(前回からの続き)
アメリカは同じ英語圏の4か国―――イギリス、カナダ、オーストラリア、ニュージーランド―――とともに「Five Eyes」(5つの目)と呼ばれる、機密情報の共有と加盟国間では互いにスパイ行為をしない協定を結んでいます。ドイツは以前からのこの「Five Eyes」への参加をアメリカに求めていますがアメリカは応じようとはしません。さらに昨年以降に明らかになったアメリカによる複数のスパイ行為に関しても、アメリカ(オバマ大統領)はメルケル独首相の携帯電話の盗聴こそ「もうしない」と約束したものの、その他の対独諜報活動についてはけっして「やめる」とは言っていません。
その理由は推測するしかありませんが、個人的には先述のとおり、ドイツがアメリカの同盟国であるにもかかわらず、エネルギー、ロシア、ユーロ、金(ゴールド)、とりわけドルの観点からみて、結果としてアメリカの国益に反するアクションを取ることがあるからだと考えています。
一方、ドイツにとっては、アメリカがしてほしくないこと、つまりロシア産天然ガスのユーロ建て決済とか金準備の自国への移送などは、同国の政治外交面および経済面での安全保障を強化する意味で今後もぜひ進めていきたいこと。したがってこのあたり、どうしてもアメリカとドイツの思いは相反することになってしまう・・・。
かくしてアメリカは今後もドイツを監視し続けるだろう、とみています。もっともこれだけアメリカが執拗にドイツをスパイしていることがバレてしまった以上、アメリカとしてはやりづらくなったことでしょう。メルケル政権ばかりでなくドイツ国民の対米感情も悪化しているわけですし・・・。
アメリカに覗かれる一方だったドイツとしても情報管理をいっそう厳しくするものと予想されます。そのうえで上記の取り組み―――ロシアとのガスやユーロを通じた関係強化など―――を進めるつもりでしょう。場合によってはアメリカの言うことを聞かないで・・・!?
そんなふうに考えると、表面上は落ち着きつつあるようにみえる米独関係ですが、水面下の諜報合戦のほうはこれからが本番だ、なんて気がしてきます。
(「なぜアメリカはドイツをスパイするのか」おわり)
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(前回からの続き)
アメリカがスパイの対象とするドイツの動きとしてもうひとつ指摘できるのは、ドイツがアメリカに保有する金(ゴールド)を本国に持ち帰ろうとしていること。以前こちらの記事に書いたように、ドイツはアメリカのニューヨーク連邦銀行に預けてある自国の金準備のうち300トンを2020年までに本国に移送することを決定しています。
欧州中央銀行(ECB)の金融政策、つまり低利マネーの市中への大量供給でいまは小康を保っているとはいえ、ユーロ圏のPIIGS諸国のソブリンリスクはくすぶり続けています。近い将来、これらの国のいずれかが国債償還資金のショートを引き起こしたり、圏内のどこかの銀行が経営危機に陥ったりして金融危機が再発し、それに対処するためにECBがさらなる流動性供給に追い込まれ、ユーロの価値が揺らぐことは避けられないとみています。
そんな状況のなか、歴史的にインフレ(=通貨価値の下落)を嫌悪するドイツとしては万が一の事態、つまりユーロの崩壊すら想定したうえで金を手元に持っておきたいところでしょう。かりにユーロが崩壊したらEUでは何が起こるのか。マルクなどの旧通貨が復活? それともEU共通通貨が複数誕生する?(ドイツやオランダなどのEU北部諸国が用いるユーロAと、PIIGS諸国が使うユーロBに分けるとか・・・?)などなど、いろいろ考えられますが、いずれにせよ、破綻の原因である紙幣の刷り過ぎへの反省から、通貨に価値の裏付けをしっかりつけようという動きが出てくる可能性があります。そうなれば必然的に金が再評価される―――だからいまのうちに金を自国に戻しておこう―――ドイツはこう考えたのではないでしょうか。
