(前回からの続き)
ここのところのアメリカの株価の急落局面でマーケットから聞かれる声の多くに「欧州の景気不安が意識された」なんてものが多いことに気づかされます。でも・・・(今月初め)IMFが指摘するまでもなく、欧州の景気低迷は何もいまに始まったことではありません。そして上述したように、2010年前後のソブリン危機で苦境に陥ったPIIGS諸国の財政再建がまったく進展していない状況に変化はありません(たんにEU等の国際機関からの融資および債務の返済期限延長等で危機が表面化していないだけ・・・)。つまりこれらの改革が今月に入って急に行き詰まったわけではない、ということです。
にもかかわらず、なぜ「欧州」がしきりにクローズアップされ始めたのか、といえば・・・やはりこれまた米FRBのQE終了と大いに関係があると思っています。
これまで綴ってきたとおり、QEマネーの供給終了で株と債券の「双子のバブル」が縮小に転じるとの観測から、世界の金融市場が動揺し、とりわけ米株価が激しく乱高下しながら徐々に下落基調を強めつつあります。で、アメリカにとってこれは超マズいわけです。だって、シツコク指摘してきたようにそれは悪夢の「資産デフレ」につながるため。だからといってこのタイミングでQEの再開を言い出せないアメリカとFRBは、結局、実質的なQE4―――このバブルを膨らませる低利マネーの供給を他の中銀に頼るしかなくなった。その依頼先が日銀、そしてECB(欧州中央銀行)、というわけです。FRB以外で、この巨大バブルを支えるだけの力のある中銀は、世界にこの両者しかありませんから・・・。
で、先日こちらの記事に書いたとおり、従順なわが国の日銀は「ははーっ」とばかりに「異次元緩和」によってアメリカのこの思いに応えているところです。でも、日銀のおカネだけではちょっとパワー不足で、やっぱりECBにも協力してもらわないと・・・。ということでアメリカは、欧州の景気後退をさかんに問題視することにした―――それによってECBに緩和的な金融政策(つまりQEの実行)―――低利マネーのマーケットへの大量放出―――を促そうとプレッシャーをかけ始めた、といったあたりが今回冒頭「欧州不安」とやらの本当の背景なのではないでしょうか。
このへんにアメリカのプライドの高さを感じますね~。あたかも相手(欧州)のほうが悪いとでもいうように(まあ欧州がヤバいのは間違いないけれど・・・)、欧州・ECBには行動が必要だ、みたいな風を装ってみたりして・・・。もっと素直に「ECBよ、たのむ!どうか量的緩和策を実施してわがステイツを助けてくれ~」って言えばカワイイのに・・・(うーん、そんな救済を求めたら「アメリカはそんなに厳しいのか」となって株・債券ともに暴落してしまうから、やっぱり無理ですね)。
しかし・・・日銀と違ってECBはアメリカの期待に沿えないでしょう。ECBにはFRBや日銀がやっている「国債の買い入れ」ができないからです。そんなことをしたらEU圏内の脆弱な国々―――PIIGS諸国等が構造改革をサボり出し、次々に国債を振り出してECBに引き受けさせるから。それは結局、ECBと通貨ユーロの信認を崩壊させることになる―――だからECBはQEをするわけにはいかない―――といったあたりがEU・・・の盟主であるドイツの信念だと思われます。実際、オーストリアの中銀総裁が先日「もしQEが国債の買い入れと定義されるならば、現在それは協議されていない」といった趣旨の発言をしています。これはドイツのスタンスと合致するものです。
というわけで、ECBは当てにできない―――アメリカは苦しくなりそうです・・・。さあ、ただいまFOMC(連邦公開市場委員会:FRBの金融政策決定会議)真っ最中のFRBよ、どうする!? 予定どおりQE3を終えるのか、それとも・・・