竹取翁と万葉集のお勉強

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万葉集 集歌904から集歌906まで

2020年09月07日 | 新訓 万葉集
戀男子名古日謌三首
標訓 男子(をのこ)の名は古日に戀ひたる謌三首
集歌九〇四 
原文 世人之 貴慕 七種之 寶毛我波 何為 和我中能 産礼出有 白玉之 吾子古日者 明星之 開朝者 敷多倍乃 登許能邊佐良受 立礼杼毛 居礼杼毛 登母尓戯礼 夕星乃 由布弊尓奈礼波 伊射祢余登 手乎多豆佐波里 父母毛 表者奈佐我利 三枝之 中尓乎祢牟登 愛久 志我可多良倍婆 何時可毛 比等々奈理伊弖天 安志家口毛 与家久母見武登 大船乃 於毛比多能無尓 於毛波奴尓 横風乃尓 覆来礼婆 世武須便乃 多杼伎乎之良尓 志路多倍乃 多須吉乎可氣 麻蘇鏡 弖尓登利毛知弖 天神 阿布藝許比乃美 地祇 布之弖額拜 可加良受毛 可賀利毛 神乃末尓麻尓等 立阿射里 我例乞能米登 須臾毛 余家久波奈之尓 漸々 可多知都久保里 朝々 伊布許等夜美 霊剋 伊乃知多延奴礼 立乎杼利 足須里佐家婢 伏仰 武祢宇知奈氣 古手尓持流 安我古登波之都 世間之道
訓読 世間(よのなか)の 貴(たふと)び願ふ 七種(ななくさ)の 宝も吾れは 何為(なにせ)むに 吾(わ)が中の 産(あ)れ出(い)でたる 白玉の 吾が子古日(ふるひ)は 明星(あかほし)の 明(あ)くる朝(あした)は 敷栲の 床の辺(へ)去(さ)らず 立てれども 居(を)れども ともに戯(たふれ)れ 夕星(ゆふつつ)の 夕(ゆふべ)になれば いざ寝(ね)よと 手を携(たづさ)はり 父母も 上は勿放(なさが)り 三枝(さきくさ)の 中にを寝(ね)むと 愛(うつく)しく 幟(し)が語らへば 何時(いつ)しかも 人と成り出でて 悪(あ)しけくも 吉(よ)けくも見むと 大船の 思ひ憑(たの)むに 思はぬに 邪(よこ)しま風のに 覆(おほ)ひ来れば 為(せ)む術(すべ)の 方便(たどき)を知らに 白栲の たすきを掛け 真澄鏡(まそかがみ) 手に取り持ちて 天つ神 仰ぎ祈(こ)ひ祷(の)み 国つ神 伏して額(ぬか)つき かからずも かかりも 神のまにまにと 立ちあざり 吾(わ)れ祈(こ)ひ祷(の)めど 須臾(しましく)も 吉(よ)けくは無しに 漸漸(やくやく)に 容貌(かたち)くつほり 朝(あさ)な朝(さ)な 言ふこと止み たまきはる 命(いのち)絶えぬれ 立ち躍り 足(あし)摩(す)り叫び 伏し仰ぎ 胸打ち泣き 小手(こて)に持てる 我が児飛(と)ばしつ 世間(よのなか)の道
私訳 世の中の人が貴んで手に入れたいと願う仏の七種の宝のような教えも私には何になるでしょう。私の時代に生まれなさった真珠のように尊い皇孫の私たちの古日は、明け星の輝く夜明けとなると、夫婦の敷栲を敷く床から離れず、立っていても座っていても一緒に戯れ、宵の明星を見る夕方になると、さあ寝ようと手を携えて「お父さんもお母さんも傍を離れず、三枝のように真ん中に寝よう」と愛らしく貴方が語っていると、何時の間にかに、立派な指導者たる「人」として成長して来て、世の悪いこと、良いことを引き受けてこの国を治めると、大船を頼もしく思うように信頼していたのに、世の中を邪悪な風で覆って来ると、どうして良いのか、その方法を知らないので、邪気を払うと云う白栲のたすきを掛け真澄鏡を手に持って、皇祖(すめおや)の天の神を仰ぎ祈り願い、皇神(すめがみ)の国の神に伏して額ずき、どのようにあっても神の思し召しのままにと、立ったり座ったりして、私は祈り願うのですが、暫くも良いことは無くて、次第に御姿への思いは崩れていき、朝毎にお言葉を下されることはなくなり、魂の期限を刻むその命が絶えてしまうと、立ち跳び上がり足摺りして叫び、倒れ伏して空を仰いで胸を打って泣き、手にまとわりつく我が子を投げ飛ばした。この嘆きは、世の中の人の取るべき姿です。
注意 この歌は非常に難解な歌です。特に末文「古手尓持流 安我古登波之都 世間之道」をどのように解釈するかで議論があり、それにより歌全体の解釈が変わります。

反謌
集歌九〇五 
原文 和可家礼婆 道行之良士 末比波世武 之多敝乃使 於比弖登保良世
訓読 稚(わか)ければ道行き知らじ幣(まひ)は為(せ)む黄泉(したへ)の使(つか)ひ負(お)ひて通らせ
私訳 まだ稚いので、死出の道を知らないでしょう。神への祈りの捧げ物をしましょう。あの世への使いよ、責任を持って稚き御方を通らせなさい。

集歌九〇六 
原文 布施於吉弖 吾波許比能武 阿射無加受 多太尓率去弖 阿麻治思良之米
訓読 布施(ふせ)置きて吾(わ)れは祈(こ)ひ祷(の)む欺(あざむ)かず直(ただ)に率(ゐ)去(ゆ)きて天道(あまぢ)知らしめ
私訳 仏への祈りの布施を捧げ置いて、私は祈り願いましょう。願いを欺くことなく、稚き御方を尊い仏である貴方が率いて、あの世への天上の道をお授けなさい。
左注 右一首作者未詳 但以裁歌之體似於山上之操載此次焉
注訓 右の一首の作る者は未だ詳(つばび)らかならず。 但し、裁歌(さいか)の體(てい)の山上の操(みさを)に似(に)たるを以ちて、此の次(しだひ)に載せる。
コメント
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