ご存じのように、農林中央金庫(農中)が1.2兆円もの増資を検討していることが明らかになりました。大量に保有する米国債が大幅に減価したことで巨額の含み損が発生し、これによって来年3月に5000億円規模の大赤字を計上せざるを得なくなったもよう。現在、おもな出資者である農業協同組合(JA)に対して、9月の合意を目途に、期限付き劣後ローン2000億円の追加出資を求めているとのこと。
農中は、2008年のリーマン・ショック直後の2009年3月にも6000億円近い赤字を計上し、これによって約1.9兆円の巨大増資を行いました。当時は米不動産債券等の高リスク有価証券への投資に傾倒していたために大損失を被ったとの「反省」?から、それ以降は、日本で低金利環境が続くなか、おもな運用対象を(あくまでも名目上の)金利が相対的に高くて安全とされる?米国債にシフトしてきたわけですが、「想定を超えるような金利の引き上げ」(農中理事長)つまり保有米国債価格の想定以上の下落でこのたびの損害に至った、という次第です。
なお、HPによると、農中の市場運用資産は昨年12月末時点で55.9兆円に上りますが、このうちの約4割が外債、つまり、上記から、大半が米国債と推測されます。だからこそのこのたびの損害なのでしょう。もっとも昨今の円安ドル高モードで外債の円換算額はそれなりに増えたものと思われますが、それでも上記評価額下落および増加した外貨調達コスト等にともなうマイナスをまったく埋められなかったのでしょう。ちなみに農中の同時点の自己資本(連結ベース)は約5.4兆円で、昨年3月末時点(約5.7兆円)からは3075億円ほども減少しています・・・
このあたり昨年度決算で、3メガバンクが史上最高益を計上、そして地銀の7割が増益、といったニュースが流れるなかで、農中の上記状況は真逆といえます。その理由は、これらの報道のとおり、(本邦金利上昇の恩恵[融資や日本国債のリターン増]を得られた)これら民間銀行とは正反対で、農中が外貨建て資産とりわけ米国債に偏った資金運用をしてしまったためといえるでしょう。
もっとも、上記の米国債の値下がりリスクは、かの国の「真性インフレ」(≒実質金利が恒常的にマイナスになる状態)現出状況からすれば、わたしのような金融のド素人でも予見できたこと。つまり、米FRBは、本音では同インフレの解消が不可能なことを知りつつも、中銀としての建前上、金融引き締めスタンス(利上げおよび政策金利の高め維持)を継続せざるを得ない・・・から米国債の価格は下落するだろうことが余裕で想定内だったわけで、とすれば農中幹部の上記「想定を超える」(米金利の上昇)との言い訳は、やはりいただけないですよね、金融のプロ(なんですよね?各位)としては・・・