(前回からの続き)
前回、「Brexit」(英国のEU離脱、今年1月)に関する英国とEUの現行の離脱協定(北アイルランド議定書:英領北アイルランドとアイルランドとの間には厳密な通関検査は置かない[英国領内に置く])のもとでは、北アイルランドは、英国・ポンド圏に留まるよりも、いっそ英国から独立するか、アイルランドと統一国家を形成して、EU・ユーロ圏に入ったほうが経済的に有利、と書きました。それは、北アイルランドとしては、現状のポンドよりも強い通貨ユーロを使えるようになったほうがインフレのダメージを抑制できる、といったことのためです。
英国の対EU貿易データ(2019年)をみると、輸出額が1699億ポンド(全体の46.3%)なのに対し、輸入額は2668億ポンド(同49.2%)となっており、同国が全貿易のほぼ半分をEUに依存しているほか、英国側が大幅な入超になっていることが分かります(出典:JETRO)。ということは、国際収支の改善を図る観点からは、英国としては対EU貿易において自国通貨ポンドがユーロに対して強いほうが望ましい・・・ですが、Brexitになってしまったことで、ポンドは逆にユーロ(ばかりかドルや円などの先進国通貨)に対して切り下がっていくことになりそうです。つまり・・・Brexitで、英国にはEU単一市場へのゲートウェイ(輸出拠点)としての魅力がなくなったと判断した日米欧企業が同国から続々と退出することで、英国の輸出セクターが衰退し、差し引きの経常収支はいっそうの悪化が見込まれることなどから、ポンドは売り!ということです。その結果、英国すなわちポンド圏では、輸入品の大半がじわじわと値上がりしていくため、国民の多くが経済的な苦境に陥っていくでしょう。かといって、メイド・イン・UKで輸入代替を進める、なんて、かの国の力量ではまず無理なわけで・・・
実際、ポンドのレートですが、年初(今年1月1日)は1ポンド1.18ユーロ、1.32ドル、144円だったのが、現在(日本時間9/28)はそれぞれ1.10ユーロ、1.28ドル、134円と、ユーロをはじめとする対先進国通貨に対して軒並み下がっています。そのあたり、英国のコロナ禍の悪影響が相対的に大きいとみられていることもあるでしょうが、やはりBrexitが英国経済にマイナスに作用すると市場が判断していることの反映でしょう。まあ、英政府がEUの要求を受け入れて上記法案の議会提出を断念したら、リスク・オンということで、ポンドは少しは値を戻す(?)かもしれませんが、それは投機的要因に過ぎず、上記トレンドが変わるはずもないので、ポンドのいっそうの価値低下は防ぎ難いでしょう・・・(?)
そうした中、北アイルランドには上記の苦しみから逃れる手があるわけです。それが冒頭の選択になります。独立?アイルランドとの統合?そのどちらにしても北アイルランドは、EU・ユーロ圏に入りさえすれば、少なくとも輸入額で半分を占めるEU産品についてはポンド安ユーロ高がもたらすインフレを免れることが可能なほか、英語が通じるEU加盟国である点を上手にPRするなどして、現在は英国本土にいる日米等の企業の同地域への移転・誘致を促す(ことで同地域の雇用促進や貿易振興等を図る)こともできるなど、未来に希望が持てそうです(?)。であれば、北アイルランドに、英国からの独立等をためらう特段の理由があるようには思えませんが・・・