(前回からの続き)
「原発ゼロ」つまり原発の再稼動をするべきでない、と訴える都知事選の立候補者の具体的な対策をみてみると・・・はっきりいって、本稿で問題視している「高い電気料金」の引き下げ策が無いに等しい状況です。電気代高騰に無為無策―――これではいくら「原発の替わりに自然エネルギーの導入を進めます!」といったところで、高い光熱費にあえぐ大半の都民の支持を得るのは難しいでしょう。
逆に「将来的には原発は廃止するけれど、エネルギー安保や電気料金の上昇抑制のため、当面は原発を活用すべきだ」と主張する候補者の声のほうに多くの有権者が耳を傾けそう。なぜならこれは本稿前段で掲げた「原発事故と同停止にともなう値上がり」へ対応しようという姿勢だからです。「たしかに原発の事業リスクは大きいが、いまの高すぎる電気代が少しでも下がるのなら、原発再稼動もやむなし・・・」といった具合です。いまの都民にとって、原発ゼロよりこちらのほうがずっとありがたい、と思いますが・・・。
ということで、以前もこちらの記事に書いたとおり、中央政界と同様、この都知事選においても「原発再稼動容認派(≒円安誘導派)」が優勢―――「脱原発派」が原発再稼動以外の有力な電気料金低減策である「円安修正」を唱えなければ―――と予想しています。脱原発派が「(円安修正なき)原発ゼロ!」を叫べば叫ぶほど、電気代高騰への懸念が都民のあいだに広まり、結局は「原発再稼動容認派」への支持を高めることになってしまう、ということです・・・。
・・・てなことを綴っていたら、これに関連する気になるニュースが入ってきました―――財務省が27日発表した貿易統計によると、わが国の2013年の貿易赤字額は過去最大の約11.5兆円を記録したとのことです。
で、その主因はいうまでもなく「輸入」―――原油やLNGなどの円建て輸入価格が大きく膨らんだことに求められます。一部に貿易赤字の原因を「輸出」に見出そうという動きがありますが、これはその真因である「輸入」にスポットが当たることを避けたいため。なぜなら、「輸入」に目を向けられると、その激増の原動力がアベノミクスの意図的な「円安誘導」であることが国民に分かってしまうから・・・って、もうバレバレですが・・・。
この円安がいかに円建ての輸入燃料価格の上昇に影響を与えているか、ということは実際の統計値にも表れています。たとえば、原粗油の2013年の輸入数量は2012年比で0.6%ほど減っているにもかかわらず、輸入額は同16%も増えています。そして原油の輸入単価は1キロリットル67264円と、これまた前年比で17%と大幅増! ちなみに2012年のドル円の年間平均レートは79.8円で、2013年は97.6円。つまり1年間で20%以上も進んだ円安の分だけ原油高が進んだ、といえそうです・・・。
それにしても、原発が停止して火力発電への依存度が高まっているなか、その燃料を少しでも安く調達しなければならないはずのこの時期に、それらを「わざと」高く買おう!という「アベノミクス」のセンスって、まさに「異次元(緩和)」としかいいようがないですね!?
