竹取翁と万葉集のお勉強

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後撰和歌集(原文推定、翻文、解釈付)巻十三(その二)

2020年09月06日 | 後撰和歌集 原文推定
後撰和歌集(原文推定、翻文、解釈付)
巻十三(その二)

歌番号九四四
之乃比天加与比者部利个留飛止以末可部利天奈止
太乃女遠幾天於保也个乃川可比尓以世乃久尓々
満可利天加部利万宇天幾天比左之宇止八寸者部利个礼八
之乃比天加与比侍个留人以末可部利天奈止
太乃女遠幾天於保也个乃川可比尓以世乃久尓々
満可利天帰万宇天幾天比左之宇止八寸侍个礼八
忍びて通ひ侍りける人、今帰りてなど
頼め置きて朝廷の使ひに伊勢の国に
まかりて帰りまうで来て久しう訪はず侍りければ

志也宇志由宇乃奈以之
少将内侍
少将内侍

原文 飛止者可留己々呂乃久満者幾多奈久天幾与幾奈幾左遠以可天寸幾个无
定家 人者可留心乃久満者幾多奈久天幾与幾奈幾左遠以可天寸幾个无
和歌 ひとはかる こころのくまは きたなくて きよきなきさを いかてすきけむ
解釈 人はかる心の隈はきたなくて清き渚をいかで過ぎけん

歌番号九四五
可部之 
返之 
返し

加祢寸个乃安曾无
兼輔朝臣
兼輔朝臣(藤原兼輔)

原文 堂可多女尓和礼可以乃知遠奈加波満乃宇良尓也止利遠志川々加者己之
定家 堂可多女尓和礼可以乃知遠長浜乃浦尓也止利遠志川々加者己之
和歌 たかために われかいのちを なかはまの うらにやとりを しつつかはこし
解釈 誰がために我か命を長浜の浦に宿りをしつつかは来し

歌番号九四六
於无奈乃毛止尓徒可者之遣留
女乃毛止尓徒可者之遣留
女のもとにつかはしける

与美比止之良寸 
よみ人しらす 
詠み人知らず

原文 世幾毛安部寸不知尓曽満与不奈美多加者和多留天不世遠志留与之毛加奈
定家 世幾毛安部寸淵尓曽迷涙河和多留天不世遠志留与之毛哉
和歌 せきもあへす ふちにそまよふ なみたかは わたるてふせを しるよしもかな
解釈 せきもあへず淵にぞまどふ涙河渡るてふ瀬を知るよしもがな

歌番号九四七
可部之 
返之 
返し

与美比止之良寸 
よみ人しらす 
詠み人知らず

原文 不知奈可良飛止加与者佐之奈美多加者和多良八安佐幾世遠毛己曽三礼
定家 淵奈可良人加与者佐之涙河和多良八安佐幾世遠毛己曽見礼
和歌 ふちなから ひとかよはさし なみたかは わたらはあさき せをもこそみれ
解釈 淵ながら人通はさじ涙河渡らば浅き瀬をもこそ見れ

歌番号九四八
徒祢尓万宇天幾天毛乃奈止以不飛止乃以末者奈万
宇天己曽飛止毛宇多天以不奈利止以比以多之天
物部利个礼者
徒祢尓万宇天幾天物奈止以不人乃以末者奈万
宇天己曽人毛宇多天以不奈利止以比以多之天
侍个礼者
常にまうで来て物など言ふ人の、今はなま
うでこそ。人もうたて言ふなり」と言ひ出だして
侍りければ

与美比止之良寸 
よみ人しらす 
詠み人知らず

原文 幾天加部留奈遠乃美曽堂川加良己呂毛志多由不比毛乃己々呂止計祢八
定家 幾天帰名遠乃美曽立唐衣志多由不比毛乃心止計祢八
和歌 きてかへる なをのみそたつ からころも したゆふひもの こころとけねは
解釈 来て帰る名をのみぞ立つ唐衣下結ふ紐の心解けねば

歌番号九四九
比堂利乃於保伊萬宇智岐美加者良尓以天安比天者部利个礼者
左大臣河原尓以天安比天侍个礼者
左大臣河原に出であひて侍りければ

奈以之乃多比良計以之
内侍多比良計以子
内侍たひらけい子(内侍平子)

原文 堂衣奴止毛奈尓於毛比个无奈美多加八奈加礼安不世毛安利个留毛乃遠
定家 堂衣奴止毛何思个无涙河流安不世毛有个留物遠
和歌 たえぬとも なにおもひけむ なみたかは なかれあふせも ありけるものを
解釈 絶えぬとも何思ひけん涙河流逢瀬も有りけるものを

歌番号九五〇
多以布尓川可者之个留
大輔尓川可者之个留
大輔につかはしける

比堂利乃於保伊萬宇智岐美
左大臣
左大臣

原文 以末者々也美也満遠以天々保止々幾寸計知可幾己恵遠和礼尓幾可世与
定家 今者々也三山遠以天々郭公計知可幾己恵遠我尓幾可世与
和歌 いまははや みやまをいてて ほとときす けちかきこゑを われにきかせよ
解釈 今ははや深山を出でて郭公け近き声を我に聞かせよ

歌番号九五一
可部之 
返之 
返し

多以布
大輔
大輔

原文 飛止者以左美也末可久礼乃保止々幾寸奈良者奴佐止者春美宇可留部之
定家 人者以左美山可久礼乃郭公奈良者奴佐止者春美宇可留部之
和歌 ひとはいさ みやまかくれの ほとときす ならはぬさとは すみうかるへし
解釈 人はいさ深山隠れの郭公ならはぬ里は住み憂かるへし

歌番号九五二
比堂利乃於保伊萬宇智岐美尓徒可者之个留
左大臣尓徒可者之个留
左大臣につかはしける

奈加従加左
中務
中務

原文 安利之多仁宇可利之毛乃遠安可寸止天以川己尓曽不留川良佐奈留良无
定家 有之多仁宇可利之物遠安可寸止天以川己尓曽不留川良佐奈留良无
和歌 ありしたに うかりしものを あかすとて いつこにそふる つらさなるらむ
解釈 有りしだに憂かりしものをあかずとていづこに添ふるつらさなるらん

歌番号九五三
宇己无尓川可者之个留
右近尓川可者之个留
右近につかはしける

比堂利乃於保伊萬宇智岐美
左大臣
左大臣

原文 於毛日和比幾美可川良幾尓太知与良者安女毛飛止女毛々良左々良奈无
定家 思日和比君可川良幾尓太知与良者雨毛人女毛々良左々良奈无
和歌 おもひわひ きみかつらきに たちよらは あめもひとめも もらささらなむ
解釈 思ひわび君がつらきに立ち寄らば雨も人目も漏らさざらなん

歌番号九五四
堂可安幾良乃安曾无尓布衣遠々久留止天
堂可安幾良乃朝臣尓布衣遠々久留止天
高明朝臣に笛を贈るとて

与美比止之良寸 
よみ人しらす 
詠み人知らず

原文 布衣多个乃毛止乃布留祢八加者留止毛遠乃可与々尓八奈良寸毛安良奈无
定家 布衣竹乃本乃布留祢八加者留止毛遠乃可与々尓八奈良寸毛安良奈无
和歌 ふえたけの もとのふるねは かはるとも おのかよよには ならすもあらなむ
解釈 笛竹の本の古音は変るとも己が世々にはならずもあらなん

歌番号九五五
己止於无奈尓毛乃以不止幾々天毛止乃女乃奈以之乃
布寸部者部利个礼者
己止女尓毛乃以不止幾々天毛止乃女乃内侍乃
布寸部侍个礼者
異女に物言ふと聞きて元の妻の内侍の
ふすべ侍りければ

与之布留乃安曾无
与之布留乃朝臣
よしふるの朝臣(小野好古)

原文 女毛三衣寸奈美多乃安女乃志久留礼者三乃奴礼幾奴者比留与之毛奈之
定家 女毛見衣寸涙乃雨乃志久留礼者身乃奴礼幾奴者比留与之毛奈之
和歌 めもみえす なみたのあめの しくるれは みのぬれきぬは ひるよしもなし
解釈 目も見えず涙の雨の時雨るれば身の濡れ衣は干るよしもなし

歌番号九五六
可部之 
返之 
返し

知宇之也乃奈以之
宇中将内侍
中将内侍

原文 仁久可良奴飛止乃幾世个无奴礼幾奴者於毛日尓安部寸以末加者幾奈无
定家 仁久可良奴人乃幾世个无奴礼幾奴者思日尓安部寸今加者幾奈无
和歌 にくからぬ ひとのきせけむ ぬれきぬは おもひにあへす いまかわきなむ
解釈 憎からぬ人の着せけん濡れ衣は思ひにあへず今乾きなん

