今月中旬、政府は平成27年度(2015年度)の防衛予算案を閣議決定しました。その総額は4.98兆円と過去最高。今年度より2%アップ、安倍政権発足以降は3年連続の増加となります。
で、その予算案に基づく防衛力整備の内容ですが、防衛省資料等によれば、まずは周辺海空域における安全確保、つぎに島嶼部に対する攻撃への対応、などとなっており、名指しこそないものの、これが軍事力の強化にいそしむ中国を意識したものであることは明らかです。したがって、財政をめぐる厳しい状況のなかでも防衛予算が増額されることについては、やむを得ない、とか、当然だ(さらには、もっと増やせ!)といったお考えの方が多いものと推察します。
しかし、個人的には、これが本当に防衛力の向上に資する「増額」になっているのかどうかについては微妙なところだと思っています。その大きな理由は、毎度毎度で恐縮ですが、安倍政権・黒田日銀が進める「アベノミクス=円安誘導」により、この防衛予算のドル換算額が大幅に減っているため。
このあたりを2012年度の防衛予算との比較で確認してみましょう。民主党政権時の同年度の予算額は約4.71兆円。これに対して2015年度は上記のとおりこれよりも2600億円あまり多い額です(予算案ベース)。さすが自民党政権に替わっただけある!?
ところがこれをドル建て―――前者はアベノミクス実質開始直前(2012/11)のレート1ドル約80円、後者は直近のレート115円―――で計算すると、それぞれ589億ドル、433億ドルになります。何と!来年度「過去最高額」のはずが3年前よりも約155億ドル、率にして26%あまりもの激減!ということに・・・。
・・・これでは強化どころかその逆の軍縮ですね(まあ自衛隊だから「軍」は当てはまりませんが、便宜上、使わせていただきます)。おそらく「ミリタリー・バランス」(英国の国際戦略研究所が発行する世界の軍備状況報告書)の国別防衛費ランキング(ドル表示)などでは日本の順位および金額は下がっていることでしょう。このように安倍政権は、円安を利用して世界にはっきり見えるくらいに防衛予算を削減することで、中国に対して(?)日本が軍事的な脅威にならない姿勢をアピールしている・・・? ということは、表向きはタカ派のイメージが強い(?)安倍首相はじつは超ハト派の平和主義者だったりして!?
もちろん単純にこの数字がわが国の防衛力の低下を意味するものではありません。上記防衛費を各国間で厳密に比較する場合は購買力平価等を勘案する必要があるし、たとえば自衛隊員の人件費などは円建てだから円安の影響はそれほどないでしょう。
それでも防衛コストのうち外国から「輸入」されるもの―――燃料、資機材、そして防衛装備品はそうはいきません。円安になれば当然、円高時よりも円建て調達コストが膨らんで、同じもの、同じ数量を買う場合でもそれだけ余計な出費がかさむということになります。