まあともかく、2013年の巨額の貿易赤字計上には、上記のように「原発停止」と「為替」が大きく関与したことが分かるわけです。
(続く)
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(前回からの続き)
前回、東京都民が支払う東京電力の電気料金は、2011年の東日本大震災を境に、この3年間で「原発事故と同停止にともなう値上がり」と「為替の円安にともなう値上がり」の「二段ロケット」で上昇してきた、と書きました。その値上がり率はじつに26%以上にも達します(2011年から2014年の各年の2月の料金比較)。これだけ急速かつ急激に電気料金が上がっていれば、ほとんどの都内の個人や法人の、総収入から電気代を差し引いたあとの所得は目減りしているのではないでしょうか・・・。
そのため、都知事選の争点として「原発」がクローズアップされればされるほど、都民の現状の電気料金の「高さ」に関心と不満感が高まるとともに、各知事候補者は、「原発再稼動容認」「脱原発」それぞれの立場から、この電気代の「高さ」に対する自身の認識とか、電気料金を引き下げるための取り組みや政策を語らざるを得なくなる―――そう予想しています。
本稿前段で書いた理由から、そもそも「原発」は都知事選の論点にはなり難いと考えています。それでも、「原発」に関する論戦が熱を帯びるなか、こうした流れで都知事候補者が電気料金の「高さ」に関してさまざまな発言をすることで、電気代高騰の原因である「原発停止」および「円安誘導」に都民、そして国民の多くが着目するようになることを個人的には期待しています。なぜなら、それらはいずれも国の現行の政策、具体的には「アベノミクス」の是非論に直結することだからです。
先日こちらの記事に綴ったとおり、行き着くところ「原発」の扱いは、為替レートをどう解釈するか、の違いによって次のように色分けされると思っています―――「原発再稼動容認≒円安誘導」か、それとも「脱原発≒脱円安」か、ということです。
ここで前者は「アベノミクス」推進派とほぼイコールといえる勢力。つまり、円安誘導をやめることはできないが、その副作用(円建て火力燃料価格の上昇)で上がってしまった電気料金を少しでも引き下げるため、上述の電気料金上昇「二段ロケット」の一段目「原発事故と同停止にともなう値上がり」に対処するべく、原発の再稼動を進めようとするグループです。
一方後者は、この「二段ロケット」一段目には対応できない代わりに(「原発再稼動」をしない代わりに)、最終ゴールである再生可能エネルギーまでの「つなぎ」としての火力発電のコストを可能な限り引き下げようとするグループです。彼ら彼女らの多くは結局、同「二段ロケット」の二段目「為替の円安にともなう値上がり」への対策として円高メリットの追求に向かうだろうとみています。
以上の両者が、都知事選を機に、「原発」や「為替」をめぐる政策議論を戦わせることは、「アベノミクス」のほかにも政策の選択肢が生まれるという意味で、日本国民にとって有意義なことだと思っています。
さて、都知事選に出馬表明した各候補者の「原発」に関する主張をみると、「脱原発」を掲げる方が複数いらっしゃるようですが・・・。
(続く)
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(前回からの続き)
前回、東京都民が支払う電気料金がこの3年間で大きく上がった、と書きました。以下でその詳細を確認したいと思います。
このグラフは、東京電力の2010年から2014年までの2月の一般家庭の電気料金(平均モデル:30A契約、使用量290kWh、口座振替払い)と、その料金の計算にあたって加減算された燃料費調整額の算定のベースとなった為替レート(前年9~11月の平均為替レート)の推移をみたものです。ご覧のとおり、2011年から現在までの3年間で26.3%もの値上がりとなっています(6234円→7873円)。
少し細かくみると、この電気料金の上昇が「二段ロケット」となっていることが分かります。
まず「一段目」は2011年から2013年までの値上がりとなります(上昇率16.7%)。ご存知のように、2011年3月に起こった東日本大震災、そして福島第一原発の事故および全原発の停止等による発電コスト上昇等をふまえ、東電は2012年に電気料金を引き上げました。それを反映した金額が2013年2月の7273円となります。つまりこの「一段目」はおもに「原発事故と同停止にともなう値上がり」とみることができると思います。