歌番号九五七
堂以之良寸 
題しらす 
題知らす

遠乃々美知加世
小野道風
小野道風

原文 於保可多者世止多尓加遣之安万乃加者布可幾己々呂遠布知止多乃末武
定家 於保可多者世止多尓加遣之安万乃河布可幾心遠布知止多乃末武
和歌 おほかたは せとたにかけし あまのかは ふかきこころを ふちとたのまむ
解釈 おほかたは瀬とだにかけじ天の河深き心を淵と頼まむ

歌番号九五八
可部之 
返之 
返し

与美比止之良寸 
よみ人しらす 
詠み人知らず

原文 布知止天毛堂乃三也者寸留安満乃加八止之尓比止多日和多留天不世遠
定家 淵止天毛堂乃三也者寸留天河年尓比止多日和多留天不世遠
和歌 ふちとても たのみやはする あまのかは としにひとたひ わたるてふせを
解釈 淵とても頼みやはする天の河年に一度渡るてふ瀬を

歌番号九五九
美久之計止乃々部多宇尓徒可者之个留
美久之計止乃々部多宇尓徒可者之个留
御匣殿の別当につかはしける

幾与可計乃安曾无
幾与可計乃朝臣
きよかけの朝臣(源清蔭)

原文 三乃奈良无己止遠毛志良寸己久不祢者奈美乃己々呂毛川々万左利个利
定家 身乃奈良无事遠毛志良寸己久舟者浪乃心毛川々万左利个利
和歌 みのならむ ことをもしらす こくふねは なみのこころも つつまさりけり
解釈 身のならん事をも知らず漕ぐ舟は浪の心もつつまざりけり

歌番号九六〇
己止以天幾天乃知尓幾与宇己久乃美也春止己呂尓川可八之个留
事以天幾天乃知尓京極御息所尓川可八之个留
事出で来て後に京極御息所につかはしける

毛止与之乃美己
毛止与之乃美己
もとよしのみこ(元良親王)

原文 和比奴礼者以末者多於奈之奈尓者奈留三遠川久之天毛安者无止曽於毛不
定家 和比奴礼者今者多於奈之奈尓者奈留身遠川久之天毛安者无止曽思
和歌 わひぬれは いまはたおなし なにはなる みをつくしても あはむとそおもふ
解釈 わびぬれば今はた同じ難波なる身を尽くしても逢はんとぞ思ふ

歌番号九六一
志乃比天美久之計止乃々部多宇尓安比可多良不止
幾々天知々乃比多利乃於本以万宇知幾三乃世以之者部利个礼者
志乃比天美久之計止乃々部多宇尓安比可多良不止
幾々天知々乃左大臣乃世以之侍个礼者
忍びて御匣殿の別当にあひ語らふと
聞きて父の左大臣の制し侍りければ

安川多々乃安曾无
安川多々乃朝臣
あつたたの朝臣(藤原敦忠)

原文 以加尓之天加久於毛不天不己止遠多尓飛止徒天奈良天幾美尓加多良无
定家 如何之天加久思天不事遠多尓人徒天奈良天君尓加多良无
和歌 いかにして かくおもふてふ ことをたに ひとつてならて きみにかたらむ
解釈 いかにしてかく思ふてふ事をだに人づてならで君に語らん

歌番号九六二
幾美与利乃安曾无乃武寸女尓志乃比天寸三者部利个留尓
和徒良不己止安利天志奴部之止以部利个礼八川可者之个留
公頼朝臣乃武寸女尓志乃比天寸三侍个留尓
和徒良不事安利天志奴部之止以部利个礼八川可者之个留
公頼朝臣の女に忍びて住み侍りけるに、
わづらふ事ありて、死ぬべしと言へりければ、つかはしける

安佐多々乃安曾无
朝忠朝臣
朝忠朝臣(藤原朝忠)

原文 毛呂止毛尓以左止以者寸者志天乃也満己由止毛己左武毛乃奈良奈久尓
定家 毛呂止毛尓以左止以者寸者志天乃山己由止毛己左武物奈良奈久尓
和歌 もろともに いさといはすは してのやま こゆともこさむ ものならなくに
解釈 もろともにいざと言はずは死出の山越ゆとも越さむ物ならなくに

歌番号九六三
止之遠部天加多良不飛止乃川礼奈久乃美者部利个礼者
宇川呂日多留幾久尓川个天徒可者之个留
年遠部天加多良不人乃川礼奈久乃美侍个礼者
宇川呂日多留菊尓川个天徒可者之个留
年を経て語らふ人のつれなくのみ侍りければ、
移ろひたる菊につけてつかはしける

幾与可个乃安曾无
幾与可个乃朝臣
きよかけの朝臣(源清蔭)

原文 加久者加利布可幾以呂尓毛宇川呂不遠奈保幾美幾久乃者奈止以者奈无
定家 加久許布可幾色尓毛宇川呂不遠猶幾美幾久乃花止以者奈无
和歌 かくはかり ふかきいろにも うつろふを なほきみきくの はなといはなむ
解釈 かくばかり深き色にも移ろふをなほ君菊の花と言はなん

歌番号九六四
飛止乃毛止尓満可利多利个留尓加止与利乃美加部之
个留尓加良宇之天春多礼乃毛止尓与比与世天加宇
天左部也己々呂由可奴止以比以多之多利个礼者
人乃毛止尓満可利多利个留尓加止与利乃美返之
个留尓加良宇之天春多礼乃毛止尓与比与世天加宇
天左部也心由可奴止以比以多之多利个礼者
人のもとにまかりたりけるに、門よりのみ帰し
けるに、からうじて簾のもとに呼び寄せて、かう
てさへや心行かぬと言ひ出だしたりければ

与美比止之良寸 
よみ人しらす 
詠み人知らず

原文 伊左也万多飛止乃己々呂毛志良川由乃遠久尓毛止尓毛曽天乃美曽比川
定家 伊左也万多人乃心毛白露乃遠久尓毛止尓毛袖乃美曽比川
和歌 いさやまた ひとのこころも しらつゆの おくにもとにも そてのみそひつ
解釈 いさやまだ人の心も白露の置くにも外にも袖のみぞひつ

歌番号九六五
飛止乃毛止尓万可利个留遠安者天乃三可部之者部利个礼者
美知与利以比川可者之遣留
人乃毛止尓万可利个留遠安者天乃三返之侍个礼者
美知与利以比川可者之遣留
人のもとにまかりけるを、逢はでのみ返し侍りければ、
道より言ひつかはしける

与美比止之良寸 
よみ人しらす 
詠み人知らず

原文 与留志本乃美知久留曽良毛於毛本衣寸安不己止奈美尓加部留止於毛部八
定家 与留志本乃美知久留曽良毛於毛本衣寸安不己止浪尓帰止思部八
和歌 よるしほの みちくるそらも おもほえす あふことなみに かへるとおもへは
解釈 寄る潮の満ち来るそらも思ほえず逢ふこと浪に帰ると思へば

歌番号九六六
飛止遠於毛比加个天以比和多利者部利个留遠
万知止遠尓乃美者部利个礼者
人遠思加个天以比和多利侍个留遠
万知止遠尓乃美侍个礼者
人を思ひかけて言ひわたり侍りけるを
待ち遠にのみ侍りければ

与美比止之良寸 
よみ人しらす 
詠み人知らず

原文 加春奈良奴身者也万乃者尓安良祢止毛於本久乃川幾遠寸久之川留加奈
定家 加春奈良奴身者山乃者尓安良祢止毛於本久乃月遠寸久之川留哉
和歌 かすならぬ みはやまのはに あらねとも おほくのつきを すくしつるかな
解釈 数ならぬ身は山の端にあらねども多くの月を過ぐしつるかな

歌番号九六七
飛左之久以飛和多利者部利个留尓川礼奈久乃三者部利个礼八
飛左之久以飛和多利侍个留尓川礼奈久乃三侍个礼八
久しく言ひわたり侍りけるに、つれなくのみ侍りければ

奈利比良
業平朝臣
業平朝臣(在原業平)

原文 堂乃女川々安者天止之布留以徒者利尓己利奴己々呂遠飛止者志良奈无
定家 堂乃女川々安者天年布留以徒者利尓己利奴心遠人者志良奈无
和歌 たのめつつ あはてとしふる いつはりに こりぬこころを ひとはしらなむ
解釈 頼めつつ逢はで年経る偽りに懲りぬ心を人は知らなん

歌番号九六八
可部之 
返之 
返し

以世 
伊勢 
伊勢

原文 奈川无之乃志留/\末与不於毛飛遠者己利奴加奈之止多礼可三左良无
定家 夏虫乃志留/\迷於毛飛遠者己利奴加奈之止多礼可見左良无
和歌 なつむしの しるしるまよふ おもひをは こりぬかなしと たれかみさらむ
解釈 夏虫の知る知るまどふ思ひをば懲りぬ悲しと誰れか見ざらん

