうゑし ひとはうへこそ おいにけれ まつのこたかく なりにけるかな
解釈 引きて植ゑし人はむべこそ老いにけれ松の木高くなりにけるかな

歌番号一一〇八
飛止乃武寸女尓美奈毛止乃加祢木可春美者部利个留遠
武寸女乃波々幾々者部利天以美之宇世以之者部利个礼者
之乃比多留可多尓天加多良比个留安比多尓波々志良寸之天
仁者可仁以幾个礼者加祢木可尓个天満可利尓个礼八
徒可者之遣留
人乃武寸女尓源加祢木可春美侍个留遠
女乃波々幾々侍天以美之宇世以之侍个礼者
之乃比多留方尓天加多良比个留安比多尓波々志良寸之天
仁者可仁以幾个礼者加祢木可尓个天満可利尓个礼八
徒可者之遣留
人の女に源兼材が住み侍りけるを、
女の母聞き侍りて、いみじう制し侍りければ、
忍びたる方にて語らひける間に、母、知らずして、
にはかに行きければ、兼材が逃げてまかりにければ、
つかはしける

武寸女乃波々
女乃波々
女のはは(女母)

原文 遠也末多乃於止呂加之尓毛己佐利之遠以止比多不留尓仁个之幾美可奈
定家 遠山田乃於止呂加之尓毛己佐利之遠以止比多不留尓仁个之幾美哉
和歌 をやまたの おとろかしにも こさりしを いとひたふるに にけしきみかな
解釈 小山田のおどろかしにも来ざりしをいとひたぶるに逃げし君かな

歌番号一一〇九
左武之与宇乃美幾乃於本以万宇知幾三美満可利天安久留止之乃者留
於保伊萬宇智岐美女之安利止幾々天為従幾乃美也乃美己尓川可八之个留
三条右大臣身満可利天安久留年乃春
大臣女之安利止幾々天斎宮乃美己尓川可八之个留
三条右大臣身まかりて、明くる年の春、
大臣召しありと聞きて、斎宮内親王につかはしける

武寸女乃尓与宇己
武寸女乃女御
むすめの女御(女々御)

原文 伊可天加乃止之幾利毛世奴堂祢毛可奈安礼多留也止尓宇部天三留部久
定家 伊可天加乃年幾利毛世奴堂祢毛哉安礼多留也止尓宇部天見留部久
和歌 いかてかの としきりもせぬ たねもかな あれたるやとに うゑてみるへく
解釈 いかでかの年ぎりもせぬ種もがな荒れたる宿に植ゑて見るべく

歌番号一一一〇
加能尓与宇己比多利乃於本以万宇知幾三尓安比尓个利止
幾々天徒可者之个留
加能女御(女御=也寸武所<朱>)左乃於本以万宇知幾三尓安比尓个利止
幾々天徒可者之个留
かの女御、左大臣に逢ひにけりと
聞きてつかはしける

為従幾乃美也乃美己
斎宮乃美己
斎宮のみこ(斎宮内親王)

原文 者留己止尓由幾天乃美々武止之幾利毛世寸止以不太祢者於比奴止可幾久
定家 春己止尓行天乃美々武年幾利毛世寸止以不太祢者於比奴止可幾久
和歌 はることに ゆきてのみみむ としきりも せすといふたねは おひぬとかきく
解釈 春ごとに行きてのみ見む年ぎりもせずといふ種は生ひぬとか聞く

歌番号一一一一
毛呂安幾良乃安曾无奈加乃毛乃萬宇須豆加佐尓奈利者部利个留止幾
宇部乃幾奴川加者春止天
庶明朝臣中納言尓奈利侍个留時
宇部乃幾奴川加者春止天
庶明朝臣中納言になり侍りける時、
表の衣つかはすとて

美幾乃於本以万宇知幾三
右大臣
右大臣

原文 於毛比幾也幾美可己呂毛遠奴幾可部天己幾武良左幾乃以呂遠幾武止者
定家 思幾也君可衣遠奴幾可部天己幾紫乃色遠幾武止者
和歌 おもひきや きみかころもを ぬきかへて こきむらさきの いろをきむとは
解釈 思ひきや君が衣を脱ぎ替へて濃き紫の色を着むとは

歌番号一一一二
可部之 
返之 
返し

毛呂安幾良乃安曾无
庶明朝臣
庶明朝臣(源庶明)

原文 伊尓之部毛知る幾利天个利奈宇知者不幾止比堂知奴部之安万乃八己呂毛
定家 伊尓之部毛契天个利奈宇知者不幾止比立奴部之安万乃羽衣
和歌 いにしへも ちきりてけりな うちはふき とひたちぬへし あまのはころも
解釈 いにしへも契りてけりなうちはぶき飛び立ちぬべし天の羽衣