こうしたドイツの動きもまたアメリカにとっては警戒すべきこと。ドイツにはその意図があるわけではないでしょうが、結果としてこれがアメリカやドルに対する信認を低下させる行為となりかねないからです。現在、世界各国が自国の金をアメリカに預けていますが、ドイツなどの「同盟国」にとってはアメリカへの預「金」が安全保障の対価であり、アメリカにとってはそれが自国やドルに対する信頼の証(あかし)、というよりは人質(?)となっている面があります。ドイツはその人質を返せというのか・・・。やはりドイツには気を付けるべきだ、ということになるでしょう。
だからアメリカはわずか300トン程度の返「金」に2020年までの7年もかけるというリラクタントな姿勢を示したのだろうと推測しています。ドイツもアメリカの上記のような事情が分かっているから、すぐにでも返してもらいたいという思いをぐっと抑えて、しぶしぶこれに同意したのではないでしょうか。
もっとも、これには本当に7年間くらいは必要、つまり金リーストレードなどの結果、アメリカは現物の金の多くを失っており、数百トンもの金を急に返せと言われても応じられなくなっている、という見方も根強いようですが・・・。
(続く)
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(前回からの続き)
ドイツ・ロシア間の天然ガス取引の拡大を契機に、ロシアはもちろん、イランやベネズエラなどの国々が今後ますます石油・ガスの売買をユーロ建てで行うようになる―――ドイツを含むユーロ圏の国々にとってはエネルギー資源を安定した価格で調達できるという観点から歓迎すべきことですが、アメリカにとってこれは国家存立を危うくなるほどのリスキーな事態です。それが世界経済における米ドルの独占的な地位に対する脅威となるからです。
ドルが独占的な地位、つまり「基軸通貨」を担う理由は? その最有力の答えは、ドルが唯一無二の「石油引換券」であるため(いまでは「あったため」というべきか?)。ドルがあれば石油が手に入る―――だからこそ世界各国はドルを持とうとしてきたし、少しでも手持ちのドルを増やそうとして米国債を買ってきたわけです。そして、だからこそアメリカは長年、桁外れの財政・経常赤字を垂れ流しても平気だった・・・。ドル資産への投資を通じてみんながアメリカにお金を貸してくれたからです。
それが「石油・ガスならユーロ(や円など)でも普通に買える!」となってしまうと・・・「何もドルだけを所有しようとしなくてもいいや!」と考える国や投資家が増え、ドルや米国債が以前ほどは買われなくなります。アメリカにしてみるとこれはドルがユーロなどの他の通貨に対して弱くなること、そして外国から借りることのできるお金が少なくなることを意味します。となるとアメリカは通貨安インフレや金利の上昇に苦しめられることに・・・。
それを食い止めるためには、他国がやっているとおりアメリカもまた財政・貿易赤字を減らす努力―――財政再建や輸出振興にいっそう真剣に取り組まなくてはなりません。しかし・・・これは実際には非常に難しいでしょう。財政再建―――つまり増税には米国民、とくにティーパーティーに代表される富裕層が猛反発するでしょうし、貿易面をみても中国や産油国などの輸入相手に支払っている金額を上回るほどいまの「メイド・イン・USA」に輸出で稼ぐ力があるようにはとても思えない。となれば・・・。
・・・結局、アメリカはこれからもドルの基軸通貨としての地位を死守する以外の道はありません。つまりアメリカとしては石油やガスといった現代社会には欠くべからざる燃料資源はドルでしか売買できない世界を維持したいわけです。そのかぎりにおいてのみ、アメリカは今後も繁栄を享受できるのだから・・・。