歌番号九六九
加部之己止世奴飛止尓川可者之个留
返己止世奴人尓川可者之个留
返事せぬ人につかはしける

与美比止之良寸 
よみ人しらす 
詠み人知らず

原文 打和比天与者々武己恵尓也万比己乃己多部奴曽良八安良之止曽於毛不
定家 打和比天与者々武声尓山比己乃己多部奴曽良八安良之止曽思
和歌 うちわひて よははむこゑに やまひこの こたへぬやまは あらしとそおもふ
解釈 うちわびて呼ばはむ声に山彦の答へぬそらはあらじとぞ思ふ

歌番号九七〇
可部之 
返之 
返し

与美比止之良寸 
よみ人しらす 
詠み人知らず

原文 也万比己乃己恵乃末尓/\止比由可八武奈之幾曽良尓由幾也加部良无
定家 山比己乃己恵乃末尓/\止比由可八武奈之幾曽良尓由幾也加部良无
和歌 やまひこの こゑのまにまに とひゆかは むなしきそらに ゆきやかへらむ
解釈 山彦の声のまにまに問ひ行かばむなしき空に行きや帰らん

歌番号九七一
加久以比加与者寸本止尓美止世者可利尓奈利者部利尓个礼八
加久以比加与者寸本止尓三止世許尓奈利侍尓个礼八
かく言ひ通はすほどに三年ばかりになり侍りにければ

与美比止之良寸 
よみ人しらす 
詠み人知らず

原文 安良堂満乃止之乃美止世者宇川世美乃武奈之幾祢遠也奈幾天久良左武
定家 荒玉乃年乃三止世者宇川世美乃武奈之幾祢遠也奈幾天久良左武
和歌 あらたまの としのみとせは うつせみの むなしきねをや なきてくらさむ
解釈 荒玉の年の三年はうつせみのむなしき音をや泣きて暮さむ

歌番号九七二
堂以之良寸 
題しらす 
題知らす

与美比止之良寸 
よみ人しらす 
詠み人知らず

原文 奈加礼以川留奈美多乃加八乃由久寸恵者川為尓安布美乃宇美止多乃万无
定家 流以川留涙乃河乃由久寸恵者川為尓近江乃宇美止多乃万无
和歌 なかれいつる なみたのかはの ゆくすゑは つひにあふみの うみとたのまむ
解釈 流れ出づる涙の河の行く末は遂に近江の海と頼まん

歌番号九七三
安女乃布留比飛止尓川可八之个留
雨乃布留日人尓川可八之个留
雨の降る日、人につかはしける

与美比止之良寸 
よみ人しらす 
詠み人知らず

原文 安女布礼止布良祢止奴留々和可曽天乃加々留於毛比尓加八可奴也奈曽
定家 雨布礼止布良祢止奴留々和可袖乃加々留於毛比尓加八可奴也奈曽
和歌 あめふれと ふらねとぬるる わかそての かかるおもひに かわかぬやなそ
解釈 雨降れど降らねど濡るる我が袖のかかる思ひに乾かぬやなぞ

歌番号九七四
可部之 
返之 
返し

与美比止之良寸 
よみ人しらす 
詠み人知らず

原文 川由者可利奴留良无曽天乃加者可奴者幾美可於毛日乃本止也寸久奈幾
定家 露許奴留良无袖乃加者可奴者君可思日乃本止也寸久奈幾
和歌 つゆはかり ぬるらむそての かわかぬは きみかおもひの ほとやすくなき
解釈 露ばかり濡るらん袖の乾かぬは君が思ひのほどや少なき

歌番号九七五
於无奈乃毛止尓満可利多留尓堂知奈可良加部之多礼八
美知与利川可八之个留
女乃毛止尓満可利多留尓堂知奈可良加部之多礼八
美知与利川可八之个留
女のもとにまかりたるに、立ちながら帰したれば、
道よりつかはしける

与美比止之良寸 
よみ人しらす 
詠み人知らず

原文 従祢与利毛万止不/\曽可部利川留安不美知毛奈幾也止尓由幾川々
定家 常与利毛万止不/\曽帰川留安不道毛奈幾也止尓由幾川々
和歌 つねよりも まとふまとふそ かへりつる あふみちもなき やとにゆきつつ
解釈 常よりもまどふまどふぞ帰りつる逢ふ道もなき宿に行きつつ

歌番号九七六
安女尓毛佐者良寸万天幾天曽良毛乃加多利奈止
之个留於止己乃加止与利和多留止天安女乃以多久布礼八
奈无満可利春幾奴留止以比多礼八
雨尓毛佐者良寸万天幾天曽良物加多利奈止
之个留於止己乃加止与利和多留止天雨乃以多久布礼八
奈无満可利春幾奴留止以比多礼八
雨にも障らずまで来て、そら物語りなど
しける男の門よりわたるとて、雨のいたく降れば
なんまかり過ぎぬると言ひたれば

与美比止之良寸 
よみ人しらす 
詠み人知らず

原文 奴礼川々毛久留止三衣之八奈従比幾乃天比幾尓多衣奴以止尓也安利个无
定家 奴礼川々毛久留止見衣之八夏引乃天比幾尓多衣奴以止尓也有个无
和歌 ぬれつつも くるとみえしは なつひきの てひきにたえぬ いとにやありけむ
解釈 濡れつつも来ると見えしは夏引きの手引きに絶えぬ糸にや有りけん

歌番号九七七
飛止尓和寸良礼天者部利个留止幾
人尓和寸良礼天侍个留時
人に忘られて侍りける時

与美比止之良寸 
よみ人しらす 
詠み人知らず

原文 加寸奈良奴三者宇幾久左止奈利奈々无川礼奈幾飛止尓与留部之良礼之
定家 加寸奈良奴身者宇幾草止奈利奈々无川礼奈幾人尓与留部之良礼之
和歌 かすならぬ みはうきくさと なりななむ つれなきひとに よるへしられし
解釈 数ならぬ身は浮草となりななんつれなき人に寄るべ知られじ

歌番号九七八
於毛比和寸礼尓个留飛止乃毛止尓満可利天
思和寸礼尓个留人乃毛止尓満可利天
思ひ忘れにける人のもとにまかりて

与美比止之良寸 
よみ人しらす 
詠み人知らず

原文 由不也美者美知毛三衣祢止布留左止者毛止己之己万尓万可世天曽久留
定家 由不也美者道毛見衣祢止旧里者本己之駒尓万可世天曽久留
和歌 ゆふやみは みちもみえねと ふるさとは もとこしこまに まかせてそくる
解釈 夕闇は道も見えねど古里はもと来し駒にまかせてぞ来る

歌番号九七九
可部之 
返之 
返し

与美比止之良寸 
よみ人しらす 
詠み人知らず

原文 己万尓己曽満可世多利个礼安也奈久毛己々呂乃久留止於毛比个留加奈
定家 駒尓己曽満可世多利个礼安也奈久毛心乃久留止思个留哉
和歌 こまにこそ まかせたりけれ あやなくも こころのくると おもひけるかな
解釈 駒にこそまかせたりけれあやなくも心の来ると思ひけるかな

歌番号九八〇
安左川奈乃安曾无乃武寸女尓布美川可者之个留遠
己止武寸女尓以比川幾天飛左之宇奈利天安幾止布良日天者部利个礼八
朝綱朝臣乃女尓布美川可者之个留遠
己止女尓以比川幾天飛左之宇奈利天秋止布良日天侍个礼八
朝綱朝臣の女に文などつかはしけるを、
異女に言ひつきて久しうなりて、秋訪らひて侍りければ

与美比止之良寸 
よみ人しらす 
詠み人知らず

原文 伊川加多尓己止川天也利天加利可祢乃安不己止万礼尓以末八奈留良无
定家 伊川方尓事川天也利天加利可祢乃安不己止万礼尓今八奈留良无
和歌 いつかたに ことつてやりて かりかねの あふことまれに いまはなるらむ
解釈 いづ方に事づてやりて雁が音の逢ふことまれに今はなるらん

歌番号九八一
越止己乃加礼者天奴尓己止於止己遠安飛之利天
者部利个留尓毛止乃於止己乃安川万部万可利个留遠幾々天
徒可者之个留
越止己乃加礼者天奴尓己止於止己遠安飛之利天
侍个留尓毛止乃於止己乃安川万部万可利个留遠幾々天
徒可者之个留
男のかれ果てぬに、異男をあひ知りて
侍りけるに、元の男の東へまかりけるを聞きて
つかはしける

与美比止之良寸 
よみ人しらす 
詠み人知らず

原文 安利止多尓幾久部幾毛乃遠安不左可乃世幾乃安奈多曽者留計加利个留
定家 有止多尓幾久部幾物遠相坂乃関乃安奈多曽者留計加利个留
和歌 ありとたに きくへきものを あふさかの せきのあなたそ はるけかりける
解釈 有りとだに聞くべきものを相坂の関のあなたぞはるけかりける

