昨22日は、フルネット社主催の「日本酒復権シンポジウム2010」に参加した。午後1時に始まり6時30分までという長丁場であったが、それだけに内容の濃いものがあった。
実はその基調講演を担当された能登杜氏農口尚彦氏をお迎えして、前日夜、「農口杜氏を囲む会」が少人数でもたれ、その会と後の2次会まで参加して、たっぷりと農口杜氏の話を聞いた。その上昨日も、基調講演はもちろん、シンポジウム後の2次会、最後は本人を含む7人だけの3次会まで参加して、すっかり「農口杜氏漬け2日間」となり、私にとってはこんな幸せな、かつ勉強になった時間はなかった。
酒の本として愛読してきた農口さんの著書『魂の酒』(ポプラ社)には、念願のサインを頂くし、様々な表情の写真もたくさん撮らせていただいた。しかしそれらの詳細をここに掲げることはしない。もったいなくもあるし、ご本人に失礼になってはいけないから。
ただ、既に書くまでのことはないが、農口さんの「“山廃つくり”にかける熱い思い」だけは記しておく。
「味のある酒を造りたい」、「濃醇な酒を造りたい」、しかも「キレのよい酒(飲み込んだら口の中に何も残らない酒)を造りたい」・・・、それを追求して「行き着いたのが“山廃つくり”だ」と何度も言った。「端麗だけではダメだ。味があり、美味しくなければ誰も飲んではくれない。しかし口の中に甘さなどがいつまでも残っては嫌われる」、「しかしその酒つくりは難しい」と言う。
「山廃つくりには栄養分が要る。70%精白ぐらいが米の栄養があっていいが、40%にも挑戦した。その栄養不足の中で、山廃つくりは至難の業だ。しかしそれしかいい酒は出来ない」
まさに「魂の酒」だ。
別れ際に、「年はとったが、お互いに頑張りましょう」と握手してくれた。長く米麹に触れ続けてきたその肉厚の掌(たなごころ)は、なんとも豊かな温もりをたたえていた。