斎場御嶽(せーふぁうたき)を後に更に南下して奥武島(おおじま)に向かう。
ガイドブックによれば、奥武島は「玉城村の南西100mに浮かぶ隆起サンゴ礁からなる島」とある。今は橋で結ばれて陸続きのようなものである。私たちは、この島の漁師たちが食事を取る定食屋で昼飯を食べようというわけ。
真っ青の空、コバルトの海の岸壁には、イカが吊るされて干してある。何とものんびりした漁村風景だ。色も空気も風情も、東京とは別世界だ。
海岸にある定食屋に入る。座布団もない素朴なテーブルに座りメニューをひろげると「イカの墨汁定食」なるものが目に入った。大好きなイカだ。さきほど干してあるのを眺めて食べたいと思っていたのだ。しかも“墨汁”というのがたまらない。一も二もなくそれに決める。
加えて刺身も、海ぶどうも、モズクも出てきた。食べたいものばかりだ。ここは1番、運転する友人に頭を下げて泡盛を一杯だけ飲ませてもらう。「琉球王朝」なる銘柄の泡盛は、「イカ墨汁」や「海ぶどう」にピッタリであった。
いい気持ちになって知念城に向かう。沖縄では城のことを「グスク」と言う。全島にやく300のグスクがあると何かに書いてあった。その殆どが城壁だけの城跡だ。数百年前のものといわれる知念城も、村の背後にその城壁をさらしていた。新旧の城の連城らしく、古いものは「野面積(のづらづみ)」で亜熱帯樹林に囲まれており、新しい方は見事な「あいかた積み(亀甲乱れ積み)」で、アーチ型の城門も付いていた。
城を後にして、道連れの陶器店に立ち寄るなどしながら、海カフェの先駆的存在といわれる「浜辺の茶屋」でコーヒータイム。ちょうど干潮時で、青海原とはいかなかったが、逆光に映える岩肌が美しかった。
寸秒を争う東京の生活に比して、時は止まっているかに見えた。