世界雑感☆新しい世界は日本から始まる☆

世界の激動を感じつつ、日本経済への応援メッセージを徒然に綴るページです。
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「円高」を考える:本当に「超」円高なのか?①

2012-05-30 00:01:54 | 日本

 「超円高」とか「歴史的な円高」といった言葉を最近はマスコミ報道で毎日のように見かけます。スポットの為替レートが1ドル79円台(5月下旬時点)と、昨年秋の1ドル75円台には及ばないものの、1ドル80円割れは1995年以来の水準であることからこうした言い方がされるのでしょう。

 ところで、現在の為替レートは本当に円高(ドル安)といえるのでしょうか。マスコミが日々伝える「1ドル79円」といった為替レートはあくまで名目上のものです。だからこれだけを見て単純に円高とか円安といった結論を下すのは早計というものでしょう。

 為替が真に円高なのか円安なのかを判断するには、円と比較対象となる通貨の購買力や、わが国とその通貨発行国との物価水準などを考慮した実質のベースで為替を見る必要があります。このあたりについて、よく使われるレート指標である「実質実効為替レート」と「ビッグマック指数」を取り上げて私的な考察をしてみたいと思います。

 日銀がHPなどで公表している実質実効為替レートとは、多くの国の通貨が取引される外国為替市場における通貨の相対的な実力を測る指標で、対象となるすべての通貨と2通貨間の為替レートを貿易額などに応じてウェート付けし、これに物価変動の影響を考慮して調整したものです。単純な名目上の2カ国間の為替レートと比べて対外競争力を適切に表すものと解説されています。

 以下のグラフは、日銀HPのデータをもとに、1980年から2012年までのドルの対円の名目レートと実質実効レートの乖離を百分率で表したものです。0%以上であれば実質実効ベースで見て円高、0%以下であれば円安となります。

 これを見ると、1995年4月にひときわ高い柱が立っていることが分かります。名目レートが実質実効レートに対してプラス方向に大きく乖離、つまり大幅な円高ドル安になったことを示しています。このときは、わが国ではバブルが崩壊して海外投資や輸入が減少する一方、輸出が引き続いて強かったことなどから名目のドル円レートが実質ベースに対して約80%もの円高となっていました。4月19日、名目レートで当時の戦後最高値1ドル79.75円を記録し、大きなニュースになりました。

 1980年から2012年の現在までの推移を見渡してみてもこのときの乖離が最も大きく、この時点のドル円レートはまさに名目ベースで見ても実態ベースで見ても「超円高」といってもよい水準だったと思われます。

 これに対して実際に「超円高」と評される最近のドル円レートはどうでしょう。2012年4月は名目レートで1ドル81.42円に対し、実質実効レートでは同98.54円で、名目レートが実態のレートに対して20%あまり円高の水準になっています。

 先ほどの80%のプラス乖離と比べると現在は20%程度のプラスだから、為替の現状解説をするならば、実質実効レートで見れば、たしかに足下では円高傾向にはあるものの、20%前後のプラス乖離の局面は過去にも何度かあったことから、「超」とか「歴史的」というほどの極端な円高とはいえない、といったところではないでしょうか。

(続く)

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内需推進で世界金融恐慌を乗り切る③

2012-05-28 00:02:39 | 日本

(前回からの続き)

 ある意味でまさに絶好のチャンス! 日本政府はこの天啓とも言えるポジションを積極的に活かすべきではないでしょうか。つまり、建設国債等を発行して低利で資金を集め、今後数年間程度、欧米経済の混乱収拾の着地点が見えるようになるくらいまで、毎年一定規模の公共投資プロジェクトを推進するのです。

 そのメインテーマは「災害に強い国土作りで決まり。まずは国家の最優先課題としての東日本大震災の復興事業に引き続き注力します。それに加えて、政府の「南海トラフの巨大地震モデル検討会」で発生予想が示された巨大地震・巨大津波に対するための設備等の建設、その他全国各地の老朽化した橋や道路などの公共インフラ取り替え工事などをこの時期、つまり世界経済が金融恐慌で大混乱する時期に集中的かつ計画的に進めていきます。

