ご存知のとおり、9月の自民党総裁選で再選された安倍首相は新政策と合わせてGDP(Gross National Product:国内総生産)の600兆円/年の達成を目標に掲げました。600兆円―――とても分かりやすいとは思います・・・が、これだけでは以前からわたしがいうところの「黒魔術」(実質はマイナスなのに見た目をプラスにして、あたかも良くなったかのように思わせること)に終わってしまう危険性が非常に高いと考えます。そんな、名ばかりで質の良くない(?)手品に惑わされないよう、ここは600兆円というより、わが国は表題のようにGDP/年10兆ドル(!)をめざそう!―――本稿ではこのあたりについて綴ってみたいと思います。
さて、あらためてGDPとは、国内で一定期間内に生産されたモノやサービスの付加価値の合計額のことをいいます。で、わが国のGDPは現時点(2014年度)で約491兆円。このうちほぼ6割を占めるのが個人消費で約293兆円、投資等(総固定資本形成:民間住宅・設備投資・公共投資等)が約109兆円、政府支出が約101兆円などとなっています。これらをトータルすると500兆円を超えますが、最後に純輸出(輸出と輸入の差)「マイナス」11兆円あまりを加えて・・・491兆円、という計算です。ご承知のように、そして重要な点ですが、いまの日本は貿易収支が赤字でGDPのマイナス要素となっています・・・
で、上記をふまえて「アベノミクス」がどのように600兆円を達成するのかを考えているわけですが・・・正直、じつに難しいといわざるを得ません。シツコク書いているとおり、アベノミクスとは「円安誘導」つまり通貨安をテコに使って輸出主導型の経済成長をめざそうというものです。しかし・・・こちらの記事等に詳述したように、その目論見はすっかり崩れているうえ、今後も―――経済的にも外交的にも―――輸出に何十兆円ものGDP押し上げ効果(純輸出すなわち貿易黒字を数十兆円以上!も稼ぐこと)を期待するのは絶対といってよいほど無理筋です。
つぎに、GDPの大半を占める内需・・・の主役である個人消費の活性化ですが、これも純輸出と同じかそれ以上に当てにできない。なぜならアベノミクスは、恣意的な円安インフレ誘発に加えて消費増税の実行という、消費と景気とをともに冷やすダブルパンチを家計と日本経済に繰り出しているからです。これでは国民は生活防衛のため、消費をますます手控えるようになるでしょう。というよりは、上がるいっぽうの光熱費や食費の支払いに追われて、他の消費や貯蓄に回すおカネがどんどん減っている!といったあたりが生活者一般の実態に近そうです(エンゲル係数の歴史的上昇等にそれが表れている)。
となると「地方創生」・・・に象徴される公共事業の積み増しを含めた政府支出の拡大くらいしかありませんが、これだってせいぜい数兆円ほどの増額がいいところでしょう。いくら安倍政権が左翼的な政策スタンス(上記、「民間」の消費・投資意欲を政策的に削ぐかわりに、公務員給与引き上げなど、「政府」支出を増やす、等)をとっているとはいえ、厳しい財政状況のもとではその程度が限界MAXなはずです。
以上のことからアベノミクスのもとでは、わが国はGDPをあと100兆円以上も増やして600兆円に持っていくことなど、ほぼ100%不可能に思えます。もちろん政府もそう考えているでしょう。そこで、上記の黒魔術が登場しそうな(イヤな?)予感が・・・