歌番号一一一三
万佐多々加止乃為毛乃遠止利太可部天多以布可毛止部
毛天幾多利个礼者
万佐多々加止乃日物遠止利太可部天大輔可毛止部
毛天幾多利个礼者
雅正が宿直物を取り違へて、大輔がもとへ
持て来たりければ

多以布
大輔
大輔

原文 布留佐止乃奈良乃美也己乃者之女与利奈礼尓个利止毛三由留己呂毛加
定家 布留佐止乃奈良乃宮己乃始与利奈礼尓个利止毛見由留衣加
和歌 ふるさとの ならのみやこの はしめより なれにけりとも みゆるころもか
解釈 古里の奈良の都の始めよりなれにけりとも見ゆる衣か

歌番号一一一四
可部之 
返之 
返し

万佐多々
雅正
雅正(藤原雅正)

原文 婦里奴止天於毛比毛寸天之可良己呂毛与曽部天安也奈宇良三毛曽寸留
定家 婦里奴止天思毛寸天之唐衣与曽部天安也奈怨毛曽寸留
和歌 ふりぬとて おもひもすてし からころも よそへてあやな うらみもそする
解釈 古りぬとて思ひも捨てじ唐衣よそへてあやな恨みもぞする

歌番号一一一五
世中乃心尓加奈者奴奈止申个礼者由久左幾
多乃毛之幾身尓天加々留事安留万之止人乃
申侍个礼者
世中乃心尓加奈者奴奈止申个礼者由久左幾
多乃毛之幾身尓天加々留事安留万之止人乃
申侍个礼者
世の中の心にかなはぬなど申しければ、行く先
頼もしき身にて、かかる事あるまじと人の
申し侍りければ

於保衣乃知左止
大江千里
大江千里

原文 奈可流天乃与遠毛太乃万寸美川乃宇部乃安者尓幾衣奴留宇幾三止於毛部者
定家 流天乃世遠毛太乃万寸水乃宇部乃安者尓幾衣奴留宇幾身止於毛部者
和歌 なかれての よをもたのます みつのうへの あわにきえぬる うきみとおもへは
解釈 流れての世をも頼まず水の上の泡に消えぬる憂き身と思へば

歌番号一一一六
布知八良乃左祢木可久良宇止与利加宇布利太末者利天
安寸止乃宇部満可利於利武止之个留与
左計太宇部个留川以天尓
藤原左祢木可蔵人与利加宇布利太末者利天
安寸殿上満可利於利武止之个留夜
左計太宇部个留川以天尓
藤原真興が蔵人よりかうぶり賜りて、
明日殿上まかり下りむとしける夜、
酒たうべけるついでに

加祢寸个乃安曾无
兼輔朝臣
兼輔朝臣(藤原兼輔)

原文 武者多満乃己与比者可利曽安計己呂毛安遣奈波飛止遠与曽尓己曽三女
定家 武者多満乃己与比許曽安計衣安遣奈波人遠与曽尓己曽見女
和歌 うはたまの こよひはかりそ あけころも あけなはひとを よそにこそみめ
解釈 むばたまの今宵ばかりぞあけ衣あけなば人をよそにこそ見め

歌番号一一一七
保宇己宇於本武久之於呂之多万日天乃己呂
法皇御久之於呂之多万日天乃己呂
法皇御髪下したまひてのころ

奈々之与宇乃幾左為
七条后
七条后

原文 飛止和多寸己止多尓奈幾遠奈尓之可毛奈可良乃者之止三乃奈利奴良无
定家 人和多寸事多尓奈幾遠奈尓之可毛奈可良乃者之止身乃奈利奴良无
和歌 ひとわたす ことたになきを なにしかも なからのはしと みのなりぬらむ
解釈 人わたす事だになきをなにしかも長柄の橋と身のなりぬらん

歌番号一一一八
於本武可部之
御返之
御返之

以世 
伊勢 
伊勢

原文 布留々三者奈美多乃奈可尓三由礼者也奈可良乃者之尓安也万多留良无
定家 布留々身者涙乃中尓見由礼者也奈可良乃者之尓安也万多留良无
和歌 ふるるみは なみたのうちに みゆれはや なからのはしに あやまたるらむ
解釈 古るる身は涙の中に見ゆればや長柄の橋に過たるらん

歌番号一一一九
幾也宇己久乃美也寸止己呂安天尓奈利天可為宇遣武止天
尓武和乃天良尓和多利天者部利个礼者
京極乃美也寸所尼尓奈利天戒宇遣武止天
仁和寺尓和多利天侍个礼者
京極御息所、尼になりて戒受けむとて、
仁和寺に渡りて侍りければ

安徒美乃美己
安徒美乃美己
あつみのみこ(敦実親王)

