こちらの記事で少しだけふれたように、近い将来、石油と仮想通貨を結び付けようという動きが出てくるだろうと思っていました。したがってこれ、今後の成り行きに注目しています。はたして成功するのか、それとも・・・
南米の産油国ベネズエラが20日、政府公認の仮想通貨「ペトロ」(Petro)の前売りを開始しました。発行総額は1億単位。ペトロのウェブサイト等によれば、ペトロは国家が発行する世界初の仮想通貨で、同国の(2位サウジアラビアをしのぐ)世界一の石油埋蔵量に裏付けられます。売り出し価格は1ペトロ当たり60ドルと、現状の原油1バーレル当たり国際価格とおおむね同じ水準に設定されています(一定量にはディスカウントがあるもよう)。既存の仮想通貨と同様、ブロックチェーン技術に基づきインターネット上で流通させるようになっていて、ドル、ユーロのほか、ビットコイン(Bitcoin)およびイーサ(Ethereum)の2種類の仮想通貨と交換可能になっているようです。
ベネズエラ政府はこれによって約50億ドルを獲得する見込み―――といったあたりから推察するに、同国がこのタイミングでペトロ発行に踏み切った本当のねらいは、これによって外貨を得て、膨大な借金の支払いに充てよう、というものなのでしょう(?)。実際に同国は現在、1300億ドルもの対外債務を抱え、デフォルトの危機に瀕しています。苦し紛れに通貨を増刷したせいか(?)激しい物価上昇が起こっており、国会の集計によると昨年のインフレ率は2616%に達したとのこと。同国の通貨「ボリバル」は著しく減価し、公定レートが1ドル=10ボリバルなのに対して実勢レートは1月中旬時点で約20万ボリバル(!?)と、ハイパーインフレ状態が現出しています。そんななか、食料品や医薬品の値上がりや不足が深刻化し、市民生活も危機的局面を迎えているわけですが・・・
ベネズエラが上記のような悲惨な状況になってしまった原因の一端に、アメリカとの関係悪化と、これに関連する同国による経済制裁があげられます。チャベス前政権から現マドゥロ政権にわたって同国は反米社会主義的な政策を推進、石油部門を含む主要産業を国有化して米欧資本を排除、中露その他の反米諸国との関係を強化してきました。いっぽうで石油関連設備の更新等を怠たったために原油産出・輸出量が減少するとともに、逆オイルショックにともなう石油価格の低下などにより国際収支が急激に悪化し、上記のように対外借り入れが膨張。そんな情勢のなかでアメリカは同国に経済制裁を発動しました。現在、ベネズエラはアメリカに資金調達手段としての債券発行を禁止され、さらには石油輸入制裁もほのめかされています・・・
・・・といった厳しい局面にあって、当面の支払資金を確保する必要に迫られてベネズエラは上記ペトロを発行したのでしょう。でも、目論見のとおり同国政府がドルを得られるのか不透明なようですし、たとえ目標の50億ドル程度を集めたとしても、債務総額にはまったく足りていないため、危機的状況は続くわけで・・・
それでも、このたびの「ペトロ」の仕組みは興味深いものがあります。何といってもこれ、ベネズエラ産原油の交換通貨という位置付け・・・ってことは、唯一無二のはずの(?)「石油交換券」米ドルとバッティングしてきますからね・・・