ユーロ建ての石油・ガス取引の広がりは、こうしたアメリカとドルだけに許された特権を脅かします。だからアメリカはこれを進めようという国々や勢力はしっかり監視し、必要な対策を講じて、これ以上、この動きが拡大しないようにしなければならない。で、誰が石油・ガスの売買をユーロで行おうとしているのか? それは(必ずしもアメリカの言うことを聞こうとしない国々である)ロシアであり、イランであり、ベネズエラ・・・そしてEUの盟主であり通貨ユーロのホスト国・ドイツ・・・。
かくしてドイツはアメリカのスパイ活動のターゲットになった―――このように考えています。
(続く)
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(前回からの続き)
「ユーロ」―――これこそアメリカがドイツに対してスパイ活動を継続する真の理由を読み解く際のキーワードだと考えています。
先述のとおり、EU最大の経済国であるドイツは石油・天然ガスの多くをロシアに依存しています。そして独ロ間を直接結ぶガスパイプライン「ノルド・ストリーム」に象徴されるように、ドイツにはエネルギー資源を通じたロシアとの関係を今後、ますます緊密にしていこうという意欲が感じられます。
一方のロシアですが、とうの昔に冷戦が終わったとはいえ、西側諸国、とくにアメリカにとっては引き続き潜在的な脅威と位置付けられています。そんなことは重々承知のロシアは安保戦略上、EU諸国、なかでもその盟主であるドイツとの経済的な連携を強化することで米欧の分断を図りたいところ。上記の新ルート建設もその一環とみることができると思います。
そしてここで重要となってくるのが通貨です。ロシアとしてはアメリカの影響力を排除してEUとの結びつきをさらに強めたい。そのためには・・・石油・ガス売買契約の決済通貨をドルからユーロに変えることが有効でしょう。まあロシア自身の通貨であるルーブルも考えられますが、ルーブルはハードカレンシー(国際的な取引に使われる通貨)とは言えないので、現実的にはユーロ建ての取引を増やしていくということになるのでしょうが・・・。
このあたり、いまのロシアとしては早急にコトを進めざるを得ない状況になってきました。ウクライナ情勢の悪化を受けてアメリカがロシアに対して金融面での締め付けを強めてきそうだからです。つまりロシアは石油・ガスのドル取引ができなくなるかも・・・。そうなったときロシアは早くこう言えるようにしておきたい―――「いいもんね、ドルが使えなくても。ユーロで売るから。」 実際、同国の国営エネルギー企業ガスプロムの石油部門の幹部は取引決済通貨をドルからユーロに変更する用意があることを明言しています。
石油・ガス売買契約の通貨がドルからユーロへ―――このへんはロシアだけでなくEU諸国、そしてドイツにとっても悪いことではないはずです。この変更によって彼らはユーロの対ドルレートとは無関係に、安定した価格でエネルギー資源を調達することができるようになるからです。
さらにいうとこれは、アメリカの厳しい経済制裁によって事実上ドル取引から締め出されているイランにとっても歓迎すべき状況です。すでにイランはインドなどの各国に対してドル以外の通貨で原油を売っていますが、原油のユーロ建て売買が広がれば同国の販路もいっそう拡充されると予想されるからです。これにより、原油埋蔵量で世界第4位、そして原油・天然ガス合計の埋蔵量では何と世界第1位(!?)のイランがドル決済抜きで国際石油マーケットでの存在感を高めることには少なからぬインパクトがありそうです。
(続く)
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(前回からの続き)
ドイツはエネルギー資源の多くをロシアに依存しています。
ドイツ国内における原油および天然ガスの供給量のロシア産の占める割合はそれぞれ36%、35%と、いずれも全体の1/3を超えています。いうまでもなくドイツにとってロシアは原油・ガスの第一位の輸入相手国です。2位はすぐ近くにあって政情の安定しているノルウェーですが、中長期的にはあまり当てにできそうもない感じです(北海油田における同国鉱区からの原油産出量はイギリス側と同様、2000年前後をピークに減少を続けている)。したがってドイツは今後もロシアからの燃料調達に多くを頼らざるを得ない状況にあるといえそうです。