 世界的なリセッションで外需がしぼむなか、こうした公共投資主導型の内需振興策を押し進めれば、わが国は災害に強い国家基盤の建設と経済プラス成長の双方の達成を目指すことが可能となるでしょう。

 さらに、公共事業の拡大→失業率の低下・勤労者の収入増加→個人消費の一層の拡大→景気の一層の拡大→持続的な高い経済成長の達成、という成長サイクルが回り始めることも期待できます。こうなれば、景気の回復・拡大により税収増がもたらされるとともに、緩やかな物価の上昇(所得増加のともなう「良いインフレ」)によりデフレ脱却が視野に入ることでしょう(景気や消費を冷やす作用を持つ消費税増税はこうなってからでよいのではないでしょうか)。

 繰り返しになりますが、今回のGDP速報値(5月17日発表)は、公共投資が経済成長にポジティブな影響を与えることをあらためて示したという点でも良い結果となりました。この高い成長に寄与したのが内需であると経済財政担当相が会見で認めているように、日本政府にはまさにその認識を共有して上記のような内需振興策を立案・実行し、経済成長路線を確固たるものにしてほしいと願っています。

 イギリスの印刷会社がギリシャの旧通貨ドラクマ紙幣の印刷準備に入ったとのニュースが流れています。ギリシャに続いてスペインなどでも自国銀行からの預金の流出が始まったようです。いよいよ合成通貨ユーロは空中分解の過程に入ったといえるでしょう。どうやら世界的な金融恐慌の第一波はまずは欧州からやってきそうな気配です。

 それでもわが国は、強い国民経済をベースに「内需振興」というサーフボードを上手に操れば、次々に押し寄せる海外発の大波を何とか乗り切ることができると信じています。

(「内需推進で世界金融恐慌を乗り切る」おわり)

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内需推進で世界金融恐慌を乗り切る②

2012-05-26 00:02:20 | 日本

(前回からの続き)

 6月中旬に予定されているギリシャ国会議員の再選挙の結果次第では、ギリシャのデフォルトやユーロ圏離脱が現実味を帯びることなどから、通貨ユーロは対円で大きく値を下げていくことが予想されます。そして欧州金融機関とデリバティブなどで密接にリンクしている米金融システムへの危機波及などが意識され、ドルもまた円に対して安くなるとみています。

 やがて欧米経済は深刻な金融危機とリセッションに向かうとともに、一方では中央銀行が大量の流動性を市場に供給してデフォルト阻止や金融システムの健全性維持、景気の下支えなどをしようとするでしょう。その結果、ドル・ユーロ/円は一段と下落します。そして円は新興国通貨も含むすべての主要通貨に対して独歩高になるものと予測しています。

 このような世界的な金融システムの混乱が起これば、もはやわが国経済は数年間程度は外需に頼ることはできない、と腹をくくるくらいの覚悟をしたほうが賢明でしょう。日銀による追加の金融緩和で円安に誘導しようという考え方もあるかもしれませんが、現時点での金融緩和には民間設備投資などの実需を喚起したり勤労者の所得向上をもたらす効力が乏しい上、過度の金融緩和は通貨価値を毀損させ、インフレや金利上昇という副作用をもたらすおそれがあるのでむしろ危険ですらある、と考えています。

 そこで、海外需要に替わって希望の星となるのが国内需要、ということになります。別な言い方をすれば、金融政策→外需振興」から「財政政策→内需振興」へシフトせよ、といったところ。つまり、公共事業の追加など、政策的に内需を喚起・拡大して、この金融恐慌の嵐が吹きすさぶ期間でも高い経済成長の達成を目指すのです。

 現在の10年物日本国債の金利は0.86%(5月23日時点)と主要国国債では最低水準です。リスクオフの金融情勢のもと、マネーが安全資産である日本国債に流れ込んでいるからです(国債価格上昇・金利低下)。そして世界経済が混迷の度合いを深めれば深めるほど日本国債は買われ、長期金利はさらに低下していくでしょう。つまり日本政府はきわめて低いコストで十分な資金を調達できる立場にあるといえます(5兆円の国債を追加発行しても利払いの増加額は500億円/年未満に止まる)。

 そしてわが国は、2007年以降の欧米諸国の不動産バブル崩壊後に急速に進んだ円高にもかかわらず、経常収支黒字を安定して計上し、この瞬間も着実に預貯金の額を増やし続けているのです。その預貯金の運用先は・・・実質マイナス金利のユーロでもドルでもなく、やはり日本国債!

