(前回からの続き)
前述した理由から、FRB(米中銀)は事実上、金融の緩和(インフレ喚起)はできても金融の引き締め(インフレ抑止)はできなくなっているわけです。でもそれではFRBの中央銀行としての存在意義は消えてしまいます。金融緩和すなわちマネーのバラマキをするだけなら―――ひたすらインフレを起こし続けるだけなら―――政府だろうが企業だろうが、誰でもできるからです。よってこのままだとFRB(じつは100%民間資本の銀行)は(現代社会の最大の権力である?)通貨発行権を米連邦政府とかに奪われかねません。そこで金融緩和に加えて、何か他の、もっともらしい(?)使命を中銀としてのFRBに与える必要が出てくるわけで、それこそが「雇用」だと理解しています。
コロナ禍拡大下の昨年8月のFOMC(FRBの金融政策決定会合)でFRBは「長期的な目標と金融政策戦略」について合意し、物価の安定等とともに「雇用の最大化」をデュアル・マンデート(使命)とすることを公表しました。う~ん、どうでしょう、これ。本来、雇用の最大化に向けた政策は財政出動等と合わせて行政が担当するのが自然だと思われるところ、金融政策を実行するべき中銀がこれを使命とすることには違和感を覚えるところです。で、そのあたりFRBの本意を読むと・・・雇用最大化を金融緩和しかできないことの口実にしよう、といったあたりかと・・・
以前から書いているように、FRBは、事実上、リーマン・ショック以降は金融緩和一色です。この間、FRBは一時的に利上げをしてはみせましたが、それはそうすることでFRBは自身に金融引き締めができる力があることを一瞬でも市場に示したかったからでしょう。でもそれはしょせん無茶でした。現に引き締めは短期間で終わり、いまは・・・ご存じのとおりアメリカはゼロ金利・・・どころか実質的にマイナス金利状態に没入中です。それに加えて異様な株高・債券高・不動産価格高となっているわけです。となれば、FRBは金融を引き締めよ、といった声が各方面から上がりかねません。けれど上記の理由からFRBにはそれができない・・・し、だからといって、引き締めたらバブルが崩壊して云々・・・みたいな本当の理由を口に出すわけにもいきません。そこで、マイナス金利幅が大きくなろうが何だろうが金融緩和を続けるしかないことの何か他の大義名分が必要・・・となって「雇用の最大化」が出てきた、という次第でしょう、おそらく・・・(?)
実際、日経新聞によると、FRBのジェローム・パウエル議長は、今月10日の講演で、政策金利の誘導レンジのゼロ金利(って、先日のこちらの記事で書いたように実質マイナス金利)を維持することの理由として、コロナ禍で労働市場の回復が遅れていることを挙げ、同金利を「雇用の最大化まで維持し続け、最大雇用へ十分な進展がみられるまで現在の量的緩和も続ける」と長期の金融緩和を改めて宣言しました。FRBは最大雇用の目安となる数値として失業率4.1%を挙げており、その達成は2023年までずれ込むと予測しているようです・・・
・・・って、そういうこと、ようするに雇用最大化が体のいい口実にされているわけですね、FRBにはマネーのバラマキ以外にやれることがないことの・・・