ロシアにとってもドイツは重要なパートナーです。輸出面をみると、2013年の同国からドイツへの輸出額404億ユーロのうち、原油が56.4%、天然ガスが27.9%、合計で84.3%が燃料資源となっています。ロシアとしては経済的な観点から、そして対米戦略の面からも、EUの中心国であるドイツにエネルギー資源の多くを自国に依存させたいところでしょう。
以上、エネルギー資源にかかる利害が一致するドイツ・ロシア両国のつながりはとても深く、これからも緊密になっていくものと予想されます。その象徴のひとつが2011年に開通したロシア・ドイツ間の天然ガスパイプラインである「ノルド・ストリーム」。これは既存の欧州・ロシア間のガスパイプラインとは異なり、ガス供給を妨げるトラブルを起こしてきたウクライナやベラルーシを経由せずにロシアとドイツを直接結ぶもの。これによってロシア産の天然ガスがさらに安定的にドイツに輸出されることになり、ドイツにとってはエネルギー安保の強化、ロシアにとってはいっそうの輸出収益の増加につながるわけで、文字どおり両国の発展に向けた「新ルート」が開かれたといえそうです。
このように国家間の結びつきをますます強める独ロ両国、とくにドイツに対してアメリカは警戒心を抱くようになったと考えています。なぜならドイツはアメリカの「同盟国」であるにもかかわらず、米独共通の安保スキームである北大西洋条約機構(NATO)が実質的には仮想敵とみなすロシアに接近する一方だからです。EUの盟主・ドイツがこんな調子では、ウクライナ新政権をサポートしたいアメリカはEUとともに効果的な対ロシア包囲網を築くことは難しいでしょう。
もっともメルケル独首相の携帯電話盗聴が明らかになったのが昨年の秋であったことからも推察されるとおり、アメリカはウクライナ政変よりもずっと前からドイツの動きを見張っています。その理由ですが、次のようなワードを手掛かりにすると想像ができるような気がします。ドイツ、ロシア、イラン、石油、天然ガス・・・となれば、通貨「ユーロ」なのではないか・・・。
(続く)
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「もうやめる」と言っていたにもかかわらず・・・といったあたりがドイツ国民の正直な気持ちなのではないでしょうか。
今月初め、ドイツ連邦情報局の職員が2年間で218件もの機密情報をアメリカに売却していたとして逮捕されました。さらに国防省職員にも同様のスパイ疑惑が浮上しました。「アメリカが秘密裏のスパイ活動をしている」こう判断したドイツ政府は10日、米情報機関(CIA)の責任者に国外退去を命じています。国外退去―――けっこう衝撃的な措置です。ドイツにとってアメリカは「同盟国」であるわけですから。それだけドイツにとってはアメリカに「裏切られた感」が強いということなのでしょう。ご存知のとおりアメリカによる最近の対独スパイ行為が明らかになったのは今回が2度目だからです。
昨年10月、米国家安全保障局(NSA)がメルケル独首相の携帯電話を盗聴していたことが発覚し、米独関係が緊迫化する事態となりました。ドイツ側の抗議を受けて、このときはオバマ米大統領がメルケル首相の携帯電話を盗聴対象から外す約束をしましたが・・・じつはその他の対独諜報活動までやめると言ったわけではありません。その一端がこのたび露顕してしまった、といったことなのでしょう。
とまあ、ドイツにとってはイライラさせられる事件であり、アメリカにとっては「のぞき見」がふたたびバレたことのバツの悪さがあって、しばらく両国の関係はぎくしゃくしそうな気配です。
