やはり「アメリカはもう戦争ができない」くらいに弱体化しつつあるのだな―――アメリカの大統領選に向けた共和党予備選における同党最有力候補・不動産王ドナルド・トランプ氏の発言を聞くたびにその思いを強くします。
トランプ氏は先日のブルームバーグとのインタビューで、イスラム国(IS)相手の戦争では戦略核兵器を使用することを排除しない(I’m never going to rule anything out)といった見方を示し、アメリカ国民ばかりか世界中の人々を唖然とさせました。いうまでもなくアメリカは核の超大国ですが、広島・長崎への原爆投下以降、歴代の大統領は核兵器を一切使わなかったし、その使用をほのめかすことも自制してきました。トランプ氏の上記発言はこれらとは真逆の姿勢を示すもので、もし本当に同氏が大統領になったら、アメリカは核兵器を安易に使うような非常に危なっかしい国になってしまうかも、なんて心配が世界に広がりそうです。
もっとも、今回の「核使用もあり」をこれまでの発言を合わせて冷静に推察すると同氏の本心が見えてくる気がします。それは、アメリカはISが展開する中東地域に、かつて共和党政権がイラク戦争でやったような大規模な米軍地上兵力の派遣をするつもりはない、ということ。つまり同氏は、せいぜいが戦略核兵器を含めた爆撃程度のことしかアメリカはできませんよ、と言いたいのではないでしょうか。その理由は、いまのアメリカにはかつてのように、遠く離れた外国に地上軍を送り込めるほどの「マネー」つまり財政的な余裕がまったくないため・・・
これと似たような観点からトランプ氏は、先日のNYタイムズのインタビューで日米安全保障条約について言及し、もし日本(と韓国)が在日(在韓)米軍の経費負担を増やさないのならばアメリカは日本(と韓国)から軍隊を撤収させる、と語っています。さらに同氏は同条約の片務性(日本が他国から攻撃を受けたときはアメリカ軍が日本のために戦うことになっているのに、その逆はない、といったこと)を問題視し、日米安保について再交渉する用意がある、とも。ようするに同氏は、日本(や韓国)との外交関係でも地政学などではなくカネ勘定を重視しているということなのでしょう。安全保障もアメリカの財政負担が軽くなればそれで良し、といった、ホテル経営者らしいビジネスライクな発想を感じます。
・・・ついてにご紹介すると、上記インタビューで同氏は何と!日本(や韓国!)の核武装を容認する姿勢を示したりしています(he would be open to allowing Japan and South Korea to build their own nuclear arsenals )。アメリカのパワー低下で日本はアメリカの「核の傘」を頼るよりは自分で核兵器を持とうとするだろう、という自身の見通しによるもののようですが、このあたり、非常に微妙なところがあるせいか日本語の記事がほとんど伝えられていないものの・・・いや~それにしても、そこまで言うか―――アメリカがかつて核攻撃した日本(つまり少なからぬアメリカ人が報復的な核攻撃をアメリカに対して仕掛けるかも、とひそかに恐れている国!?)に、核兵器を持ってもかまわないよ、みたいなことを米大統領候補が言っていいのか―――と驚愕するわけです、個人的には・・・。
繰り返しますが、そんなキワドイ発言を連発するような人を大統領にしよう!と国民の多くが望むほどにアメリカは追い詰められている、ということなのでしょう・・・