歌番号九八二
可部之 
返之 
返し

与美比止之良寸 
よみ人しらす 
詠み人知らず

原文 世幾毛利可安良多万留天不安不左可乃由不川計止利者奈幾川々曽由久
定家 関毛利可安良多万留天不相坂乃由不川計鳥者奈幾川々曽由久
和歌 せきもりか あらたまるてふ あふさかの ゆふつけとりは なきつつそゆく
解釈 関守があらたまるてふ相坂のゆふつけ鳥は鳴きつつぞ行く

歌番号九八三
満多於无奈乃川可者之个留
又女乃川可者之个留
又、女のつかはしける

与美比止之良寸 
よみ人しらす 
詠み人知らず

原文 由幾加部利幾天毛幾可奈无安不左可乃世幾尓加者礼留飛止毛安利也止
定家 由幾帰利幾天毛幾可南相坂乃関尓加者礼留人毛有也止
和歌 ゆきかへり きてもきなかむ あふさかの せきにかはれる ひともありやと
解釈 行き帰り来ても聞かなん相坂の関にかはれる人も有りやと

歌番号九八四
可部之 
返之 
返し

与美比止之良寸 
よみ人しらす 
詠み人知らず

原文 毛留飛止乃安留止八幾計止安不左可乃世幾毛止々女奴和可奈美多加奈
定家 毛留人乃安留止八幾計止相坂乃世幾毛止々女奴和可奈美多哉
和歌 もるひとの あるとはきけと あふさかの せきもととめぬ わかなみたかな
解釈 守る人のあるとは聞けど相坂の関も止めぬ我が涙かな

歌番号九八五
加礼尓个留於止己乃於毛比以天々万天幾天毛乃奈止以日
天加部利天
加礼尓个留於止己乃思以天々万天幾天物奈止以日
天加部利天
かれにける男の思ひ出でてまで来て、物など言ひて帰りて

与美比止之良寸 
よみ人しらす 
詠み人知らず

原文 加川良幾也久女知尓和多寸以者々之乃奈可/\尓天毛可部利奴留加奈
定家 葛木也久女知尓和多寸以者々之乃中/\尓天毛帰奴留哉
和歌 かつらきや くめちにわたす いははしの なかなかにても かへりぬるかな
解釈 葛木や久米路にわたす岩橋のなかなかにても帰りぬるかな

歌番号九八六
可部之 
返之 
返し

与美比止之良寸 
よみ人しらす 
詠み人知らず

原文 奈可多衣天久留飛止毛奈幾加川良幾乃久女知乃者之八以末毛安也宇之
定家 中多衣天久留人毛奈幾加川良幾乃久女知乃者之八以末毛安也宇之
和歌 なかたえて くるひともなき かつらきの くめちのはしは いまもあやふし
解釈 仲絶えて来る人もなき葛城の久米路の橋は今もあやうし

歌番号九八七
志呂幾々奴止毛幾多留於无奈止毛乃安万多川幾安可幾尓
者部利个留遠三天安之多尓比止利可毛止尓川可八之个留
志呂幾々奴止毛幾多留女止毛乃安万多月安可幾尓
侍个留遠見天安之多尓比止利可毛止尓川可八之个留
白き衣ども着たる女どものあまた月明かきに
侍りけるを見て、朝に一人がもとにつかはしける

布知八良乃安利与之
藤原有好
藤原有好

原文 志良久毛乃美奈比止武良尓三衣之可止多知以天々幾美遠於毛比曽女天幾
定家 白雲乃美奈比止武良尓見衣之可止多知以天々君遠思曽女天幾
和歌 しらくもの みなひとむらに みえしかと たちいててきみを おもひそめてき
解釈 白雲のみな一群に見えしかど立ち出でて君を思ひそめてき

歌番号九八八
於无奈乃毛止尓川可者之个留
女乃毛止尓川可者之个留
女のもとにつかはしける

与美比止之良寸 
よみ人しらす 
詠み人知らず

原文 与曽奈礼止己々呂者可利者加遣多留遠奈止可於毛比尓加者可佐留良无
定家 与曽奈礼止心許者加遣多留遠奈止可於毛比尓加者可佐留良无
和歌 よそなれと こころはかりは かけたるを なとかおもひに かわかさるらむ
解釈 よそなれど心ばかりはかけたるをなどか思ひに乾かざるらん

歌番号九八九
堂以之良寸 
題しらす 
題知らす

与美比止之良寸 
よみ人しらす 
詠み人知らず

原文 和可己比乃幾由留万毛奈久々留之幾八安者奴奈个幾也毛衣和多留良无
定家 和可己比乃幾由留万毛奈久々留之幾八安者奴歎也毛衣和多留覧
和歌 わかこひの きゆるまもなく くるしきは あはぬなけきや もえわたるらむ
解釈 我が恋の消ゆる間もなく苦しきは逢はぬ嘆きや燃えわたるらん

歌番号九九〇
可部之 
返之 
返し

与美比止之良寸 
よみ人しらす 
詠み人知らず

原文 幾衣寸乃美毛由留於毛日者止遠个礼止三毛己可礼奴留毛乃尓曽安利个留
定家 幾衣寸乃美毛由留思日者止遠个礼止身毛己可礼奴留物尓曽有个留
和歌 きえすのみ もゆるおもひは とほけれと みもこかれぬる ものにそありける
解釈 消えずのみ燃ゆる思ひは遠けれど身も焦がれぬる物にぞ有りける

歌番号九九一
万多於止己
又於止己
又、男

与美比止之良寸 
よみ人しらす 
詠み人知らず

原文 宇部尓乃美遠呂可尓毛由留加也利飛乃与尓毛曽己尓八於毛比可礼之
定家 宇部尓乃美遠呂可尓毛由留加也利火乃与尓毛曽己尓八思己可礼之
和歌 うへにのみ おろかにもゆる かやりひの よにもそこには おもひこかれし
解釈 上にのみおろかに燃ゆるかやり火のよにもそこには思ひ焦がれじ

歌番号九九二
末多可部之 
又返之 
又、返し

与美比止之良寸 
よみ人しらす 
詠み人知らず

原文 可者止乃美和多留遠三留尓奈久佐万天久累之幾己止曽以也万佐利奈留
定家 河止乃美和多留遠見留尓奈久佐万天久累之幾己止曽以也万佐利奈留
和歌 かはとのみ わたるをみるに なくさまて くるしきことそ いやまさりなる
解釈 河とのみ渡るを見るに慰まで苦しきことぞいやまさりなる

歌番号九九三
万多於止己
又於止己
又、男

与美比止之良寸 
よみ人しらす 
詠み人知らず

原文 美川満左留己々知乃美之天和可多女尓宇礼之幾世遠八三世之止也寸留
定家 水満左留心地乃美之天和可多女尓宇礼之幾世遠八見世之止也寸留
和歌 みつまさる ここちのみして わかために うれしきせをは みせしとやする
解釈 水まさる心地のみして我がためにうれしき瀬をば見せじとやする
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後撰和歌集(原文推定、翻文、解釈付)巻十三(その一)

2020年09月06日 | 後撰和歌集 原文推定
後撰和歌集(原文推定、翻文、解釈付)
止遠末利美末幾仁安多留未幾
巻十三

己比乃宇多以川
恋歌五

歌番号八九一
堂以之良寸 
題しらす 
題知らす

安利八良乃奈利比良乃安曾无
在原業平朝臣
在原業平朝臣

原文 以世乃宇美尓安曾不安万止毛奈利尓之可奈美加幾和个天見留女可川加武
定家 伊勢乃海尓遊安万止毛奈利尓之可浪加幾和个天見留女可川加武
和歌 いせのうみに あそふあまとも なりにしか なみかきわけて みるめかつかむ
解釈 伊勢の海に遊ぶ海人ともなりにしか浪かき分けてみるめかづかむ

歌番号八九二
可部之 
返之 
返し

以世 
伊勢 
伊勢

原文 於保呂遣乃安万也者加川久以世乃宇美乃奈美多加幾宇良尓於不留見累女八
定家 於保呂遣乃安万也者加川久以世乃海乃浪高幾浦尓於不留見累女八
和歌 おほろけの あまやはかつく いせのうみの なみたかきうらに おふるみるめは
解釈 おぼろけの海人やはかづく伊勢の海の浪高き浦の生ふるみるめは

歌番号八九三
徒礼奈久三衣者部利个留飛止尓
徒礼奈久見衣侍个留人尓
つれなく見え侍りける人に

与美比止之良寸 
よみ人しらす 
詠み人知らず

原文 徒良之止也以比者天々満之之良川由乃飛止尓己々呂者遠可之止於毛不遠
定家 徒良之止也以比者天々満之白露乃人尓心者遠可之止思遠
和歌 つらしとや いひはててまし しらつゆの ひとにこころは おかしとおもふを
解釈 つらしとや言ひ果ててまし白露の人に心は置かじと思ふを

