燧裏林道の途中から引き返えし、出発点の御池ロッジでゆっくり体を癒した。一行が帰着するまでには3時間近くの時間がある。山菜そばのけんちん汁をすすり、ロッジの周囲の美しい紅黄葉に見とれる。
御池ロッジにて
人の少ない売り場でぽつねんとしている売り子さんに、「一年で一番人が来るのは、やはりミズバショウの時期ですか?」と尋ねると、意外な返事が返ってきた。
「ミズバショウの時期は5月中旬から6月ですが、5月は雪が残っており、6月は連休のない月でいずれも人は来にくい。一番多いのは7月の海の日です。次は10月の体育の日。いずれも400以上駐車できる駐車場がいっぱいになる…」とのこと。
これには驚いた。日本人はどうも海の日に山へ行くらしい。もちろん海にも行くのだろうが。海の日と体育の日は必ず連休となるが、尾瀬はやはり、入山の行程と湿原を歩く行程から、本格的に楽しもうとすれば連休を必要とするのであろう。「尾瀬は深い」と改めて思った。
もちろん、尾瀬を楽しむ人たちは同時に温泉も楽しむのだろう。私たちも桧枝岐村の温泉を楽しんだ。一泊した民宿『郷(さと)』でも、宿の浴衣とつっかけ姿で公共浴場へ出かけた。この露天風呂は素晴らしかった。すぐ下を流れる川のせせらぎを聞きながら「紅葉の湯舟」を楽しんだ。しかも翌日も、9時間の林道歩きで汗と雨でぬれた体を、このお風呂で温めて帰路に就いた。日本人には何と言っても温泉だ。
最後に、民宿『郷』の料理の美味しさに触れておく。ヤマメの塩焼きや鹿の肉などに始まる12品ばかりの山菜料理を、イワナの骨酒でたっぷり食べた。文句なし、の一言!
部屋に帰っての二次会では、Wさんが提供した焼酎「百年の孤独」で盛り上がった。宮崎県高鍋のこの焼酎は今や“幻の名酎”となって、ほとんど手に入らない。
こうして、77歳の尾瀬は貴重な思い出を残してくれた。いくつになっても新しい体験はいいものだ。