そして「二段目」。これは2013年から今年(2月)までの8.2%の上昇分です。これは何かといえば「為替の円安にともなう値上がり」です。そのあたりは上記グラフの折れ線で表示した燃料費調整額の計算で適用されたドル円レートで推測されます。
2011年から2013年までの上記レートはおおむね1ドル80円前後で推移していました。ところが直近の2014年2月の値は99円(2013年9~11月の平均為替レート)と、2013年よりも25%以上も円安ドル高になりました。これが燃料費調整額を大きく引き上げ、わずか1年で8%以上もの電気料金の「インフレ」をもたらした、ということになります。なおこの「二段目」のメインエンジンは、こちらの記事を含めて本ブログで何度か指摘しているとおり、アベノミクスの「円安誘導」です・・・。
以上が東電の電気料金「二段ロケット」上昇の概要です。ちなみにこのロケット、まもなく「三段目」にも点火します。4月、消費税率の5→8%への引き上げ分が料金に上乗せされるということです。東電によると、上記の一般家庭平均モデルで月209円ほどの値上がりになるそうですが、電気料金にオンされている自然エネルギー普及促進賦課金などの費用も変わるため、実際はもっと上がりそう・・・。
というわけで、かりに東京都知事選挙で「原発」が論点になるとしたら、都民の関心は「原発」ではなく、上記「電気料金」の「高さ」のほうに集まるだろう、と思う次第です。
(続く)
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本日23日告示、来月2月9日に投開票が行われる東京都知事選挙の立候補者が出そろいつつあります。都知事は日本の首都の顔、ということで、いつものように候補者には個性的な方々が並んだことから、各氏がどのような政策を掲げるのか、都民のみならず国民の多くも関心を寄せそうです。
なかでも選挙戦の重要なテーマとなりそうなのが「原発」の扱い。すでに細川元首相をはじめとする複数の候補者が「脱原発」の姿勢を明確にしています。さらに昨年、突然の脱原発宣言をした小泉元首相は、今回の都知事選を「原発ゼロでも日本が発展できるというグループと原発なくしては発展できないというグループの争い」と位置付けたうえで細川氏を支援する意向を示していたりします。そんなこともあり、何やら「原発」が今回の選挙の最大の争点になりそうな気配すら漂ってきていますが・・・。
個人的には、「原発」は都知事選の争点にはなり難い、と考えています。すでに多方面から指摘されているとおり、原発をどうするか、については国家のエネルギー安保にかかわる課題であり、原発立地自治体の意見は尊重しつつも、本来は国会や中央政府で議論して意思決定すべきことだと思うからです。ましてや原発がエリア内にない東京都が「原発ゼロ」「原発維持」のいずれを決議等したところで、政府や原発立地県の意向に反することはできないわけで・・・。
とはいってみたものの、わが国の首都であり、47都道府県中、人口も電気のユーザー数も最多の東京都の有権者が、今回の都知事選を通じて「原発」についてどのような判断を下すのか、とても興味深いところではあります。そしてその結果が、今後の国のエネルギー政策に少なからぬ影響を及ぼすことも予想されます。
ですが・・・たしかに東京都には「脱原発」「原発再稼働」それぞれの立場から熱心に持論を展開される方も多いでしょう。しかし、大多数の都民にとって「電気」についての最大の関心事は「原発」ではなく「電気料金」のほうではないでしょうか。というのも、都民が支払う電気料金はこの3年間で急激に上がっているからです。
都民に電気を供給しているのは東京電力。で、その東電のデータによれば、いまから3年前の2011年2月(つまり東日本大震災の前月)の一般家庭の電気料金(平均モデル:30A契約、使用量290kWh、口座振替払い)は6234円でした。それが来月(2014年2月)には7873円となります。何と!わずか3年で26.3%もの値上がりです。
では、そんな短期間でどうしてこれほど電気代が上がったのか、ですが、いうまでもなく「東日本大震災にともなう原発の停止」と「2012年11月以降に進んだ為替の円安」がその「2大理由」です。
(続く)
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(前回からの続き)
わが国の昨年11月の経常収支が5928億円と過去最悪の赤字を記録しました。このところの各月では、貿易赤字を所得収支の黒字が補ってトータルの経常収支はプラスになることもありましたが、11月はその所得収支でも貿易赤字を埋め切れなかった―――これは、石油やLNGなどの輸入燃料代が膨らんだことが原因です。実際、「輸入」は11月としては過去最大となっています・・・。