それにしても気になるのは、アメリカはどうして執拗にドイツをスパイするのか、ということ。その理由をアメリカが明らかにするはずはないので推測するしかないわけですが・・・。
このへんをネットで調べてみると、いちばん重要な理由として考えられるのは、どうやらアメリカはドイツとロシアやイラン、とりわけロシアとの緊密な関係に関心および懸念を持っている、ということのようです。それはまあそのとおりなのでしょう、とくに直近のウクライナ情勢を考えれば・・・。
2月のクーデター以降、親欧米・反ロシアの色彩を強めるウクライナ政府を支えたいアメリカとしては、対ロ戦略上、何としてもEUには歩調を合わせてほしい、と思うはず。そのあたり、EUの事実上の盟主であるドイツの本音を察知すれば、アメリカはロシアそしてEU諸国に対して、より効果的な手を先回りで打つことができるでしょう。
一方ドイツは、ウクライナの政変を機に悪化した欧米諸国とロシアとの関係、そしてこれらに関してあれこれ口を出してくるアメリカに対して複雑な思いを持っていることでしょう。なぜならいまのドイツにとってロシアはきわめて重要なパートナーだからです。
(続く)
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(前回からの続き)
13日、サッカーワールドカップ(W杯)ブラジル大会が終わりました。
何はともあれ、W杯の期間中、大きな事故やテロが起こらなくてよかった・・・。安全無難な大会運営をやり遂げたブラジル当局に敬意を表したいと思います。
24年ぶりに決勝まで進んだ地元南米のアルゼンチンはドイツに敗れて準優勝。そして開催国ブラジルは準決勝、3位決定戦と悪夢の2連敗を喫して4位に・・・。
まあ2か国とも世界ベスト4に入ったわけで、日本からすればうらやましいかぎりですが、自他ともに認めるサッカー大国であるアルゼンチン・ブラジル両国民にとっては悔しい結果になったことと推察します。その無念の思いが「宴の後」の経済社会情勢にマイナスの影響を与えなければよいのですが・・・。
本稿前段で綴ったとおり、まもなくアルゼンチンはこちらも「ファイナル」―――国債利払い猶予期限を迎えます(7月末)。直近のニュースで確認するかぎり、当事者間の交渉等はそれほど進展していないようすです。
このままでは時間切れとなってアルゼンチンはデフォルトへ・・・となるかもしれないこれからの10日間ほどはいろいろありそう。同国はどのような姿勢を示すのか、これに債権者はどう反応するのか、そして世界の金融市場はたとえ同国がバンザイしても冷静でいられるのか・・・。まあ「延長戦」(=リスケ)もありかな? ひょっとしてIMFあたりが突如(アルゼンチンではなく欧米投資家の利益を守るために)「途中出場」するなんて言い出したりして!?
祭りは終わり、そして誰も使わない施設と借金が残った―――ブラジルが威信をかけて建設したW杯用スタジアムのいくつかは今後の使途が未定とのこと。そこを根拠とするプロサッカーチームがないためだそうです。ということは、これらは実質的には何の役にも立たない状態で、この瞬間も維持管理コストや借金利払い負担を生み出しながら巨大な姿をさらし続けることに・・・。「母国が世界一になれなかった以上、W杯は無駄だった」―――こう感じる国民の多くの目にはそんなスタジアムが負の遺産に映ることでしょう。
このあたりは10月に大統領選挙をひかえるルセフ大統領にとってもおそらく想定外。ブラジルが優勝していたらしばらくは―――選挙が終わるころまでは(?)、氏が先頭に立って推進したW杯関連投資に対する国民の不平不満がデモやストとなってふたたび吹き出すおそれはなかったのに・・・。
・・・などと後悔しているヒマはまったくありません。セレソンはもちろんのこと、ルセフ政権もまた早急な支持率の「立て直し」に着手せざるを得なくなりました。どちらにとっても厳しい道のりになりそうです。
華やかな宴―――W杯は熱狂のうちに幕を閉じましたが、アルゼンチンとブラジルの「宴の後」はさらに熱い!?
