(前回からの続き)
ロシアに関する地政学リスクの高まりを感じさせるものとして次にあげるのは、「核」です。
今月中旬、ロシアのプーチン大統領は事前録画のTV番組のなかで、1年前、ロシアがクリミアを併合した際に核兵器の使用を準備していたと語りました。そして先日はロシアの駐デンマーク大使が、デンマークが北大西洋条約機構のミサイル防衛計画に参加すれば同国はロシアの核ミサイルのターゲットになると述べ、物議を醸しました。いずれの発言も、ロシアの核使用ドクトリンである「核攻撃を受けた場合」等を大きく逸脱した過激なものであり、西側諸国ばかりではなく世界平和を願うすべての人々に対する重大な挑発だといえるでしょう。
しかし・・・だからといって対ロ関係の緊張をこれ以上高めるのは得策ではなく、ここは冷静にロシア権力者たちのこの危険な物言いの背後を読み解くことが肝要と思います。
まず考えられるのは、これらの強硬発言は「国内向け」であろうということ。つまり以下のような苦境にあるロシア国民の目を、「核」という刺激的なワードをあえて用いて「外」(=ウクライナ情勢等を巡って経済制裁を仕掛けている欧米諸国)に向けさせることで、「内」(=プーチン大統領を筆頭とするロシア首脳の政策運営)に対する非難の高まりを抑えようということです。まあ世界中の政治家がよく使う手ではありますが・・・。
実際ロシアは、そうでもして人々の不平不満のエネルギーを外に逃がさないと非常にマズい状態になっています。欧米諸国等の上記制裁に加え、昨秋から急速に進んだ原油安・ガス安の影響によって同国の経済そして国民生活は厳しい局面にあるからです。
同国連邦統計局が発表した消費者物価指数の高い上昇率(1月15.0%、2月16.7%;対前年同月比)からも推察できるように、ある調査によると国民の8割以上が国家の直面する最大の問題がインフレと回答し、同5割以上が政府がこれに十分な対策を講じていないと感じているとのこと。とはいっても国家財政にはまったく余裕がなく、通貨ルーブル安も継続し、さらなる下落(=インフレ悪化)を食い止めるために景気低迷中にもかかわらず主要政策金利を14%もの高い水準に保つしかない、といった具合で、ロシア政府・中銀としては八方塞がりといった状況・・・。
こうなってしまうと、いくら「核」まで持ち出して外側の危機を意識させようとしたところで、国民の怒りの矛先が内側=内政に向かうのは時間の問題となってきます。まごまごしていたらロシアの歴史が教えるとおり、クーデターか革命?が起こって自分たちは失脚!? で、そんな恐怖心を抱くロシア政権が望みを託すのは・・・やはり最大の外貨獲得源であるエネルギー価格の回復でしょう。
ということで、ロシア政権の「核」を巡る物騒な発言の裏には、このあたり、つまり地政学リスクをあおってロシア唯一の希望である石油・ガス価格の上昇を図ろうという狙いもあるのだろうとみています。