もちろん経済基盤が強固なわが国は、単月で6千億円程度の経常赤字になったくらいでどうなるものではありません。しかし、この円安モード、「異次元緩和」(≒円安誘導)を実施中の日銀正副総裁の任期中、つまりあと4年以上も続けられる可能性があります・・・。それほどの長きにわたって毎月、数千億円もの経常赤字を垂れ流したら、さすがのわが国も国力を大きく喪失するのではないでしょうか。なぜって、経常赤字→貯蓄の減少→国債消化力の低下→金利の上昇・・・日本経済の根幹が揺らぎかねない・・・。
以前も書きましたが、原発が停止している現在、わが国は大量の火力燃料を輸入せざるを得ないことから、人為的に円安にしても、輸出より輸入のほうが増えて差し引きの貿易収支はむしろ赤字になる傾向があります。逆にいえば、(本稿⑤で書いたような考え方に基づく)ある程度の「円安修正」によって輸入燃料価格を引き下げれば、貿易収支の改善につながるとともに、電気代やガソリン代などの価格が下がって、内需に好影響を与えることになる、という見方も成り立つはず・・・。そんなことも含め、総合的な国益の観点から、そろそろ本気で「適切な円安を議論」すべき時だ―――上記の巨額の経常赤字を目の当たりにして、あらためてそんなことを思います。
本稿冒頭でご紹介した経済同友会・長谷川代表幹事のコメントを再掲します―――「さらなる円安の可能性は否定できない。原発が稼動していたころに比べて(年間)4兆円くらい化石燃料の輸入が増えている。あまり円安を歓迎できないし、円安になっても影響が中立になるように(貿易)収支の改善を考えていかないといけない」―――1年でもっとも暖房需要が高まるこの時節、実業界トップのこの「警句」に、多くの人々が耳を傾けてほしいと願っています。
(「円安:適切な為替水準を議論すべき時」おわり)
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(前回からの続き)
「ドル」はいわずと知れた基軸通貨。では基軸通貨とは何か、といえば、石油を買うことができる通貨、と言い換えることができると思います。だからドルはいわば「石油引換券」。
そのドルですが、2008年のリーマン・ショック以降の米FRBによる量的緩和策(QE)により、石油産出量の伸び率を大きく超える勢いで増刷されています。そしてアメリカが世界最大の経常赤字国であることも、さらなるドルの発行を予感させます。借金相手国(中国・日本・産油国など)に対して、ドルを刷ることによってドル建ての借金の返済を図ろうとするからです。
かくしてドル=石油引換券は今後も増え続ける―――ということは、ドルは必然的に石油に対して減価する、つまりドル建ての石油価格は上昇していかざるを得ない―――そんな気がするわけです。
で、ドルよりも「弱い」通貨を持つ国々は、ドルにお付き合いをさせられることになります。つまり上記の事情でドルが増えれば、それに「比例」するかたちで自国通貨も増えてしまい、(しばしばドル建ての石油価格以上に)自国建ての石油価格が上がってしまう―――アメリカ以上に激しい石油価格の値上がりに国民が苦しめられる、ということです(まあアメリカ国民もこれ[ガソリン代の上昇等]に苦しめられているわけですが・・・)。これは、不安定な政情が続くエジプトや、QE縮小観測等にともなう外資流出に見舞われているインドやブラジルなどの新興国が直面している哀しい現実です・・・。
これに対し、ドルよりも「強い」通貨である「円」を持つ日本は、先述のとおり、「適切な円安を議論」できる、つまり円建て石油価格の値上がりを回避するために円の対ドルレートを自力で調整できるわけです(繰り返しになりますが、これはとても幸せなことだと思います)。これに関し、現時点での円安の許容ラインは「1ドル=87円」くらい、という見方を本稿②で示してみました。
でもこれはあくまでも「現時点」で、ということ。ドル建ての石油価格が変動すれば、この許容範囲もまた上下します。なので、円安限界ラインとなる対ドルレートは「わが国の実体経済が耐えられる円建て石油価格/その時点のドル建て石油価格」で算出するのがよろしいのではないかと思っています。
具体的な数字を入れてみると・・・かりに本稿②で述べた「8496円/バーレル」が現時点での円建て石油価格の上限ライン(これ以上になったらトータルの日本経済に悪影響が及ぶとされるライン)だとします。この場合、ドル建て石油価格が1バーレル100ドルのときの円安許容レートは8496円/100=約85円になるし、同90ドルのときは8496円/90=約94円、などとなります。つまり「適切な円安」とされるギリギリのラインを「反比例」で求める、ということです。