(「南米サッカー大国が恐れる『宴の後』」おわり)
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(前回からの続き)
以前こちらの記事に書いたとおり、ブラジル経済は鉄鉱石や大豆などの一次産品の輸出に大きく依存したスタイルとなっています。一方で欧米諸国などの外国企業の直接投資に頼るばかりの製造業はまだまだ力不足。自国発祥で競争力のある国際的メーカーは見当たりません。このあたりはブラジルの代表的な株価指数であるボベスパを構成する約60の上場企業の時価総額の約4割をペトロブラス(政府系の石油会社)とヴァ―レ(世界一の鉄鉱山会社)の資源2社だけで占めていることにも表れていると思います。
頼みとするのは市況価格の変動に大きく振られる鉱業や農業。これに対して高い付加価値をもたらす製造業は脆弱なまま・・・。そんな産業構造のままではブラジルは2億人もの人々を豊かにしていくことは難しいし、貿易・経常収支の改善もなかなか進めることはできないでしょう。それでもブラジルは現実的には鉱業立国、つまり「鉄鉱資源立国」の道を選択しているような気が・・・。ということで、私にとってブラジルは「ヴァーレだけの国」といったところです。やや極端ですが、そう外れた定義ではないでしょう。もっとも近い将来、サンパウロ沖の大深度海底油田が多くの富をもたらすようになるかも・・・にしてはやっぱり人口が多すぎるような気がするな、ブラジルの場合・・・。
本日15日からそのブラジルで新興5か国(BRICS)首脳会議が開かれます。BRICS―――ブラジル、ロシア、インド、中国、南アメリカ―――2001年に米ゴールドマンサックスが名付けた有力新興国群のこと。各国はIMF等の既存のフレームとは異なる新興国支援の開発銀行のあり方とか外貨を融通し合う仕組みなどを議論するそうです。
で、本会議の主催国・ブラジルとしては後者の設置を急ぎたいのだろうな、と推察しています。同国の足元の情勢を考えれば手持ちの外貨だけでは心細いでしょう。今後の通貨防衛等のために用いる外貨資金は可能なかぎり準備しておきたいところ。そのへんの事情はインドや南アフリカも同じ。そして彼らにとってのメインスポンサーは・・・いうまでもなく外貨準備高が世界一の中国。そんなわけで、BRICSの実質的な盟主(?)である中国が本会議でどのようなイニシアティブを取るのか、注目しています。
・・・とはいっても、BRICS各国が融通し合おうという通貨はレアルや人民元などの自分たちの通貨ではなく、「米ドル」であることに彼らの悲哀を感じます。このあたりは通貨の強さの不等式(≒実質金利の高い順)「円>ドル>ユーロ>新興国通貨」のとおりです。5か国の通貨はいまだに信頼性や流動性などの点で日米欧の通貨に劣り、それゆえに「ハードカレンシー」(国際的な取引に使われる通貨)に位置付けられていないので、たとえばブラジルにとって万一のときに人民元やインドルピーを貸してもらっても無意味、ということです。したがっていくら世界経済における存在感が高まったとはいえ、彼らBRICSはしょせんは釈迦、じゃなかったアメリカの手のひらのうえの孫悟空。アメリカの金融政策に翻弄され続ける運命にあります。
もちろんブラジル経済も、通貨レアルの価値も、そして同国の主要輸出品である鉄鉱石の国際価格までも・・・。
(続く)
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(前回からの続き)
衝撃的な敗北と同時に、開催国・ブラジルにとってのサッカー・ワールドカップ(W杯)は事実上、終わってしまった、といっても言い過ぎではないでしょう・・・。
まあまもなく始まる3位決定戦が残ってはいるものの、ブラジル代表チームにとってはこれに勝って当たり前、負けたらどんな目に遭うのか想像もつかない、といったところでしょうか。もっとも対戦相手のオランダはすっかりやる気を失っている感じ(?)だからブラジルの圧勝でしょうが・・・(?)。せめて両チームの本来の力がぶつかり合う好試合を期待したいですね。
国民の落胆ぶりはかなりのものでしょう。ご存知のとおりブラジルではW杯直前まで、これに反対する激しいデモやストが巻き起こっていました。それがいままでのブラジルイレブンの快進撃ですっかり鳴りを潜めたように思えたわけですが・・・「祭りは終わった」―――その虚しさに決勝に進めなかったという無念の思いと負けっぷりの悪さがもたらした屈辱感が加わって、人々のW杯への反感が再びアクションとなって沸き起こりそうな気配が漂い始めました。