(続く)

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内需推進で世界金融恐慌を乗り切る①

2012-05-24 00:01:38 | 日本

 5月17日、内閣府は2012年1月~3月期の国内総生産(GDP)速報値を発表しました。それによれば、物価変動の影響を除いた実質GDPは2011年10月~12月期に比べて1.0%増(年率換算で4.1%増)となり、3四半期連続のプラス成長となりました。

 需要項目別では、GDPの約60%を占める個人消費が自動車販売の好調などで1.1%増と4四半期連続でプラス、そして東日本大震災からの復興需要が本格化したことから、公共投資が5.4%と3四半期ぶりのプラスとなりました。

 この結果について、経済財政担当相は、復興需要やエコカー補助金などの政策が内需の押し上げに寄与したと述べ、次期以降も復興需要が景気を下支えすることから緩やかな成長が見込まれるとの見通しを示しました。

 個人的にも今回の結果は良好だったと思っています。不透明な情勢が続く外需ではなく、おもに個人消費や復興需要といった内需が主導するかたちで高い実質GDP成長率がもたらされたからです。実際、今回の実質GDP増加への影響を示す寄与度は、外需がプラス0.1ポイントに対して内需がプラス0.9ポイントと、明らかに内需に牽引された成長であったことが示されています。

 国民経済の一層の発展と豊かな社会の形成に向けて、引き続きこの成長傾向が続くことが望ましいと思います。そのためには今後の政策運営がたいへん重要となってくるでしょう。これまでも書いてきたように、まもなく欧米で金融危機が深刻化し、それにともなう欧米経済のリセッションや円高(というよりはドル・ユーロ・新興国通貨が軒並み下落)などにより、わが国の経済は外需に頼れない状況がしばらく続くと予想されるので、過度に輸出に依存することなく経済成長を成し遂げられるよう、政策的にこれまで以上に内需を盛り立てることが肝要だ、ということです。

 2月の「金融緩和の強化について」の発表以降、日銀は国債の買い取りなどでマネタリーベースを拡大する金融緩和を実施し、外需獲得を意図した事実上の「円安誘導策」を展開しています。これにより、外国為替市場ではそれまで70円台半ばまで進んでいたドル/円が80円台前半まで円安ドル高になりました。さらに、輸出企業の売り上げ増加や利益水準好転などへの期待感から、これら企業の株が買われて日経平均が一時1万円台に乗るなど、春先にかけて株式市場も活性化しました。

 しかし、この金融緩和の効果もどうやらこの6月あたりから薄らぎそうです。いよいよ欧米経済がおかしくなって、またまた円高が進みそうだからです。

(続く)

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意味の無い日本国債の格付け③

2012-05-22 00:03:11 | 世界共通

前回からの続き)

 ところで、最近、わが国の一部に日本の「ギリシャ化」を懸念する声があります(オイオイ…)。おそらくこれは日本とギリシャの財政赤字がともに対GDP比でかなり大きくなっている面だけを取り上げた議論と考えられます。ちなみにわが国のGDPに対する政府債務残高比は約230%、ギリシャは約160%です(2011年時点)。

 しかし、これまで述べてきたとおり、国債が自国通貨建てか外貨建てか、という点でチェックすれば、そもそもわが国とギリシャの債務返済リスクを同列で比較することに無理があるように思います。