このように「ドル建て石油価格×ドル円レート=固定(わが国の実体経済が耐えられる円建て石油価格)」という反比例の式から「適切な」為替レートをはじき出す―――こうすることでわたしたちは、名目レートに基づく「1ドル100円は円安か円高か」などといった表面的な議論を超えた、もっと日本経済の実体に即した「適切な円安の議論」をすることができる―――そう考えています。
(続く)
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(前回からの続き)
本稿では、経済3団体トップの年頭会見でそろって聞かれた円安のネガティブ面に関するコメントについて、個人的に感じたことをあれこれ綴っています。
ところで、前段でふれたように、三村日商会長は現状の為替レートについて「適切な円安を議論しないといけないレベル」と述べていますが、考えてみれば、自分たちにとって「適切な」為替水準がどれくらいなのかを議論できるということはとても幸せなことだと思います。なぜならそれは、自国の通貨が基軸通貨ドルよりも強くないとできないことだからです。
本ブログで何度か書いている通貨の不等式「円>ドル>ユーロ>新興国通貨」―――これはその通貨の価値保存力を強い順に並べたもの。実質金利(=名目金利-インフレ率)の高い順、ということでもあります。
このなかで唯一、ドルよりも上位にある「円」は、「円」の都合で、つまりわが国の政策判断次第で、対ドルで円高を演出することも円安を演出することもできます。だからこそわたしたちには「適切な円安を議論」できる「ゆとり」があるわけです。現に、円安と円高のどちらが日本にとって良いことなのか、といった趣旨のビジネス本があったりします。
ところがドルよりも弱い立場の通貨を持つ国、とくに新興国は、「適切な」水準の為替レートを議論するなんて高尚な(?)ことはできません・・・。リスクオンになれば過度の通貨高となるし、リスクオフになれば制御不能の通貨安(輸入インフレ、高金利・・・)に・・・。つまり新興国は自国通貨の価値、ひいては自国経済がドルに翻弄され続けるということです。
新興国通貨ほどは弱くないにしても、ユーロやポンドも似たようなもの。いまは小康を保っている感じですが、近いうち、PIIGS諸国がふたたび債務危機に瀕する事態は避けがたいでしょう。そうなればフランスやイギリスといった欧州中核国の金融システムまでも動揺することになり、ユーロ、ポンドともに対ドルで大きく下落すると予想しています。そしてそうなったときの欧州の金融当局者には「適切なユーロの為替レートを議論しよう!」なんて余裕はないはず・・・。
以上のように、「円>ドル」である日本は適切な対ドルレートを議論してそれに近づけるための手を打つことができますが、「ドル>ユーロ>新興国通貨」、つまりドルよりも自国通貨が下位にある新興国や欧州諸国は、自国通貨の対ドルレートを自力で調節することは困難ということになります。
唐突ですが、これを「次元」にたとえるとこんな感じ―――3次元通貨(=基軸通貨)のドルに対して、円は4次元通貨、そしてユーロや新興国通貨は2次元通貨といったところ。上位の次元に立つ者は下位の次元をコントロールできるが、その逆はない、という意味です。どんなにファンタスティックであっても、しょせん2次元の漫画やアニメの世界の主導権は3次元の人間(作者やプロデューサーなど)の手中にあるのと同じ・・・なんてことを思います。
話を戻します。
ユーロや新興国通貨がドルの下位にあることで、欧州や新興国が何にいちばん悩まされるかといえば―――やはり「石油価格」でしょう。
(続く)
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(前回からの続き)
7日の経済3団体・年頭会見における「さらなる円安の可能性は否定できない。原発が稼動していたころに比べて(年間)4兆円くらい化石燃料の輸入が増えている。あまり円安を歓迎できないし、円安になっても影響が中立になるように(貿易)収支の改善を考えていかないといけない」という経済同友会・長谷川代表幹事のコメントにも「本当にそのとおり」だと感じます。
以前こちらの記事で述べたように、原発が停止している現在の日本は、円安によって輸出額が増加する以上に燃料価格の輸入額が円建てで膨らんでしまい、貿易赤字が拡大する事態に直面しています。そんなアベノミクスの「円安誘導による外需狙い」は実質的に的を外しているよ!という意味合いのこの実業界のリーダーのメッセージに、アベノミクス推進者はもちろんのこと、反原発を主張する人々は真摯に耳を傾けてほしいものだ、などと思っています。
