原油価格がここのところ下がり続けています。
その最大の原因は供給過剰。なかでも「シェール革命」の拡大・浸透により、世界一の石油輸入国であったアメリカが一転、サウジアラビアを上回るほどの大産油国となり、外国産原油の輸入量を大きく減らせたことが大きいと思われます。
こうした情勢のもと、価格の低下阻止に向けた原油減産の合意が得られるかどうかに注目が集まっていた先月27日の石油輸出国機構(OPEC)総会は、結局、生産目標の現行日量(3000万バーレル)の据え置きを決定しました。減産合意ならず―――これを受けたマーケットでは、産油国間の価格競争がさらに進むとの見方が広がり、原油先物価格が10%程度の下げ幅を記録。北海ブレントは1バーレル当たり約70ドル、WTIは同約66ドルあまり(いずれも11月28日)と、約5年ぶりの安値を付けています。
さて、この足元の原油安、わが国はどう捉えるべきでしょうか。個人的には、素直に歓迎し、この恩恵を最大限、享受するべきだ、と考えています。なぜなら原油安、そしてこれと伴連れになるであろう天然ガス価格の低下は、ガソリン代や電気料金など、いまの日本の実体経済を苦しめる最大の元凶となっている高いエネルギーコストの低減を促し、企業利益や家計の実質所得の増加をもたらしてくれるから。
これはちょっと考えてみれば当然のことです。これまでは原油価格が高かった分だけ、外国、つまり産油国に流出していた富を、原油安の今度はわたしたち日本人自身で分かち合うことができるということ。ぜひこの潮流に乗って、わが国はマイナス成長下のインフレという最悪の経済状態―――スタグフレーションからの脱却を図りたいところだし、国民の多くもそう願っているはずですが・・・。
ああそれなのに・・・せっかくのチャンスなのに、これをネガティブで「歓迎せざるもの」と解釈する(しかない?)のが「アベノミクス」の宿命(?)・・・。というのも原油安は、アベノミクスが悲願とする「インフレ(目標年率2%)」を緩和する方向に働くからです。こちらの記事に書いた企業物価とか、こちらでご紹介した光熱費の動きをみても分かるとおり、アベノミクス開始以降のこの2年間の物価上昇にいちばん寄与したのは原油・ガスの円建て価格の値上がり。これがあったからこそ、たとえば(消費税率引き上げ[5→8%]の影響を除いた)消費者物価指数はこれまでに2%程度の上昇を記録したわけです。
で、いまそれらの価格が下がってきた・・・ということは、国民的には「ありがたい」のに、アベノミクス的には上記のように「マズイ!」ということにならざるを得ない。ではどうするか、となれば簡単なこと。原油・ガスのドル建て価格が下がったのだからその分、円建て価格が下がらないように(上がるように)すればよい―――その結果発動されたのが日銀の追加緩和だと考えています。