 また、
 ・両国の金利差(日本の長期金利は5月中旬時点で0.85%程度と世界最低レベル、ギリシャは!?)
 ・国債所有者の自国民の割合(日本:90%以上、ギリシャ:半分以下)
 ・経常収支(日本:1981年から2011年のあいだはすべて黒字[世界一の純債権国!]、ギリシャ:1980年から2011年のあいだはすべて赤字)
 ・失業率(日本:4.6%、ギリシャ:17.3%[2011年])
などの経済データや、競争力・成長力などの総合的な国力などを勘案すれば、わが国をギリシャと比べることがいかにナンセンスか、ということが分かるというものです。

 さらに、わが国の財政再建が進まないことなどを理由として格付け会社が日本国債を格下げすることを恐れているとしたら、その心配は無用といえます。何度も繰り返して恐縮ですが、返済リスクフリーの自国通貨建て=円建ての日本国債の格付けに意味がないからです。

 ところで、個人的に、日本の財務省は、本音では日本国債の格付けに意味がないことが分かっている一方で、「赤字財政→国債格下げ」といったような見方にあえて反論等をしないことで「消費税増税はやむをえない」という方向に世論を誘導しようとしているのではないか、と感じることがあります。

 そんなことをするよりも先に、アメリカやイギリスなどの他の自国通貨建て国債発行国と必要に応じて連携しながら、「自国通貨建て国債の格付けは無意味である!」との主張をもっと声高に格付け会社や市場(それから日本国民=納税者)に向けて発信してもらいたいと思っています。

 そしてマスコミにも同様のスタンスを期待しています。せめて「日本のギリシャ化」という根拠の乏しい不安を煽ることはやめてもらいたいものですね。

(「意味の無い日本国債の格付け」おわり)

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意味の無い日本国債の格付け②

2012-05-20 00:01:18 | 世界共通

前回からの続き)

 これに対して、ドイツやギリシャなどのEU諸国の国債や、アメリカ以外の国が発行するドル建ての国債などはしっかり格付けを行う意味があると思っています。なぜなら、これらの国債は償還資金の確保のために「外貨」を調達しなければならないからです。

 自国通貨建て国債の場合は、返済資金が不足すれば最後の手段である通貨発行権を使って自国通貨を発行できるので、返済リスクに限ればリスクフリーといえるでしょう。外貨建て国債の場合はそうはいきません。もし外貨を調達し切れなければ債務不履行=デフォルトとなってしまうわけだから、当然、返済リスクが発生します。リスクが生じればそのリスクを測る尺度、すなわち格付けに存在価値が出てきます。

 EU諸国の国債に格付けの意味があるという理由は、これら諸国の通貨発行権が欧州中央銀行(ECB)に移管しているからです。別な言い方をすれば、PIIGS諸国、ドイツやフランスなどを含めたすべてのEU諸国は通貨発行権を持っていません。つまり、EU諸国は、自らには発行権のないユーロといういわば「外貨」を調達して国債の償還を行うことになっています。「外貨」建ての国債であれば返済リスクがあるし、「ドイツ国債:AAA」や「ギリシャ国債:C」といったように、それらの返済リスクに応じた格付けが投資家に必要とされるのも道理と思います。

 もっとも、まもなく、早ければ今年の内に、ECBは掟を破って(?)PIIGS諸国の国債を大量に引き受けてユーロを大増刷するか、それとも通貨ユーロの信認を保つため何もせずにこれら諸国の一部(第1号はギリシャ?)のデフォルトを座視するかの、いずれかの厳しい選択を迫られる局面を迎えるでしょう。

 さあ、ECBはいったいどうするのでしょうか?

