オランダには、まだまだ尽きせぬ思い出(ゴッホやフェルメールなど)があるが、喉の渇く時節になってきたことでもあり、ひとまずベルギーに移ろう。
そう、ベルギーはなんといってもビールである。先述した『チューリップを見ながらビールを飲もう』を開くと、次の記述で始まっている。
ホテルに着くや早々に明日の準備を済ませ、一風呂浴びると12時をまわっていた。しかしどうしても一杯やりたくて、ベッドに横たわる妻を残して階下に降りていく。一階ロビーのバーには既に客もなく、当番らしいボーイがぽつねんと立っていた。カウンターの隅ではきれいなおねえさんが、ビールをちびちびやりながら帳簿の整理かなにかやっている。
高い椅子に登るようにして掛けて、デ・コンニック(アントワープの地ビール。ベルギー・エールの代表格)を注文する。
美味しい! 湯上りの喉をコクのある苦味が通り抜ける。
トラピストビールはないかと問うとウェストマルのダブルがあるという。さっそく注文すると、丸いグラスにトラピスト独特の濃い赤茶のビールが、きめ細かい褐色の泡をたたえて出てきた。
一口飲むと、麦芽の香りと柔らかいフルーティな甘味が口中にひろがる。
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窓外に目をやると、国の重要文化財に指定されているという歴史的建造物アントワープ中央駅が、淡くライトアップされて浮かんでいた。
ベルギー最初の夜は、こうして更けていった。