さて、前回「適切な円安を議論しないといけないレベル」(日商・三村会長)というほどに行き過ぎてしまった現状のドル円レート(1月14日時点で1ドル約103円)について、円安方向の許容水準は1ドル87円くらい、という見方を書いてみました。いまよりも15%ほども「円高」方向ということになります。そのため、このまま何もしなければ(日銀の「異次元緩和」が続けば)、為替はそう簡単にこのレベルに戻らないだろうし、アメリカの「QE縮小=米金利上昇=日米間の金利差拡大」によって短・中期的にはむしろドル高円安がさらに進む可能性すらあります・・・。
で、かりにわが国において上記の「議論」によって同80円台後半くらいまでの「円安修正」へのコンセンサスができたとした場合、それを達成するための具体的な手立てとして、ちょっとした力技、つまり「円買いドル売り為替介入」が必要になるかも。このへんのイメージなどについては本ブログのこちらの記事にも書いたのですが・・・でも、そんなことをしたら、つまり日本政府が多少なりともドル売りを始めたら(円を買い戻したら)、為替レートが円高になるどころか米国債価格の下落や米金利の上昇を引き起こし、QEからの脱却を図ろうとしているアメリカに迷惑をかけてしまう、というおそれも・・・。
このへんはあまり心配はいらないと思います(たぶん・・・)。そのときは本邦の投資家が日本政府に替わってドル・米国債を買い支えると予想されるからです。昨年こちらの記事に記したとおり、わが国の機関投資家の多くは、アベノミクスのもとで円安ドル高が進むなか、むしろドル資産を手放す動きを示しました。こうして生み出されたキャッシュの一部はいま、残高100兆円を超えた日銀当座預金に積まれているものと推察されます。いまとは逆の流れで円高となってくれば、おそらくそれらのマネーが徐々にドル・米国債投資に回って、結果としてアメリカを支える力(米国債価格の過度の低下・金利の過度の上昇を抑制する力)となるだろうと考えています。
もっともジャパンマネーが本格的にドル資産を購入し始めそうなラインは、「ビッグマック指数」(購買力平価説)で示された1ドル70円台くらいになってから、という気もするな・・・。
・・・なんてことを綴っていたら、いつの間にか米国債価格が上昇するとともにアメリカの長期金利が下がってきました。予想を下回る労働関連指標の発表を受け、米FRBの金融緩和路線が継続するとの観測が市場で強まっているようです。つまりドルはさらに大量に市場へ流入するということ―――これはドル安円高要因となります。だから上記のような「力技」(為替介入)なんて使わなくても、「財界からの声もあったことだし、そろそろ適切な為替ラインを考える頃だ」といったような口先介入的な発言を財務大臣あたりがするだけで、おのずと為替はある程度、円高方向に向かうでしょう・・・。
それによって、輸入原材料価格の高騰に代表される、わが国の産業界や消費者が被っている通貨安の「痛み」が少しでも和らげば、などと願っているのですが・・・。
(続く)
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(前回からの続き)
(本稿のタイトルに「円安:」を付けました)
とりわけ、日商・三村会長の「適切な円安の議論をしないといけないレベルだ。(円安により)原材料価格が上がる」とのコメントには個人的に共感を覚えます。こちらの記事を含めて、本ブログでも同じような見方を何度か綴ってきたからです。「アベノミクス」をけん引する首脳陣―――麻生財務大臣や日銀・黒田総裁といった方々は、現状の為替レートについて「行き過ぎた円高の是正の過程にある」といった見解を示すことが多いわけですが・・・実際は三村会長がまさに指摘されるような状況にあります。つまり、いまは円高修正どころか「行き過ぎた円安を憂慮すべき事態」にあるということです。
以前から書いていることの繰り返しとなりますが、「適切な」為替レートがどれくらいなのかを判断する場合は、「1ドル105円」などといった名目上のレートではなく、比較する通貨国の物価とかインフレ率などの違いを反映させた購買力平価説をふまえたレートをチェックすることが大切だと考えています。