 どちらにしても、ECBもPIIGS諸国関連債権の放棄へ→ECB資産が毀損→ユーロ暴落・インフレ率急上昇、といった流れは止め難いとみています。

続く

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意味の無い日本国債の格付け①

2012-05-18 00:01:47 | 世界共通

 格付け会社が行っている国債の格付けには意味のないものと意味のあるものがあると思っています。代表的なものをあげると、国債を格付けする意味のない国々は、アメリカ、イギリス、そして、わが国、など。そして国債を格付けする意味のある対象国としては、ドイツ、フランス、イタリア、ギリシャなどのEU諸国が代表例となります。

 この、格付けの意味がある・ない、の違いは、その国債が発行国の自国通貨建てか否か、で区分されます。本来、格付けとは、債務の返済が予定通りに行われないリスクを簡単な記号で投資家に対して表示するものです。この定義に当てはめると、理屈から言えば、自国通貨建ての国債は予定通りに債務返済が行われないことはありません。なぜなら、その国債発行国は自国通貨の通貨発行権を持っているからです。

 通常、国債償還に充てるお金は、国家が歳入等によって賄いますが、万一、それが不足するような場合でも、国家が通貨発行権を行使すれば、つまり、具体例をあげると国債を中央銀行に持ち込んでお金を作らせれば返済が可能になります。

 もちろん、この中央銀行による国債の直接引き受けが繰り返されれば、通貨が無節操に発行されて激しいインフレと通貨暴落が起こってしまいます。こうしたことにならないよう、たとえばわが国では国会決議を必要とするなど、各国は中央銀行による国債の直接引き受けを行う場合の厳格なルールを定めています。

 もっとも、通貨の過剰発行などが原因でその通貨建ての国債の価値が下落するリスクが高まるのなら格下げする、というのならば話は別です。

 しかし、たとえば英ポンドを見てみると、円に対するポンドの価値は、アメリカでサブプライム問題が顕在化する直前の2007年の1ポンド250円から2011年9月には117円と4年あまりでなんと50%以上も下落しています。このように、とくに欧米の資産バブル崩壊以降、英ポンドは円に対して大きく落ち込んだ通貨であるにもかかわらず、つまり円を通貨とする日本人にとって英国債は価値を落とした資産であるにもかかわらず、米・英の三大格付け会社は英国債にそろって最高のAAA格を与えています(4月13日S&PはAAAで「安定的」(!)と説明しました)。

 ということは、やはりこの格付けには他の通貨に対して通貨が下落した場合の国債価値の低下は計算に入っておらず、純粋に債務返済リスクだけが反映されているということなのでしょう。

 そうであれば、上記で示したような理由から、この国債格付けに本質的な意味はありません。だから、米国債(当たり前ですが、ドル建て)を格下げした格付け会社の発表(昨年8月S&P社がAAAからAA+へ格下げ)に大騒ぎしたり、わが国の国債(これも当然、円建て)の格下げを過剰に心配することがなんと空虚なことか、と感じてしまうのです。

続く

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ユーロ終わりの始まり:崩壊に向かう?欧州金融システム②

2012-05-16 00:01:15 | ヨーロッパ

(前回からの続き)

 さらに(欧米諸国にとって)たいへんなことは、欧州金融システムがメルトダウンを起こしそうなことです。

 欧州の金融機関は、所有しているPIIGS諸国等の国債価格の下落に加え、アイルランド・スペインなどの不動産バブル崩壊や最近の景気後退などの影響で債権の不良化が進み、経営状態がどんどん悪くなっています。

 今後、これら金融機関の多くはさらに資産が劣化して過小資本や債務超過に陥り、株価も下がって市場の信頼を失っていくでしょう。そしてわが国で行われたような金融機関への公的資金投入が議論されるようになるでしょう。先日もスペイン第4位の大手銀行バンキア(国内不動産保有1位)が公的管理化に置かれることが発表されましたが、これからは同様の事態が相次ぐものと予想されます。

 もっともドイツなどを除いて、多くの国々にはそのための財政余力が十分ではありません。そこでまたまた登場のECBが、欧州金融機関への当面の資金繰りを支援するため、苦し紛れの低利資金融資などを展開するでしょう。

 しかしこれとて金融機関の抜本的な財務建て直しにはつながらず、やがては多くの金融機関が破綻の瀬戸際に立つことになりそうです。とくにPIIGS諸国の銀行やPIIGS諸国債を大量に保有するフランスの銀行あたりが危険と思っています。ドイツの金融機関さえも油断できません。ドイツ金融機関の全融資に対する対外融資額の割合は約4割にも上っているからです。