歌番号八九四
堂以之良春 
題しらす 
題知らす

与美比止之良寸 
よみ人しらす 
詠み人知らず

原文 奈可良部者飛止乃己々呂毛三留部幾尓川由乃以乃知曽可奈之加利个留
定家 奈可良部者人乃心毛見留部幾尓露乃命曽悲加利个留
和歌 なからへは ひとのこころも みるへきに つゆのいのちそ かなしかりける
解釈 ながらへば人の心も見るべきに露の命ぞ悲しかりける

歌番号八九五
堂以之良春 
題しらす 
題知らす

遠乃々己万知可々安祢
小野小町可安祢
小野小町かあね(小野小町姉)

原文 飛止利奴留止幾者満多留々止利乃祢毛万礼尓安不与者和比之加利个利
定家 飛止利奴留時者満多留々鳥乃祢毛万礼尓安不夜者和比之加利个利
和歌 ひとりぬる ときはまたるる とりのねも まれにあふよは わひしかりけり
解釈 一人寝る時は待たるる鳥の音もまれに逢ふ夜はわびしかりけり

歌番号八九六
於无奈乃宇良美遠己世天者部利个礼者川可者之个留
女乃宇良美遠己世天侍个礼者川可者之个留
女の恨みおこせて侍りければつかはしける

布可也不
布可也不
ふかやふ(清原深養父)

原文 宇川世美乃武奈之幾加良尓奈留万天毛和春礼无止於毛不和礼奈良奈久尓
定家 空蝉乃武奈之幾加良尓奈留万天毛和春礼无止思我奈良奈久尓
和歌 うつせみの むなしきからに なるまても わすれむとおもふ われならなくに
解釈 空蝉のむなしき殻になるまでも忘れんと思ふ我ならなくに

歌番号八九七
安多奈留於止己遠安比之里天己々呂左之者安利止
三衣奈可良奈保宇多加者之久於保衣个礼者
徒加者之遣留
安多奈留於止己遠安比之里天心左之者安利止
見衣奈可良猶宇多加者之久於保衣个礼者
徒加者之遣留
あだなる男をあひ知りて、心ざしはありと
見えながら、なほ疑はしくおぼえければ
つかはしける

与美比止之良春 
よみ人しらす 
詠み人知らず

原文 以徒万天乃者可奈幾飛止乃己止乃者可己々呂乃安幾乃加世遠満川良无
定家 以徒万天乃者可奈幾人乃事乃者可心乃秋乃風遠満川良无
和歌 いつまての はかなきひとの ことのはか こころのあきの かせをまつらむ
解釈 いつまでのはかなき人の言の葉か心の秋の風を待つらん

歌番号八九八
堂以之良春 
題しらす 
題知らす

与美比止之良春 
よみ人しらす 
詠み人知らず

原文 宇多々祢乃由女者可利奈留安不己止遠安幾乃与寸可良於毛比川留可那
定家 宇多々祢乃夢許奈留逢事遠秋乃与寸可良思川留可那
和歌 うたたねの ゆめはかりなる あふことを あきのよすから おもひつるかな
解釈 うたた寝の夢ばかりなる逢ふ事を秋の夜すがら思ひつるかな

歌番号八九九
於无奈乃毛止尓満可利多利个留尓加止遠佐之天安遣
佐利个礼者万加里加部里天安之多尓川可者之个留
女のもとにまかりたりけるに、門を鎖して開け
ざりければ、まかり帰りて朝につかはしける

加祢寸个乃安曾无
兼輔朝臣
兼輔朝臣(藤原兼輔)

原文 秋乃与乃久左乃止佐之乃和比之幾者安久礼止安个奴毛乃尓曽安利个留
定家 秋乃夜乃草乃止佐之乃和比之幾者安久礼止安个奴物尓曽有个留
和歌 あきのよの くさのとさしの わひしきは あくれとあけぬ ものにそありける
解釈 秋の夜の草のとざしのわびしきは明くれど明けぬものにぞ有りける

歌番号九〇〇
可部之 
返之 
返し

与美比止之良寸 
よみ人しらす 
詠み人知らず

原文 以布可良尓徒良左曽万佐留安幾乃与乃久左乃止佐之尓佐者累部之也八
定家 以布可良尓徒良左曽万佐留秋乃夜乃草乃止佐之尓佐者累部之也八
和歌 いふからに つらさそまさる あきのよの くさのとさしに さはるへしやは
解釈 言ふからにつらさぞまさる秋の夜の草のとざしに障るべしやは

歌番号九〇一
加従良乃美己尓春美者之女个留安比多尓加乃美己
安比於毛者奴个之幾奈利个礼者
桂乃美己尓春美者之女个留安比多尓加乃美己
安比於毛者奴个之幾奈利个礼者
桂内親王に住みはじめける間に、かの内親王
あひ思はぬけしきなりければ

佐多加寸乃美己
佐多加寸乃美己
さたかすのみこ(貞数親王)

原文 飛止之礼春毛乃於毛不己呂乃和可曽天者安幾乃久左波尓於止良左利个里
定家 人之礼春物思己呂乃和可袖者秋乃草波尓於止良左利个里
和歌 ひとしれす ものおもふころの わかそては あきのくさはに おとらさりけり
解釈 人知れず物思ふころの我が袖は秋の草葉に劣らざりけり

歌番号九〇二
志乃比多留飛止尓徒可者之个留
志乃比多留人尓徒可者之个留
忍びたる人につかはしける

於久留於保萬豆利古止乃於保萬豆岐美
贈太政大臣
贈太政大臣

原文 志徒者多尓於毛比美多礼天安幾乃与乃安久留毛志良寸奈个幾川留加奈
定家 志徒者多尓思美多礼天秋乃夜乃安久留毛志良寸奈个幾川留哉
和歌 しつはたに おもひみたれて あきのよの あくるもしらす なけきつるかな
解釈 倭文はたに思ひ乱れて秋の夜の明くるも知らず嘆きつるかな

歌番号九〇三
世宇曽己者加与者之遣礼止満多安者佐里个留
於止己遠己礼可礼安比尓个里止以比左波久遠
安良加者左奈利止宇良美徒可者之多利个礼
世宇曽己者加与者之遣礼止満多安者佐里个留
於止己遠己礼可礼安比尓个里止以比左波久遠
安良加者左奈利止宇良美徒可者之多利个礼
消息は通はしけれど、まだ逢はざりける
男をこれかれ、逢ひにけりと言ひ騒ぐを、
あらがはざなりと恨みつかはしたりければ

与美比止之良寸 
よみ人しらす 
詠み人知らず

原文 者知寸者乃宇部者川礼奈幾宇知尓己曽毛乃安良可比者川久止以布奈礼
定家 者知寸者乃宇部者川礼奈幾宇知尓己曽物安良可比者川久止以布奈礼
和歌 はちすはの うへはつれなき うちにこそ ものあらかひは つくといふなれ
解釈 蓮葉の上はつれなきうらにこそ物あらがひはつくと言ふなれ

歌番号九〇四
於止己乃徒良宇奈利由久己呂安女乃布利个礼者
徒可者之遣留
於止己乃徒良宇奈利由久己呂雨乃布利个礼者
徒可者之遣留
男のつらうなり行くころ、雨の降りければ
つかはしける

与美比止之良寸 
よみ人しらす 
詠み人知らず

原文 布利也女者安止多尓三衣奴宇多可多乃幾衣天者可奈幾与遠多乃武加奈
定家 布利也女者安止多尓見衣奴宇多可多乃幾衣天者可奈幾与遠多乃武哉
和歌 ふりやめは あとたにみえぬ うたかたの きえてはかなき よをたのむかな
解釈 降りやめば跡だに見えぬうたかたの消えてはかなき世を頼むかな

歌番号九〇五
於无奈乃毛止尓万可利天衣安者天加部利天徒可者之个留
女乃毛止尓万可利天衣安者天加部利天徒可者之个留
女のもとにまかりてえ逢はで帰りてつかはしける

与美比止之良寸 
よみ人しらす 
詠み人知らず

原文 安者天乃美安満多乃世遠毛加部留加奈飛止女乃志个幾安不左可尓幾天
定家 安者天乃美安満多乃世遠毛加部留哉人女乃志个幾相坂尓幾天
和歌 あはてのみ あまたのよをも かへるかな ひとめのしけき あふさかにきて
解釈 逢はでのみあまたの世をも帰るかな人目のしげき相坂に来て

歌番号九〇六
於无奈尓毛乃以不於止己布多利安利个利飛止利可加部之己止寸止
幾々天以万比止利可徒可者之遣留
女尓物以不於止己布多利安利个利飛止利可返事寸止
幾々天以万比止利可徒可者之遣留
女に物言ふ男二人ありけり。一人が返事すと
聞きて、いま一人がつかはしける