この場合、よく引き合いに出されるのが「ビッグマック指数」です。同指数の定義はこちらの記事などに書きましたのでここでは省きますが、2013年の同指数データによると、アメリカのビックマックの価格は4.37ドルであるのに対して日本では320円。これを為替レートに換算すると1ドル約73円となります。足元では同105円(1月10日)ですから、何と40%あまりもの「超円安」ということに・・・。アメリカのビッグマックが日本円で約460円! これではハワイ旅行は当面見送ったほうがよさそうですね・・・。
まあさすがにビッグマックの価格だけで適切な為替レートを断ずるのはいかがなものか、と思います。やはり重要なのは、これも三村会長が言及されている原材料価格、とくに石油価格とレートの関係でしょう。
そこで、わが国において「この値段ならば何とか耐えられるかな・・・」というくらいの石油価格となるドル円レートが現在、どれくらいなのか、を以下に試算してみたいと思います。ここで比較の対象とするのは2007年のデータ。なぜそうするのかといえば、2007年と現在のアメリカとわが国の経済情勢が似ているから。当時、アメリカは不動産バブル末期で個人消費が好調、そして日本は外需主導により景気が良いとされていました(もっとも「実感なき景気回復」などと言われていましたが・・・)。そして当時の金融市場はリスクオンの円安モード(円キャリートレード等によるもの)でした。
で、そんな2007年の石油価格ですが、年間平均で72ドル(バーレル/トン当たり)くらい。これに同年の平均為替レート1ドル約118ドルを乗じると、円建ての石油価格は8496円(同)となります。これに対して現在の石油価格は同98ドルほど(2013年の平均価格)になります。この値で8496円を割ると、1ドル86~87円―――このあたりの為替レートが現状での円建て石油価格の許容上限ライン―――個人的にはそう考えています。
で、直近では1ドル105円・・・三村会長のご懸念はもっともだ、と思うわけです・・・。
(続く)
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「やはりわが国の実業界のトップにいらっしゃる方々はそう感じていられたか・・・」という気持ちがします・・・。
1月7日に行われた経済3団体(日本商工会議所[日商]、経済同友会、日本経団連)の年頭会見で財界首脳からさらなる円安を否定的に受け止める発言が相次いだ、と各メディアが伝えました。
同日付のロイターの報道によると・・・
―――株価や為替等に関する質問で、日商の三村会頭(新日鉄住金相談役名誉会長)は、わが国の株価については「足元より増えないといけない」と述べたうえで、「円安になったら株価が上がるのはおかしい。適切な円安の議論をしないといけないレベルだ。(円安により)原材料価格が上がる」などと語り、一段の円安進行の悪影響に懸念を示した―――とのこと。
そして―――経済同友会の長谷川代表幹事(武田薬品社長)は、「さらなる円安の可能性は否定できない、原発が稼動していたころに比べて(年間)4兆円くらい化石燃料の輸入が増えている。あまり円安を歓迎できないし、円安になっても影響が中立になるように(貿易)収支の改善を考えていかないといけない」と述べ、原発再稼動の必要性を訴えた―――とのことです。
さらに、日経によれば・・・
―――日本経団連の米倉会長(住友化学会長)は、「企業、業種で好ましい為替レートはまちまちだ」と答えたうえで、輸出企業を念頭に「(過去の円高局面で)日本企業は相当、力をつけてきた」とする一方、「輸入企業にとっては円安はたいへんだろう」と語った―――のだそうです。
そもそも安倍政権の経済政策「アベノミクス」の目玉のひとつは、日銀の「異次元緩和」を通じた「円安誘導」。意図的に通貨安を演出し、外需主導でわが国の景気回復を図るとともに、日本企業の収益・利益アップをアシストしよう、という目論見だったはず。現に、そんな狙いのとおりの円安ドル高となったのだから、今回の会見で財界首脳は、円安をもたらしたアベノミクスを大いに褒め称えてくれるはずだ!などと安倍政権や日銀の幹部は期待していたのかもしれませんが・・・
しかし実際には・・・上記のとおり、円安の最大の受益者であるはずの企業経営者のほうから「現状の為替レート(円安)ではちょっと・・・」といった声が上がったわけです。まあ、わが国にはじつにさまざまな企業があるから、日本経団連・米倉会長が述べているように、それぞれの企業にとって心地良い為替水準が異なるのはもっともなこと。それでも、日本企業の総意を代弁する立場にある経済3団体のトップがそろっていまの人為的な円安のネガティブ面を指摘した事実は重いと思います。
(続く)
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