 最終的には破綻したデクシア(フランス・ベルギー)や今回のバンキアのように、多くの金融機関に強制的に資金が投入され、公的管理(一部は国有化)されるでしょう。もっともそのための資金を拠出せざるを得なくなる各国の財政状態は一気に悪化、同時に国債価格と通貨ユーロが暴落、長期金利が急騰し、一部PIIGS諸国のユーロ離脱が不可避となるなど、ユーロ崩壊が現実味を帯びることでしょう・・・。

 といった具合に、この先、どう予想してもユーロ圏、とくにPIIGS諸国が財政改善やプラス成長を達成するといったポジティブなパフォーマンスを示せるとは思えません。さらに欧州金融機関の財務や経営の状態も悪化の一途を辿るものとみています。やがてはユーロ圏のデフォルトや金融機関の経営破綻の嵐がデリバティブ等を介してアメリカの金融機関にも飛び火し、欧米の金融システムは大混乱に陥るでしょう(その一方、欧州諸国債などの保有額が少ないわが国の金融機関への影響は幸い限定的とみています)。

 多少の時間のずれなどはあるかもしれませんが、とくにギリシャ国会議員の再選挙が予定されているこの6月以降、こうしたユーロ解体への本格的なプロセスが始まりそうな予感がしています。

 (ユーロ、そしてドルの信認が揺らぐ一方、円への信頼感はますます強まりそうですね。)

(「ユーロ終わりの始まり:崩壊に向かう?欧州金融システム」おわり)

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ユーロ終わりの始まり:崩壊に向かう?欧州金融システム①

2012-05-14 00:01:33 | ヨーロッパ

 以前から注目されていた5月6日の2つの大きな選挙の結果、フランスとギリシャで緊縮財政に対する有権者の強い不満が示されました。

 フランス大統領選挙では緊縮財政策の見直しを訴えた社会党のオランド氏が現職サルコジ氏を破って当選しました。ギリシャの国会議員選挙では、緊縮財政策を進めてきた連立与党が惨敗して過半数割れに落ち込むとともに、これに反発する急進左派連合が第2党となるなど躍進しました。その後の連立協議も失敗し、どうやら6月に再選挙が行われるようです。ギリシャはEU等の包括支援を受ける条件として6月末までに115億ユーロ(約1兆2千億円)の追加的緊縮策をまとめる必要がありますが、本当にできるのか疑念が拡がっています。

 それにしても、フランスやギリシャのみならず、ドイツも含めてユーロ圏の国々はいよいよ袋小路に追い込まれてしまった感があります。財政緊縮策をとっても経済成長策(財政拡大策)をとってもどちらにしても経済運営が行き詰ってしまいそうだからです。

 まずEUやIMFなどとの約束のとおり、ユーロ圏各国が財政緊縮を堅持するとしましょう。たしかにドイツあたりはそれに耐えられるかもしれません。そして通貨ユーロの信認は一時的には保たれるでしょう。

 ところが、そうなると、とくにPIIGS諸国の経済のプラス成長達成はまず無理となります(もともとの見込みが甘すぎ・・・)。それどころか、景気後退→税収低迷→財政状態がさらに悪化→景気が一段と悪化・・・という負のスパイラルに落ち込んでいく可能性のほうがはるかに高いでしょう。そのためせっかく緊縮策でユーロの価値を維持しようとしたにもかかわらず、ユーロはドル・円に対してじりじりと下落していくでしょう。

 そして若年層を中心とする失業率がいっそう上昇し、デモや暴動が頻発するなど、社会不安も高まると思われます。緊縮策を自分たちに押し付けたと見なされているドイツに対する各国民の感情も悪化し、欧州の結束が揺らぐでしょう。