与美比止之良寸 
よみ人しらす 
詠み人知らず

原文 奈比久方安利个留毛乃遠奈与多个乃与尓部奴毛乃止於毛比个留加奈
定家 奈比久方有个留物遠奈与竹乃世尓部奴物止思个留哉
和歌 なひくかた ありけるものを なよたけの よにへぬものと おもひけるかな
解釈 なびく方有りけるものをなよ竹の世に経ぬ物と思ひけるかな

歌番号九〇七
於无奈乃己々呂加者利奴部幾遠幾々天徒可者之个留
女乃心加者利奴部幾遠幾々天徒可者之个留
女の心変りぬべきを聞きてつかはしける

与美比止之良寸 
よみ人しらす 
詠み人知らず

原文 祢尓奈遣者飛止和良部奈利久礼多个乃与尓部奴遠多尓加知奴止於毛者无
定家 祢尓奈遣者人和良部也久礼竹乃世尓部奴遠多尓加知奴止於毛者无
和歌 ねになけは ひとわらへなり くれたけの よにへぬをたに かちぬとおもはむ
解釈 音に泣けば人笑へなり呉竹の世に経ぬをだに勝ちぬと思はん

歌番号九〇八
布美徒可者之个留於无奈乃於也乃以世部万可利个礼八
止毛尓満可利个累尓徒可者之个留
布美徒可者之个留女乃於也乃伊勢部万可利个礼八
止毛尓満可利个累尓徒可者之个留
文つかはしける女の、親の伊勢へまかりければ、
共にまかりけるにつかはしける

与美比止之良寸 
よみ人しらす 
詠み人知らず

原文 以世乃安満止幾美之奈利奈者於奈之久者己比之幾本止尓見留女可良世与
定家 伊勢乃安満止君之奈利奈者於奈之久者己比之幾本止尓見留女可良世与
和歌 いせのあまと きみしなりなは おなしくは こひしきほとに みるめからせよ
解釈 伊勢の海人と君しなりなば同じくは恋しきほどにみるめ刈らせよ

歌番号九〇九
以知之与宇可毛止尓以止奈无己比之幾止以比尓也利多利
遣礼者於尓乃可多遠加幾天也留止天
一条可毛止尓以止奈无己比之幾止以比尓也利多利
遣礼者於尓乃可多遠加幾天也留止天
一条がもとに、いとなん恋しきと言ひにやりたり
ければ、鬼のかたを描きてやるとて

以知之与宇
一条
一条

原文 己飛之久者可个遠多尓三天奈久左女与和加宇知止个天志乃布可本奈利
定家 己飛之久者影遠多尓見天奈久左女与和加宇知止个天志乃布可本也
和歌 こひしくは かけをたにみて なくさめよ わかうちとけて しのふかほなり
解釈 恋しくは影をだに見て慰めよ我がうちとけてしのぶ顔なり

歌番号九一〇
可部之 
返之 
返し

以世 
伊勢 
伊勢

原文 可个三礼者以止々己々呂曽万止者留々知可々良奴計乃宇止幾奈利个利
定家 影見礼者以止々心曽万止者留々知可々良奴計乃宇止幾奈利个利
和歌 かけみれは いととこころそ まとはるる ちかからぬけの うときなりけり
解釈 影見ればいとど心ぞまどはるる近からぬ気のうときなりけり

歌番号九一一
飛止乃武寸女尓志乃比天加与比者部利个留尓川良个尓
三衣者部利个礼者世宇曽己安利个留加部之己止尓
人乃武寸女尓志乃比天加与比侍个留尓川良个尓
見衣侍个礼者世宇曽己安利个留返事尓
人の女に忍びて通ひ侍りけるに、つらげに
見え侍りければ、消息ありける返事に

与美比止之良寸 
よみ人しらす 
詠み人知らず

原文 飛止己止乃宇幾遠毛志良寸安利可世之无加之奈可良乃和可三止毛可奈
定家 人己止乃宇幾遠毛志良寸安利可世之昔奈可良乃和可身止毛哉
和歌 ひとことの うきをもしらす ありかせし むかしなからの わかみともかな
解釈 人言の憂きをも知らずありかせし昔ながらの我が身ともがな

歌番号九一二
三奈礼多留於无奈尓満多毛乃以者武止天満可利多利个礼止
己恵者之奈可良加久礼个礼者徒可者之遣留
見奈礼多留女尓又物以者武止天満可利多利个礼止
己恵者之奈可良加久礼个礼者徒可者之遣留
見慣れたる女に又物言はむとてまかりたりけれど、
声はしながら隠れければつかはしける

与美比止之良寸 
よみ人しらす 
詠み人知らず

原文 保止々幾寸奈川幾曽女天之加飛毛奈久己恵遠与曽尓毛幾々和多留加奈
定家 郭公奈川幾曽女天之加飛毛奈久己恵遠与曽尓毛幾々和多留哉
和歌 ほとときす なつきそめてし かひもなく こゑをよそにも ききわたるかな
解釈 郭公なつきそめてしかひもなく声をよそにも聞きわたるかな

歌番号九一三
飛止乃毛止尓者之女天万可利天川止女天川可者之个留
人乃毛止尓者之女天万可利天川止女天川可者之个留
人のもとに初めてまかりて、翌朝つかはしける

与美比止之良寸 
よみ人しらす 
詠み人知らず

原文 徒祢与利毛於幾宇可利川留安加川幾者川由左部加々留毛乃尓曽安利有个留
定家 徒祢与利毛於幾宇可利川留暁者川由左部加々留物尓曽有个
和歌 つねよりも おきうかりつる あかつきは つゆさへかかる ものにそありける
解釈 常よりも起き憂かりつる暁は露さへかかる物にぞ有りける

歌番号九一四
志乃比天万天幾个留飛止乃之毛乃以多久布利个留
与万可良天徒止女天徒可者之个留
志乃比天万天幾个留人乃之毛乃以多久布利个留
夜万可良天徒止女天徒可者之个留
忍びてまで来ける人の霜のいたく降りける
夜まからで翌朝つかはしける

与美比止之良寸 
よみ人しらす 
詠み人知らず

原文 遠久之毛乃安加川幾遠幾遠於毛者寸者幾美可与止乃尓与可礼世万之也
定家 遠久霜乃暁遠幾遠於毛者寸者君可与止乃尓与可礼世万之也
和歌 おくしもの あかつきおきを おもはすは きみかよとのに よかれせましや
解釈 置く霜の暁起きを思はずは君が夜殿に夜がれせましや

歌番号九一五
可部之 
返之 
返し

与美比止之良寸 
よみ人しらす 
詠み人知らず

原文 之毛遠可奴者留与利乃知乃奈可女尓毛以川可者幾美可与可礼世左利之
定家 霜遠可奴春与利乃知乃奈可女尓毛以川可者君可与可礼世左利之
和歌 しもおかぬ はるよりのちの なかめにも いつかはきみか よかれせさりし
解釈 霜置かぬ春より後のながめにもいつかは君が夜がれせざりし

歌番号九一六
己々呂尓毛安良天比左之久止者左利个留飛止乃
毛止尓徒可者之个留
心尓毛安良天比左之久止者左利个留人乃
毛止尓徒可者之个留
心にもあらで久しく訪はざりける人の
もとにつかはしける

美奈毛堂乃布左安幾良乃安曾无
源英明朝臣
源英明朝臣

原文 以世乃宇美乃安万乃満天可多以止奈美奈可良部尓个留三遠曽宇良武累
定家 伊勢乃海乃安万乃満天可多以止奈美奈可良部尓个留身遠曽宇良武累
和歌 いせのうみの あまのまてかた いとまなみ なからへにける みをそうらむる
解釈 伊勢の海のあまのまでかたいとまなみながらへにける身をぞ恨むる

歌番号九一七
盈可多宇者部利个留於无奈乃以部乃末部与利万可利个留遠
三天以川己部以久曽止以比以多之天者部利个礼八
盈可多宇侍个留女乃家乃末部与利万可利个留
遠見天以川己部以久曽止以比以多之天侍个礼八
得がたう侍りける女の家の前よりまかりけるを
見て、いづこへ行くぞと言ひ出だして侍りければ

布知八良乃太女与
藤原太女与
藤原ためよ(藤原為世)

原文 安不己止乃加多乃部止天曽和礼者由久三遠於奈之奈尓於毛比奈之川々
定家 逢事乃加多乃部止天曽我者由久身遠於奈之奈尓思奈之川々
和歌 あふことの かたのへとてそ われはゆく みをおなしなに おもひなしつつ
解釈 逢ふ事のかた野へとてそぞ我は行く身を同じ名に思ひなしつつ

歌番号九一八
堂以之良寸 
題しらす 
題知らす

与美飛止毛
与美人毛
よみ人も

原文 幾美可安多利久毛為尓三川々美也知也満宇知己衣由可无三知毛志良奈久
定家 君可安多利雲井尓見川々宮知山宇知己衣由可无道毛志良奈久
和歌 きみかあたり くもゐにみつつ みやちやま うちこえゆかむ みちもしらなく
解釈 君があたり雲井に見つつ宮路山うち越え行かん道も知らなく

