スピノザの『エチカ』と趣味のブログ

スピノザの『エチカ』について僕が考えていることと,趣味である将棋・競馬・競輪などについて綴るブログです。

棋聖戦&アトムと真空

2016-07-02 19:54:14 | 将棋
 沼津倶楽部で指された第87期棋聖戦五番勝負第三局。
 羽生善治棋聖の先手で永瀬拓矢六段の横歩取り。この戦型にしては中盤の長い将棋で,終盤に差し掛かろうかというところで後手に変わった手順が出ました。
                                     
 9三で香車の交換が行われた局面。ここから▲9四歩△9五飛▲9三歩成△同飛▲3五桂△同銀▲同歩△9九飛成が実戦の手順。
 この手順中△9三同飛のところで△9八飛成とすればさすがに先手は金取りを受けざるを得なかった筈で,それから△9三龍と引けば得をしているように思えます。しかし後手は先手に受けさせずに後で9九に飛車を成った方がよいと判断したのでしょう。これはなかなかの好判断で,最終的な勝敗に影響したのではないかと思います。
 少し進んで第2図に。
                                     
 第1図で5六にいた角が出た局面。ここで後手からの交換を拒否して△5一桂と受けました。これは部分的には自玉を狭める手で,まさか後で効果を発揮することになるとは思いませんでした。
 先手は▲9三歩と逆側から攻めていくことに。セオリー通りではありますが楽観があったかもしれません。後手は△6四香と催促。こうされれば▲9二角成は止むを得ないでしょう。
 △7六角と歩を取ったので▲7四歩が発生。しかし△6六香で先手も危ない形に。そこで▲6五桂と跳ねて7三の地点を狙ったのですが△4三桂が絶好手になりました。
                                     
 これが玉の逃げ道を広げつつ場合によっては△5五桂の活用も見せた手。これで後手玉が容易には寄らなくなり,後手が勝ちの局面となっているようです。永瀬六段らしい勝ち方に思えました。
 永瀬六段が勝って2勝1敗。第四局は13日です。

 ロバート・ボイルRobert Boyle自身が意図していたかしていなかったかは別に,自身の哲学的方法に関する見解を明らかに表明していると僕がみるのは,オルデンブルクHeinrich Ordenburgからスピノザに宛てられた書簡十一の中にあります。
 『デカルトの哲学原理Renati des Cartes principiorum philosophiae pars Ⅰ,et Ⅱ, more geometrico demonstratae』の第二部定理五に,アトムは存在しないというのがあります。ここでいうアトムは,それ以上は分割することが不可能である延長の様態すなわち物体という意味です。スピノザはデカルトがそのように解しているとみなしていて,その認識は正しいもの,つまりデカルト自身の認識であったといえます。かつ同時にこれは,スピノザ自身も同意していた見解であったといえます。
 僕の見解では,ボイルもまたこの意味においてアトムが存在しないということは認めていたのです。ですが,もしもこのことを一般的に論証することが可能であるとしたら,それは真空が存在することは不可能であるということから演繹的に導くほかはないと考えていました。なお,ここでいう真空というのは,僕たちが普通に解する意味での真空,すなわち空気が存在しない空間という意味ではありません。延長の属性に属する一切のものが排除された空間というほどの意味です。
 『デカルトの哲学原理』第二部定理三では,この意味での真空が存在するということは自己矛盾であるとされています。ここでもスピノザはデカルトの延長論を正しく解釈しているのであり,またスピノザもこのことを肯定しているといえます。なので,アトムは存在しないし真空も存在しないという点においての認識は,デカルトもスピノザもボイルも同じであったと僕は解しますし,アトムが存在しないということを真空の不可能性から論理づけることができるという点でも,三者は共通の認識を有していたと解します。
 ところが,デカルトおよびスピノザにとっては,真空が不可能であるということは自明の公理のようなものでした。確かに『デカルトの哲学原理』ではこれは定理において論証されているのですが,それは真空の定義から直接的に導かれているので,自明であったと解して間違いないでしょう。ですがボイルにとっては自明ではなかったのです。

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 服従の条件と哲学&方法論の相違 | トップ | 不自然な暴力&実証主義 »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

将棋」カテゴリの最新記事