 では「リセッションは嫌だから、財政拡大で経済成長を目指そう」とばかりに脱緊縮策を宣言したりしたらどうなるか。そのとたんにその国の国債価格は一段と下落(金利は急騰)し、自力での資金調達が困難になります。そして買い手の乏しい国債をECBが買い支えることになるでしょう。それでも次々にやってくる国債償還に応じることができなくなり、その国はギリシャのように借金棒引きを要求します。結局、ECBさえ債権を放棄せざるを得ない事態に追い込まれると予想しています(ちなみにギリシャがECB等の公的機関に負っている債務は約2520億ユーロ[約26兆円]! 1980年から2011年までのあいだの毎年、経常収支赤字を記録しているギリシャにそんな大金を返済できる能力や意志があるとは誰も思わないでしょう)。

 その結果、ECBへの信頼は失墜、ユーロは暴落し、激しいインフレが欧州を襲うことでしょう。

 このように緊縮策・成長策(反緊縮策)のどちらもいばらの道ユーロ圏の市民には厳しい苦境が待ち受けているとしか思えません。

(続く)

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金(ゴールド)保有でインフレに備える③

2012-05-12 00:00:01 | 金(ゴールド)

(前回からの続き)

 これまでは相場がリスクオフになると通貨の強さ・安定さを示す図式「円>ドル>ユーロ>新興国通貨」(左から右へ、おおむね名目金利の低い順・実質金利の高い順に並ぶ)のとおりにマネーが流れ、円高/外貨安となってきました。欧米諸国の追加の金融緩和がほぼ避けられないなかで、今後も引き続き円(あるいは日本国債)に多くのマネーが集まるだろうと予想しています。

 一方で、急速な円高(による輸入物価の安定=ゼロインフレか緩やかなデフレ)を回避するなどの名目で、これからも政府・日銀が追加の金融緩和や円売りドル買い為替介入等を行って円の価値を意図的に落とすようなことをする可能性が高いでしょう(個人的には実質ゼロ金利達成で緩和策をストップし、円の通貨としての価値や通貨管理の規律を維持してほしいと願っているのですが・・・)。

 そうなると、(それでも世界最強通貨・円が買われる構図は大きくは変わらないと思われるものの、)日常的に円を使っているわたしたちとしても今後はゼロ金利(場合によってはマイナス金利)や物価高の影響をかなり受けるようになるものと推測しています。

 その結果、わが国でもインフレ(通貨価値下落)に対する資産保存手段としての金に今以上に注目が集まることでしょう。そして、上記の図式に金が加わった「金>円>ドル>ユーロ>新興国通貨」の図式が意識されるようになるだろうと考えています。

 わが国よりも一足先にドルやユーロの信認低下を嗅ぎ取っているせいか(?)、諸外国の一部(インド、中国、ロシアなど)は金保有量を着々と増やしているのに、ほとんど唯一わが国だけはここ数年間にわたり毎年数十トンにもおよぶ大量の金を海外へ輸出してきました。これはバブル期の安値で買われた金の多くが昨今の高値につられて売却されたためのようです。世界的に価格が高騰している金よりも通貨(円)のほうが選ばれるということは、実質金利がプラスでインフレ率ゼロが保たれているわが国の節度ある金融政策に対する国民の信頼の表れということもできるでしょう。

 しかし、日銀のインフレ誘導策が続くこれからは物価の上昇が徐々に顕在化すると予想されるため、一転してかなりの国民が金を選好するようになるでしょう。円が実質ゼロ金利(名目金利-インフレ率=0の状態)のラインを保っている限り、マイナス金利(円よりも弱い状態)の外貨を持つ必要はあまりありませんが、わが国でも物価の上昇が進むなかで「円資産だけでは危険すぎる!」という観点からリスクヘッジを検討するのであれば、上記の図式のとおり、推奨される「外貨」は円より弱いドルでもユーロでもなく、金(ゴールド)以外にありえないと思っています。

 こうした判断に基づいて多くの日本国民が金を保有することは、近いうちに発生する確率が高い海外発の「世界恐慌」(欧米金融システム崩壊、外貨崩落、激しい原材料インフレ、などなど)に備える意味で望ましいことと考えています。

(「金(ゴールド)保有でインフレに備える」おわり)

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