(前回からの続き)
では、日本と同じく不動産バブルの崩壊を経験したアメリカに、前回書いたような日本流の長く厳しい「資産デフレ」との戦いの道を選択することができるでしょうか―――「できない・・・」というのが私の見立てです。その最大の理由は、わが国と同じやり方を選んだら、アメリカでは長期金利のコントロールが効かなくなるおそれがあるからです。
前述のとおり、バブルの残滓を除去し切るまでのあいだ、日本政府は財政資金を延々と投じてきました。ひとつは景気対策に、そしてもうひとつは金融システム救済に・・・その総額は数十兆円にも上ります。そしてそれに必要なお金の多くは国債によって調達したもの。で、ふつうに考えると、そんなに国債が乱発されたら、国債価格が下がるとともに金利が上がってしまいそうですが・・・。
わが国はそうはなりませんでした。なぜか? 結果としてわたしたちが国債を買い支えたから。だからといってべつに日本人が救国の志で損をしてもよいから国債を買ったわけでも、当時の郵貯が国債での資産運用を義務付けられていたからでもありません。われわれにとって日本国債の購入が合理的な選択だったから―――株や外貨を含めたあらゆる資産のリターンやリスクを比較した結果、安全性が高くて実質の利回りが高い日本国債を選んだ、つまり「預貯金」をした―――これに尽きると思います。だから日本国債の価格は高値を維持するとともに利回りは低下した―――長期金利は低いレベルで安定的に推移した、ということ。
さらにいうと「失われた20年」の間も、わが国は一貫して経常黒字を計上してきました。1992年~2011年の20年間の日本の経常黒字の合計額は約2.7兆ドル(約280兆円)! つまりわが国はこの期間だけでそれほど貯蓄を増やしたということになります。その分、日本政府は国債を発行して国民からお金を借りることができる、しかも低利で・・・。だからこそ政府は景気浮揚のために財政支出を拡大して公共投資を実行したり、金融機関に巨額の公的資金を注入することができた(しかも全額回収できた)・・・。
というわけで、バブルの後始末で政府が財政赤字を増やしても日本では真の危機―――(長期)金利の急騰、そしてそれに続く通貨価値の暴落とハイパーインフレ―――は起こりませんでした。それどころか、わが国で起こったことはまったく逆の現象―――「超低金利」と「円高」と「緩やかな物価の下落(実質所得の増加)」でした・・・。
「GDP比で200%を超える財政赤字!」よく財務省やマスコミがそう騒ぐ(?)けれど、正直に言って国家債務の対GDP比率なんてあまり意味がない。財政赤字との関連で本当に注視しなければならないのは金利(長期金利)のほうです。では、主要国の現在の長期金利はどうなっているか?―――いうまでもなく、わが国のそれは世界一低い(日銀の異次元緩和のせいではなく・・・)。このことの意味をわたしたちはしっかり認識するべきだと考えています。
さて、長々と「日本」のことを綴ってきましたが、これは「アメリカ」が「資産デフレ」に耐えられないことを説明するためです。つまり上記のように、わが国は長期金利のコントロールを失うことなく財政支出を活用しながら「資産デフレ」に正攻法(?)で対処してきたわけですが、いまのアメリカにそんな「日本流」を選択できる前提はまったくといってよいほど、ない、ということ。世界ワーストの双子の赤字(財政赤字・経常収支の赤字)がその象徴です・・・。
で、結局、アメリカにとって「資産デフレ」を回避する以外の道はない、ということになる―――そう思っています。
(続く)
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