歌番号九一九
於止己乃加部之己止尓徒可者之个留
於止己乃返事尓徒可者之个留
男の返事につかはしける

本止之己
俊子
俊子

原文 於毛不天不己止乃波以可尓奈川可之奈乃知宇幾毛乃止於毛者寸毛可奈
定家 思不天不事乃波以可尓奈川可之奈乃知宇幾物止於毛者寸毛哉
和歌 おもふてふ ことのはいかに なつかしな のちうきものと おもはすもかな
解釈 思ふてふ言の葉いかになつかしな後憂き物と思はずもがな

歌番号九二〇
堂以之良寸 
題しらす 
題知らす

可祢毛知乃安曾无乃武寸女
兼茂朝臣乃武寸女
兼茂朝臣のむすめ(藤原兼茂朝臣女)

原文 於毛不天不止己曽宇个礼久礼个乃与尓不留飛止乃以者奴奈个礼八
定家 思天不事己曽宇个礼久礼竹乃与尓不留人乃以者奴奈个礼八
和歌 おもふてふ ことこそうけれ くれたけの よにふるひとの いはぬなけれは
解釈 思ふてふ事こそ憂けれ呉竹のよにふる人の言はぬなければ

歌番号九二一
堂以之良寸 
題しらす 
題知らす

与美比止之良寸 
よみ人しらす 
詠み人知らず

原文 於毛八武止和礼遠多乃女之己止乃者々和寸礼久左止曽以末八奈留良之
定家 於毛八武止我遠多乃女之事乃者々忘草止曽今八奈留良之
和歌 おもはむと われをたのめし ことのはは わすれくさとそ いまはなるらし
解釈 思はむと我を頼めし言の葉は忘草とぞ今はなるらし

歌番号九二二
於止己乃也万比尓和川良比天満可良天比左之久
安利天徒可者之遣留
於止己乃也万比尓和川良比天満可良天比左之久
安利天徒可者之遣留
男の病にわづらひてまからで久しく
ありてつかはしける

与美比止之良寸 
よみ人しらす 
詠み人知らず

原文 以末万天毛幾衣天安利川留川由乃三者遠久部幾也止乃安礼者奈利个里
定家 今万天毛幾衣天有川留川由乃身者遠久部幾也止乃安礼者奈利个里
和歌 いままても きえてありつる つゆのみは おくへきやとの あれはなりけり
解釈 今までも消えて有りつる露の身は置くべき宿のあれはなりけり

歌番号九二三
可部之 
返之 
返し

与美比止之良寸 
よみ人しらす 
詠み人知らず

原文 己止乃葉毛三那之毛加礼尓奈利由久者川由乃也止利毛安良之止曽於毛不
定家 事乃葉毛三那霜加礼尓成由久者川由乃也止利毛安良之止曽思
和歌 ことのはも みなしもかれに なりゆくは つゆのやとりも あらしとそおもふ
解釈 言の葉もみな霜枯れになり行くは露の宿りもあらじとぞ思ふ

歌番号九二四
宇良美遠己世天者部利个留飛止乃加部之己止尓
怨遠己世天侍个留人乃返事尓
恨みおこせて侍りける人の返事に

与美比止之良寸 
よみ人しらす 
詠み人知らず

原文 王寸礼武止以比之己止尓毛安良奈久尓以末八加幾利止於毛不毛乃可波
定家 忘武止以比之事尓毛安良奈久尓今八限止思物可波
和歌 わすれむと いひしことにも あらなくに いまはかきりと おもふものかは
解釈 忘れむと言ひし事にもあらなくに今は限りと思ふ物かは

歌番号九二五
宇良美遠己世天者部利个留飛止乃加部之己止尓
怨遠己世天侍个留人乃返事尓
怨みおこせて侍りける人の返事に

与美比止之良寸 
よみ人しらす 
詠み人知らず

原文 宇川々尓八布世止祢良礼寸越幾可部利幾乃不乃由女遠以川可和寸礼无
定家 宇川々尓八布世止祢良礼寸越幾可部利昨日乃夢遠以川可和寸礼无
和歌 うつつには ふせとねられす おきかへり きのふのゆめを いつかわすれむ
解釈 うつつには臥せど寝られず起き返り昨日の夢をいつか忘れん

歌番号九二六
於无奈尓徒可者之遣流
女尓徒可者之遣流
女につかはしける

与美比止之良寸 
よみ人しらす 
詠み人知らず

原文 佐々良奈美万奈久太川女留宇良遠己曽与尓安佐之止毛三川々和寸礼奴
定家 佐々良奈美万奈久太川女留浦遠己曽世尓安佐之止毛見川々和寸礼奴
和歌 ささらなみ まなくたつめる うらをこそ よにあさしとも みつつわすれめ
解釈 ささら浪間なく立つめる浦をこそ世に浅しとも見つつ忘れめ

歌番号九二七
尓之乃与无之与宇乃以川幾乃美也万多美己尓毛乃之
多万比之止幾己々呂左之安利天於毛不己止者部利个留
安比多尓以川幾乃美也尓佐多万利多末比尓个礼者
曽乃安久留安之多尓佐可幾乃衣多尓佐之天
左之遠可世者部利个留
西四条乃斎宮万多美己尓毛乃之
給之時心左之安利天於毛不事侍个留安比多尓斎宮尓佐
多万利多末比尓个礼者
曽乃安久留安之多尓佐可木乃枝尓佐之天
左之遠可世侍个留
西四条の斎宮まだ内親王にものし
たまひし時、心ざしありて思ふ事侍りける
間に、斎宮に定まりたまひにければ、
その明くる朝に賢木の枝にさして、
さし置かせ侍りける

安徒多々乃安曾无
安徒多々乃朝臣
あつたたの朝臣(藤原敦忠)

原文 以世乃宇美乃知比呂乃者万尓比呂不止毛以末者奈尓天不加比可安留部幾
定家 伊勢乃海乃知比呂乃者万尓比呂不止毛今者何天不加比可安留部幾
和歌 いせのうみの ちひろのはまに ひろふとも いまはなにてふ かひかあるへき
解釈 伊勢の海の千尋の浜に拾ふとも今は何てふ貝かあるべき

歌番号九二八
安佐与利乃安曾无止之己呂世宇曽己加与者之者部利个留
於无奈乃毛止与利与宇奈之以末者於毛比和寸礼祢止
者可利毛宇之天飛佐之宇奈利尓个礼者己止於无奈尓
以比川幾天世宇曽己毛世寸奈利尓个礼八
安佐与利乃朝臣年己呂世宇曽己加与者之侍个留
女乃毛止与利与宇奈之今者思和寸礼祢止
者可利申天飛佐之宇奈利尓个礼者己止女尓
以比川幾天世宇曽己毛世寸奈利尓个礼八
朝頼朝臣年ごろ消息通はし侍りける
女のもとより、用なし、今は思ひ忘れねと
ばかり申して久しうなりにければ、異女に
言ひつきて、消息もせずなりにければ

保无為无乃久良
本院乃久良
本院のくら(本院蔵)

原文 和春礼祢止以比之尓加奈不幾美奈礼止々波奴者川良幾毛乃尓曽安利个留
定家 和春礼祢止以比之尓加奈不君奈礼止々波奴者川良幾物尓曽有个留
和歌 わすれねと いひしにかなふ きみなれと とはぬはつらき ものにそありける
解釈 忘れねと言ひしにかなふ君なれど訪はぬはつらき物にぞ有りける

歌番号九二九
堂以之良寸 
題しらす 
題知らす

与美飛止毛
与美人毛
よみ人も

原文 物留加寸美者可奈久多知天和可留止毛可世与利保加尓多礼可止不部幾
定家 春霞者可奈久多知天和可留止毛風与利外尓誰可止不部幾
和歌 はるかすみ はかなくたちて わかるとも かせよりほかに たれかとふへき
解釈 春霞はかなく立ちて別るとも風よりほかに誰か訪ふべき

歌番号九三〇
可部之 
返之 
返し

以世 
伊勢 
伊勢

原文 女尓三衣奴可世尓己々呂遠堂久部徒々也良八加寸美乃和可礼己曽世女
定家 女尓見衣奴風尓心遠堂久部徒々也良八霞乃和可礼己曽世女
和歌 めにみえぬ かせにこころを たくへつつ やらはかすみの わかれこそせめ
解釈 目に見えぬ風に心をたぐへつつやらば霞の別れこそせめ

歌番号九三一
土左可毛止与利世宇曽己者部利个留加部之己止尓川可者之个留
土左可毛止与利世宇曽己侍个留返事尓川可者之个留
土左がもとより消息侍りける返事につかはしける

佐多毛止乃美己
佐多毛止乃美己
さたもとのみこ(貞元親王)