ブラジルがW杯に投じたスタジアム建設等の費用は合計で約110億ドル(1.1兆円あまり)。それはセレソンが世界一に輝いてはじめて報われる投資だったはず。しかし・・・もはやこれらはまったく無駄になった。そもそもそのお金は国民の生活福祉レベルの向上に使われるべきだったのに、政府はそうしなかった―――大半の人々の思いはこういったところでしょう。実際、ブラジル経済は国民に満足感を抱かせるには程遠い状況にあるわけですから・・・。
2013年のブラジルの経常収支は813.7億ドルの赤字と前年よりも4ランク下がって世界ワースト3位となってしまいました。同1位はアメリカ、2位はイギリスですから、ブラジルは新興国では最大の経常赤字国ということになります。ということは、金融市場が何かをきっかけにリスク回避の方向に転じたら、同国は真っ先に「売り」のターゲットとなって通貨・国債・株式の厳しいトリプル安に見舞われることになりそうです。
現在の為替レートですが、世界的な「リスク・オン」モードにもかかわらず1ドル2.22レアルと、昨年あたりからこれまで、レアル安ドル高の水準が続いています。これ以上の通貨安は回避したい、ということで、景気にはマイナスに作用することが分かっていながらブラジルは高金利政策をとらざるを得なくなっています(現時点の政策金利は年11%)。
それでもインフレは収まりません。2013年のインフレ率は5.91%と、前年2012年の5.84%よりも悪化しています。今年も6%近い率が予想されているようです。レアル安にともなう輸入インフレに高い金利―――いずれもいまのブラジルの実体経済や市民生活に苦痛をもたらす事象です。
(続く)
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(前回からの続き)
前述のように、アルゼンチンの利払いの猶予期限は今月末となっています。それまでに各種の交渉事がまとまらなかった場合、同国は本当にデフォルトに追い込まれてしまうかもしれません。
で、そうなったときに注目されるのは金融デリバティブの扱いでしょう。これについて少し前、アメリカのとある法律事務所が、同国の利払い停止はCDS(Credit Default Swap)決済につながる「支払い拒否・停止」イベントに該当するとの見解を明らかにしたうえで、国際スワップデリバティブ協会(ISDA)に対し、実施にこれが同国債のCDS決済にかかる信用事由に当たるのかどうか照会しているのだそうです。これまでのところ、同CDS料率の乱高下を招く事態を恐れてか(?)、ISDAは明確な判断を示していないようですが・・・。
同じデフォルトでも今回のアルゼンチンのケースはテクニカル、つまり支払い能力を残したうえでのデフォルトになる可能性が高いとはいえ、債権者にとっては同国債投資で損失を被ることには変わりはありません。であれば当然、CDSの売り手に対して、その権利を行使して損をした分の補てんを要求したいところです。これに対してCDSを引き受けた側は、なんだかんだと理屈をつけてその決済を回避しようとするでしょう。
そんな両者の思惑がぶつかりあうなか、ISDAは今月のおわりにどのような判定を下すのか。そしてそれが国際金融マーケットにどの程度のインパクトを与えるのか―――こちらの記事に書いたとおり、CDSこそ恐怖の金融破壊兵器であるだけに、このあたりは今後しばらく要注意です。
・・・もっとも当事国であるアルゼンチンにとっては、CDSが決済されようがされまいが、どのみち厳しい経済社会情勢が続くことは間違いのないところです。せめて国民には誇りと希望を・・・ということで、サッカーワールドカップ(W杯)・ブラジル大会で見事決勝戦まで勝ち上がった同国イレブンにはドイツを破ってぜひ世界一になってほしい! オーレ、アルヘンチーナ!
・・・といったように、アルゼンチンの人々にはもう少し夢見心地の時間が残されたわけですが・・・一方、優勝候補筆頭と目されていたW杯のホスト国・ブラジルはご存知のとおり、早すぎる幕切れ、そして早すぎる幕開け―――「『宴の後』ステージ」の開幕を迎えてしまいました・・・。
(続く)
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