(前回からの続き)
前回、実質的な中銀マネタイゼーションを意味する日銀の「異次元緩和」が政治を麻痺させ、歳出側の放漫化を促し、その結果、財政赤字がますます拡大するので歳入側をいっそう強化(つまりは増税)しなければならなくなりそうだ、という個人的な見通しを記しました。
そしてこの危険な流れは巨大なツケとなって国民に・・・つまり通貨安インフレと消費増税の果てしない(?)連鎖を生み出し、わが国の多くの企業や家計をどんどん消耗させるでしょう。本稿冒頭で本来はトレード・オフの関係にある日本経済の二大常識「円安は良いこと」と「消費増税が必要」の両方を無理に追い求めるとオカシイことになる、なんて書いたのは、こうしたことが理由となっています。
食料品や電気代など、身の回りのモノやサービスの価格がいまも次々に値上げされています。その主たる原因は前稿で書いたとおり。このタイミングですから消費税率の引き上げにともなうものではないことは明らかです。
はたしてどれだけの人々がこの円安物価上昇分を上回る利益を得ているというのか・・・。大半の給与所得者そして年金受給者の実質所得は減り続けているのではないのか・・・。「何かオカシイ・・・」―――そろそろ気づかないと、つまり「円安は良いことだ」という常識の呪縛から解き放されないと、わたしたちの将来は開けない―――そう感じています。
さらにもう一方の「消費増税が必要だ」も、本当に常識といえるのか、よーく考えてみる必要がありそう。
本格的な少子高齢化社会を迎え、社会保障関連の支出が増え続けるなか、「税収を増やさなければならない」というところまでは「常識」に近いといえるでしょう。だからといってそれは「消費税を増税しなければならない」とはけっしてイコールではありません。必要なのは財源の確保だからです。消費税はそのための手段のひとつにすぎません。
ならば・・・消費者にこれ以上の負担をかけることのないよう、消費税率を上げないで税収を増やす方法(インボイス方式導入等)を検討するとか、消費税以外の税金―――所得税や相続税などの増税や脱税防止策を講ずる、といった歳入強化の手もあるはず。厳しい財政事情のもと、(一部の人々にとってはこれまた常識の?)法人税減税を取りやめる選択肢もあるでしょう。
いまや誰もが痛感しているように、消費税には個人消費を冷却させるとともに、逆進性―――貧富差を拡大するという大きなデメリットがあります。上述のとおり「円安は良いことだ」という常識を追い求めた当然の結果として巻き起こった円安インフレで、すでに景気も国民生活(とくに中間層以下の生活)も大きなダメージを被っています。だからこれに輪をかけるような消費増税の断行は、まあ安倍政権や黒田日銀的には「常識」でも、一般国民にとってはあまりに「非常識」に感じられるのではないでしょうか・・・。
世の中には「???」な常識がけっこうあるけれど、本稿で綴ってきた「円安は良いことだ」「消費増税が必要だ」の二大常識にはじまって、「インフレは正しいことだ」「原油安はリスクだ」「アベノミクスで景気は回復している」・・・などなど、最近の経済分野にはとりわけこの手の常識が多いように感じます。日々の暮らしのなかで、たとえば買い物の折に、政府・日銀・メディアが伝えるこれらの常識を疑ってみる。それってホントなの?―――いまこそそんな自分の肌身感覚を信じるときだ―――そんな気がしています。
(「二大常識『消費増税』『円安追求』のトレード・オフ」おわり)
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