原文 布可美止利曽女計无万川乃衣尓之安良八宇寸幾曽天尓毛奈美八与世天无
定家 布可緑染釼松乃衣尓之安良八宇寸幾袖尓毛浪八与世天无
和歌 ふかみとり そめけむまつの えにしあらは うすきそてにも なみはよせてむ
解釈 深緑染めけん松の枝にしあらば薄き袖にも浪は寄せてん

歌番号九三二
可部之 
返之 
返し

止左
土左
土左

原文 万川也末乃寸恵己寸奈美乃衣尓之安良八幾美可曽天尓八安止毛止万良之
定家 松山乃寸恵己寸浪乃衣尓之安良八君可袖尓八安止毛止万良之
和歌 まつやまの すゑこすなみの えにしあらは きみかそてには あともとまらし
解釈 松山の末越す浪のえにしあらば君が袖には跡もとまらじ

歌番号九三三
於无奈乃毛止与利佐多女奈幾己々呂安利奈止毛宇之多利个礼八
女乃毛止与利佐多女奈幾心安利奈止申多利个礼八
女のもとより、定めなき心ありなど申したりければ

於久留於保萬豆利古止乃於保萬豆岐美
贈太政大臣
贈太政大臣

原文 布加久於毛日曽女川止以比之己止乃者々以川可安幾加世布幾天知利奴留
定家 深久思日曽女川止以比之事乃者々以川可秋風布幾天知利奴留
和歌 ふかくおもひ そめつといひし ことのはは いつかあきかせ ふきてちりぬる
解釈 深く思ひそめつと言ひし言の葉はいつか秋風吹きて散りぬる

歌番号九三四
越止己乃己々呂加者留遣之幾奈利个礼者多々奈利个留止幾
己乃於止己乃己々呂佐世利个留遠不幾尓加幾川个天者部利个留
越止己乃心加者留遣之幾奈利个礼者多々奈利个留時
己乃於止己乃心佐世利个留扇尓加幾川个天侍个留
男の心変る気色なりければ、ただなりける時
この男の心ざせりける扇に書きつけて侍りける

与美比止之良寸 
よみ人しらす 
詠み人知らず

原文 飛止遠乃美宇良武留与利八己々呂可良己礼以末左利之川美止於毛者无
定家 人遠乃美宇良武留与利八心可良己礼以末左利之川美止於毛者无
和歌 ひとをのみ うらむるよりは こころから これいまさりし つみとおもはむ
解釈 人をのみ恨むるよりは心からこれ忌まざりし罪と思はん

歌番号九三五
志乃日多留於无奈乃毛止尓世宇曽己川可者之多利个礼者
志乃日多留女乃毛止尓世宇曽己川可者之多利个礼者
忍びたる女のもとに消息つかはしたりければ

与美比止之良寸 
よみ人しらす 
詠み人知らず

原文 安之比幾乃也末志多之計久由久美川乃奈加礼天加久之止波々多乃万无
定家 葦引乃山志多之計久由久水乃流天加久之止波々多乃万无
和歌 あしひきの やましたしけく ゆくみつの なかれてかくし とははたのまむ
解釈 あしひきの山下しげく行く水の流れてかくし問はば頼まん

歌番号九三六
於止己乃和寸礼者部利尓个礼者
於止己乃和寸礼侍尓个礼者
男の忘れ侍りにければ

以世 
伊勢 
伊勢

原文 和比者川留止幾左部毛乃々加奈之幾者以川己遠志乃不己々呂奈留良武
定家 和比者川留時左部物乃加奈之幾者以川己遠忍心奈留良武
和歌 わひはつる ときさへものの かなしきは いつこをしのふ こころなるらむ
解釈 わび果つる時さへ物の悲しきはいづこを忍ぶ心なるらむ

歌番号九三七
越也乃末毛利个留武寸女越以奈止毛世止毛以比者奈
天止毛宇之个礼者
越也乃末毛利个留女越以奈止毛世止毛以比者奈
天止申个礼者
親の守りける女を、否とも諾とも言ひ放
てと申しければ

以世 
伊勢 
伊勢

原文 以奈世止毛以比者奈多礼寸宇幾毛乃者三遠己々呂止毛世奴世奈利个利
定家 以奈世止毛以比者奈多礼寸宇幾物者身遠心止毛世奴世奈利个利
和歌 いなせとも いひはなたれす うきものは みをこころとも せぬよなりけり
解釈 否諾とも言ひ放たれず憂き物は身を心ともせぬ世なりけり

歌番号九三八
於止己乃以可尓曽衣万宇天己奴己止々以比天者部利个礼八
於止己乃以可尓曽衣万宇天己奴己止々以比天侍个礼八
男のいかにぞえまうで来ぬことと言ひて侍りければ

与美比止之良寸 
よみ人しらす 
詠み人知らず

原文 己春也安良无幾也世无止乃美加者幾志乃万川乃己々呂遠於毛比也良奈无
定家 己春也安良无幾也世无止乃美河岸乃松乃心遠思也良奈无
和歌 こすやあらむ きやせむとのみ かはきしの まつのこころを おもひやらなむ
解釈 来ずやあらん来やせんとのみ河岸の松の心を思ひやらなん

歌番号九三九
止万礼止思於止己乃以天々万可利个礼者
止万礼止思於止己乃以天々万可利个礼者
泊まれと思ふ男の出でてまかりければ

与美比止之良寸 
よみ人しらす 
詠み人知らず

原文 志比天由久己万乃安之於留波之遠多尓奈止和可也止尓和多左々利个无
定家 志比天由久己万乃安之於留波之遠多尓奈止和可也止尓和多左々利个无
和歌 しひてゆく こまのあしをる はしをたに なとわかやとに わたささりけむ
解釈 しひて行く駒の脚折る橋をだになどわがやどに渡さざりけん

歌番号九四〇
毛乃以比个留飛止乃比左之宇遠止川礼左利个留
加良宇之天万宇天幾多利个留尓奈止可
飛佐之宇止以部利个礼者
物以比个留人乃比左之宇遠止川礼左利个留
加良宇之天万宇天幾多利个留尓奈止可
飛佐之宇止以部利个礼者
物言ひける人の久しう訪れざりける、
からうじてまうで来たりけるに、などか
久しうと言へりければ

与美比止之良寸 
よみ人しらす 
詠み人知らず

原文 止之遠部天以个留可比奈幾和可三遠者奈尓可八飛止尓安利止志良礼无
定家 年遠部天以个留可比奈幾和可身遠者何可八人尓有止志良礼无
和歌 としをへて いけるかひなき わかみをは なにかはひとに ありとしられむ
解釈 年を経て生けるかひなき我が身をば何かは人に有りと知られん

歌番号九四一
以止志乃比天満宇天幾多利个留於止己遠世以之
遣留飛止安利个利乃々之利遣礼者加部利万可利天
徒可者之个留
以止志乃比天満宇天幾多利个留於止己遠世以之
遣留人安利个利乃々之利遣礼者加部利万可利天
徒可者之个留
いと忍びてまうで来きたりける男を制し
ける人ありけり。ののしりければ帰りまかりて
つかはしける

与美比止之良寸 
よみ人しらす 
詠み人知らず

原文 安佐利寸留止幾曽和比之幾飛止之礼寸奈尓八乃宇良尓寸万不和可三八
定家 安佐利寸留時曽和比之幾人之礼寸奈尓八乃浦尓寸万不和可身八
和歌 あさりする ときそわひしき ひとしれす なにはのうらに すまふわかみは
解釈 漁りする時ぞわびしき人知れず難波の浦に住まふ我が身は

歌番号九四二
幾美与利乃安曾无以末々加利个留於无奈乃毛止尓乃美満可利个礼者
公頼朝臣以末々加利个留女乃毛止尓乃美満可利个礼者
公頼朝臣、今まかりける女のもとにのみまかりければ

加武之无保宇之加者々
寛湛法師母
寛湛法師母

原文 奈可免川々飛止満川与為乃与不己止利以徒加多部止可由幾加部留良无
定家 奈可免川々人満川与為乃与不己止利以徒方部止可行加部留良无
和歌 なかめつつ ひとまつよひの よふことり いつかたへとか ゆきかへるらむ
解釈 ながめつつ人待つ宵の呼子鳥いづ方へとか行き帰るらん

歌番号九四三
志乃比多留飛止尓
志乃比多留人尓
忍びたる人に

与美比止之良寸 
よみ人しらす 
詠み人知らず

原文 飛止己止乃堂乃三加多左者奈尓者奈留安之乃宇良波乃宇良美徒部之奈
定家 人己止乃堂乃三加多左者奈尓者奈留安之乃宇良波乃宇良美徒部之奈
和歌 ひとことの たのみかたさは なにはなる あしのうらはの うらみつへしな
解釈 人言の頼みがたさは難波なる葦の裏葉の恨みつべしな


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