原文 飛止利乃美奈可女天止之遠布留左止乃安礼多留左万遠以可尓三留良无
定家 飛止利乃美奈可女天止之遠布留左止乃安礼多留左万遠以可尓見留良无
和歌 ひとりのみ なかめてとしを ふるさとの あれたるさまを いかにみるらむ
解釈 一人のみ眺めて年を古里の荒れたるさまをいかに見るらん

歌番号一一二〇
於无奈乃安多利奈止以日个礼者
女乃安多利奈止以日个礼者
女の、あだなりと言ひければ

安佐川奈乃安曾无
安佐川奈乃朝臣
あさつなの朝臣(大江朝綱)

原文 満免奈礼止安多奈者多知奴太和礼之万与寸留之良奈美遠奴礼幾奴尓幾天
定家 満免奈礼止安多奈者多知奴太和礼之万与寸留白浪遠奴礼幾奴尓幾天
和歌 まめなれと あたなはたちぬ たはれしま よるしらなみを ぬれきぬにきて
解釈 まめなれどあだ名は立ちぬたわれ島寄る白浪を濡衣に着て

歌番号一一二一
安比可多良比个留飛止乃以部乃万川乃己寸恵乃毛三知
多利个礼者
安比可多良比个留人乃家乃松乃己寸恵乃毛三知
多利个礼者
あひ語らひける人の家の松の梢のもみぢ
たりければ

与美比止之良寸 
よみ人しらす 
詠み人知らず

原文 止之遠部天堂乃武加比奈之止幾者奈留万川乃己寸恵毛以呂加者利由久
定家 年遠部天堂乃武加比奈之止幾者奈留松乃己寸恵毛色加者利由久
和歌 としをへて たのむかひなし ときはなる まつのこすゑも いろかはりゆく
解釈 年を経て頼むかひなし常盤なる松の梢も色変り行く

歌番号一一二二
於止己乃於无奈乃布美遠加久之个留遠三天毛止乃
女乃加幾川計者部利个留
於止己乃女乃布美遠加久之个留遠見天毛止乃
女乃加幾川計侍个留
男の女の文を隠しけるを見て、もとの
妻の書きつけ侍りける

与武之与宇乃美也寸止己呂乃武寸女
四条御息所女
四条御息所女

原文 部多天个留飛止乃己々呂乃宇幾者之遠安也宇幾万天毛布美々川留可奈
定家 部多天个留人乃心乃宇幾者之遠安也宇幾万天毛布美々川留哉
和歌 へたてける ひとのこころの うきはしを あやふきまても ふみみつるかな
解釈 隔てける人の心の浮橋を危うきまでも踏み見つるかな

歌番号一一二三
遠乃々与之布留乃安曾无尓之乃久尓乃宇天乃徒可比尓
満加利天布多止之止以婦止之与従乃久良為尓者加奈良寸満可利
奈留部可利个留遠佐毛安良寸奈利尓个礼者加々留
己止尓之毛左々礼尓个留己止乃也寸可良奴与之遠
宇礼部遠久利天者部利遣留布美乃可部之己止乃
宇良尓加幾川个天徒可者之遣留
小野好古朝臣尓之乃久尓乃宇天乃徒可比尓
満加利天二年止以婦止之四位尓者加奈良寸満可利
奈留部可利个留遠佐毛安良寸奈利尓个礼者加々留
事尓之毛左々礼尓个留事乃也寸可良奴与之遠
宇礼部遠久利天侍遣留布美乃返事乃
宇良尓加幾川个天徒可者之遣留
小野好古朝臣、西の国の討手の使ひに
まかりて、二年といふ年、四位にはかならずまかり
なるべかりけるを、さもあらずなりにければかかる
事にしも指されにける事のやすからぬよしを
愁へ送りて侍りける文の返事の
裏に書きつけてつかはしける

美奈毛堂乃幾武多々乃安曽无
源公忠朝臣
源公忠朝臣

原文 堂万久之計布多止世安者奴幾美可三遠安計奈可良也者安良武止於毛比之
定家 玉匣布多止世安者奴君可身遠安計奈可良也者安良武止思之
和歌 たまくしけ ふたとせあはぬ きみかみを あけなからやは あらむとおもひし
解釈 玉匣二年逢はぬ君が身をあけながらやはあらむと思ひし

歌番号一一二四
可部之 
返之 
返し

遠乃々与之布留乃安曾无
小野好古朝臣
小野好古朝臣

原文 安遣奈可良止之布留己止八堂万久之計三乃以多川良尓奈礼者奈利遣利
定家 安遣奈可良年布留己止八玉匣身乃以多川良尓奈礼者奈利遣利
和歌 あけなから としふることは たまくしけ みのいたつらに なれはなりけり
解釈 あけながら年経ることは玉匣身のいたづらになればなりけり
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